ナレッジマネジメントとは?初心者向け完全入門ガイド【2026年版】
こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
「ナレッジマネジメント」という言葉、最近よく耳にするようになったけれど、具体的に何をすればいいのかわからない——そんな方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ナレッジマネジメントの基本概念から、2026年最新のAI活用トレンドまで、初心者の方にもわかりやすく解説します。読み終わる頃には、自社で何から始めればいいのか、具体的なイメージが持てるようになるはずです。
ナレッジマネジメントとは
一言でいうと「知識の経営」
ナレッジマネジメント(Knowledge Management、略称KM)とは、企業や組織が持つ知識・経験・ノウハウを体系的に収集・整理・共有し、業務に活用する経営手法のことです。
日本語では「知識管理」や「知識経営」とも訳されますが、単なる情報管理とは異なります。ポイントは、個人の頭の中にある「暗黙知」を、組織全体で共有できる「形式知」に変換し、新たな価値を生み出すという点にあります。
なぜ今、注目されているのか
ナレッジマネジメントが改めて注目されている背景には、いくつかの社会的変化があります。
| 背景 | 課題 |
|---|---|
| 少子高齢化・労働力不足 | ベテラン社員の退職による知識流出リスク |
| 働き方改革・リモートワーク | 「隣の席で聞く」ができなくなった |
| DX推進 | システムは入れたが、使いこなすノウハウが共有されない |
| AI・生成AIの普及 | 社内情報をAIに活用させたいが、整理されていない |
インゲージ社の2026年調査によれば、「AIが社内データから必要な情報を瞬時に発見・要約する仕組み」に対し、約6割の企業が生産性向上を確信しているという結果が出ています。しかし、その前提となる「ナレッジの整備」ができている企業は少数派なのが現状です。
SECIモデル:ナレッジマネジメントの基本フレームワーク
野中郁次郎教授が提唱した世界標準の理論
ナレッジマネジメントを語る上で欠かせないのが、SECI(セキ)モデルです。
これは、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が1995年の著書『知識創造企業』で提唱したフレームワークで、世界10カ国語以上に翻訳され、ナレッジマネジメントの基礎理論として広く知られています。野中氏は2002年に紫綬褒章を受章、2013年にはThinkers50(経営思想家ランキング)の生涯功労賞を受賞しており、まさにこの分野の世界的権威です。
暗黙知と形式知の違い
SECIモデルを理解するには、まず「暗黙知」と「形式知」の違いを知る必要があります。
| 種類 | 定義 | 具体例 |
|---|---|---|
| 暗黙知 | 言語化が難しい、主観的で経験に基づく知識 | ベテランの勘、営業のコツ、職人の技 |
| 形式知 | 言語化・図式化された、客観的に理解できる知識 | マニュアル、手順書、FAQ、データベース |
たとえば、「お客様が怒っているときは、まず謝罪から入る」というのは形式知として言語化できます。しかし、「このお客様は今怒っているな」と瞬時に察知する能力は、経験から培われた暗黙知です。
SECIモデルの4つのプロセス
SECIモデルは、暗黙知と形式知が相互に変換されながら、組織の知識が創造・共有されていくプロセスを4段階で説明しています。
1. 共同化(Socialization):暗黙知 → 暗黙知
経験を共有することで、暗黙知を伝達するプロセスです。
OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)、師弟関係、同行営業などが該当します。言葉で説明しなくても、一緒に行動することで「なんとなくわかる」状態を作ります。
例:新人営業が先輩に同行し、商談の雰囲気や間の取り方を体感する
2. 表出化(Externalization):暗黙知 → 形式知
暗黙知を言葉やモデルで表現するプロセスです。
野中氏はこれを「知識創造の真髄」と呼んでいます。ベテランの頭の中にあるノウハウを、マニュアルやチェックリスト、図解などの形で「見える化」します。
例:トップ営業の商談術を言語化し、営業マニュアルを作成する
3. 連結化(Combination):形式知 → 形式知
複数の形式知を組み合わせて、新たな形式知を創出するプロセスです。
