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米国EARとデュアルユース規制:日本企業が知るべき域外適用の現実

2026-01-11濱本
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米国EARの域外適用とデュアルユース規制について、日本企業が理解すべきポイントと対応策を解説します。

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米国EARとデュアルユース規制:日本企業が知るべき域外適用の現実

こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。今日は、多くの日本企業が見落としがちな「米国EAR(輸出管理規則)の域外適用」と「デュアルユース規制」についてお話しします。

「うちは日本企業だから、米国の規制は関係ない」 「軍需品を作っていないから、輸出管理は必要ない」 「工作機械や電子部品を売っているだけで、規制なんて大げさでは?」

こうした認識は、残念ながら危険な誤解です。本記事では、5000文字を超えるボリュームで、日本企業が直面する国際規制の現実と対応策を解説します。

第1章:米国EARとは何か

EARの概要

EAR(Export Administration Regulations)は、米国商務省産業安全保障局(BIS)が管轄する輸出管理規則です。米国の国家安全保障、外交政策の観点から、特定の品目の輸出、再輸出、および国内移転を規制しています。

日本の外為法との比較:

観点 日本の外為法 米国EAR
管轄 経済産業省 米国商務省BIS
対象 日本からの輸出 米国原産品を含む取引(世界中)
域外適用 原則なし あり
主な規制リスト 外国ユーザーリスト Entity List, SDNリスト

表1:日本の外為法と米国EARの比較

なぜ日本企業に関係するのか

「うちは日本企業だから関係ない」——この認識は誤りです。EARは「域外適用」があり、一定の条件下で日本企業にも適用されます。

域外適用の3つのケース:

1. 米国原産品を含む場合 製品に米国原産の部品や材料が一定比率以上含まれている場合、EARの規制を受けることがあります。この比率は「デミニミス・ルール」と呼ばれ、仕向地によって10%または25%と定められています。

2. 米国技術を使用している場合 米国原産の技術やソフトウェアを使用して製造された製品は「直接製品ルール」の対象となることがあります。米国の技術ライセンスを受けて製造した製品は、一定条件下でEARの規制を受けます。

3. Entity Listへの対応 Entity Listに掲載された企業・個人への輸出、再輸出には、原則としてBISの許可が必要です。日本企業が、日本から日本の製品をEntity List掲載者に輸出する場合でも、米国原産品が含まれていれば規制対象となります。

第2章:デュアルユース技術の理解

デュアルユースとは

デュアルユース(Dual Use)とは、「軍民両用」と訳される概念で、民生用途と軍事用途の両方に使用可能な製品・技術を指します。

デュアルユース品目の例:

品目 民生用途 軍事用途
高精度工作機械 自動車部品製造 遠心分離機部品製造
高性能コンピュータ シミュレーション 核兵器設計
特定の化学物質 半導体製造 化学兵器製造
暗号技術 セキュリティ 軍事通信

表2:デュアルユース品目の例

「軍需品を作っていない」という認識は、デュアルユース規制の存在を考慮していません。日常的に使われている多くの製品が、実はデュアルユースに該当する可能性があります。

国際的な規制の枠組み

デュアルユース技術の輸出管理は、「ワッセナー・アレンジメント」という国際的な枠組みを通じて調整されています。日本を含む42カ国が参加しており、規制すべき品目のリストや輸出管理のベストプラクティスについて合意しています。

日本では、ワッセナーで合意されたデュアルユース品目が、輸出貿易管理令別表第1の項番6〜15に規定されています。

第3章:日本企業が注意すべき点

自社製品の確認

まず、自社製品に米国原産品がどの程度含まれているかを把握する必要があります。

確認すべき項目:

  • 使用部品の原産国
  • 米国原産品の含有比率
  • 製造に使用している技術・ソフトウェアのライセンス元
  • 製品に組み込まれたソフトウェアの開発元

これは一度行えば終わりではなく、部品の調達先が変わるたびに再確認が必要です。

取引先の確認

取引相手がEntity Listやその他の米国制裁リストに掲載されていないかを確認することも重要です。X-Checkでは、外国ユーザーリストだけでなく、米国のEntity ListやSDNリストとの照合も可能です。

特に注意が必要なケース:

