株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。EU向けの両用品輸出管理に取り組む方からよくいただくのが、「2025年の改正の話ばかりが目立っているが、そもそも基本規則がどう成り立っているのか分からない」というご相談です。EU輸出管理の母法である Regulation (EU) 2021/821 は、Annex Iという品目リスト、EU001〜EU008の一般輸出許可、そして3本のキャッチオール条文という、3層構造で動いています。この記事では2025年改正の話には踏み込まず、基礎構造そのものを、初めて学ぶ方が条文を読めるレベルまで丁寧にほぐしていきます。
この記事でわかること
- Regulation (EU) 2021/821 の章立てと、4つのAnnexがそれぞれ何のためにあるのか
- Annex I の10カテゴリ(0〜9)と「3A001」のような5桁コードの読み方
- EU001〜EU008 の一般輸出許可(GEA)の使い分け
- 第4条(WMD)・第5条(サイバー監視)・第8条(技術支援)という3つのキャッチオール条文の違い
- Directive 2024/1226 で導入された刑事罰の最低基準と、ICP 7要素
まず用語を3つだけ理解する
EUの輸出管理条文を読み始めるときに、最初につまずく用語が3つあります。ここを押さえておくと、本文の構造が一気に読みやすくなります。
Annex I(アネックス・ワン)— 規制対象品目リスト
Regulation 2021/821 の本体には複数のAnnex(附属書)が付いていますが、最も重要なのが Annex I です。約2,200項目の両用品が、0〜9 の 10カテゴリ に分類されて掲載されており、ここに載っている品目を第三国へ輸出する際は、原則として加盟国当局の許可が必要になります。
GEA(ジー・イー・エー)— EU共通の一般輸出許可
GEA は General Export Authorisation の略で、輸出者が個別申請をしなくても、条件を満たせば自動的に使えるEU共通の包括許可です。Annex II に EU001〜EU008 の 8種類が定義されています。「米国・日本など低リスク仕向地向けの大半の品目」「展示会の一時輸出」「グループ内のソフトウェア・技術移転」など、用途別にメニューが用意されている、と理解するのが入り口として分かりやすいです。
キャッチオール — リスト非掲載品目をすくい上げる仕組み
リスト規制は「Annex I に載っている品目を許可制にする」というシンプルな仕組みですが、それだけでは、リストには載っていないがWMD(大量破壊兵器)やサイバー監視に転用されうる品目を取りこぼしてしまいます。そこで、特定の用途や仕向地に該当する場合は リスト非掲載でも許可を要求する という仕組みがキャッチオールです。Regulation 2021/821 には第4条(WMD)、第5条(サイバー監視)、第8条(技術支援)の3本が用意されています。
Regulation (EU) 2021/821 の章立て
Regulation 2021/821 は、2021年5月20日に欧州議会・閣僚理事会で採択され、6月11日に官報掲載、2021年9月9日に施行された規則です。前身の Council Regulation (EC) No 428/2009 を全面改正(Recast)したもので、両用品の輸出・仲介・技術支援・トランジット・域内移転を統合的に規律します。
用語メモ:Recast(リキャスト/全面改正) — EU法で、既存の規則・指令を部分改正ではなく一本の新法に書き直す手法。旧法は廃止され、新法が完全に置き換わる。
「Regulation(規則)」というEU法の形式は、加盟国の国内法化を待たずに EU全27カ国に直接適用 される、最も強い形式の法令です。Directive(指令)が「目標を示すので加盟国はそれぞれ国内法で実装する」のと対照的に、Regulation は文字通り「そのまま全EUに効く」という関係になります。
本文は6つの章で構成されています。
| 章 | 内容 | 主要条文 |
|---|---|---|
| Chapter I | 対象範囲・定義 | 第1〜2条 |
| Chapter II | 輸出範囲(リスト規制とキャッチオール) | 第3〜10条 |
| Chapter III | 許可の類型(個別/包括/一般) | 第11〜14条 |
| Chapter IV | 加盟国当局による許可の更新・取消 | 第15〜18条 |
| Chapter V | 加盟国・欧州委員会間の情報共有 | 第19〜23条 |
| Chapter VI | 加盟国の執行義務・罰則 | 第24〜29条 |
そして本文の後ろに、品目リストや申請様式を定めた4つのAnnexが続きます。
| Annex | 内容 | 役割 |
|---|---|---|