各部署のマニュアルを統合したり、顧客データと市場データを組み合わせてレポートを作成したりする活動が該当します。
例:営業部門のFAQと技術部門のFAQを統合し、全社ナレッジベースを構築する
4. 内面化(Internalization):形式知 → 暗黙知
形式知を実践を通じて自分のものにするプロセスです。
マニュアルを読むだけでなく、実際にやってみて「わかった」状態になることです。これにより、また新たな暗黙知が生まれ、サイクルが続いていきます。
例:営業マニュアルを読んで商談に臨み、自分なりのスタイルを確立する
ナレッジマネジメント導入のメリット・デメリット
5つの主なメリット
1. 業務効率の大幅向上
ソニービズネットワークスの2025年調査によると、情報システム部門の84.3%が「戦略的業務の時間が不足している」と回答しています。その原因の一つが、繰り返される同じ問い合わせ対応です。週1回以上、過去に回答した内容と同じ問い合わせを受けている担当者は7割以上に上ります。
ナレッジマネジメントを導入すれば、よくある質問はFAQやチャットボットで自己解決でき、担当者は本来の業務に集中できるようになります。
2. 人材流出リスクへの対策
ベテラン社員が持つ暗黙知を形式知に変換しておけば、退職や異動があっても組織に知識が残ります。これは、少子高齢化で労働力が減少する日本企業にとって、経営上の重要なリスクヘッジになります。
3. 人材育成の加速
新入社員や異動者が、必要な情報にすぐアクセスできる環境があれば、立ち上がりが早くなります。帝人株式会社では、チャットボットに社内情報を集約した結果、**社員の82.5%が「疑問を自己解決でき業務効率が向上した」**と回答しています。
4. イノベーションの促進
部門を超えた知識の連結化により、新しいアイデアが生まれやすくなります。花王では、サポートデスクに寄せられた顧客の声をデータベース化し、商品開発部門が参照できるようにした結果、「キュキュット クリア泡スプレー」などのメガヒット商品を生み出しました。
5. 意思決定の質向上
過去の事例やデータに基づいた判断ができるようになり、経験則だけに頼らない意思決定が可能になります。
3つの注意すべきデメリット
1. 導入・運用コストがかかる
システム導入費用だけでなく、ナレッジを整備する人的コストも必要です。特に初期段階では、通常業務と並行してナレッジを言語化する作業が発生するため、一時的に負荷が増えます。
2. 継続的な更新が必要
一度作ったナレッジベースは、放置すると「情報の墓場」になります。定期的な更新と品質管理の仕組みがないと、古い情報ばかりが残り、誰も参照しなくなります。
3. 文化的な抵抗がある
「自分のノウハウを共有したくない」という心理的抵抗がある社員もいます。キーエンスでは、人事評価にナレッジ共有を組み込むことでこの課題を解決しました。
成功事例に学ぶ3つのポイント
ポイント1:インセンティブ設計(キーエンス)
営業部門はナレッジ共有が難しいとされていますが、キーエンスは「人事評価5:ナレッジ共有5」という評価基準を設けることで、共有のモチベーションを高めました。制度設計で行動を変える好例です。
ポイント2:相談窓口の一元化(富士フイルムビジネスイノベーション)
「何でも相談センター」を設置し、社員からの問い合わせを一元的に受け付けています。回答はたらい回しにせず、必ずダイレクトに返答。これにより蓄積されたナレッジが全社で活用され、日本一のナレッジマネジメント導入率とも言われています。
ポイント3:顧客の声を製品開発に連結(花王)
サポートデスクに寄せられた顧客の声をデータベース化し、商品開発部門がいつでも参照できるようにしました。部門間の「連結化」を実現し、顧客ニーズに基づいた製品開発につなげています。
2026年のトレンド:AIが変えるナレッジマネジメント
市場規模の爆発的成長
AI駆動型ナレッジマネジメント市場は急成長しています。
| 年 | 市場規模 |
|---|---|
| 2024年 | 52.3億ドル |
| 2025年 | 77.1億ドル(成長率47.2%) |
| 2029年(予測) | 358.3億ドル |
| 2034年(予測) | 2,512億ドル |
2026年までに80%の企業が生成AIを導入予定とされており(2023年は5%未満)、ナレッジマネジメントとAIの融合は避けられない流れです。
注目技術:RAG(検索拡張生成)
RAG(Retrieval-Augmented Generation)とは、AIが回答を生成する際に、外部のデータベースから関連情報を検索して参照する技術です。
