株式会社TIMEWELLの濱本です。
AIの活用が急速に進む中で、日本企業の多くがAIの必要性を感じていない現状があります。なぜ日本企業はAIの導入に消極的なのでしょうか?本記事では、ソフトバンクの宮川潤一さんの講演より、日本企業がAIの波に乗り遅れることのリスクと、AI活用の本質について語ります。AIを単なる効率化ツールではなく、新たな価値創出の武器と捉え、積極的に活用していくことが、日本の明るい未来につながるのです。
講演者:宮川潤一
所属:ソフトバンク代表取締役社長執行役員兼CEO、MONET Technologies代表取締役社長兼最高経営責任者、電気通信事業者協会会長
事業:インターネットサービス・プロバイダー(ISP)会社 ももたろうインターネット設立、ソフトバンクのブロードバンド事業立ち上げ、ソフトバンクモバイルCTO就任、トヨタ自動車とソフトバンクの共同出資会社MONET Technologies設立、ソフトバンク代表取締役社長就任。
経歴:インターネットの可能性を早期に認識し起業、ソフトバンクのブロードバンド事業とモバイル事業の中核を担う次世代の通信技術とモビリティサービスを見据えた事業を推進。孫正義さんの後継者の1人として知られる存在。
赤旗法が導いた、イギリスの産業革命発展の阻害と、現代日本における自動車産業の危機 現代のテクノロジー:生成AIの進化 AI活用の現状:AI後進国日本が抱える課題と経営層の意識差 AIは仕事を奪うのか、創り出すのか AI共存社会:産業の新たな価値創出に向けて 【まとめ】好む・好まざるに関わらず、AI時代はやってくる 赤旗法が導いた、イギリスの産業革命発展の阻害と、現代日本における自動車産業の危機
〈宮川さんのご講演は1枚の絵から始まりました。画像引用元:"SoftBank World 2024 宮川 潤一 基調講演 AI共存社会に向けて ~ AIは仕事を奪うのか、創りだすのか" https://youtu.be/0FSe8c_un5E?si=gyHmPZvxwAI8ZOl5〉
まずこの絵を見てください。
こちらは19世紀後半のイギリスで、人が自動車を先導している様子です。
イギリスでは、19世紀後半に制定された赤旗法という悪法によって、自動車産業の発展が大きく阻害されました。この法律は、自動車の前に人が赤旗を持って歩くことを義務付けるなど、極めて厳しい規制を課すものでした。その結果、イギリスの自動車産業は世界から大きく遅れをとり、世界シェアはわずか2%にとどまってしまいました。
この赤旗法の教訓は、現代の日本にも当てはまると私は考えています。日本の自動車産業は、長年にわたって世界をリードしてきましたが、今、大きな危機に直面しているのです。その原因の一つが、自動運転技術への対応の遅れです。
アメリカや中国では、すでに自動運転車が公道を走行しており、法整備も進んでいます。一方、日本ではようやく昨年になって実証実験が許可されたばかりで、走行可能な距離も極めて限られています。
政府の目標では、2027年までに自動運転の実証実験を100ヶ所以上で行うとしていますが、現状はわずか4ヶ所にとどまっています。このペースでは、世界との差はますます開くばかりです。
日本の自動車産業が生き残るためには、スピード感を持って自動運転技術の開発と実用化を進めていく必要があります。そのためには、規制の見直しや法整備、インフラ整備など、官民一体となった取り組みが不可欠です。
現代のテクノロジー:生成AIの進化
AIの進化は目覚ましく、特に生成AIの分野では急速な発展を遂げています。わずか2年前にGPT-3.5が登場し、テキスト生成が可能になりました。その後、DALL-EやStableDiffusionなどの登場により、画像、動画、音声の生成もできるようになりました。
そして先月リリースされたPaLM 2は、博士号レベルの高度な推論能力を持つまでに進化しました。GPT-3.5の登場から2年足らずでこれほどの進歩を遂げたことは驚くべきことです。
AIの進化のスピードを示すデータとして、ムーアの法則があります。当初、機械学習の進化は1.5年で2倍のペースでしたが、2012年にGPUが登場して以降、3、4ヶ月で2倍の進化を遂げるようになりました。
AIの進化のスピードを示すデータとして、ムーアの法則があります。当初、機械学習の進化は1.5年で2倍のペースでしたが、2012年にGPUが登場して以降、3、4ヶ月で2倍の進化を遂げるようになりました。
実際、GPT-4は10の21乗FLOPS、Gemini-17Bは10の54乗FLOPS、LLaMA-13Bは10の38乗FLOPSの性能を示しています。このペースでAIが進化していけば、人類の上位1%に当たるIQ135には数ヶ月から1年以内に到達すると予想されます。
生成AIの進化は、私たちに大きなチャンスをもたらすと同時に、大きな脅威にもなり得ます。私たち人間は、AIとどう向き合っていくべきなのか。その答えを探ることが、今求められていると言えるでしょう。
AI活用の現状:AI後進国日本が抱える課題と経営層の意識差