| Annex I | 規制対象品目リスト(約2,200項目) | 第三国輸出に許可が必要 |
| Annex II | EU一般輸出許可(EU001〜EU008) | 包括的に許可される条件 |
| Annex III | 申請フォームの標準書式 | 加盟国間の手続統一 |
| Annex IV | 超機微品目リスト | EU域内移転にも許可が必要 |
ポイントは、Annex IV は域内移転にも許可が必要という点です。EU加盟国間の移動は原則自由ですが、ステルス技術や戦略物資の一部はAnnex IVに掲載されており、EU域内であっても国境を越える際に当局の許可が要求されます。
Annex I の10カテゴリ構造
Annex Iが「規制リスト」だ、と言葉で言われても、実物を開いて意味が取れないと先に進めません。まずは10カテゴリの全体像を押さえます。
0〜9 のカテゴリ分類
| 番号 | カテゴリ | 主な品目例 |
|---|---|---|
| 0 | 核物質・設備 | ウラン、原子炉、遠心分離機 |
| 1 | 特殊材料・関連装置 | 高性能繊維、複合材料、化学物質、生物剤 |
| 2 | 材料加工 | 工作機械、ロボット、振動試験装置 |
| 3 | 電子機器 | 半導体製造装置、特殊集積回路、検査機器 |
| 4 | 計算機 | 高性能コンピュータ、暗号機能搭載コンピュータ |
| 5 | 電気通信・情報セキュリティ | 通信機器、暗号、量子鍵配送 |
| 6 | センサー・レーザー | 暗視装置、ソナー、高出力レーザー |
| 7 | 航法・航空電子工学 | 慣性航法装置、GNSS耐妨害装置 |
| 8 | 海洋関連 | 潜水艇、水中通信、潜水機材 |
| 9 | 航空宇宙・推進 | 航空機、ジェットエンジン、ロケット技術 |
このカテゴリ分けは、米国EARのCCL(Commerce Control List)や中国の両用品目管理リストとも基本構造が共通しており、EU・米・日・中いずれの規制を読む場合でも「最初の数字でジャンルを当てる」というアプローチが使えます。
5桁コードの読み方
Annex I の品目には「3A001」「5D002」のような5桁のコードが付いています。慣れないと記号の羅列に見えますが、構造は決まっています。
3 A 0 0 1
│ │ │ │ │
│ │ │ └─┴── 連番(個別品目の通し番号)
│ │ └────── 規制レジーム(0=Wassenaar、1=MTCR、2=NSG、3=AG、4=CWC)
│ └──────── 製品グループ(A〜E)
└────────── カテゴリ(0〜9)
製品グループ(2文字目)は次の通りです。
| 文字 | 内容 |
|---|---|
| A | システム、機器、コンポーネント |
| B | 試験・検査・製造装置 |
| C | 材料 |
| D | ソフトウェア |
| E | 技術・技術情報 |
3文字目の規制レジームは、その品目がどの多国間合意に由来しているかを示します。
| 数字 | レジーム | 主対象 |
|---|---|---|
| 0 | Wassenaar Arrangement | 通常兵器・両用品 |
| 1 | MTCR | ミサイル技術 |
| 2 | NSG | 核関連 |
| 3 | Australia Group | 化学・生物 |
| 4 | CWC | 化学兵器禁止条約 |
例として「3A001」を分解すると、「カテゴリ3(電子機器)の機器、Wassenaar Arrangement由来、001番」となり、特殊集積回路を指します。「5D002」なら「カテゴリ5(電気通信・情報セキュリティ)のソフトウェア、Wassenaar由来、002番」で、暗号機能を持つソフトウェアという読み方ができます。
なお、多国間レジームに由来せずEU独自で規制している品目には「500シリーズ」(3桁目が5)が割り当てられます。2025年改正で量子・半導体製造装置などが追加されたのもこの500シリーズで、これは別記事で整理しています。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
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EU001〜EU008:8種類の一般輸出許可
Annex Iに該当する品目を輸出するたびに個別申請するのは、輸出者にも当局にも大きな負担です。そこで、典型的なシナリオについては **EU共通の一般許可(GEA)**を Annex II に8種類用意し、条件を満たせば自動的に使える設計になっています。
| 番号 | サブAnnex | 主な対象 | 想定仕向地 |
|---|---|---|---|
| EU001 | Annex IIA | Annex Iの大半の品目(一部除外) | 米国・カナダ・豪州・日本・NZ・ノルウェー・スイス(リヒテンシュタイン含む) |