従来のAIは学習データに基づいて回答するため、社内固有の情報には対応できませんでした。RAGを使えば、社内マニュアルや過去の議事録などを参照して、正確な回答を生成できます。
RAGの主なメリットは以下の通りです。
- ハルシネーション(誤情報生成)の抑制:外部データを参照するため、「もっともらしい嘘」を減らせる
- 社内情報の活用:公開されていない社内データもAIに活用させられる
- コスト削減:AIモデル自体を再学習する必要がないため、運用コストを抑えられる
- 透明性の向上:回答の根拠(参照元)を明示できる
2026年のKMトレンド5選
Glitter AI社やKMWorld誌の分析によると、2026年のナレッジマネジメントでは以下のトレンドが注目されています。
- 生成AI検索の普及:ドキュメントのリストではなく、直接回答+引用を提示
- 自動コンテンツ更新:AIが古い情報を検出し、更新を提案
- マルチモーダル対応:テキストだけでなく、画像・動画・音声での情報提供
- ナレッジ分析の高度化:検索ログから知識ギャップを可視化
- AIエージェントの本格導入:単なる検索から、行動まで自動化
始め方ステップバイステップ
ステップ1:現状の課題を可視化する
まずは、自社でどのような「知識の課題」があるかを洗い出します。
- 社内で繰り返し聞かれる質問は何か
- 特定の人しか知らない業務はないか
- 退職者が出たときに困った経験はないか
- 情報を探すのにどれくらい時間がかかっているか
ステップ2:スモールスタートで始める
いきなり全社展開するのではなく、特定の部門・特定のテーマから始めるのがおすすめです。
たとえば、「情報システム部門のよくある問い合わせをFAQ化する」「営業部門の提案書テンプレートを整備する」など、効果が見えやすい領域から着手します。
ステップ3:「場」を設計する
SECIモデルで重要視されているのが「場」の設計です。ナレッジが共有・創造される場所や機会を意識的に作ります。
- 定例の情報共有会議
- 社内Wikiやナレッジベース
- チャットツールの専用チャンネル
- 勉強会・ワークショップ
ステップ4:継続の仕組みを作る
ナレッジマネジメントは一度やって終わりではありません。継続的に更新・活用される仕組みが必要です。
- 更新担当者の明確化
- 定期的なレビュー(月1回など)
- 活用度の測定(検索数、閲覧数など)
- 成果の共有と表彰
ステップ5:AIツールを活用する
2026年現在、ナレッジマネジメントを支援するAIツールは多数存在します。自社の規模や課題に合ったツールを選定し、段階的に導入していくことをおすすめします。
私たちTIMEWELLが提供するZEROCKは、graphRAG技術を活用し、社内に散在する情報を意味的につなぎ合わせ、自然言語で問いかけるだけで必要な情報を見つけ出せるエンタープライズAIです。AWSの国内サーバーで運用しており、セキュリティ面でも安心してご利用いただけます。
まとめ
ナレッジマネジメントについて、重要なポイントを整理します。
- ナレッジマネジメントとは、企業の知識・経験・ノウハウを体系的に管理し、業務に活用する経営手法
- SECIモデルは、共同化→表出化→連結化→内面化の4プロセスで知識を創造するフレームワーク
- 暗黙知を形式知に変換し、組織全体で共有することが本質
- 2026年はAI・生成AIとの融合が加速し、市場規模は急成長中
- スモールスタートで始め、継続の仕組みを作ることが成功の鍵
ナレッジマネジメントは、一朝一夕で成果が出るものではありません。しかし、着実に取り組むことで、業務効率の向上、人材育成の加速、イノベーションの促進といった成果が期待できます。
まずは、自社で繰り返し聞かれる質問を3つ挙げることから始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献
- 野中郁次郎, 竹内弘高『知識創造企業』(東洋経済新報社, 1996年)
- インゲージ「2026年に注力したいIT投資調査」(2026年1月)
- ソニービズネットワークス「情シスの社内問い合わせ対応に関する調査」(2025年8月)
- Glitter AI「AI for Knowledge Management: 2026 Trends & Applications」
- KMWorld「Leaders predict AI to continue permeating all aspects of KM in 2026」
- XWiki「Top knowledge management trends for 2026」
