株式会社TIMEWELLの濱本です。
現代のビジネス環境は、かつてないスピードで変化しています。特にマーケティングの世界では、デジタル技術の進化、ソーシャルメディアの浸透、そして消費者の行動様式の変容により、従来の常識が通用しなくなりつつあります。かつて広告界の王道とされたテレビCM中心のアプローチは、その効果に疑問符が投げかけられ、高額な制作費に見合う成果が得られているのか、厳しい目が向けられています。
一方で、TikTokやInstagramといったソーシャルメディアプラットフォームは、単なる情報発信ツールに留まらず、ブランド構築、消費者との直接的なエンゲージメント、そして購買行動に直結する強力なチャネルへと進化を遂げました。
本記事では、著名な起業家でありマーケターでもあるGary Vaynerchuk氏の洞察に基づき、現代におけるブランド構築とマーケティング戦略のあり方、特にオーガニックソーシャルの重要性、クリエイティブ検証の新たな手法、そしてライブコマースといった次なる潮流について深く掘り下げていきます。
幻想に終止符を:旧来型広告モデルの限界とオーガニックソーシャルの真価 データがブリーフを創る:ソーシャル起点のクリエイティブ戦略と代理店の未来 消費者インサイトこそ羅針盤:Relevance at Scaleとライブコマースの衝撃 まとめ 幻想に終止符を:旧来型広告モデルの限界とオーガニックソーシャルの真価
長年にわたり、多くの企業にとってマーケティング戦略の中核を成してきたのは、テレビCMをはじめとするマスメディア広告でした。そのプロセスは、まずクリエイティブブリーフが作成され、広告代理店が市場調査を行い、その結果をクリエイティブチームに渡し、アイデアを生み出し、莫大な費用を投じて制作するという、段階的かつ直線的なものでした。このモデルは、ブランドイメージの統一性を保ち、広範なリーチを獲得するという点では一定の合理性があったかもしれません。しかし、現代の消費者のメディア接触習慣や情報処理能力の変化を鑑みると、その有効性には大きな疑問符がつきます。
最大の問題点は、その費用対効果の曖昧さと、実際の消費者への到達度の不透明さです。多額の予算を投じて制作された美しい映像が、果たしてターゲットとする消費者にどれだけ届き、心を動かしているのか。それを正確に測定することは極めて困難です。
Vaynerchuk氏は、業界で報告されるインプレッション数(表示回数)のような指標の多くが「偽りのレポート」であり、実態を反映していないと厳しく指摘します。PR会社が報告する「87兆インプレッション獲得」といった数字を、果たしてどれだけの人が真に受けるでしょうか?メディアバイイングにおいても、「到達可能性のある人数」に基づいて広告枠が購入されるものの、それが「実際に到達した人数」とイコールでないことは、業界関係者であれば誰もが認識しているはずです。
さらに深刻なのは、意思決定プロセスにおける主観性の蔓延です。「これはブランドイメージに合わない」「私個人の好みではない」といった、経営層やマーケティング責任者の個人的な意見や、90年代に確立されたような古い学術的なブランド論が、クリエイティブの方向性を決定づけてしまうケースが後を絶ちません。しかし、これらの理論や個人の感覚は、インターネットが普及し、消費者が無数の情報にアクセスし、自ら発信することが可能になった現代の市場環境とは、もはや適合しない可能性が高いのです。
ここで注目すべきが、オーガニックソーシャル(広告費をかけない自然な形でのソーシャルメディア投稿)の持つ力です。Vaynerchuk氏は、「ソーシャルへの投稿はブランド構築そのものであり、そこで得られるテスト結果(エンゲージメントや反響)は、その後のメディア展開やキャンペーンワークにとって計り知れない付加価値をもたらす」と断言します。どのメッセージが響くのか、どのビジュアルが注目を集めるのか、どのプラットフォームでエンゲージメントが高いのか。これらのデータは、いわば無料で手に入る、最も信頼性の高い市場調査レポートなのです。
このオーガニックソーシャルでの検証は、従来のABテストのフレームワークよりもはるかに優れているとVaynerchuk氏は主張します。なぜなら、それは実際の消費者が自然な環境でコンテンツに接触し、反応した結果だからです。エンゲージメントが高かった投稿は、消費者のインサイトを的確に捉えている証拠であり、それをわずかに調整して広告クリエイティブとして展開することが、最も効果的なアプローチなのです。