| EU002 | Annex IIB | 特定の低リスク品目 | 限定された仕向地 |
| EU003 | Annex IIC | 修理・交換後の再輸出 | 元の輸出先 |
| EU004 | Annex IID | 展示会・見本市の一時輸出 | 全仕向地(一部除外) |
| EU005 | Annex IIE | 電気通信機器・関連技術 | 一定の低リスク国(アルゼンチン、インド、南ア、韓国、ロシア、トルコ、ウクライナ等) |
| EU006 | Annex IIF | 特定の化学物質 | 限定された仕向地 |
| EU007 | Annex IIG | グループ内のソフトウェア・技術移転 | 親会社・子会社・姉妹会社間 |
| EU008 | Annex IIH | 暗号品目 | 一部除外仕向地以外 |
このうち EU007 と EU008 は 2021/821 で新設された枠組みです。多国籍企業のグループ内技術移転や、暗号品目の取り扱いを現実の事業実態に合わせて整理し直したもの、と位置づけられます。
注意したいのは EU005 です。条文上はロシアを低リスク国として含みますが、2022年以降のロシア向け制裁規則(Regulation 833/2014 など)が上書きしているため、両用品の対ロ輸出は事実上ほぼ全面禁止です。GEA の条文だけを見て「ロシアにも輸出できる」と読むのは誤りです。
また、EU001 を使えば米国に何でも輸出できる、というのもよくある誤解です。EU001 はあくまで「Annex Iの大半」を対象としており、暗号や核関連の一部、サイバー監視関連の品目は GEA から明示的に除外 されます。除外品目は個別または包括の輸出許可申請が必要になる点に注意してください。
3つのキャッチオール条文
Regulation 2021/821 のキャッチオール条文は、第4条・第5条・第8条の3本立てです。それぞれが補足するリスクが異なります。
第4条:WMD・軍事用途キャッチオール
Annex I に掲載されていない品目であっても、次のいずれかの用途に使われる可能性を、(a) 当局が輸出者に通知した場合、または (b) 輸出者自身が認識している場合、許可が必要になります。
- 大量破壊兵器(WMD)または運搬手段の開発・生産
- 武器禁輸対象国向けの軍事最終用途
- 当該国の許可なく輸出された軍事品目の部品
加盟国はこの規律をさらに拡張し、「輸出者が 疑う合理的理由がある場合(grounds for suspecting)」にまで通知義務を広げることが認められています。ドイツ・フランスなど主要加盟国はこの拡張を採用しており、輸出者側のデューデリジェンス水準が事実上引き上げられています。
第5条:サイバー監視キャッチオール(2021/821 で新設)
第5条は、自然人の情報・通信を秘密裏に監視するために設計された品目(cyber-surveillance items) が、国内弾圧や重大な人権侵害・国際人道法違反に使われる可能性がある場合、Annex I 非掲載でも許可制にする条文です。具体的には以下のような品目が念頭に置かれています。
- 通信傍受機器(IMSIキャッチャーなど)
- スパイウェア・モバイル感染ツール
- 一定の状況下で運用される顔認証システム
- 大規模通信監視装置
第5条は、それまで「両用品か、純然たる民生品か」で曖昧だったサイバー監視ツールに、明確な許可制の枠を与えたものとして注目されました。欧州委員会は2024年に「Article 5 サイバー監視ガイドライン」を公表し、デューデリジェンスの具体的手順を示しています。
第8条:技術支援への規制(2021/821 で新設)
第8条は、Annex I 品目に関連する 技術支援の提供 自体が、第4条のキャッチオール用途に該当する場合、許可を要求する条文です。「技術支援」には次のような無形のサービスが含まれます。
- 技術データの提供
- メンテナンス・修理・トレーニング
- コンサルティング・設計支援
それまでは「物が動かなければ輸出ではない」と整理されがちでしたが、第8条によって 人や知識の動きそのものが明示的に規律対象となりました。EU域内に拠点を持つ日本企業が、現地エンジニアを通じて第三国の顧客に技術指導を行うケースなどは、この第8条の射程に入ります。
用語メモ:みなし輸出との関係 — 日本の外為法における「みなし輸出」(居住者から非居住者への技術提供を輸出とみなす規律)と思想は近い。EU第8条はこれを「物の輸出に伴う技術支援」と「無形の技術支援単独」の両方に広げた構造で、日本本社の輸出管理規程の延長線で理解できる。
3条文の比較
| 観点 | 第4条 | 第5条 | 第8条 |
|---|---|---|---|
| 対象品目 | 全品目(リスト非掲載含む) | サイバー監視品目(リスト非掲載含む) | Annex I品目に関連する技術支援 |
