graphRAGとは?従来のRAGとの違いと企業活用のポイント
はじめに:なぜ今graphRAGなのか
生成AI技術が急速に普及する中で、「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。ChatGPTやClaudeといった大規模言語モデル(LLM)を、自社のデータと組み合わせて活用するための技術として注目を集めています。
しかし、従来のRAGには課題がありました。単純なベクトル検索に依存するため、情報の「関連性」を十分に捉えきれないケースがあるのです。そこで登場したのがgraphRAGです。私たちTIMEWELLがZEROCKで採用しているこの技術は、情報同士の「つながり」を明示的に扱うことで、より精度の高い情報検索と回答生成を実現しています。
本記事では、graphRAGの仕組みを従来のRAGと比較しながら解説し、企業での具体的な活用ポイントをお伝えしていきます。技術的な内容も含まれますが、エンジニアでない方にもわかりやすいよう心がけていますので、ぜひ最後までお読みください。
従来のRAGの仕組みと限界
ベクトル検索とその課題
従来のRAG(以下、ベクトルRAGと呼びます)は、テキストデータを「ベクトル」と呼ばれる数値の列に変換し、質問と関連性の高いテキストを検索する仕組みです。たとえば、「顧客クレームの対応方法」という質問に対して、ベクトル空間上で距離の近いドキュメントを取得し、LLMに渡して回答を生成させます。
この方式は多くのケースで十分に機能しますが、いくつかの限界があります。まず、ベクトル検索は「意味的な類似性」に基づいていますが、それは必ずしも「関連性」と一致しません。たとえば、「A社の担当者は誰?」という質問に対して、「A社との取引履歴」というドキュメントが検索されても、担当者の名前が明記されていなければ回答できません。
チャンク分割の問題
もう一つの課題は、ドキュメントを分割(チャンク化)する際の情報損失です。ベクトルRAGでは、長いドキュメントを一定の長さ(たとえば500文字)ごとに分割し、それぞれをベクトル化します。しかし、この分割によって文脈が失われることがあります。
製品マニュアルを例に考えてみましょう。「第3章 トラブルシューティング」の内容を検索したい場合、チャンク分割によって「第3章」というヘッダーと本文が別々のチャンクになってしまうと、検索精度が下がります。さらに、「詳細は第5章を参照」といった相互参照も、チャンク間で断絶されてしまいます。
graphRAGの革新的アプローチ
ナレッジグラフとは
graphRAGの「graph」は、ナレッジグラフ(知識グラフ)を指しています。ナレッジグラフとは、情報を「エンティティ(実体)」と「リレーション(関係)」で構造化したデータモデルです。たとえば、「田中太郎」というエンティティと「A社」というエンティティを、「担当する」というリレーションで結びつけます。
このようにして構築されたグラフは、情報の「つながり」を明示的に保持します。「A社の担当者は誰?」という質問に対して、グラフを辿れば「田中太郎」という回答に到達できます。従来のベクトル検索では見つけにくかった関連情報も、グラフの構造を活用することで効率的に取得できるのです。
graphRAGの動作原理
graphRAGは、以下のようなプロセスで動作します。まず、社内ドキュメントやメール、チャットログなどのテキストデータから、エンティティとリレーションを抽出します。「契約書に署名した」という文からは、「契約書」というエンティティ、「署名する」というリレーション、そして署名者の情報を抽出します。
次に、抽出したエンティティとリレーションを使ってナレッジグラフを構築します。このグラフは、組織の知識を構造化した「知識の地図」のようなものです。質問が入力されると、まず質問から関連するエンティティを特定し、グラフを辿って関連情報を収集します。そして、収集した情報をLLMに渡し、回答を生成させます。
従来RAGとの決定的な違い
graphRAGと従来のベクトルRAGの最大の違いは、「多段階の推論」が可能になることです。「A社の担当者が以前在籍していた部署はどこ?」という質問を考えてみましょう。この質問に答えるには、まず「A社の担当者」を特定し、次にその人物の「以前の在籍部署」を探す必要があります。
