経済安全保障の最新動向2026:米中対立と日本企業の対応戦略
こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。今日は、2026年を迎えた今、日本企業が直面している「経済安全保障」という新たな経営課題についてお話しします。
「経済安全保障って、具体的に何をすればいいの?」 「外為法の輸出管理とは何が違うの?」 「うちのような中堅企業にも関係あるの?」
こうした声を、私たちは多くの企業からお聞きしています。経済安全保障という言葉は広まりましたが、その実態と企業への影響を正しく理解している方はまだ多くありません。本記事では、5000文字を超えるボリュームで、最新動向と企業の対応戦略を解説します。
第1章:経済安全保障とは何か
経済と安全保障の融合
経済安全保障とは、経済活動と国家安全保障の接点に位置する政策領域です。グローバル化が進んだ結果、サプライチェーンの分断や重要技術の流出が、国家の安全保障に直結するリスクとして認識されるようになりました。
従来、安全保障は「軍事」の問題として捉えられてきました。しかし、21世紀においては、半導体、AI、量子コンピューティングといった先端技術の優位性が、国力を左右する時代になっています。経済的手段が安全保障のツールとなり、安全保障上の考慮が経済政策に影響を与える——この相互作用が「経済安全保障」の本質です。
経済安全保障推進法の4つの柱
2022年5月に成立した経済安全保障推進法は、以下の4つの柱で構成されています。
| 柱 | 内容 |
|---|---|
| 重要物資の安定供給 | 半導体、医薬品、レアアースなど重要物資のサプライチェーン強靭化 |
| 基幹インフラの安全性 | 電力、通信、金融等の事業者に対する設備導入の事前審査 |
| 先端技術の開発支援 | AI、量子技術等の官民連携研究の推進 |
| 特許出願の非公開 | 安全保障上機微な発明の特許出願を一定期間非公開に |
表1:経済安全保障推進法の4つの柱
2026年現在、これら4つの柱はすべて本格運用段階に入っており、企業への影響も具体化しています。
第2章:2026年の国際環境
米中技術覇権争いの激化
米国による対中技術規制は、2025年から2026年にかけてさらに強化されました。半導体製造装置、先端AIチップ、量子コンピューティング関連技術など、規制対象は拡大を続けています。
特に注目すべきは、「友好国への規制遵守の要請」が強まっていることです。日本、オランダ、韓国など、半導体関連技術を持つ国々に対して、米国は足並みを揃えた規制を求めています。日本企業は、日本の規制と米国の規制、両方に対応する必要があるのです。
中国の対抗措置
米国の規制強化に対し、中国も対抗措置を講じています。レアアースなど重要鉱物の輸出規制、特定分野での外国企業との取引制限など、中国市場でのビジネスリスクが高まっています。
日本企業にとって、中国は依然として重要な市場です。しかし、「中国で稼ぐ」ことと「安全保障リスクを管理する」ことの両立が、かつてないほど難しくなっています。
デカップリングの現実
米中間の経済的なデカップリング(分断)は、着実に進行しています。特定のハイテク分野では、米国主導のサプライチェーンと中国主導のサプライチェーンが並立する状況が生まれつつあります。
日本企業は、この両方のサプライチェーンにどう関わるか、戦略的な判断を迫られています。「両方と付き合う」ことが難しくなる領域が広がっているのです。
第3章:日本企業への具体的影響
サプライチェーンリスクの顕在化
経済安全保障の観点から、多くの企業がサプライチェーンの再点検を迫られています。
確認すべきポイント:
- 特定の国・地域への過度な依存がないか
- 代替調達先は確保できているか
- 重要部品のサプライヤーが制裁対象になるリスクはないか
- 調達先の変更が必要になった場合の切り替えコストは
実際に、規制強化により特定の部品が調達困難になるケース、取引先が制裁対象に追加されるケースが発生しています。「今まで問題なかったから大丈夫」という認識は、もはや通用しません。
基幹インフラ事業者の義務
電気、ガス、石油、水道、鉄道、航空、電気通信、金融など14分野の基幹インフラ事業者は、重要設備の導入や維持管理を委託する際に、事前審査を受ける必要があります。
審査の結果、設備の変更や調達先の見直しを求められる可能性もあります。これらの事業者と取引する企業にとっても、間接的な影響が及ぶ可能性があります。
