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インド輸出の新たな羅針盤 ── 複雑化する規制の海を渡る

2026-02-26濱本 隆太

インド向け輸出で日本企業が直面する3つの規制の柱を解説。BIS強制認証の急拡大、CERT-Inの6時間報告義務、中国包囲網による輸入規制まで、実態と対策を網羅的に整理。

インド輸出の新たな羅針盤 ── 複雑化する規制の海を渡る
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株式会社TIMEWELLの濱本です。今日はインドへの輸出をテーマに、ビジネスの現場で必須となる規制関連の情報をお届けします。

インドは「メーク・イン・インディア」政策のもと、多くの日本企業にとって魅力的な市場です。その一方で、近年インド政府は自国産業の保護・育成を目的に輸入規制を急速に強化しており、日本からの輸出において大きなハードルとなっています。インド独自の強制認証「BIS認証」の対象品目急増、サイバーセキュリティ規制の新設、そして中国を念頭に置いた輸入制限や投資規制の強化が顕著です。

この記事では、インド向け輸出で特に重要な3つの規制の柱について、その実態と対策を整理します。

1. インド輸出の巨大な壁「BIS強制認証制度」の実態

インドへの輸出で避けては通れないのが、BIS(Bureau of Indian Standards、インド標準規格局)の強制認証制度です。製品の品質・安全性確保を目的とした制度ですが、その厳格化と対象拡大が、事実上の非関税障壁として多くの輸出企業の前に立ちはだかっています。

「メーク・イン・インディア」を加速させる飴と鞭

BIS認証制度の強化の背景には、モディ政権が推進する製造業振興政策「メーク・イン・インディア」があります。インド政府は、国内製造業の競争力を高め、輸入依存から脱却するために、一方ではPLIスキーム(生産連動型優遇策)のような補助金という「飴」を提供し、もう一方ではBIS認証の厳格化という「鞭」を戦略的に用いています。

海外からの輸入品に対して厳しい基準を課すことで、国内での生産を促す。これがインド政府の狙いです。海外にのみ工場を持つ企業がBIS認証を取得するためのコストは、インド国内に生産拠点を持つ企業よりも大幅に高くなる傾向にあり、多くの海外企業がインドでの現地生産への切り替えを迫られています。

急拡大する強制認証の対象品目

この「鞭」の厳しさを象徴するのが、強制認証対象品目の急激な増加です。2014年時点では約100品目だった対象品目は、2025年10月には773品目へと7倍以上に膨れ上がりました。今後、数年のうちに1,000〜1,200品目にまで増加する可能性も指摘されています。

対象は、セメント、鉄鋼、自動車部品といった基幹産業の製品から、LED電球、携帯電話、ノートPCといったIT・電子機器、玩具や化学薬品、食品関連製品まで、非常に広範囲に及びます。2024年にねじやボルト類が対象に追加された際には、多くの製造業のサプライチェーンに大きな影響が及びました。

認証スキーム 主な対象品目の例
スキーム1(ISIマーク制度) セメント、電池、自動車部品、医療機器、鉄鋼製品、化学薬品、肥料、ポリマー、繊維、キッチン家電、LPガス関連機器など
スキーム2(CRS:強制登録制度) ノートPC、タブレット、テレビ、プリンター、スキャナー、携帯電話、電源アダプター、LEDランプ、POS端末など、主にIT・電子機器

対象品目が多岐にわたるため、自社製品が規制対象であることに気づかず、インドの税関で貨物が差し止められるというケースも後を絶ちません。

煩雑な手続きと長いリードタイムという現実

BIS認証の取得におけるもう一つの大きなハードルが、手続きの煩雑さと長いリードタイムです。海外の製造業者が認証を取得する場合、多くはFMCS(外国製造業者認証スキーム)に沿って手続きを進めることになりますが、そのプロセスは決して平易ではありません。

申請には、インド国内の公用語に堪能な正規代理人(AIR)の指名が必須であり、申請書類の準備から、工場の初回検査、インドの試験所での製品試験、認証取得後の定期的な監査まで、多くのステップを踏む必要があります。工場検査ではインドから検査官を招聘する必要があり、その渡航費や宿泊費も申請者側の負担となります。

こうした複雑なプロセスを経るため、認証取得までには半年から1年、あるいはそれ以上の期間を要することも珍しくありません。近年は対象品目の増加に伴い、BISの検査官の業務量が増大し、審査に想定以上の時間がかかるケースが増えています。製品のライフサイクルが短いIT・エレクトロニクス業界にとっては、特に深刻な問題です。

ジェトロが実施した調査によると、在インド日系企業の7割以上がBIS認証制度によって事業に影響が出ていると回答しており、課題として「承認までの時間」(73.2%)と「手続きが煩雑」(72.6%)が突出して多く挙げられています。

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2. 見えにくい壁 ── サイバーセキュリティと通信機器の規制

インド市場の急速なデジタル化は、サイバーセキュリティ規制の強化という新たな課題をもたらしています。通信機器やIT製品を扱う企業にとって、これらの規制への対応は避けて通れません。

複雑化する通信機器の認証制度

インドで通信機器を販売、輸入、または使用するためには、TEC(Telecommunication Engineering Centre、電気通信技術センター)が定めるMTCTE(通信機器の必須試験・認証)制度に準拠する必要があります。

この制度は、インドの通信ネットワークに接続されるすべての機器が、セキュリティや技術基準を満たしていることを保証するためのものです。当初は固定電話やモデムなどが主な対象でしたが、現在ではルーター、スイッチングハブ、IoTゲートウェイ、スマートフォンなど、多岐にわたる製品が対象となっています。2025年8月にはフェーズVIが発効し、さらに多くの製品が規制対象に加わる予定です。

