株式会社TIMEWELLの濱本です。
「思考だけでコンピュータを操作する」——SF映画の世界が、現実になりつつあります。
Neuralinkは、Elon Musk氏が2016年に設立した脳コンピュータインターフェース(BCI)企業です。2025年には9名の患者に脳インプラントを埋め込み、1秒あたり9ビット以上という情報転送速度で従来の記録を2倍に更新。視覚回復デバイス「Blindsight」と音声復元システムがFDA Breakthrough Device認定を取得しました。
本記事では、Neuralinkの最新技術、臨床試験の成果、そして脳インターフェースがもたらす未来を解説します。
Neuralinkとは:脳とコンピュータをつなぐ
基本概要
Neuralinkは、脳内に小型チップ「Link」を埋め込み、超微細な電極(スレッド)を用いて脳の神経信号を読み取り、コンピュータに伝送する技術を開発しています。
基本情報:
- 設立: 2016年(Elon Musk氏)
- 本社: 米国カリフォルニア州フリーモント
- 目標: 脳疾患の治療、人間とAIの共生
- 臨床試験名: PRIME Study
技術の仕組み
Neuralinkのシステム構成:
- Link(リンク): コイン大の脳インプラント
- スレッド: 髪の毛より細い電極線(1,024本)
- ロボット手術装置: 精密なスレッド挿入を自動化
- ワイヤレス通信: 脳信号をスマートフォン/PCに送信
動作原理:
- 脳の運動野から神経信号を検出
- AIがパターンを解析し、意図を解釈
- カーソル移動、タイピング、デバイス操作に変換
臨床試験の成果
9名の患者に埋め込み完了
2025年中盤時点で、Neuralinkは9名の患者に脳インプラントを埋め込んでいます。
臨床試験参加者:
- 脊髄損傷による四肢麻痺
- ALS(筋萎縮性側索硬化症)
- その他の神経疾患
最初の患者:Noland Arbaugh氏
2024年に埋め込みを受けた最初の患者、Noland Arbaugh氏の成果は驚異的です。
Noland氏の実績:
- 1日10時間以上、思考だけでコンピュータを操作
- 情報転送速度:1秒あたり9ビット以上(従来の記録の2倍)
- ゲームプレイ、ウェブ閲覧、コミュニケーションを実現
2人目の患者:技術改善
2人目の患者Alex氏では、初期患者で発生した「スレッド後退」の問題が回避されました。手術技術と埋め込み方法の改善により、より安定した長期運用が可能になっています。
臨床試験の拡大
Neuralinkは、臨床試験を米国外にも拡大しています。
試験実施国:
- 米国(5名枠→拡大)
- カナダ(6名枠)
- 英国(募集中)
- UAE(計画中)
目標:
- 2025年末までに20〜30名の新規参加者を登録
- 2026年末までに少なくとも8件の追加埋め込み
FDA Breakthrough Device認定
Blindsight:視覚回復デバイス
2024年9月、NeuralinkのBlindsightデバイスがFDA Breakthrough Device認定を取得しました。
Blindsightの仕組み:
- 視覚野に電極アレイを埋め込む
- 外部カメラからの映像を電気信号に変換
- 視覚野のニューロンを刺激して「視覚」を生成
対象患者:
- 両眼の視力を失った方
- 視神経が損傷している方
- 視覚野が無傷である方
期待される効果:
- 初期は低解像度(初期のビデオゲームレベル)
- 将来的には通常の人間の視力を超える可能性
臨床試験予定:
- 2025年後半〜2026年初頭にヒト臨床試験開始
- 米国、カナダ、英国で視覚喪失者を募集中
音声復元システム
2025年5月、NeuralinkはALS、脳卒中、脳性麻痺などによる重度のコミュニケーション障害を持つ方向けの「音声復元システム」でもFDA Breakthrough Device認定を取得しました。
音声復元システムの可能性:
- 発話意図を脳信号から読み取り
- テキストまたは合成音声に変換
- 話すことができなくなった方のコミュニケーション支援
当時と現在:Neuralinkの進化
本記事の元となった情報と比較して、Neuralinkは大きく進化しています。
当時(2024年後半):
- 臨床試験参加者:数名
- スレッド後退の問題発生
- 米国のみで試験
- Blindsightは構想段階
現在(2026年1月):
- 臨床試験参加者:9名
- 情報転送速度が従来記録の2倍に
- 米国、カナダ、英国、UAEに拡大
- Blindsight、音声復元システムがFDA Breakthrough認定
- 2025年末までに20〜30名の新規登録目標
脳コンピュータインターフェースは、実験段階から実用化段階へと確実に移行しています。
Neuralinkの可能性と課題
期待される医療応用
1. 四肢麻痺
- 思考によるデバイス操作
- 日常生活の自立支援
- コミュニケーションの回復
2. 視覚障害
- Blindsightによる視覚回復
- 盲目の方への視覚体験提供
3. 発話障害
- ALS、脳卒中後のコミュニケーション
- 思考からテキスト/音声への変換
4. パーキンソン病
- 運動症状の制御
- 既存の深部脳刺激療法の高度化
課題と懸念
1. 安全性
- 脳手術のリスク
- 長期的な生体適合性
- スレッドの安定性
2. プライバシー
- 脳データの保護
- 思考の監視への懸念
- データの所有権
3. 倫理
- 人間の「拡張」への議論
- 社会的格差の拡大
- アクセスの公平性
4. 規制
- FDA承認プロセス
- 各国の規制対応
- 長期的な安全性データの蓄積
競合環境
主要プレイヤー
| 企業 | 特徴 | ステージ |
|---|---|---|
| Neuralink | 高密度電極、ロボット手術 | ヒト臨床試験中 |
| Synchron | 血管内アプローチ(非侵襲的) | FDA承認、ヒト試験中 |
| Blackrock Neurotech | 研究用BCI | 臨床利用 |
| Precision Neuroscience | Layer 7 Cortical Interface | ヒト試験中 |
Neuralinkは、高密度の電極と自動ロボット手術による精密な埋め込みで差別化を図っています。
企業・医療機関での検討
BCIの将来的な活用
脳コンピュータインターフェースは、医療分野を超えた応用も期待されています。
将来的な可能性:
- 重度障害者の就労支援
- 高齢者のコミュニケーション支援
- リハビリテーションの高度化
- 教育・学習支援
導入の考慮点
現時点では、BCIは臨床試験段階であり、一般的な導入には時間がかかります。
今後の動向を注視すべき点:
- FDA承認の進捗
- 長期安全性データ
- コスト・アクセシビリティ
- 倫理的・法的枠組み
TIMEWELLでは、WARPコンサルティングを通じて、BCIを含む最先端技術の動向と、企業への影響について情報提供を行っています。
まとめ
Neuralinkは、脳コンピュータインターフェースの実用化に向けて着実に前進しています。
本記事のポイント:
- 9名の患者に脳インプラント埋め込み完了
- 情報転送速度:1秒9ビット以上(従来の2倍)
- Blindsight(視覚回復)がFDA Breakthrough認定
- 音声復元システムもFDA Breakthrough認定
- 米国、カナダ、英国、UAEで臨床試験拡大
- 2025年末までに20〜30名の新規登録目標
「思考でコンピュータを操作する」という夢が、医療の現場で現実になりつつあります。四肢麻痺、視覚障害、発話障害など、これまで回復が困難とされてきた障害に対して、Neuralinkは新たな希望を提供しています。技術の進歩と倫理的な議論を両輪として、脳インターフェースがもたらす未来に注目が集まっています。
