株式会社TIMEWELLの濱本です。
2025年に開催される大阪・関西万博において、NTTグループが出展するパビリオンが注目を集めている。1970年の大阪万博でワイヤレス通信という革新的な未来を提示したNTTグループが、再び万博の舞台で次世代のコミュニケーション技術を世界に向けて発信する。
今回のNTTパビリオンでは「存在を感じる」「空間そのものを繋ぐ」「場を共有する」という3つのコンセプトを軸に、光技術を中心とした革新的なIOWN構想による空間伝送技術が披露される予定だ。半透明の幕で覆われた特徴的な建築デザインは、風で揺れ、光で色が変わり、来場者との相互作用によって常に変化し続ける生きた建物として設計されている。このパビリオンでは、従来のテレコミュニケーションの概念を根本的に変革する体験が提供される。
革新的な「存在を感じる」コミュニケーション技術の実現 空間そのものを繋ぐ次世代伝送技術の可能性 身体的制約を超越する「場を共有する」表現技術の革新 IOWN構想が支える万博会場のスマートシティ化 まとめ 革新的な「存在を感じる」コミュニケーション技術の実現
NTTパビリオンの核心となる技術の一つが、物理的な距離を超えて相手の存在を直接的に感じられるコミュニケーション技術である。この技術の象徴的な例として、心拍共有システムが開発されている。このシステムでは、聴診器を胸に当てることで心臓の音が光るボールに伝達され、その光と振動が遠隔地にいる相手に伝わる仕組みとなっている。体験者は実際に相手の心臓に触れているような不思議な感覚を味わうことができ、言葉では表現できないレベルでの深い相互理解が生まれるという。
この技術の実証実験として、2023年にニューヨークの国連本部DDRで開催された「国連を支える世界こども未来会議 ~プロジェクト発表イベント in New York~ 」において、東京とニューヨーク間で子供たちが心拍を共有する実験が行われた。1万キロという物理的な距離を隔てながらも、初対面で言語も異なる子供たちが、心拍の共有を通じて深いレベルでの相互理解を体験することができた。この実験は、従来のビデオ通話や音声通話とは全く異なる次元のコミュニケーションの可能性を示している。
NTT研究所の触覚等ウェルビーイング研究の成果として、このような身体的な感覚の共有技術は、単なる情報の伝達を超えて、相手の生命そのものを感じ取ることができる画期的なコミュニケーション手段として位置づけられている。この技術は、高齢者の見守りサービス、医療現場でのリモート診断、教育分野での体験型学習など、様々な分野での応用が期待されている。
さらに、この存在感知技術は、バーチャルリアリティやメタバース空間でのコミュニケーションにも革新をもたらす可能性を秘めている。従来のデジタル空間でのコミュニケーションでは、視覚と聴覚に依存していたが、触覚や体感を通じた情報伝達が可能になることで、より人間らしい自然なインタラクションが実現される。これにより、リモートワークやオンライン教育の質的向上、医療や介護分野でのヒューマンケアの充実など、社会全体のコミュニケーション基盤の変革が期待されている。
企業のリモートワーク環境では、この技術により同僚の状態をより深く理解することが可能になる。ストレスレベルや集中度を生体信号から読み取り、適切なタイミングでのコミュニケーションや休憩の提案が行える。教育分野では、教師が生徒の理解度や集中状態をリアルタイムで把握し、個別最適化された指導を提供することができる。医療分野では、患者の容体変化を遠隔地の専門医が直接的に感じ取ることで、より精密な診断と治療方針の決定が可能になる。
高齢者介護の現場では、この技術が特に重要な役割を果たすと期待されている。認知症患者との感情的な繋がりを生体信号を通じて維持することで、言語によるコミュニケーションが困難になった場合でも、深いレベルでの心のケアを継続することができる。また、独居高齢者の見守りサービスでは、生体信号の変化を通じて緊急事態を早期に検知し、迅速な対応を可能にする。
技術的な観点から見ると、この存在感知システムは、生体信号の高精度センシング技術、リアルタイム信号処理技術、そして低遅延・高品質な通信技術の統合によって実現されている。特に、人間の心拍や呼吸などの微細な生体信号を正確に捉え、それを遠隔地に瞬時に伝達するためには、従来の通信インフラでは困難であった超低遅延通信が必要不可欠である。この課題を解決するために、NTTが開発しているIOWN構想の光技術が重要な役割を果たしている。