無線機能を持つ製品(Wi-FiやBluetoothを搭載した機器など)は、MTCTEに加えて、WPC(Wireless Planning & Coordination Wing)からETA(Equipment Type Approval)と呼ばれる型式承認も取得しなければなりません。

複数の機能を搭載した製品を輸出する際には、どの認証が、どのコンポーネントに適用されるのかを正確に把握し、計画的に準備を進めることが不可欠です。

世界で最も厳しいサイバーインシデント報告義務

インドのサイバーセキュリティ規制で、特に企業に大きなインパクトを与えるのが、CERT-In(インドコンピュータ緊急対応チーム)が2022年4月に発表した指令です。

この指令の最も注目すべき点は、サイバーセキュリティインシデントを検知してから6時間以内にCERT-Inに報告することを義務付けている点です。世界的に見ても非常に厳しい報告期限であり、インシデントの検知から状況把握、影響範囲の特定、報告までを迅速に行うための高度な社内体制とプロセスが求められます。

報告対象は、不正アクセスやDDoS攻撃からデータ漏洩、ランサムウェア攻撃まで20種類に及びます。この迅速な報告義務に対応するには、24時間365日体制の監視システムや、インシデント発生時のエスカレーションフローの事前定義が不可欠です。

新たなデータ保護法制「デジタル個人データ保護法」

2023年8月、インドでは新たなデータ保護法である「デジタル個人データ保護法(Digital Personal Data Protection Act, 2023)」が成立しました。EUのGDPRと同様に、個人データの処理に関する原則、データ主体の権利、データを取り扱う事業者の義務などを定めています。

企業は個人データ収集時に本人の同意取得が義務付けられ、データ侵害時にはデータ保護委員会への通知が必須となります。違反時の罰金は最大で25億ルピー(約45億円)と高額であり、データガバナンス体制の見直しが急務です。

これらの規制は、IT・通信業界だけでなく、個人情報を扱うすべての企業に関係します。製品規制だけでなく、データ管理体制の構築がインドビジネスの必須条件になっています。

3. 地政学リスクの顕在化 ── 強化される「中国包囲網」

インドの規制強化で見落とせないのが、中国との関係性を背景とした動きです。インド政府は中国への経済的依存からの脱却を目指し、輸入規制・投資規制・国内産業保護を組み合わせた多角的な政策を打ち出しています。

国境紛争から経済的対立へ

2020年に発生した国境地帯での軍事衝突を契機に、インド国内では反中感情が急速に高まりました。これに呼応する形で、インド政府は経済的な対抗措置を次々と実行に移します。最も象徴的な例が、TikTokやWeChatをはじめとする数百もの中国製モバイルアプリの使用禁止措置です。インド政府は、これらのアプリが「インドの主権と一体性、国防、国家の安全と公序を害する活動に従事している」と説明し、データセキュリティ上の懸念を前面に押し出しました。

外国からの直接投資(FDI)に関しても、隣接国(事実上、中国を念頭に置いている)からの投資については、政府の事前承認を義務付けるようにFDIポリシーを改正。中国企業によるインド企業への投資や買収のハードルは格段に上がりました。

特定品目を狙い撃ちする輸入規制

インド政府の中国に対する警戒感は、より具体的な製品分野での輸入制限措置としても現れています。2023年8月には、ノートPC、タブレット、サーバーなどのITハードウェア製品の輸入に際して、事前の許可を必要とする輸入許可制度を導入しました。

鉄鋼業界においても、中国からの安価な輸入品が国内市場に与える影響を問題視し、一部の鉄鋼製品に対してセーフガード関税を課す動きが見られます。これらの措置の背景には、年間約1,000億ドル規模の巨額な対中貿易赤字を削減したいという思惑もあると考えられます。

規制の種類 主な内容と対象
アプリ禁止 TikTok、WeChatなど約300の中国製アプリを使用禁止(データセキュリティ上の懸念)
投資規制(FDI) 隣接国(主に中国)からの直接投資に政府の事前承認を義務化
輸入許可制度 ノートPC、タブレット、サーバーなどのITハードウェア製品の輸入に許可が必要
セーフガード関税 鉄鋼製品など、特定の輸入品に対して国内産業保護のために追加関税を課す

日本企業への影響とビジネスチャンス

このようなインドの「脱・中国依存」の動きは、日本企業にとってリスクとチャンスの両側面を持っています。

リスクとしては、中国製部品を組み込んだ製品が新たな輸入規制の対象となる可能性があります。一方で、インドが中国製品の代替先を探す中で、品質で定評のある日本製品への需要が高まるチャンスでもあります。規制動向の背景にある地政学的な文脈を読み解くことが、長期的なビジネス戦略において極めて重要です。

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まとめ ── 複雑な規制の海を乗りこなし、インド市場を掴むために

インド向け輸出における3つの規制の柱、「BIS強制認証」「サイバーセキュリティ・通信規制」「中国関連規制」について整理してきました。

これらの規制は、一見すると高い壁のように感じられるかもしれません。対応には多大なコストと時間がかかり、多くの企業が苦慮しているのは事実です。しかし、これらの規制強化はインドが自国の産業構造を高度化させ、より成熟した経済大国へと変貌を遂げようとしていることの裏返しでもあります。

規制の動向を正確に読み解き、それを自社の戦略に組み込んでいく「規制対応力」こそが、インドビジネスにおける新たな競争力の源泉になる。インドは確かに一筋縄ではいかない市場です。しかし、その先には14億人を超える巨大な消費市場と、無限の可能性が広がっています。


参考文献

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外為法コンプライアンスの現状を3分で診断。リスクの可視化と改善のヒントをお届けします。

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