世界的にAIの活用が急速に拡大する中、日本企業のAI活用率はわずか32%にとどまっており、先進国の中でも最低レベルです。総務省の調査では、個人のAI利用率に至っては9%という衝撃的な数字が示されました。
この原因の一つとして、日本企業のAIに対する消極的な姿勢が挙げられます。世界のビジネスマンを対象とした調査によると、日本は生成AIへの期待度が低く、不安を感じている人が多数派を占めています。
その背景には、「AIの必要性を感じない」「使い方や利便性に不安がある」「情報の正確性に不安がある」といった理由があります。これは2008年にiPhoneが日本に上陸した際の反応と酷似しています。
9カ国の経営層を対象とした調査では、日本の経営層がAIの活用に最も消極的であるという結果が出ました。また、経営者がAIの活用を推奨しているかという設問でも、日本は54%と最下位でした。
世界の企業がAIを競争力強化の武器と捉える中、日本企業の多くはAIを単なる業務効率化のツールと見なしています。この意識の差が、AIの活用に対する姿勢の違いを生んでいるのです。
AIは仕事を奪うのか、創り出すのか
NVIDIAのジェンスン・フアン氏は、「AIが君たちの仕事を奪うんじゃない。AIを活用する人が君たちの仕事を奪うんだ」と言いました。つまり、AIそのものが仕事を奪うのではなく、AIをうまく活用できるかどうかが、企業の盛衰を分けるということです。
過去を振り返ると、テクノロジーの進化に乗り遅れた企業が衰退していった例は数多くあります。馬車から自動車への移行期に赤旗法を制定したイギリスは、自動車産業で大きく出遅れました。デジタルカメラの登場で、フィルムカメラ市場を失ったコダックや、スマートフォンの波に乗り遅れたノキアなども同様の轍を踏んでしまいました。
一方で、テクノロジーの進化をチャンスと捉え、積極的に取り入れた企業は大きく成長しました。amazonはAIを活用して商品推奨の精度を高め、ユーザーエクスペリエンスを向上させました。Googleは機械学習を検索アルゴリズムに取り入れ、検索精度を飛躍的に高めました。
少子高齢化が進む日本においては、労働人口の減少が避けられません。2040年までに1000万人の労働者が減少すると、単純計算でGDPが100兆円以上減ってしまう可能性があります。この危機を乗り越えるためには、AIを活用して1人当たりの生産性を高めていくことが不可欠なのです。
AI共存社会:産業の新たな価値創出に向けて
これまでお話ししてきたように、AIは私たちの社会に大きな変革をもたらそうとしています。特に産業界においては、AIの活用が新たな価値創出の鍵を握ると言っても過言ではありません。
そこで私たちソフトバンクは、「AIとの共存社会」の実現に向けて、全力で取り組んでいます。まず、自社内でのAI活用を積極的に進めています。コールセンターの自動化や不正検知、営業支援などの分野で、AIを駆使して業務効率化と新たな価値創出を実現しつつあります。
また、AI時代に不可欠となる通信インフラの整備にも注力しています。現在の通信基盤では、将来のAIトラフィックを支えきれない可能性があります。そこで私たちは、基地局へのエッジコンピューティング機能の実装や光ファイバーの増強、AIデータセンターの分散配置などを進め、日本のAI基盤となることを目指しています。
パートナー企業との協業にも力を入れています。トヨタ自動車との合弁会社MONETは、AIを活用した次世代のモビリティサービスの開発を進めています。また、マイクロソフトとは、お客様を待たせないコールセンターの構築に取り組んでいます。
【まとめ】好む・好まざるに関わらず、AI時代はやってくる
AIの急速な進化は、もはや誰にも止められません。GPT-4やPaLM 2に代表される大規模言語モデルは、人間の知性に匹敵するレベルに達しつつあります。この流れは加速こそすれ、減速することはないでしょう。
しかし、日本企業の多くはこの現実を直視できていません。AI活用に対する消極的な姿勢や、経営層のAIに対する意識の低さが、日本のAI後進国化を招いています。このままでは、世界の潮流から取り残され、国際競争に敗退してしまうリスクがあります。
私たちソフトバンクは、AIとの共存社会の実現に向けて、全力で取り組んでいます。しかし、私たちの取り組みだけでは十分ではありません。日本の産業界全体がAIの活用に舵を切ることが必要不可欠なのです。
そのためには、経営者の意識改革が何より重要です。AIを脅威ではなくチャンスと捉え、新たな価値創出のために積極的に活用する。そのような意識を持った経営者が一人でも多く現れることを、私は心から願っています。
AI時代の到来は、避けられません。問題は、それをチャンスと捉えられるかどうかです。日本の明るい未来のために、私たちは今、AIとの向き合い方を根本から変える必要があります。一緒に、AI時代を切り拓いていきましょう。
出典:"SoftBank World 2024 宮川 潤一 基調講演 AI共存社会に向けて ~ AIは仕事を奪うのか、創りだすのか" https://youtu.be/0FSe8c_un5E?si=gyHmPZvxwAI8ZOl5