ベクトルRAGでは、このような複数ステップの推論は困難です。質問全体とのベクトル類似度で検索するため、「A社」「担当者」「在籍部署」といった要素が一つのドキュメントに含まれていなければ、適切な情報を取得できません。一方、graphRAGでは、グラフ構造を辿ることで段階的に情報を収集し、複雑な質問にも対応できます。
企業でgraphRAGを活用する際のポイント
データの質がすべてを決める
graphRAGの精度は、元となるデータの質に大きく依存します。ゴミを入れればゴミが出てくる(Garbage In, Garbage Out)という原則は、ここでも当てはまります。私たちがZEROCKを導入支援する際にもっとも重視するのが、データクレンジングの工程です。
具体的には、重複ドキュメントの削除、古い情報の整理、不正確な情報の修正といった作業が必要になります。また、エンティティ抽出の精度を上げるために、業界特有の用語や社内用語を辞書として登録することも効果的です。ある製薬会社での導入事例では、薬剤名や化合物名の辞書を事前に整備したことで、検索精度が大幅に向上しました。
継続的な更新の仕組み化
graphRAGは、構築して終わりではありません。組織の知識は日々更新されるため、ナレッジグラフも継続的にメンテナンスする必要があります。新しいドキュメントが追加されたらエンティティを抽出し、既存のグラフに統合する仕組みを整えておくことが重要です。
ZEROCKでは、「AIナレッジ」という機能でこの課題に対応しています。チャットの結果やリサーチ結果をワンクリックで保存すると、自動的にナレッジグラフに反映される仕組みです。ユーザーの日常業務の中で自然とナレッジが蓄積されていくため、更新作業の負担を最小限に抑えることができます。
ユースケースの明確化
graphRAGは万能ではありません。すべての検索課題がgraphRAGで解決できるわけではなく、適切なユースケースを見極めることが成功の鍵です。graphRAGが特に威力を発揮するのは、以下のようなケースです。
複数の情報源を横断する必要がある質問、たとえば「プロジェクトXに関わったメンバーの現在の担当業務は?」といった問いには、graphRAGが効果的です。また、因果関係や時系列を追う必要がある質問、「この障害の根本原因は何?過去に類似事象はあった?」といった問いにも強みを発揮します。
一方で、単純なキーワード検索や、特定ドキュメントの内容確認といった用途では、従来のベクトルRAGで十分な場合も多いです。両者を組み合わせて使うことで、最適な検索体験を提供することが理想的です。
graphRAGの技術的課題と今後の展望
スケーラビリティへの挑戦
graphRAGには、まだ解決すべき技術的課題が残っています。その一つがスケーラビリティです。ナレッジグラフが大規模になると、グラフの探索に時間がかかり、レスポンスが遅くなる可能性があります。
この課題に対しては、グラフの階層化やキャッシュの活用といった工夫で対応しています。ZEROCKでは、よく使われる経路を学習してキャッシュすることで、頻出する質問への回答速度を維持しています。
マルチモーダル対応の進化
今後の展望として注目されるのが、マルチモーダル対応です。現在のgraphRAGは主にテキストデータを対象としていますが、画像、音声、動画といったマルチモーダルなデータを統合することで、さらに豊かなナレッジマネジメントが可能になります。
設計図面から部品情報を抽出したり、会議の録音から議論の要点と決定事項を構造化したり。このような発展が実現すれば、組織の知識資産をより包括的に管理できるようになるでしょう。
まとめ:構造化された知識が組織を強くする
graphRAGは、単なる技術的な進化ではありません。それは、組織の知識を「構造化する」という哲学の具現化です。バラバラに散在していた情報を、意味のあるつながりで結びつけることで、初めて「使える知識」になります。
私たちTIMEWELLは、graphRAG技術を社内情報検索AIであるZEROCKに実装し、多くの企業の課題解決を支援してきました。検索時間を30分から10秒に短縮し、属人化していたノウハウを組織知に変換する。そんな変革を、ぜひ皆様の組織でも体験していただきたいと思います。
次回の記事では、実際にZEROCKを導入して検索時間を80%削減した企業の事例をご紹介します。