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なぜ良い商品が売れないのか?「物語から始める」逆転の発想

2026-02-03濱本隆太
ナラティブマーケティングスタートアップ認知獲得yutoriHANA共感マーケティングZ世代

yutori、HANA、サカナクション山口一郎——2024〜2025年にブレイクした事例に共通する「物語の力」を徹底解説。スタートアップが認知を獲得するために必要な、テクノロジーではなく文脈から始めるマーケティング戦略。

なぜ良い商品が売れないのか?「物語から始める」逆転の発想
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株式会社TIMEWELLの濱本です。

今回は「なぜ良い商品を作っても売れないのか」というテーマについて、2024〜2025年に大ブレイクした事例を交えながら、テクノロジーや機能からではなく、物語・文脈から始めるという逆転の発想について解説します。

この記事の要点

  • 「商品→宣伝」は古い。「文脈→商品」が最短の勝ち筋
  • HANA、サカナクション——2024〜2025年のヒットは全て「物語への共感」が起点
  • yutoriは「SNSでバズる文脈」を先に設計してから商品を作る
  • スタートアップは「知られていない」が最大の敵。量×物語で認知を突破せよ

2024〜2025年、ヒットの裏にある「物語」

No No Girls / HANAの爆発的ブレイク

2025年、音楽シーンで最も話題をさらったのが、オーディション番組『No No Girls』から誕生した7人組ガールズグループHANAです。

デビューシングル『ROSE』はBillboard JAPAN HOT 100で初登場1位。オリコン週間ストリーミングランキングでは初週再生数1,163万回を記録し、女性アーティストの年間最高記録を更新しました。さらに5曲がストリーミング累計再生回数1億回を突破し、国内女性ダンス&ボーカルグループとしては史上初の偉業を達成。第67回日本レコード大賞で最優秀新人賞を受賞し、紅白歌合戦にも初出場を果たしました。

なぜデビュー1年目でここまで爆発的にヒットしたのか?

答えは**「オーディション過程で共有された物語」**です。

「3つのNo」——苦悩と成長を見せ続けたオーディション

『No No Girls』は、BMSGとプロデューサー・ちゃんみながタッグを組んだオーディション番組です。ちゃんみな自身、見た目や声に対して「No」をつきつけられ、ガールズグループを志すもデビューが叶わなかった過去があります。

だからこそ、彼女が掲げた審査基準は「3つのNo」でした。

審査基準 意味
No FAKE 本物であれ(自己表現)
No LAZE 誰よりも一生懸命であれ(自己理解)
No HATE 自分に中指を立てるな(自己肯定)

オーディションでは、参加者たちが自分自身や他者からの「No」と対峙し、乗り越えていく姿が赤裸々に公開されました。練習の合間に感じた不安、審査員からの厳しい評価、合格発表を待つ緊張の瞬間——メンバーそれぞれの悩みや努力が、視聴者の目の前で繰り広げられたのです。

ドキュメンタリー番組『No No Girls THE MEMORY』では、「なぜあの涙を流したのか」「どんな壁を乗り越えたのか」というデビューを掴むまでの知られざるストーリーが明かされています。

デビュー前からKアリーナを埋めるファンが集まっていた

2025年1月11日、最終審査『No No Girls THE FINAL』はKアリーナ横浜で開催されました。チケット応募総数は5万人を突破し、一般チケットは3分で完売。YouTube同時接続数は驚異の56万人以上を記録し、Xで「#ノノガファイナル」がトレンド1位を獲得しました。

デビューした瞬間から、すでに約2万人のファンがKアリーナを埋め尽くしていたのです。

これは、オーディション過程を通じて「この子たちを応援したい」という感情がファンの中に醸成されていたからこそ起こった現象です。ファンは「HONEYs」と呼ばれ、SNSでの積極的なシェアやコミュニティ活動を通じて、HANAの認知をさらに広げていきました。

プロデューサーのちゃんみなは紅白出場について、こう語っています。

「HANAを立ち上げて進めていく中で、ロードマップを作ってデビュー前に共有していた。『紅白』は目標としていた場所でしたが、ロードマップとしては思ったより早く出られた

