株式会社TIMEWELLの濱本です。
「音声」が、AIの次のフロンティアになりつつあります。
ElevenLabsは、テキスト読み上げ(TTS)、音声クローン、音声エージェントなど、音声AI技術で急成長を遂げているスタートアップです。2025年のARR(年間経常収益)は3.3億ドルを突破し、評価額110億ドル(約1.6兆円)を目指す資金調達を進めています。
本記事では、ElevenLabsの最新技術、製品ラインナップ、そして音声AIがビジネスにもたらす変革を解説します。
ElevenLabsとは:音声AI企業の台頭
基本情報
ElevenLabsは、2022年に設立された音声AI企業です。
基本情報:
- 設立: 2022年
- 本社: 英国(ロンドン)
- 創業者: Mati Staniszewski(CEO)、Piotr Dabkowski
- ARR: 3.3億ドル(2025年)
- 評価額: 110億ドルを目指す(66億ドルから倍増予定)
資金調達の推移
| 時期 | ラウンド | 調達額 | 評価額 |
|---|---|---|---|
| 2024年1月 | Series B | $80M | $1.1B |
| 2025年1月 | Series C | $180M | $3.3B |
| 2025年後半 | セカンダリー | $100M | $6.6B |
| 2026年(予定) | 新ラウンド | 数億ドル | $11B目標 |
わずか2年で評価額が10倍に成長し、英国で最も価値の高いAIスタートアップとなっています。
製品ラインナップ
Eleven v3:次世代テキスト読み上げ
2025年6月にリリースされた「Eleven v3」は、ElevenLabsの最新TTSモデルです。
Eleven v3の特徴:
- 70言語以上に対応
- マルチスピーカー対話: 複数話者の自然な会話を生成
- 音声タグ:
[excited]、[whispers]、[sighs]等で感情表現を制御 - 世界最高水準の自然さと表現力
従来のTTSでは難しかった「感情」や「ニュアンス」を、テキストのタグで直感的に制御できるようになりました。
Eleven Music:AI音楽生成
2025年8月、ElevenLabsは音楽生成AI「Eleven Music」をリリースしました。
Eleven Musicの特徴:
- 自然言語プロンプトからスタジオ品質の音楽を生成
- 映画、テレビ、ポッドキャスト、広告、ゲーム等で商用利用可能
- レコードレーベル、出版社、アーティストとの協業で開発
- 著作権クリアな音楽生成
Conversational AI:音声エージェント構築プラットフォーム
2024年11月にリリースされた「Conversational AI」は、インタラクティブな音声エージェントを構築するための開発者プラットフォームです。
Conversational AIの用途:
- カスタマーサポートの自動化
- 予約受付システム
- 営業電話の自動化
- 多言語対応コールセンター
従来のIVR(自動音声応答)とは異なり、自然な会話でユーザーの意図を理解し、複雑な対応も可能です。
Scribe:高精度文字起こし
2025年2月にリリースされた「Scribe」は、音声からテキストへの変換(STT)モデルです。
Scribeの特徴:
- 文字レベルのタイムスタンプ
- 話者分離(ダイアライゼーション)
- 高精度な文字起こし
- 多言語対応
Voice Marketplace:音声マーケットプレイス
ElevenLabsの特徴的なサービスが「Voice Marketplace」——自分の声を登録し、他のユーザーに利用してもらうことでロイヤリティを得られるプラットフォームです。
Voice Marketplaceの仕組み:
- ユーザーが自分の声を30分以上録音
- AIが高精度な音声クローンを生成
- マーケットプレイスに登録
- 他のユーザーが利用するとロイヤリティ発生
実績:
- 約1万人のユーザーが音声を共有
- 500万ドル以上のロイヤリティをコミュニティに還元
クリエイターにとって、自分の「声」が収入源となる新しいビジネスモデルです。
Reader App:オーディオブック自動生成
2025年2月、ElevenLabsは著者が自分の本をAI音声でオーディオブック化し、Readerアプリで直接出版できるプラットフォームをリリースしました。
Reader Appの特徴:
- 著者が自分の本をAI音声でオーディオブック化
- 従来数週間〜数ヶ月かかっていた制作が数分で完了
- 自分の声のクローンを使用可能
- 直接出版・販売
ビジネス活用シナリオ
1. コールセンター・カスタマーサポート
従来:
- 人間のオペレーターが対応
- 待ち時間が発生
- 多言語対応にコスト
ElevenLabs活用後:
- 24時間対応の音声エージェント
- 自然な会話で顧客対応
- 70言語以上に自動対応
- 人間は複雑なケースに集中
2. コンテンツ制作
従来:
- ナレーターの起用にコストと時間
- 多言語版は追加コスト
- 修正に再録音が必要
ElevenLabs活用後:
- テキストから即座に音声生成
- 70言語以上で自動吹き替え
- 感情タグで表現を細かく制御
- 修正も即座に反映
3. 教育・言語学習
従来:
- 発音練習は教師依存
- ネイティブ音声の確保にコスト
ElevenLabs活用後:
