株式会社TIMEWELLの濱本です。
2025年、SpaceXのStarshipプログラムは歴史的な進展を遂げました。5回のフルスタックテストを実施し、船体の着水成功、そして10月のFlight 5ではブースターのキャッチバック(タワーキャッチ)という前例のない偉業を達成しました。
そして2026年、Starshipは新たなフェーズに突入します。3月にはVersion 3(Block 3)初飛行となるFlight 12を予定。Raptor 3エンジン搭載、機体の大型化により、いよいよ火星到達可能な仕様へと進化しました。
本記事では、2025年のテスト飛行の成果、Version 3の技術革新、5つの発射台体制構築、そして2026年以降の展望を解説します。
SpaceX Starship 2026年最新情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 2025年実績 | フルスタックテスト5回実施(Flight 7-11) |
| キャッチバック成功 | Flight 5(2024年10月)、Flight 10(2025年) |
| Flight 12予定 | 2026年3月(Version 3初飛行) |
| 新エンジン | Raptor 3搭載 |
| 発射台体制 | 5基体制構築中 |
| 量産状況 | Ship 48まで組み立て進行中 |
| 次世代 | Block 4(80mブースター)開発中 |
2025年テストフライトの総括
Flight 7-11の成果
2025年、Starshipは5回のフルスタックテストを実施しました。
| フライト | 時期 | 主な成果 | 課題 |
|---|---|---|---|
| Flight 7 | 2025年初頭 | 軌道周回成功 | 再突入時の熱シールド損傷 |
| Flight 8 | 2025年春 | ペイロードドア開閉テスト | 一部展開不完全 |
| Flight 9 | 2025年夏 | ホットステージング改良 | 再突入中にスピン発生 |
| Flight 10 | 2025年秋 | 船体着水成功、ブースターキャッチ成功 | - |
| Flight 11 | 2025年11月 | 船体着水成功 | ブースター地上試験で損傷 |
ブースターキャッチバックの歴史的成功
Flight 5(2024年10月)で初めて成功したブースターのタワーキャッチは、宇宙開発史上の転換点でした。
キャッチバックのプロセス:
- ブースター分離後、180度の姿勢反転(Boostback Burn)
- 発射台に向けた精密な軌道修正
- タワーの「箸(Chopsticks)」アームによるキャッチ
- 即座の検査・再整備
この技術により、ブースターの再使用サイクルが大幅に短縮され、コスト削減と打ち上げ頻度の向上が可能になりました。
Version 3(Block 3)——火星到達可能な仕様
技術仕様の進化
2026年3月のFlight 12で初飛行予定のVersion 3は、Starship初の火星対応仕様です。
| 項目 | Version 2 | Version 3 | 変更点 |
|---|---|---|---|
| 全高 | 約120m | 約122m | 大型化 |
| エンジン | Raptor 2 | Raptor 3 | 新世代 |
| 推力 | 16.7 MN | 18+ MN | 向上 |
| 再突入性能 | 限定的 | 火星大気対応 | 強化 |
| 熱シールド | V2タイル | V3タイル | 改良 |
Raptor 3エンジン
Version 3の核心となるRaptor 3エンジンは、以下の改良を実現しています。
Raptor 3の特徴:
- 推力向上(Raptor 2比で約10%増)
- 製造コスト削減
- 信頼性向上
- メンテナンス性改善
Raptor 3は、SpaceXが目指す「1日複数回打ち上げ」に不可欠な高い再使用耐久性を持っています。
火星ミッションへの道
SpaceXのイーロン・マスクCEOは、Version 3を「火星に到達可能な最初のStarship」と位置づけています。
火星ミッション要件:
- 火星大気(CO2主体)への再突入耐性
- 長期間の宇宙空間滞在
- 火星表面からの離陸能力(Raptor推進剤の現地生産)
インフラストラクチャの拡大
5つの発射台体制
SpaceXは、Starshipの打ち上げ頻度を飛躍的に高めるため、5つの発射台体制を構築中です。
| 発射台 | 場所 | 状況 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Pad 1 | Starbase, TX | 運用中 | 初号機用 |
| Pad 2 | Starbase, TX | 2026年完成予定 | 高頻度打ち上げ対応 |
| LC-39A | ケネディ宇宙センター | 改修中 | NASA連携ミッション |
| SLC-37 #1 | ケープカナベラル | 建設中 | 東海岸拠点 |
| SLC-37 #2 | ケープカナベラル | 計画中 | 冗長性確保 |
Starfactoryでの量産体制