これは単なる「歌がうまいグループ」では起こりえない現象です。物語への共感が、マーケティングの常識を覆すレベルの熱狂を生み出したのです。


サカナクション山口一郎——「うつ病からの復活」という物語

2024〜2025年、音楽シーンでもう一つ大きな話題となったのが、サカナクションの復活です。

ボーカルの山口一郎さんは2022年から体調不良でライブ活動を休止。2024年1月、ソロライブツアーの千秋楽でうつ病であることを公表しました。

「僕が患った病気は"うつ病"です。苦しくてあがいていました、この2年間。…しんどかった」

YouTubeで見せ続けた「闘いの日々」

山口さんは療養中、YouTubeでの定期的なライブ配信をスタートしました。

最初は視聴者数百人程度の小さな配信でした。しかし、うつ病と向き合い続ける自身の姿を赤裸々に見せ続けることで、徐々にファンとの絆が深まっていきました。

NHKスペシャル「山口一郎 "うつ"と生きる」では、彼の闘病と復活の軌跡が3度にわたって放送されました。

「うつ病を抱えている自分だからこそ、新しい音楽世界を作れるはず」

その決意のもと、2年の構想を経て生まれたのが新曲**「怪獣」**です。

新曲「怪獣」——13万人が見守った復活の瞬間

2025年2月19日、山口さんは「怪獣」リリース記念のYouTubeライブ配信を行いました。

かつて数百人だった視聴者は、この日13万人以上の同時接続を記録。日付が変わり楽曲配信が開始された瞬間、リスナーと共にリリースを祝い、生歌が初披露されました。

「怪獣」は各チャートでロングヒットを記録し、サカナクション史上最速で累計再生数1億回を突破。最終的には3.2億回を超え、歴代最高記録を樹立しました。

サカナクションは12年ぶりに紅白歌合戦に出場。山口さんはこうコメントしています。

「紅白歌合戦のステージでは"うつ"という同じ病気で苦しんでいる人たちだったり、病気ではなくても今本当に苦しんでいる人たちに対して、サカナクションの音楽を少しでもお届けできたらと思っています」

「怪獣」がここまでヒットしたのは、単に楽曲のクオリティが高いからではありません。YouTubeを通じて共有された、山口さんの苦しみと復活の物語が、多くの人の心に深く響いたからです。


yutoriの逆転の発想——「文脈→商品」のビジネスモデル

アパレル企業として史上最短上場

ここまでエンタメの事例を見てきましたが、ビジネスの世界でも同じ法則が成り立ちます。

2023年12月、yutoriが東証グロース市場に上場しました。創業からわずか5年8ヶ月、国内アパレル企業の経営者としては最年少かつ史上最短でのIPOです。

売上高は2020年3月期の約1.41億円から、2025年3月期には83.06億円へ。わずか5年で売上規模は約60倍に拡大しました。

「SNSで語られる文脈」を先に設計する

yutoriの代表・片石貴展氏の戦略は、多くの企業とは真逆です。

通常の企業は「まず商品を作り、その後にどう宣伝するか考える」というプロセスを踏みます。

しかしyutoriは違います。

  1. SNSで今、何が語られているか?
  2. どんなシーンが若者の心を動かすか?

というSNS上の文脈を先に特定し、その文脈にピタリとはまるピースとして商品を開発しています。

なぜ「文脈先行」が強いのか

今の時代、消費者は**「機能」ではなく「物語(シーン)」**にお金を払います。

アプローチ 結果
便益訴求 「この服は生地が良い」 バズらない
文脈訴求 「この服を着て、元カレを見返してやった」 爆発的に拡散

yutoriは、SNSで**シェアしたくなる「言い訳」や「物語」**を商品そのものに組み込んでいます。

圧倒的物量から「正解」を出す

yutoriのもう一つの強みは、データドリブンな量産体制です。

指標 数値
月間動画制作本数 446本
うち広告動画本数 238本
CTR 3.5%以上の高効率動画 84本

このプロセスは以下の4ステップで回っています。

  1. Post(投稿):質より量。仮説に基づき大量に投稿
  2. Data(数値):再生数、保存数、CTRを徹底検証
  3. Decide(判断):データの良い「当たりの型」だけを選別
  4. Amplify(増幅):当たった動画にだけ広告費をブースト

この**「負けない戦い方」**が、yutoriを単なる「バズった会社」ではなく「上場企業」へと押し上げた理由の一つです。

三層構造のアカウント戦略

yutoriはアカウント運用も独特です。

役割
ブランド公式アカウント 世界観の構築、カタログ機能
社内運用個人アカウント スタッフの顔が見えることで情緒的つながりを強化
インフルエンサーアカウント 外部の権威性とリーチ力を活用