空間そのものを繋ぐ次世代伝送技術の可能性
NTTパビリオンで展示される第二の革新技術は、物理的な空間そのものをリアルタイムで遠隔地に再現する空間伝送技術である。この技術の実証例として、2024年9月に行われたPerfumeの結成25周年記念ライブでの演出が注目を集めた。このライブでは、5台のLiDARセンサーが演者の動きと空間の状況を3次元的にスキャンし、そのデータをリアルタイムで仮想空間に送信してCGを生成する技術が使用された。
LiDAR技術による3次元空間情報の取得は、従来のカメラ映像とは根本的に異なる情報を提供する。通常のカメラ映像が2次元の視覚情報に限定されるのに対し、LiDARセンサーは空間内のあらゆる物体の正確な位置、形状、動きを3次元データとして捉えることができる。これにより、現実空間で行われているパフォーマンスを、まるでその場にいるかのような臨場感で遠隔地に再現することが可能になる。
Perfumeのライブでは、現実のステージでの演者の動きと、仮想空間上で生成されたCGキャラクターの動きがリアルタイムで同期され、観客は自由視点でパフォーマンスを楽しむことができた。このような自由視点技術は、スポーツ観戦や舞台芸術の鑑賞体験を根本的に変革する可能性を持っている。観客は固定された視点に縛られることなく、好みの角度や距離からパフォーマンスを観察することができ、従来では不可能であった新しい鑑賞体験が提供される。
この技術の革新性は、単なる映像配信の進化を超えて、空間そのものの完全な複製と伝送を実現している点にある。従来のライブストリーミングでは、カメラの視点に制限された2次元の映像しか伝送できなかったが、LiDAR技術による3次元空間データの取得により、観客は文字通り「その場にいる」体験を得ることができる。この技術により、世界中のファンが同一のライブ体験を共有できるだけでなく、アーティスト側も地理的制約を超えた表現活動が可能になる。
エンターテインメント産業への影響は計り知れない。コンサート会場の収容人数という物理的制約を超えて、無制限の観客に高品質な体験を提供できるため、アーティストの収益機会が大幅に拡大する。また、小規模なライブハウスでのインディーズアーティストのパフォーマンスも、世界規模で配信することが可能になり、音楽文化の民主化が進むことが期待されている。
この空間伝送技術の社会的インパクトは計り知れない。教育分野では、世界各地の博物館や歴史的建造物を、まるで実際に訪問しているかのような体験で学習することができる。医療分野では、専門医が遠隔地の手術室にバーチャルで参加し、実際の手術の様子を3次元で観察しながら指導やアドバイスを行うことが可能になる。また、建築や製造業では、設計段階での3次元モデルと実際の建設・製造現場をリアルタイムで比較検証することで、品質管理の精度向上が期待される。
技術的な実現においては、大容量データのリアルタイム処理と伝送が最大の課題となる。3次元空間情報は従来の映像データと比べて桁違いのデータ量を持つため、これを低遅延で伝送するには革新的な通信インフラが必要である。NTTのIOWN構想では、光技術を活用した超高速・大容量通信により、この課題の解決を目指している。
身体的制約を超越する「場を共有する」表現技術の革新
さらに注目すべきは、ALS患者のDJであるMASAさんのプロジェクトである。体を動かすことができないMASAさんの筋肉から発生する微細な電流(筋電)をセンシングし、デジタル空間上のアバターを操作する技術が開発された。この技術により、現実世界では身体的制約によって困難な動作も、デジタル空間では自由に表現することが可能になる。オーストリアで開催された世界最高峰のメディアアート祭典「ARSELECTRONICA」でのパフォーマンスでは、過去の録画から音声を再現しクロスリンガル音声合成技術により、MASAさんが自分の声で英語のコミュニケーションを行い、大きな感動を呼んだ。
このプロジェクトは、身体的制約を持つ人々に新たな表現手段と社会参加の機会を提供する技術として、社会的包摂の観点からも極めて重要な意義を持っている。障害者のアーティストやクリエイターが、物理的制約を超えてグローバルステージで活躍できる環境の実現は、ダイバーシティとインクルージョンの理念を技術面から支える画期的な取り組みと言える。