それでは、クオリティ(品質)とクオンティティ(量)についてはどう考えればよいのでしょうか。広告業界では長らく、「クオリティ」とは高い制作費をかけた美しい映像や、著名なタレントの起用と同義であるかのように語られてきました。しかし、Vaynerchuk氏はこの考え方に真っ向から異を唱えます。「クオンティティは議論の余地がない。4000個の広告があれば、それは3個よりも多い。しかし、クオリティとは何か?それは主観的だ」と彼は述べます。重要なのは、制作費の多寡ではなく、消費者に響き、行動を促す力があるかどうかです。オーガニックソーシャルは、この「真のクオリティ」を持つクリエイティブを、低コストで見つけ出すための、これ以上ないテストグラウンドなのです。
成功するブランドが実践すべきオーガニックソーシャル活用のポイントをまとめると、以下のようになります。
量産と投稿:まずは多様なクリエイティブを、恐れずに量産し、各ソーシャルプラットフォームに最適化して投稿する。完璧を目指すのではなく、スピードを重視する。
データ分析: 各投稿のエンゲージメント(いいね、コメント、シェア、保存、視聴時間など)を注意深く観察し、どのコンテンツが、どの層に、どのプラットフォームで響いているのかを特定する。プラットフォームが提供するアナリティクスツールを最大限に活用する。
インサイト抽出: エンゲージメントが高かった投稿の共通項を分析し、消費者の興味関心や潜在的なニーズ(インサイト)を抽出する。なぜその投稿が響いたのかを深く理解する。
クリエイティブへの反映: 抽出されたインサイトに基づき、広告キャンペーン用のクリエイティブを制作、あるいは既存のオーガニック投稿を微調整して広告として配信する。
継続的な最適化:広告配信後も効果測定を続け、得られた学びを次のオーガニック投稿や広告クリエイティブに活かすというサイクルを回し続ける。
このプロセスを通じて、企業は高額な制作費を浪費することなく、データに基づいた効果的なクリエイティブ戦略を展開することが可能になります。旧来の広告モデルの幻想から脱却し、オーガニックソーシャルの真価を理解し活用することこそが、現代のマーケティングにおいて成功を収めるための鍵となるのです。
データがブリーフを創る:ソーシャル起点のクリエイティブ戦略と代理店の未来
従来の広告制作プロセスにおける出発点であった「クリエイティブブリーフ」。それは多くの場合、マーケティング担当者がブランドの目標やターゲット層、伝えたいメッセージなどを文書にまとめ、広告代理店に手渡すものでした。代理店側では、そのブリーフに基づき市場調査や競合分析を行い、戦略を練り上げ、具体的なアイデアへと昇華させる、という流れが一般的でした。しかし、このプロセス全体が、現代のスピード感と消費者の多様性に対応するにはあまりにも非効率的であるとVaynerchuk氏は指摘します。
彼が提唱するのは、このプロセスを根本から覆す、ソーシャルメディア起点の新しいアプローチです。この新しいモデルにおいては、もはや事前に定義された「ブリーフ」は存在しません。代わりに、実際にオーガニックなソーシャル投稿として公開され、高いエンゲージメントを獲得したコンテンツこそが、消費者のインサイトを最も雄弁に物語る「生きたブリーフ」となるのです。アイデアを思いつき、それを形にし、ソーシャルメディアに投稿する。その投稿がバイラルになるか、あるいは通常の投稿よりも著しく高い反応を得たとき、その「事実」そのものが、次のキャンペーンを展開するための最も強力なインサイトであり、方向性を示すブリーフとなるのです。つまり、計画ありきではなく、実践とデータ分析から戦略が生まれる、という逆転の発想です。
この考え方は、広告代理店のあり方にも大きな変革を迫ります。Vaynerchuk氏が率いるVaynerMediaは、まさにこの新しいモデルを体現する存在として注目されています。
彼は「新しいクリエイティブエージェンシーの形は、常に大規模にソーシャルクリエイティブを展開しそこから得られたインサイトに基づいてキャンペーンワークを行うことだ」と断言します。彼が特に強調するのは、「メディアとクリエイティブの再統合」の重要性です。メディアとクリエイティブが別々の組織によって扱われると、「メディアの配信戦略が悪かった」「クリエイティブの質が低かった」といった責任の押し付け合いが生じやすく、最終的なビジネス成果に対する明確な責任を誰も負わない、という状況に陥りがちです。
VaynerMediaを設立した当初から、彼はメディアとクリエイティブを一つの屋根の下に置くことを意図していました。それは、彼自身の長期的な目標である、代理店の上にプライベートエクイティファームを構築するという構想にとって、両機能の統合が不可欠だと考えていたからです。メディアとクリエイティブが一体となることで、オーガニック投稿で検証された「効くクリエイティブ」を、最適なメディア戦略によって効果的にターゲット層へ届け、その成果を明確に測定し、説明責任を果たすという、より健全で効率的なサイクルが実現可能になります。
