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ハスラー・ハッカー・ヒップスター時代の終焉|2026年、スタートアップに必要なのは「売れるエンジニア」だけかもしれない

2026-02-04濱本 隆太
スタートアップAIClaude Codeエンジニア組織論働き方ナラティブ

スタートアップの定説「ハスラー・ハッカー・ヒップスター」の3人体制。しかし2026年、AIの進化でこの常識が覆りつつある。ハッカーとヒップスターはAIに任せ、ハスラーの能力を持つ人材だけが生き残る時代が来ている。

ハスラー・ハッカー・ヒップスター時代の終焉|2026年、スタートアップに必要なのは「売れるエンジニア」だけかもしれない
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株式会社TIMEWELLの濱本です。

「スタートアップを始めるなら、ハスラー・ハッカー・ヒップスターの3人を揃えろ」——これは長らくスタートアップ界隈の定説でした。

しかし2026年、この常識が根本から覆りつつあります。

結論から言うと、ハッカー(エンジニア)とヒップスター(デザイナー)の役割は、AIに任せた方が高品質なものができる時代になってきています。 一方で、ハスラー(営業・ビジネス開発)だけは、まだ人間が担うべき領域として残っています。

この記事では、なぜこのような変化が起きているのか、そしてエンジニアやデザイナーが生き残るために何が必要なのかを考察します。

ハスラー・ハッカー・ヒップスターとは

まず、この「3H」モデルをおさらいしましょう。

AKQAのCTO、レイ・イナモト氏が提唱したこのフレームワークでは、スタートアップの創業チームに必要な3つの役割を定義しています。

役割 担当領域 典型的な人物像
Hacker(ハッカー) 技術・開発 アルゴリズムを設計し、プロダクトを構築する
Hipster(ヒップスター) デザイン・UX ブランドとユーザー体験を設計する
Hustler(ハスラー) 営業・事業開発 投資家・顧客・メディアに売り込む

イナモト氏の言葉を借りれば、「効率的なチームを運営するには、ヒップスター、ハッカー、ハスラーの3人だけでいい」。

この3者が揃えば、技術でプロダクトを作り、デザインで磨き上げ、営業で売る——完璧なサイクルが回るというわけです。

なぜハスラーだけは「人間」が必要なのか

ここで重要な問いがあります。なぜハスラーの役割だけは、まだAIに置き換えられないのでしょうか?

信頼は「人」に紐づく

B2B営業、特に大企業との取引において、最終的な決裁を動かすのは「その人への信頼」です。

Crunchbaseの調査によると、AIは営業の生産性を向上させる一方で、非人間的で誤りの多いアウトローチが信頼を損なっているという指摘があります。消費者の40%しか生成AIの出力を信頼しておらず、5人中4人はAIが書いたコンテンツを正確に見抜けるというデータも。

McKinseyのB2B Pulse Surveyでも、生成AIを全社的に導入できている企業はわずか21%。理由の一つとして、「AIの出力を人間がダブルチェックする必要があり、効率化の効果が相殺される」ことが挙げられています。

複雑なB2B取引は「関係性」で決まる

特に日本の大企業相手の営業では、以下のような場面が頻繁に発生します。

  • 「この案件、○○さんが推してくれているから通った」
  • 「前回の飲み会で話した件、ちょっと進めてみようか」
  • 「あの会社の△△さんなら、信頼できるから任せよう」

こうした「関係性のモート(堀)」は、AIでは構築できません。

BCGの分析でも、「大規模な戦略アカウントでは、人間の関与が不可欠」とされています。AIはアカウントプランニングや取引管理を支援できますが、最終的な信頼構築と意思決定は人間の領域です。

シーメンスのCIOハンナ・ヘニッヒ氏も「人間が常に重要な意思決定を下す。AIは私たちの意識的な相互作用に依存し、信頼と倫理に根ざしていなければ機能しない」と述べています。

「売れる人」が最強である理由——ストーリーを作れる人材

ここで、私が考える**「売れる人」が最強である本質的な理由**をお伝えします。

それは、**「ストーリーを作れること」**です。

物語が人を動かす

優れたハスラーは、単に製品の機能を説明するだけではありません。なぜその製品が存在するのか、誰のためのものなのか、使うとどんな未来が待っているのか——これを物語として語れる人です。

yutori社の片石貴展氏、HANA社の木村愛氏、サカナクション山口一郎氏——彼らに共通するのは、自分自身の経験や想いを物語として紡ぎ、人の心を動かす力を持っていることです。

関連記事で詳しく解説していますが、今の時代、マーケティングにおいて最も重要なのは「ナラティブ(物語)」です。

👉 ナラティブファーストの時代|yutori片石・HANA木村・サカナクション山口一郎から学ぶ「物語で売る」戦略

スキルより「語れること」が価値になる

AIがコードを書き、デザインを生成できる時代に、差別化の源泉は**「技術力」ではなく「語る力」**に移行しています。

  • なぜこのプロダクトを作ったのか?
  • どんな課題を解決したいのか?
  • 自分はどんな経験からこの問題に取り組んでいるのか?