| 想定リスク | WMD・軍事最終用途 | 国内弾圧・人権侵害 | 第4条用途への寄与 |
| 主な根拠 | 多国間レジーム合意 | EU独自の人権重視 | 2021/821 で新設 |
このほか、第6条(仲介=Brokering)、第7条(トランジット)も同じChapter IIに置かれており、有形の輸出を伴わない取引にも漏れなく規制が及ぶよう設計されています。
許可の4類型
Regulation 2021/821 の許可制度には、大きく分けて4つの類型があります。
| 類型 | 申請者 | 対象 | 有効期間 | 適用範囲 |
|---|---|---|---|---|
| 個別輸出許可(IEL) | 1輸出者 | 1〜複数品目 → 1エンドユーザー | 最長2年 | EU全域有効 |
| グローバル輸出許可(GEL) | 1輸出者 | 複数品目 → 複数の指定エンドユーザー/仕向地 | 2年(更新可) | 加盟国により条件あり |
| EU一般輸出許可(UGEA / GEA) | 全輸出者 | Annex II の条件下 | 無制限(条件遵守時) | EU全域 |
| 国家一般輸出許可(NGEA) | 全輸出者 | 加盟国が独自に定義 | 加盟国により異なる | 発行加盟国のみ |
申請プロセスのアウトラインは次の通りです。
- 品目分類:自社製品をAnnex Iと照合し、5桁コードを特定する
- 仕向地・用途の確認:第4条・第5条のキャッチオール該当性をチェックする
- GEA適用可否:EU001〜EU008 のいずれかが使えるかを確認する
- 申請先選定:輸出者が設立・居住している加盟国の当局を選ぶ
- 書類提出:Annex III形式の標準フォームに、エンドユース・サーティフィケート等を添付する
- 当局審査:通常20営業日。機微仕向地の場合は他加盟国との協議で延長されることがある
主要加盟国の許可当局は以下の通りで、申請窓口は加盟国ごとに異なります。
| 国 | 主な許可当局 |
|---|---|
| ドイツ | BAFA(連邦経済・輸出管理庁) |
| フランス | DGE / SBDU(産業総局・両用品管理部) |
| オランダ | CDIU(中央輸出入サービス) |
| イタリア | UAMA(経済財務省・武器管理局) |
| スペイン | SGCEDU(商務省輸出管理事務局) |
罰則:Directive 2024/1226 が刑事罰の最低基準を設定
Regulation 2021/821 そのものは、違反時の罰則の具体的な水準を加盟国に委ねていました。結果として、ドイツでは厳しい刑事罰、他の加盟国では行政罰のみ、といった大きな差が生まれていました。
そこで、2024年4月24日に EU理事会で採択されたのが Directive (EU) 2024/1226 です。EU制裁・輸出管理違反に対する 刑事罰の最低基準を定めた指令で、加盟国に対して2025年5月20日までの国内法化を求めています。
| 区分 | 自然人 | 法人 |
|---|---|---|
| 最低基準 | 1〜5年の懲役 | — |
| 重大違反 | — | 全世界年間売上の 5% または €40M のいずれか高い方 |
| 迂回行為 | — | 全世界年間売上の 1% または €8M のいずれか高い方 |
| 付随処分 | 罰金、職務停止、公職就任禁止 | 公的資金からの除外、許認可の取消など |
「全世界年間売上の5%または€40Mのいずれか高い方」という算定方法は、GDPRやEU AI Actと同じ系譜の制裁設計です。グローバルに事業展開する企業ほど、絶対額が大きく跳ね上がる仕組みになっています。
2025年7月時点では、欧州委員会の集計で18加盟国が国内法化に遅延し、侵害手続が開始されました。ドイツは対外貿易法(AWG)の改正で2025年末までに対応する見通しです。日本企業のEU子会社は、現地の改正法令の動きを国別にフォローすることが、しばらく必要になります。
ICP 7要素:実質的に必須化されつつある
Regulation 2021/821 の前文では、EU内の輸出者は 内部コンプライアンス・プログラム(ICP) を採用するよう求められています。条文上は推奨にとどまりますが、包括許可(GEL)の取得や、サイバー監視関連の輸出においては、ICPがないと実務上ほぼ通らないという扱いになりつつあります。
欧州委員会は 2019年7月30日に Recommendation (EU) 2019/1318 を公表し、ICPの 7つのコア要素を提示しました。
- トップマネジメントのコミットメント
- 組織体制・責任分担・リソース配分
- 教育・意識向上
- トランザクション・スクリーニング手順
- 業務遂行・記録保持
- 物理的・情報セキュリティ
- 監査・報告・是正措置
加えて、大学・研究機関向けには2021年に Recommendation (EU) 2021/1700 が別途公表され、「機微研究プロジェクトの管理」「外国人研究者の関与の評価」「論文・データ公開の取扱い」など、企業向けとは異なる視点が整理されています。