MASAさんのプロジェクトが示すのは、単なる医療支援技術を超えた、人間の創造性と表現欲求に対する技術的回答である。ALSという進行性の疾患により身体の自由を奪われても、音楽への情熱と表現への欲求は変わることがない。筋電信号という微細な生体情報を捉えてデジタル空間での自由な表現に変換する技術は、身体的制約を克服して人間の根源的な創造欲求を実現する手段として機能している。
この技術の応用範囲は音楽分野にとどまらない。視覚芸術、文学、映像制作など、様々な創作活動において身体的制約を持つクリエイターの表現活動を支援することが可能である。また、高齢化社会において運動機能が低下した高齢者の社会参加や、事故や疾患により身体機能に制約を受けた人々の職業復帰支援など、幅広い社会課題の解決に貢献する可能性を秘めている。
技術的な観点では、このプロジェクトは生体信号処理、機械学習、リアルタイム制御技術の高度な統合によって実現されている。ALS患者の筋電信号は健常者と比べて非常に微弱であり、これを正確に検出し、意図した動作に変換するためには、高精度なセンシング技術と個人特性に適応した学習アルゴリズムが必要不可欠である。さらに、音楽パフォーマンスにおいては、わずかな遅延も表現の質に大きな影響を与えるため、超低遅延でのリアルタイム処理が求められる。
IOWN構想が支える万博会場のスマートシティ化
NTTパビリオンの展示内容を支える根幹技術として、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想が位置づけられている。この構想は、従来の電気中心のコンピューティングとネットワークを光技術中心に転換することで、処理能力の飛躍的向上と消費電力の劇的削減を同時に実現することを目指している。現在のコンピューティング技術は、ムーアの法則に従って発展してきたが、その限界が見え始めており、加えて高性能コンピューターの消費電力も課題となっている。
IOWN構想の核心技術として以下の要素が重要である:
超低消費電力光源素子とトランジスタの実現:世界最小の消費電力を達成する究極の光デバイス技術
光信号処理技術のロジックチップ統合:光による信号処理をコンピューターチップ内で直接実行する技術
光電融合デバイスの商用化:電気と光の最適な組み合わせによる次世代コンピューティング基盤
光エンジンの実用化:XPUやメモリなどの主要コンポーネントを光技術で実現する革新的システム
NTTでは、これらの光技術研究において世界をリードする成果を上げており、2025年度には光量子センシングを基盤としたプラットフォームの提供開始が予定されている。この技術革新により、従来の電気中心のシステムでは不可能であった超高速・大容量・低消費電力のコンピューティング環境が実現される。
光技術への転換がもたらすインパクトは、単なる性能向上にとどまらない。現在のデータセンターが消費する電力は、一つの中規模都市に匹敵する規模に達しており、デジタル社会の発展と環境負荷の削減を両立するためには、根本的な技術パラダイムの転換が必要である。IOWN構想による光技術の実用化は、この課題に対する抜本的な解決策として期待されている。
大阪・関西万博会場では、このIOWN技術を活用したスマートシティの実証実験が大規模に展開される。万博会場全体を一つの未来都市として捉え、NTTグループが持つ街づくりのノウハウとIOWN技術を組み合わせることで、次世代の都市インフラの在り方が提示される。具体的には、会場内の人流データ、環境データ、設備稼働データなどを光技術で高度に連携させ、会場全体で最適化された新たな高付加価値体験を提供する。
来場者向けのパーソナルエージェントアプリケーションも、IOWN技術の恩恵を受けた先進的なサービスとして開発されている。AIが個々の来場者の好みや行動パターンを分析し、最適な一日のプランを提案するコースレコメンド機能、リアルタイムの混雑状況を可視化して最適なルートを案内する機能、ARを活用した直感的なナビゲーション機能などが搭載される。これらの機能は、単なる便利なアプリを超えて、万博会場での体験価値を最大化するための総合的なプラットフォームとして設計されている。