  • 中国企業との取引(Entity Listに多数掲載)
  • ロシア企業との取引(制裁強化により掲載増加)
  • 軍事関連企業との取引
  • 研究機関・大学との取引

最終用途・最終需要者の確認

EARにおいても、最終用途と最終需要者の確認は重要です。軍事用途や核関連用途への転用リスクがある場合、許可要件が厳しくなります。

特に、中国の軍事関連企業への輸出は厳格な規制の対象です。民生品であっても、軍事最終用途(Military End Use)や軍事最終需要者(Military End User)への輸出には許可が必要となるケースがあります。

第4章:違反した場合のリスク

米国の制裁

EARに違反した場合、米国政府から制裁を受ける可能性があります。

制裁の種類:

種類 内容
民事罰 取引額の2倍または約30万ドルの大きい方
刑事罰 最大100万ドルの罰金、20年の禁固刑
輸出特権剥奪 Denied Persons Listへの掲載

表3:EAR違反に対する制裁

輸出特権が剥奪されると、米国との取引が実質的に不可能になります。グローバルビジネスを展開する日本企業にとって、これは致命的な打撃となり得ます。

ビジネスへの影響

法的制裁以上に深刻なのが、ビジネスへの影響です。

  • 米国企業との取引が困難になる
  • グローバルサプライチェーンから排除されるリスク
  • 米国市場への製品販売やサービス提供が制限される
  • レピュテーションリスクから、他の取引先からも敬遠される

「日本の法律に違反していないから大丈夫」では済まない時代になっています。

第5章:対応のポイント

コンプライアンスプログラムの整備

EARへの対応は、社内のコンプライアンスプログラムに組み込むことが推奨されます。外為法の輸出管理内部規程(CP)に、EAR対応の要素を追加するアプローチが一般的です。

整備すべき要素:

  • 製品分類(ECCNの特定)
  • 取引審査(Entity List等との照合)
  • 許可申請手続き
  • 記録保持
  • 教育・訓練

専門家の活用

EARは専門性が高く、法改正も頻繁です。社内だけで対応しようとすると、リソース不足に陥りがちです。外部の専門家(輸出管理コンサルタント、法律事務所など)を活用することも検討すべきです。

システムによる支援

取引先のスクリーニングは、システム化が有効です。X-Checkでは、Entity Listを含む複数の制裁リストとの照合を自動化し、懸念度をスコアリングします。

X-Checkの米国規制対応機能:

  • Entity Listとの照合
  • SDNリストとの照合
  • 継続モニタリング(リスト更新時の自動再スクリーニング)
  • 懸念度スコアリング

第6章:今後の展望

規制強化の方向性

米中関係の緊張が続く中、EARの規制は今後さらに強化される可能性があります。半導体、AI、量子コンピューティングなど、先端技術分野での規制拡大が予想されます。

「今は対象外だから大丈夫」という製品も、将来的に規制対象になる可能性があります。常に最新の動向を注視し、対応体制を見直し続けることが重要です。

グローバルコンプライアンスの必要性

日本の外為法だけでなく、米国EAR、EUの規制など、複数の規制体系を理解し、対応する「グローバルコンプライアンス」の考え方が必要になっています。

一つの取引について、日本法、米国法、EEU法それぞれの観点から確認が必要なケースも増えています。

結論:グローバルビジネスの必須知識

EARの理解とデュアルユース規制への対応は、グローバルにビジネスを展開する日本企業にとって必須の知識です。「日本企業だから関係ない」「軍需品を扱っていないから大丈夫」という認識は改め、自社の製品・取引がどのような規制の対象となり得るかを確認することが第一歩です。

規制環境は複雑化し、対応の負荷は増大しています。しかし、適切なツールと体制を整えることで、コンプライアンスを維持しながらグローバルビジネスを展開することは可能です。

EAR対応やデュアルユース規制についてお悩みの方は、ぜひ私たちTIMEWELLにご相談ください。X-Checkを活用した取引先スクリーニングを含め、御社のグローバルコンプライアンス体制の構築をサポートいたします。


参考文献 [1] BIS, "Export Administration Regulations", 2026 [2] 経済産業省, 「米国輸出管理規制に関する留意点」, 2025 [3] Wassenaar Arrangement, "List of Dual-Use Goods and Technologies", 2025

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