コンプライアンスコストの増大
複雑化する規制への対応は、企業にとって大きなコスト負担となっています。
| コスト項目 | 概要 |
|---|---|
| 人件費 | 輸出管理・安全保障担当者の増員 |
| システム費 | スクリーニングツール、管理システムの導入 |
| コンサルティング費 | 外部専門家への相談・アドバイス |
| 教育費 | 社員への教育・研修 |
| 機会損失 | 規制対応のための事業判断の遅延 |
表2:コンプライアンスコストの内訳
しかし、このコストは「保険」として捉えるべきです。規制違反が発覚した場合の損失を考えれば、事前投資は十分にペイします。
第4章:企業が取るべき対応戦略
ステップ1:リスクの可視化
まず、自社にとっての経済安全保障リスクを可視化することが重要です。
分析すべき領域:
- 取扱製品・技術の規制リスク(リスト規制、EAR対象など)
- サプライチェーンの地政学的リスク(特定国への依存度)
- 取引先の制裁リスク(外国ユーザーリスト、SDNリスト該当)
- 人材・技術流出リスク(みなし輸出規制)
X-Checkのようなツールを活用し、取引先のリスクを定量的に評価することも有効です。
ステップ2:体制の整備
経済安全保障に対応する社内体制を整備します。
整備すべき要素:
- 専任部署または責任者の設置
- 関連部門(輸出管理、法務、調達、事業部門)の連携ルール
- 経営層へのレポーティングライン
- 有事の際の意思決定プロセス
経営層のコミットメントが不可欠です。経済安全保障を「担当部門の仕事」ではなく「経営課題」として認識することが、必要なリソース配分の前提となります。
ステップ3:継続的なモニタリング
経済安全保障を取り巻く環境は常に変化しています。一度対応したら終わりではなく、継続的なモニタリングが必要です。
モニタリング対象:
- 法規制の改正動向
- 制裁リストの更新
- 国際情勢の変化
- 業界他社の動向
政府機関の発表、業界団体の情報、専門家のレポートなど、複数の情報源を活用します。
ステップ4:シナリオプランニング
将来の不確実性に備え、シナリオプランニングを行います。
想定すべきシナリオ例:
- 米中対立がさらに激化し、特定製品の対中輸出が全面禁止になった場合
- 主要サプライヤーが制裁対象に追加された場合
- サプライチェーンが地政学的リスクにより寸断された場合
- 技術流出が発覚し、当局の調査を受けた場合
事前に対応策を検討しておくことで、有事の際に迅速な判断が可能になります。
第5章:X-Checkによる経済安全保障対応支援
取引先リスク評価
X-Checkは、外為法上の制裁リストだけでなく、米国のEntity List、SDNリスト、EUの制裁リストなど、複数の制裁リストとの照合を提供しています。
経済安全保障の観点からは、これらの制裁リストとの照合に加えて、取引先の所在国リスク、業種リスクなども考慮した総合的なリスク評価が重要です。
継続的モニタリング
X-Checkでは、取引先情報を登録しておくことで、継続的なモニタリングを自動化できます。制裁リストの更新や、リスク情報の変化があった場合にはアラートを発してお知らせします。
「知らないうちに取引先が制裁対象になっていた」というリスクを低減し、常に最新のリスク情報に基づいた管理が可能になります。
結論:変化に適応する力を
2026年の経済安全保障環境は、一言で言えば「不確実」です。米中関係の行方、規制の方向性、地政学的リスクの推移など、予測が困難な要素が多くあります。
このような環境において重要なのは、「変化に適応する力」です。リスクを可視化し、体制を整え、情報を収集し、シナリオを準備する。これらを継続的に行うことで、どのような変化にも対応できる組織力を養います。
経済安全保障は、一時的なトレンドではありません。今後も長期にわたって、企業経営における重要な考慮事項であり続けるでしょう。今から体制を整えておくことが、将来の競争優位につながります。
経済安全保障への対応にお悩みの方は、ぜひ私たちTIMEWELLにご相談ください。X-Checkを活用したリスク管理から、体制構築の支援まで、御社の課題に応じたサポートを提供いたします。
参考文献 [1] 内閣府, 「経済安全保障推進法の概要」, 2025 [2] 経済産業省, 「安全保障貿易管理の動向」, 2026 [3] CSIS, "U.S.-China Technology Competition", 2026