さらに、この新しいアプローチは、広告業界に蔓延る「偽りのレポート」問題にも一石を投じます。前述の通り、従来の広告効果測定は、リーチ数やインプレッション数といった、実際のビジネスインパクトとの関連性が薄い指標に偏りがちでした。しかし、オーガニックソーシャルでの反応を起点とし、メディアとクリエイティブを統合してキャンペーンを展開すれば、エンゲージメント率、ウェブサイトへのトラフィック、そして最終的な売上といった、より具体的でビジネスに直結する指標に基づいて効果を測定し、説明責任を果たすことが可能になります。
VaynerMediaでは、ソーシャルクリエイティブとプロダクションに対するクライアントからの投資額が、従来のクリエイティブエージェンシーのフィーをはるかに上回る規模にまで成長しています。これは、ソーシャルメディア起点のクリエイティブ戦略が、単なる理想論ではなく、現実のビジネスとして大きな価値を生み出していることの証左です。
この変化の波は今後さらに加速していくと考えられます。データがクリエイティブブリーフを創り、メディアとクリエイティブが再び手を携える。この新しいパラダイムこそが、これからのマーケティングと広告代理店の未来を形作っていくことになるでしょう。
消費者インサイトこそ羅針盤:Relevance at Scaleとライブコマースの衝撃
マーケティングの世界において、「ブランド」という概念は長らく神聖視されてきました。ブランドには一貫した価値提案が必要であり、守るべきブランドイメージがある。1990年代以前に提唱されたブランド理論を持ち出して、現代のマーケティング戦略の是非を語ろうとする動きは、未だに根強く存在します。しかし、Vaynerchuk氏は、こうした考え方を「完全に的外れ」だと一刀両断します。彼は、ブランド担当者との会議で、実際にInstagramやTikTokの検索バーにそのブランド名を入力し、企業が制作に関与していない、色も形容詞もバラバラな何万ものコンテンツを画面に映し出すことで、ブランド側がコントロールできる範囲がいかに限定的であるかという現実を突きつけます。
重要なのは、過去の理論や固定観念に固執することではなく、「今、目の前にいる消費者の現実を直視すること」です。会議室に集う人々を見渡せば、彼らの性別、人種、収入レベル、価値観、ライフスタイルは様々です。このような多様な人々に対して、たった一つの画一的なメッセージ(例えば、ある特定の靴を売るための単一の動画)で、全員の心に響き、購買へと転換させることが可能でしょうか?答えは明白に「ノー」です。
Vaynerchuk氏が提唱するのは、「Relevance at Scale(スケーラブルな関連性)」という概念です。これは、可能な限り多くのターゲット消費者に対して、それぞれに最適化された、関連性の高いメッセージを、大規模に届けることの重要性を示唆しています。インターネット以前に書かれた本をブランド哲学の聖典として掲げることは、この目的を達成する上で何の役にも立ちません。
この「消費者中心主義」の欠如こそが、現代のマーケティング業界が抱える根深い問題であると彼は指摘します。「我々の業界は、大胆な意見を持つ人間で溢れている。それは彼ら自身の意見であって、今日の消費者が実際にどう行動しているかによって裏付けられたものではない」と。彼の関心は、特定のプラットフォーム(例えばソーシャルメディア)への愛着ではなく、その時々で最も費用対効果高く「アテンション(注目)」を獲得できる手段を追求することにあります。「私はアテンションを追いかけている。できる限り最高の価格でそれを手に入れようとしている」のです。だからこそ、彼はテレビCMの多くを「法外に高価」だと批判する一方で、スーパーボウル広告については、「800万ドル(12億円)で1億3000万人が30秒見る。特に前半なら、とんでもない掘り出し物だ」と評価します。ただし、そこでの成功の鍵を握るのは、やはり「クリエイティブ」であり、それが失敗すれば、関連費用を含めて莫大な損失を被るリスクも孕んでいます。
そして今、Vaynerchuk氏が「アテンション」を獲得する新たな主戦場として熱狂的に注目しているのが、「ライブソーシャルショッピング(ライブコマース)」です。この流れは、Meta(Facebook, Instagram)や、噂レベルではTwitter(現X)とShopifyの連携なども含め、主要プラットフォームが追随せざるを得ない大きな潮流となっています。AmazonやWalmart、eBayといった既存のeコマースプレイヤーも、この分野での機能強化に乗り出しています。