Directive 2024/1226 が施行されたことで、ICP が整備されていない状態での違反は **「重大な過失」**として扱われやすくなります。日本本社の輸出管理規程と同等以上の体制を、EU子会社単位で構築しておくことが、現実的なリスク低減策となります。
EU・米・日・中の規制構造を一枚で比較する
Regulation 2021/821 の特徴をより立体的にとらえるため、米国EAR・日本外為法・中国両用品目管理条例と並べて見ておきます。
| 観点 | EU 2021/821 | 米国EAR | 日本外為法 | 中国両用品目条例 |
|---|---|---|---|---|
| 規制構造 | リスト+3キャッチオール | リスト(CCL)+EAR99+エンドユーザー規制 | リスト規制+キャッチオール | リスト+反制裁条項 |
| 域外適用 | ほぼなし | 強い(De Minimis、FDPR) | ほぼなし | 限定的 |
| 品目コード | 5桁 | 5桁(ECCN) | 該非判定・項番 | 5桁(2024年12月〜) |
| 多国間レジーム比重 | ほぼ100% | 部分的(米独自規制が広範) | ほぼ100% | 限定的 |
| 執行機関 | 加盟国当局+欧州委員会 | BIS(米商務省) | METI(経済産業省) | 商務部 |
中国は2024年12月1日に新たな両用品目輸出管理条例を施行し、約700品目を5桁コードで分類する10カテゴリ構造に移行しました。これにより EU・米・日・中の主要4経済圏が概ね類似のコード体系を持つ ようになり、企業側からは国際比較がしやすくなった一方で、それぞれが独自のキャッチオールや反制裁条項を持つため、**「コードが似ていても適用ロジックは別物」**という前提でチェックする必要があります。
用語メモ:表中の米国EAR関連用語
- ECCN(Export Control Classification Number):米国EARの品目分類番号。EUの5桁コードと似た構造(例:3A001、5D002)で並ぶ。
- De Minimis(デミニミス)ルール:外国製品でも、米国原産部品・ソフトウェアが一定割合(一般10%/一部禁輸国向け25%)を超えれば米国EARの規制対象になるという域外適用ルール。
- FDPR(Foreign Direct Product Rule/外国直接製品規則):外国で製造された製品でも、米国原産の技術・ソフトウェアを使って作られていれば米国EARが及ぶというルール。半導体や中国向け先端品目で活用されている。
自社で対応できるか不安な方へ(中盤CTA)
Regulation 2021/821 の難しさは、Annex I の品目数が約2,200項目に及び、毎年の改正にも追従しなければならない点と、加盟国27カ国それぞれで許可手続や罰則水準が異なる点にあります。さらに、米国EAR・日本外為法・中国両用品目条例との 横断的な該非判定 まで考えると、人手だけで網羅するのは現実的ではありません。
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日本企業への3つの影響と実務5ステップ
ここまでの基礎を踏まえて、日本企業の実務担当者が押さえておくべきポイントを整理します。
日本企業に影響する3パターン
- EU子会社からの第三国輸出:子会社が設立されている加盟国の規制が直接適用される。グループ内技術移転は EU007 の対象になる場合がある。
- EU向けの中間財・部品供給:EU側パートナーから「EU規則準拠の確認書」を求められるケースが増加。エンドユース・サーティフィケートの提供を求められることもある。
- EU経由の第三国輸出(OEM・委託生産):EU内で組み立てた製品を第三国へ輸出する場合、最終的に適用されるのはEU規則であり、日本側のサプライヤーも実質的に影響を受ける。
用語メモ:OEM(Original Equipment Manufacturer) — 他社ブランドの製品を受託製造する事業形態。最終ブランドは委託元だが、製造拠点が所在する国の輸出管理規制が直接かかる。
実務5ステップ
- 自社品目をAnnex Iと照合:5桁コードを特定し、該当しなければ第4条・第5条のキャッチオール該当性を確認する
- 仕向地・エンドユーザーの確認:EU001〜EU008 のいずれかで対応できるかを判定する
- ICP 7要素のセルフチェック:日本本社のCP規程と並べ、ギャップを洗い出す
- 加盟国法令のフォロー:Directive 2024/1226 の国内法化状況を、子会社所在国単位で確認する
- 記録の電子化:許可申請・エンドユース・社内承認のログを5年以上保管できる仕組みを整える
FAQ
Q1. 2021/821 と 2025/2003 はどう違うのですか?