テキサス州StarbaseのStarfactoryでは、大規模な量産体制が構築されています。
生産状況(2026年1月時点):
- Ship 48まで組み立て進行中
- Block 3車両の製造開始
- Giga Bays建設中(Block 4の80mブースター製造用)
この量産体制により、SpaceXは「週1回以上の打ち上げ」という目標に向けて着実に前進しています。
2025年の課題と教訓
熱シールドの改良
2025年のテスト飛行で最も注目された課題は、熱シールド(Thermal Protection System: TPS)でした。
熱シールドの課題:
- 再突入時の高温(約1,400℃)によるタイル損傷
- タイル脱落時の構造体への影響
- 修理・交換の効率化
Flight 9では、意図的に約100枚のタイルを外した状態で再突入試験を実施。これは、タイル損傷時のリスク評価のための大胆な実験でした。
Booster 18の地上試験損傷
2025年11月、Flight 12用に予定されていたBooster 18が地上試験中に損傷しました。
影響:
- Flight 12はBooster 19を使用
- スケジュールへの影響は限定的
- 地上試験プロセスの見直し
SpaceXの「fail fast, learn fast」アプローチにより、この損傷も次の改良につながるデータとして活用されています。
当時と現在:Starshipプログラムの進化
| 項目 | 当時(2024年4月 Flight 4時) | 現在(2026年1月) |
|---|---|---|
| 累計フライト | 4回 | 11回 |
| 軌道到達 | 初達成 | 複数回成功 |
| ブースターキャッチ | 未達成 | 複数回成功 |
| 船体着水 | 未達成 | 複数回成功 |
| バージョン | Block 1/2 | Block 3(Version 3) |
| エンジン | Raptor 2 | Raptor 3 |
| 発射台 | 1基 | 5基体制構築中 |
| 量産 | 限定的 | Ship 48まで進行 |
| 火星対応 | 開発中 | Version 3で実現 |
2026年以降の展望
Flight 12以降の計画
2026年は、Starshipにとって「運用開始への準備年」となります。
2026年の予定:
- 3月: Flight 12(Version 3初飛行)
- 上半期: 高頻度打ち上げテスト開始
- 下半期: Starlink衛星の本格輸送開始
- 年内: 燃料補給デモ(HLS月着陸船用)
NASAアルテミス計画との連携
StarshipはNASAのアルテミス計画において、月面着陸船(HLS: Human Landing System)として採用されています。
アルテミス計画でのStarship:
- Artemis III(2027年予定)での月面着陸に使用
- 軌道上での燃料補給技術の実証
- 複数回のStarship打ち上げによるミッション支援
Block 4と将来のロードマップ
SpaceXは既にBlock 4の開発を進めています。
| バージョン | 時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| Block 3 | 2026年 | 火星対応、Raptor 3 |
| Block 4 | 2027年以降 | 80mブースター、さらなる大型化 |
| 将来版 | 未定 | 完全再使用、火星植民地支援 |
ビジネスへの影響
宇宙輸送コストの革命
Starshipの完全再使用が実現すれば、宇宙輸送コストは劇的に低下します。
コスト比較(推定):
| ロケット | 1kgあたりコスト |
|---|---|
| スペースシャトル | $54,500 |
| Falcon 9 | $2,720 |
| Starship(目標) | $10以下 |
企業への示唆
Starshipの実用化は、以下のビジネス領域に大きな影響を与えます:
- 通信: 大量のStarlink衛星投入による低軌道通信網の拡大
- 製造: 宇宙での製造・研究の経済性向上
- 観光: 宇宙旅行の一般化
- 資源: 小惑星・月資源開発の経済的実現可能性
まとめ
SpaceX Starshipは、2025年の5回のテスト飛行を経て、2026年に大きな飛躍を遂げようとしています。
本記事のポイント:
- 2025年に5回のフルスタックテスト、ブースターキャッチバック複数回成功
- 2026年3月にVersion 3(Block 3)初飛行のFlight 12を予定
- Raptor 3エンジン搭載、火星到達可能な仕様に進化
- 5つの発射台体制を構築中、Ship 48まで量産進行
- NASAアルテミス計画のHLSとして月着陸に使用予定
- 宇宙輸送コストを1kgあたり$10以下に削減する目標
Starshipは単なるロケットではありません。人類の宇宙進出を根本から変革する「宇宙インフラ」です。2026年は、そのインフラが本格稼働に向けて大きく前進する年となるでしょう。
企業にとって、宇宙輸送コストの劇的な低下は、これまで不可能だった事業機会を生み出す可能性があります。SpaceXの動向を注視し、宇宙関連事業の可能性を検討すべき時期に来ています。