この3方向からユーザーにアプローチすることで、**ザイオンス効果(単純接触効果)**が最大化されます。

特に強力なのが**「代表者の個人アカウント」**です。

ブランド公式が「買ってください」と言えば広告になりますが、代表者が「このボタンのミリ単位のこだわりで3回作り直した」と語れば、それは**「応援したくなる物語」**になります。


スタートアップにとっての「物語」の重要性

最大の敵は「知られていない」こと

スタートアップにとって最大の課題は、認知がないことです。

どんなに素晴らしいプロダクトを作っても、誰にも知られていなければ売れません。予算が限られ、時間がなく、人手も少ない。そんな中で、どうやって認知を獲得するか?

答えは**「量×物語」**です。

量:まず打席に立つ回数を増やす

yutoriの事例が示すように、まずは量を出すことが重要です。

完璧な1本を作ろうとして何も出さないより、60点でも100本出した方が「当たり」を見つけられる確率は高い。そして、当たったものだけを増幅させる。

山口一郎さんも、最初は数百人の視聴者から始めて、定期的にYouTubeで発信し続けることで、最終的には13万人同時接続を達成しました。継続的な発信が、認知の突破口になります。

スタートアップにおけるストーリーとは、**「社会の認知と目指すべきビジョンのギャップを埋める物語」**です。

そのストーリーを見つけるためにも、まずは量を出して市場の反応を見る必要があります。

物語:共感を呼ぶナラティブを構築する

Z世代の購買行動においては、**「機能面よりも情緒面を重視して購買を行う」**傾向があります。

「よいと思ったものにはプレミアム価格をいとわない」

これは逆に言えば、物語がなければ選ばれないということです。

HANAの事例が示すように、オーディションの過程で苦悩や努力を見せ続けることで、デビュー前からファンコミュニティが形成されていました。ファンは単なる「消費者」ではなく、物語の共同体験者になっていたのです。

ナラティブマーケティングの特徴は、企業の商品・サービスに対して、ユーザー自身が興味や意見を持つことで高い愛着を持ち、周囲に働きかけることです。

つまり、顧客を物語の主人公にする。そうすることで、広告費をかけなくても、顧客自身がブランドを広めてくれるようになります。


TIMEWELLの実践——物語から始めるアプローチ

私たちTIMEWELLも、この「物語から始める」アプローチを実践しています。

ZEROCKの物語

私たちのAIエージェント「ZEROCK」は、単なる「便利なAIツール」ではありません。

「企業の中に眠っている知識を、誰でもアクセスできるようにする」

という物語を持っています。新入社員が、ベテラン社員の30年分の知識に瞬時にアクセスできる。それは**「知識の民主化」**という大きな物語の一部です。

ZEROCK Ex-CHECKの物語

輸出管理AIエージェント「ZEROCK Ex-CHECK」は、**「研究者の時間を取り戻す」**という物語を持っています。

年間1,000時間をコンプライアンス業務に費やしている研究者が、本来の研究に時間を使えるようになる。それは**「科学技術の発展」**という大きな物語につながっています。

TIMEWELL BASEの物語

コミュニティプラットフォーム「TIMEWELL BASE」は、**「挑戦者を応援する」**という物語を持っています。

イベント主催者が、簡単にファンコミュニティを構築できる。それは**「挑戦のハードルを下げる」**という大きな物語の一部です。


まとめ——テクノロジーではなく、物語から始めよう

2024〜2025年のヒット事例を振り返ると、全てに共通するのは**「物語への共感」**が起点になっていることです。

事例 物語 成果
HANA ルッキズムを超えて、自分らしく生きる デビュー前からKアリーナ2万人、紅白出場
サカナクション うつ病を乗り越えて、再び歌う 数百人→13万人同時接続、3.2億回再生
yutori 若者の「今」を切り取り、文脈を作る 5年で売上60倍、最短上場

スタートアップにとって重要なのは、「良いプロダクトを作ること」だけではありません

**「なぜそのプロダクトを作るのか」**という物語を、量を出しながら発信し続けること。そして、その物語に共感してくれる人を見つけ、その人たちと一緒に物語を紡いでいくこと。

テクノロジーや機能の競争は、いずれコモディティ化します。しかし、物語は模倣できません

あなたの会社には、どんな物語がありますか?


参考文献

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