2021/821 は両用品輸出管理の 基本規則 で、章立て・キャッチオール条文・許可制度の枠組みを定めています。2025/2003 は Annex I(品目リスト)を更新する 委任規則 で、基本構造そのものは2021/821のまま変わりません。読み分ける際は、「制度の骨格を知りたければ2021/821、品目リストの最新版を知りたければ2025/2003」と整理すると分かりやすいです。
Q2. EU001 を使えば米国向けには何でも輸出できるのですか?
いいえ。EU001 は Annex I の「大半」を対象としますが、最も機微な暗号・核関連の一部・サイバー監視関連は除外されています。また、米国向けでも個別申請が必要なケースがあります。GEA を使う前には、必ず Annex II の除外リストを確認してください。
Q3. ICP は義務ですか?
条文上は推奨(Recommendation)です。ただし、包括許可の取得や機微取引においては事実上必須に近い扱いとなっており、Directive 2024/1226 の施行以降は、ICP 不在の状態での違反は「重大な過失」と評価されやすくなります。
Q4. ロシア向けは EU005 で輸出できるのですか?
条文上は EU005 の仕向地にロシアが含まれていますが、2022年以降のロシア制裁規則(Regulation 833/2014 等)が上書きしており、両用品の対ロ輸出は事実上ほぼ全面禁止です。GEA の条文だけを根拠に判断するのは避けてください。
Q5. 罰則は本当に売上の5%まで課されるのですか?
Directive 2024/1226 が定めるのは 最低基準 で、加盟国はこれ以上厳しい罰則を独自に設定できます。実際の量刑は、違反の重大性・意図・コンプライアンス体制の有無を勘案して決まります。グローバル売上が大きいほど絶対額が増える設計のため、グループ全体での体制整備が必要です。
まとめ
- Regulation (EU) 2021/821 は2021年9月施行の両用品輸出管理の母法で、章立て・Annex・キャッチオールの3層構造で動く
- Annex I は10カテゴリ・約2,200項目で、「3A001」のような5桁コードはカテゴリ/製品グループ/規制レジーム/連番で読み解ける
- EU001〜EU008 の一般輸出許可(GEA)が、典型シナリオに対する事前許可メニューとして機能している
- 第4条(WMD)・第5条(サイバー監視)・第8条(技術支援)の3つのキャッチオールで、リスト非掲載品目や技術支援も網にかかる
- Directive 2024/1226 によって刑事罰の最低基準が整い、ICP 7要素の整備が事実上必須化しつつある
関連記事
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- EU輸出管理規則の全体像と2026年最新動向
- 輸出管理コンプライアンスの基本:日本企業が押さえるべき5つのポイント
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参考文献
- EUR-Lex: Regulation (EU) 2021/821(基本規則)
- EUR-Lex: Regulation (EU) 2021/821(2024年版統合テキスト)
- EUR-Lex: Directive (EU) 2024/1226(罰則指令)
- EUR-Lex: Recommendation (EU) 2019/1318(ICPガイドライン)
- EUR-Lex: Recommendation (EU) 2021/1700(研究機関向けICP)
- 欧州委員会 Trade DG: Exporting dual-use items
- 欧州委員会: Article 5 サイバー監視ガイドライン公開協議
- Wassenaar Arrangement 公式
- BAFA(ドイツ連邦経済・輸出管理庁)
- METI 安全保障貿易管理(参考)