バーチャル万博会場の構築も、IOWN技術の重要な応用例である。実際の万博会場と同じ建物やパビリオンが3次元空間に忠実に再現され、世界中の人々がアバターとなって万博を体験できる環境が提供される。このバーチャル空間は、物理的な会場への来場を促進するマーケティングツールとしてだけでなく、物理的制約により実際の会場を訪れることが困難な人々にも万博体験を提供する包摂的なプラットフォームとしても機能する。
NTTグループ全体としての万博への取り組みは、パビリオン展示にとどまらず、Web3・XRビジネス、航空宇宙事業、データセンター運営、エネルギービジネス、スマートシティソリューションなど、多岐にわたる事業領域での技術統合を図っている。これにより、万博会場は単なるイベント会場ではなく、未来社会の技術実証フィールドとしての役割を果たすことになる。
まとめ
NTTが大阪・関西万博で提示する技術革新は、単なる通信技術の進歩を超えて、人間のコミュニケーションそのものの在り方を根本的に変革する可能性を秘めている。1876年のフィラデルフィア万博で人類が電話という革新技術を目撃し、1900年のパリ万博で映像の世紀の始まりを体験し、1970年の大阪万博でワイヤレス通信の未来を実感したように、2025年の大阪・関西万博では「PARALLEL TRAVEL」という新たなコミュニケーションパラダイムが提示される。
存在を感じる技術、空間そのものを繋ぐ技術、場を共有する技術という3つの柱は、物理的な距離や時間的制約を超越した新しい人間関係の構築を可能にする。心拍の共有による深層レベルでの相互理解、3次元空間の完全な再現による臨場感あふれる遠隔体験、身体的制約を超えたデジタル空間での自由な表現活動など、これらの技術は従来のテレコミュニケーションの概念を大きく拡張する。
IOWN構想による光技術の実用化は、これらの革新的なコミュニケーション技術を支える重要な基盤インフラとして機能する。電気から光への技術パラダイムシフトにより、超高速・大容量・低消費電力のコンピューティング環境が実現され、従来では処理不可能であった大量の3次元空間データや生体データのリアルタイム処理が可能になる。
万博会場でのスマートシティ実証実験は、これらの技術が実際の都市環境でどのように活用されるかを示すリビングラボとしての意義を持つ。来場者一人ひとりの体験価値を最大化するパーソナライゼーション技術、会場全体の最適化を図るデータ統合技術、バーチャルとリアルを融合させた新しい体験設計など、未来の都市生活の在り方が具体的に提示される。
NTTグループが掲げる「Telecommunicationの、その先へ」というビジョンは、単なる通信事業者から、人間社会のコミュニケーション基盤全体を革新する技術企業への転換を示している。2025年の万博を通じて、想像を超える新しい出会いと体験が来場者を待っており、それは次世代社会の基盤技術としてその後の社会実装へと発展していくことが期待される。
万博での技術実証は、研究室レベルの技術を実社会に展開するための重要なステップとして位置づけられている。数百万人規模の来場者による大規模な技術検証により、実用化に向けた課題の発見と解決が進められる。特に、多様な年齢層や文化的背景を持つ来場者による体験フィードバックは、技術の社会受容性を高める上で極めて重要な知見となる。
万博後の社会実装においては、段階的な展開戦略が計画されている。まず、医療・教育・介護などの社会インフラ分野での限定的な導入から始まり、技術の安定性と有効性が確認された後、一般消費者向けサービスへの展開が予定されている。このアプローチにより、技術的リスクを最小化しながら、社会全体への普及を図ることが可能になる。
国際的な技術標準化への取り組みも重要な要素である。NTTが開発した空間伝送技術や存在感知技術が国際標準として採用されることで、グローバル市場での技術優位性を確保し、日本発の技術として世界的な普及を目指している。これにより、デジタル技術分野における日本の国際競争力の向上にも貢献することが期待されている。
技術革新と人間中心の価値創造を両立させるNTTの取り組みは、デジタル社会の未来像を描く重要な指針となるだろう。AI技術の進歩により人間らしさが問われる時代において、心拍の共有や存在感の伝達といった、最も人間的な要素を技術によって拡張するアプローチは、テクノロジーと人間性の調和を実現する新しいモデルとして注目される。万博という舞台で披露されるこれらの技術は、単なる技術展示を超えて、未来社会のビジョンそのものを体現する取り組みとして、世界中から注目を集めることになるだろう。