これらを自分の言葉で語れる人——それが「売れる人」です。

そして、この「語る力」は、AIには代替できません。なぜなら、物語はその人固有の経験と想いから生まれるものだからです。

ハッカーとヒップスターは「AI+人間6割」の時代へ

一方、エンジニアリングとデザインの領域では、劇的な変化が起きています。

Claude Codeが変えたソフトウェア開発

2025年末、Anthropicが公開したClaude Codeは、ソフトウェア開発の常識を覆しました。

GeekWireの報道によると、シアトルで開催されたClaude Codeのミートアップには150人以上のエンジニアが詰めかけ、活用事例を共有し合いました。「ソフトウェア開発の新時代」と呼ばれる所以です。

具体的な事例として:

  • GoogleのJaana Dogan氏は、分散エージェントオーケストレーションシステムを60分で構築。これは2024年中ずっとイテレーションを続けていた問題でした。
  • TELUSは13,000以上のカスタムAIソリューションを作成し、エンジニアリングコードの出荷速度を30%向上、合計50万時間以上を節約。
  • Zapierは全社で89%のAI導入率を達成し、800以上のエージェントを内部展開。

Claude Codeは2025年7月時点で、週195百万行のコードを処理し、11.5万人の開発者が利用。年間換算で10億ドルのビジネスに成長しています。

デザインも「バイブコーディング」の時代

デザイン領域でも、同様の変化が起きています。

Figmaは2025年5月に「Figma Make」を発表。**バイブコーディング(Vibe Coding)**と呼ばれる手法で、自然言語の説明からアプリやWebサイトのコードを自動生成します。

興味深いのは、一部のデザイナーがFigmaを離れてAIコーディングプラットフォームに移行している動きです。「まずFigmaでデザイン、次にコード」という従来のフローではなく、「最初からAIでプロトタイプを作る」というマインドセットへのシフトが起きています。

AI Shiftのデザイナーは「デザインと実装の境界をなくした」ことで、UIデザインの時間を「考える」に全振りできるようになったと報告しています。

「6〜7割の知識」があれば、AIが補完してくれる

では、エンジニアやデザイナーは完全に不要になるのでしょうか?

答えはNoです。しかし、求められるスキルセットは大きく変わります。

Anthropicの内部調査によると、2025年2月から8月にかけて、Claude利用の傾向が大きく変化しています。

用途 2025年2月 2025年8月
新機能の実装 14.3% 36.9%
コード設計・計画 1.0% 9.9%
タスク複雑度(1-5) 3.2 3.8

つまり、エンジニアはより複雑で創造的なタスクをAIに委譲するようになっています。

重要なのは、「俳優ではなく、監督になる」という発想の転換です。シニアエンジニアは自身の判断力を活かしてAIの出力をガイドする。「HOW(どうやるか)」を書くのではなく、「WHAT(何を作るか)」を表現する。

私の実感として、エンジニアリングやデザインの知識が6〜7割あれば、残りはAIが補完してくれる環境が整いつつあります。特にアーキテクチャの領域はしっかりとした知見が必要ですが、実装の大部分はAIでカバーできます。

2026年末、この状況は極まる

2026年は「ソフトウェアのコモディティ化が、AI愛好家のバブルを超えて一般に広がる年」と予測されています。

Claude自身が公開した「2026年のソフトウェア開発を定義する8つのトレンド」でも、AIによる開発の民主化が加速することが示唆されています。

では、エンジニアやデザイナーはどうすれば生き残れるのでしょうか?

エンジニア・デザイナーに求められる「ハスラーマインド」

ここで私の主張をはっきりさせておきます。

2026年以降、エンジニアやデザイナーに最も求められるのは、「AIを活用して超高品質なサービスを自ら主導して作り、売りに行くマインドセット」です。

技術力だけでは差別化できない

AIがコードを書き、デザインを生成できる時代に、「コードが書ける」「Figmaが使える」は差別化要因になりません。

重要なのは:

  1. 何を作るべきかを判断できる(プロダクトセンス)
  2. AIに的確な指示を出せる(ディレクション能力)
  3. 作ったものを売れる(ハスラー能力)
  4. なぜ作るのかを語れる(ナラティブ能力)

「作れる」×「売れる」×「語れる」人材が最強

考えてみてください。従来の3H モデルでは、3人が必要でした。

しかし今、ハッカー(6〜7割の知識+AI)ヒップスター(6〜7割の知識+AI) を一人で兼ねることが可能になっています。

そこにハスラーのマインドセットナラティブを紡ぐ力を加えれば、一人で3人分以上の役割を担えるようになります。

これは「一人で何でもやれ」という話ではありません。AIという最強のチームメイトを得たことで、人間が担うべき役割が「信頼構築」「意思決定」「物語を語ること」に集約されたということです。

まとめ:新しい3Hモデル

2026年以降のスタートアップに必要な人材像を、新しい「3H」として再定義してみましょう。

旧モデル 新モデル
Hacker(専任エンジニア) Human + AI Hacker(AIをディレクションできるエンジニア)
Hipster(専任デザイナー) Human + AI Hipster(AIをディレクションできるデザイナー)
Hustler(専任営業) Hustler + Storyteller(物語を語れる営業)

そして最も価値が高いのは、この3つの役割をAIと協働しながら一人で担い、自分自身の物語を持っている人材です。

エンジニアの皆さん、デザイナーの皆さん。

AIを恐れるのではなく、AIを武器にして、「売れる」側に回りましょう。そして、あなただけの物語を語れるようになりましょう

2026年末、この変化は確実に加速します。今から準備を始めた人だけが、新しい時代を主導できるのです。


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参考文献

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