ライブコマースの台頭は、単なる新しい販売チャネルの登場に留まらず、小売業界全体の構造を揺るがす可能性を秘めています。ライブコマースは、ブランドがWalmartやTargetのような大手小売業者に依存することなく、直接消費者にリーチし、販売を行う新たな道を切り拓く可能性を秘めているのです。QVCやホームショッピングネットワークがいまだに数十億ドル(1兆円)規模のビジネスを維持しているように、ライブ形式での販売には、消費者の購買意欲を刺激する何か特別な力があるのです。「スポーツがライブだから良いのと同じだ。理由はわからないが準備をして学んだ方がいい」と、彼は業界関係者に警鐘を鳴らします。
こうした業界の構造変化や新しいトレンドの中で、多くのブランドやクライアントがつまずく最大の要因は何でしょうか?Vaynerchuk氏は、「我々の業界は偽りのレポートを過大評価している」「業界全体として、カルチャーで実際に何が起こっているのか、何がクールなのかということに対する感性を完全に欠いている」「企業内の専門用語ばかりで、本物のリアルな会話が不足している」といった点を挙げます。そして、その結果として、CMO(最高マーケティング責任者)の経営層における影響力が著しく低下している、という現実を指摘します。その理由は、マーケティング部門が、広告賞(カンヌライオンなど)の獲得といった、ビジネスの業績に直接結びつかない内向きの活動に注力しがちだからです。
さらに、ブランド内部の意思決定プロセスにも問題があります。ソーシャルメディア上のクリエイティブについて最終的な決定権を持つ人々が、必ずしもそのプラットフォームの特性や消費者の動向を深く理解しているわけではない、という指摘です。
これを解決するにはどうすればよいか?Vaynerchuk氏は「痛み」が必要だと語ります。ブランドが市場シェアを失い、業績が悪化するという「痛み」を経験することで、初めて現状認識が改まり、変革への機運が高まるのです。消費者インサイトを羅針盤とし、Relevance at Scaleを追求し、ライブコマースのような新しい波に乗り出す。そして何よりも、主観や過去の成功体験ではなく、データと現実に基づいて意思決定を行うこと。これこそが、不確実な未来を乗り切るための鍵となるのです。
まとめ
本記事では、Gary Vaynerchuk氏の鋭い洞察を通じて、現代マーケティングが直面する課題と、未来に向けた変革の必要性について論じてきました。旧来のテレビCM中心、トップダウン型の広告制作プロセスは、費用対効果の不透明さや消費者との乖離といった問題を露呈しており、もはや限界を迎えています。
これからの時代に求められるのは、オーガニックソーシャルを起点とした、データに基づいたアプローチです。実際に消費者の心を掴んだ投稿を「生きたブリーフ」とし、そこから得られたインサイトに基づいてクリエイティブを開発・検証し、メディアとクリエイティブが一体となって展開する。このサイクルこそが、「Relevance at Scale」を実現し、多様化する消費者セグメントに響くコミュニケーションを可能にします。制作費の多寡ではなく、実際のビジネスインパクトこそが「真のクオリティ」であるという認識転換も不可欠です。
また、ライブコマースの台頭は、単なる販売チャネルの変化に留まらず、ブランドと消費者の関係性、そして小売業界全体の構造をも変えうる大きな潮流です。この変化に乗り遅れることなく、積極的に学び、活用していく姿勢が求められます。
業界全体としては、主観や慣習に囚われず、消費者のリアルな声とデータに真摯に耳を傾け、「偽りのレポート」や内向きの評価基準から脱却する必要があります。CMOをはじめとするマーケターは、ビジネス成果への貢献という本来の役割に立ち返り、経営層からの信頼を回復しなければなりません。
変化には痛みが伴いますが、その先には、より効果的で、より消費者と誠実に向き合える、新しいマーケティングの姿が待っています。本記事で提示された視点や戦略が、読者の皆様のビジネスにおける次なる一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。
参考:https://www.youtube.com/watch?v=szvcdKdFjBU
いま話題の他の記事はこちらから↓
Google AI Studioの新機能で画像生成の可能性が大きく広がる!自然な動画も作れる革命的な機能とは
中国発の世界最高峰AIエージェント「Manus」が登場!ChatGPTを超える驚異の性能とは?
ChatGPTが新機能“ネイティブ画像生成機能”を発表!
プログラミング知識ゼロでアプリ開発が可能に? 話題のAIツール「Rork」を実際に使ってみた!
