株式会社TIMEWELLの濱本です。
「あなたは人間ですか、それともAIですか?」
この問いへの答えを提供するのが、Sam Altman(OpenAI CEO)が共同設立した「World」(旧Worldcoin)プロジェクトです。虹彩スキャンデバイス「Orb」を使って「人間であること」を暗号学的に証明し、AI時代のオンライン認証を変革しようとしています。
本記事では、World IDの仕組み、最新動向、そして課題について解説します。
Worldとは:人間証明プロジェクト
基本概要
Worldは、Tools for Humanity社(2019年設立、Sam Altman、Alex Blania共同創業)が開発する人間認証プロジェクトです。
基本情報:
- 設立: 2019年(Tools for Humanity社)
- 創業者: Sam Altman、Alex Blania、Max Novendstern
- リブランド: 2024年10月に「Worldcoin」から「World」へ
- 目標: 10億人のユーザー獲得
仕組み
World IDの認証フロー:
- 「Orb」と呼ばれるデバイスで虹彩をスキャン
- 虹彩の特徴から一意の「IrisHash」を生成
- ハッシュ値のみがブロックチェーンに記録
- 元の虹彩画像は削除
- ゼロ知識証明で「人間である」ことのみを証明
プライバシー設計:
- 虹彩画像はデバイス内で処理、サーバーに送信されない
- 個人を特定する情報は保存されない
- ユーザーは「人間である」という事実のみを証明可能
2025-2026年の急展開
ユーザー数の推移
| 時期 | World Appユーザー | 虹彩認証済み |
|---|---|---|
| 2025年2月 | 2,500万 | - |
| 2025年9月 | 3,300万 | 1,500万 |
| 2025年11月 | - | 1,750万 |
目標の10億人に対しては約2%の進捗ですが、着実に拡大しています。
米国ローンチ(2025年5月)
2025年5月1日、Worldは米国での本格展開を開始しました。
米国展開:
- 初期ロケーション: アトランタ、オースティン、ロサンゼルス、マイアミ、ナッシュビル、サンフランシスコ
- Razerストア: 全米のRazerストアにOrb設置
- 目標: 2025年末までに7,500台のOrbを全米展開
- 対象人口: 約1億8,000万人のアメリカ人にアクセス提供
Orb Mini(2026年予定)
現行の大型Orbに加え、スマートフォンサイズの「Orb Mini」が2026年に登場予定です。
Orb Miniの特徴:
- ポータブルサイズ
- 目立つアイセンサー搭載
- より広範な普及を目指す
主要パートナーシップ
Visa提携:
- World IDと連携したデビットカードプロジェクト
- 暗号資産と従来の決済インフラの橋渡し
Match Group提携:
- Tinder等のマッチングアプリでWorld ID活用
- 「本物の人間」同士のマッチングを保証
Razer提携:
- ゲームでの「人間専用」モード/サーバー
- ボット排除によるフェアなゲーム環境
スーパーアプリ化(2025年12月)
2025年12月、World Appは大幅アップデートでスーパーアプリへと進化しました。
新機能:
- 暗号化チャット: プライベートメッセージング
- Venmoライクな送金: 暗号資産の送受信・リクエスト
- 決済機能: 日常的な支払いに対応
規制と課題
各国での規制・調査
World/Worldcoinは、複数の国で規制や調査の対象となっています。
| 国・地域 | 状況 |
|---|---|
| ケニア | 2025年5月、収集した生体データの削除命令 |
| ドイツ | プライバシー調査 |
| スペイン | データ保護当局による調査 |
| ポルトガル | 調査中 |
| ブラジル | 調査中 |
| 香港 | 制限措置 |
| インド | 調査中 |
| 韓国 | 調査中 |
| コロンビア | 調査中 |
特にケニアでは、初期の大規模な登録活動の後、生体データの削除を命じられるという事態に発展しました。
セキュリティ上の懸念
Forresterの分析によると、虹彩スキャンには以下の課題があります。
指摘されている懸念:
- プレゼンテーション攻撃: 写真やコンタクトレンズを使った偽装の可能性
- 過去の事例: 2016年、Galaxy Note 7の虹彩スキャナーが1年以内にハッキングされた
- Orb Mini: 個人デバイスとして普及した場合、同様の脆弱性が懸念される
プライバシーへの批判
批判的な見解:
- 虹彩という究極の生体情報を収集することへの懸念
- 「削除する」と言っているが検証が困難
- 新興国での登録活動が「搾取的」との指摘
- 暗号資産(WLDトークン)との結びつきへの疑問
World IDの活用シナリオ
期待される用途
1. SNS・オンラインプラットフォーム
- ボットアカウントの排除
- フェイクアカウントによる情報操作防止
- 健全なコミュニティ形成
2. Eコマース・チケット販売
- 転売ボットの排除
- 1人1購入の保証
- 公平な購入機会の提供
3. オンライン投票・調査
- 1人1票の保証
- 重複投票の防止
- 信頼性の高い意見収集
4. 金融・行政サービス
- 本人確認の効率化
- デジタルIDとしての活用
- 金融包摂(銀行口座を持てない人へのアクセス提供)
企業での検討ポイント
企業がWorld IDの導入を検討する際は、以下の点を考慮する必要があります。
導入のメリット:
- ボット・不正アカウントの排除
- ユーザー認証の強化
- AI時代の「人間性」保証
考慮すべきリスク:
- 規制環境の不確実性(複数国で調査中)
- ユーザーの生体認証への抵抗感
- 技術的な脆弱性の可能性
- 暗号資産との結びつきに対する懸念
当時と現在:Worldの進化
本記事の元となった情報と比較して、Worldは大きく進化しています。
当時(2024年後半):
- Worldcoinとして展開
- 限られた国での稼働
- 機能はID認証に限定
現在(2026年1月):
- 「World」にリブランド
- 米国本格ローンチ(7,500 Orb目標)
- 3,300万ユーザー、1,750万人認証済み
- Visa、Match Group、Razerと提携
- スーパーアプリ化(チャット、決済)
- Orb Mini(2026年)発表
- 複数国で規制・調査
Sam Altman氏は、OpenAI(AI)とWorld(人間証明)という「二重インフラ」を構築することで、AI時代のガバナンスを形作ろうとしているとも言われています。
まとめ
Worldは、AI時代における「人間であることの証明」という課題に取り組む野心的なプロジェクトです。
本記事のポイント:
- 虹彩スキャン「Orb」で人間であることを証明
- 3,300万ユーザー、1,750万人が認証済み
- 2025年5月に米国ローンチ、7,500 Orb展開予定
- Visa、Match Group、Razerと提携
- スーパーアプリ化(チャット、送金、決済)
- 複数国で規制・調査(ケニアはデータ削除命令)
- Orb Miniが2026年登場予定
AIとボットが氾濫するオンライン環境において、「人間であること」を証明するニーズは確実に存在します。しかし、虹彩という究極の生体情報を使うアプローチには、プライバシーや規制面での課題も多く、その普及は一筋縄ではいきません。Worldの今後の展開と、各国の規制対応に注目が集まります。