- 自分の声をクローン化して発音練習
- ネイティブ品質の音声を大量生成
- 多言語でのインタラクティブ学習
4. ゲーム・エンターテイメント
従来:
- 声優の起用にコストと時間
- NPC全員に声をつけるのは困難
- ローカライズにさらにコスト
ElevenLabs活用後:
- 全NPCにユニークな音声を付与
- プレイヤーの行動に応じた動的な音声生成
- 多言語版を低コストで制作
CEOの展望:音声モデルのコモディティ化
ElevenLabs CEO Mati Staniszewski氏は、興味深い予測をしています。
「音声モデルは2年以内にコモディティ化するでしょう。」
この認識に基づき、ElevenLabsは単なるTTSモデル提供から、Conversational AIプラットフォームへの戦略的転換を進めています。モデルそのものではなく、「音声エージェントを構築・運用するためのエコシステム」で差別化を図る戦略です。
また、Staniszewski氏は「市場環境が整えば5年以内にIPO」の可能性にも言及しています。
安全性とセキュリティ
課題
音声クローン技術には、なりすましなどの悪用リスクがあります。
指摘されている懸念:
- 本人認証への音声利用時のリスク
- オープンソース技術による不正クローン
- ディープフェイクへの悪用
ElevenLabsの対策
1. ウォーターマーク
- 生成された音声にメタデータを埋め込み
- 認証された音声かどうかを検証可能
2. 不正検知システム
- 内部監視システムで不正利用を検出
- 不正が検出された場合は即座に対応
3. 端末認証
- 通話相手の端末情報との照合
- 本人確認の多層化
当時と現在:ElevenLabsの進化
本記事の元となった情報と比較して、ElevenLabsは大きく進化しています。
当時(2024年後半):
- 評価額:約33億ドル
- 製品:TTS、音声クローンが中心
- ARR:非公開
現在(2026年1月):
- 評価額:110億ドルを目指す(66億ドルから)
- ARR:3.3億ドル
- Eleven v3(70言語、音声タグ、マルチスピーカー)
- Eleven Music(AI音楽生成)
- Conversational AI(音声エージェントプラットフォーム)
- Scribe(高精度STT)
- Voice Marketplaceで500万ドル以上のロイヤリティ還元
- IPOも視野に
わずか1年で、TTS専門企業から「音声AIプラットフォーム企業」へと進化しました。
競合環境
主要プレイヤー
| 企業 | 特徴 | 強み |
|---|---|---|
| ElevenLabs | 総合音声AIプラットフォーム | 品質、多言語、エコシステム |
| OpenAI | GPTの音声機能 | ChatGPT連携 |
| Geminiの音声機能 | Googleサービス連携 | |
| Amazon | Polly、Alexa | AWSエコシステム |
| Microsoft | Azure Speech | Azureエコシステム |
ElevenLabsは、音声AIに特化することで、大手テック企業とも異なるポジションを確立しています。
企業での導入検討
導入のメリット
1. コスト削減
- 人間のナレーター、オペレーターのコスト削減
- 多言語対応のコスト大幅削減
- 制作時間の短縮
2. スケーラビリティ
- 大量のコンテンツを迅速に生成
- 24時間対応の音声エージェント
- グローバル展開の容易さ
3. パーソナライゼーション
- ユーザーごとにカスタマイズされた音声体験
- ブランド固有の音声アイデンティティ
導入の考慮点
1. 品質管理
- 生成された音声の品質チェック
- ブランドイメージとの整合性
2. セキュリティ
- 音声データの管理
- なりすまし対策
3. 倫理的配慮
- 音声クローンの同意取得
- AI生成であることの開示
音声AIの組織活用
ElevenLabsのような音声AI技術は、組織のコミュニケーションやコンテンツ制作を大きく変える可能性があります。
TIMEWELLでは、WARPコンサルティングを通じて、音声AIを含む最新のAI技術の効果的な導入・活用方法を支援しています。元大手企業のDX・データ戦略専門家が、月次更新で最新のAIツール活用をサポートします。
また、ZEROCKでは、エンタープライズ向けのAI活用基盤を提供し、音声AIを含むさまざまなAIツールとの連携を可能にしています。
まとめ
ElevenLabsは、音声AI分野のリーディングカンパニーとして急成長を遂げています。
本記事のポイント:
- 評価額110億ドル(約1.6兆円)を目指す
- ARR 3.3億ドル(2025年)
- Eleven v3:70言語対応、音声タグによる感情制御
- Eleven Music:AI音楽生成(商用利用可)
- Conversational AI:音声エージェント構築プラットフォーム
- Voice Marketplace:500万ドル以上のロイヤリティ還元
- CEO:「音声モデルは2年以内にコモディティ化」、IPOも視野
「音声」は、テキストや画像に続く、AIの次のフロンティアです。ElevenLabsの技術は、カスタマーサポート、コンテンツ制作、教育、エンターテイメントなど、あらゆる分野で「音声体験」を変革する可能性を秘めています。
