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【完全解説】韓国の戦略物資輸出管理|Applied Materials 2.5億ドル罰金事案とyesTrade運用

2026-05-20濱本 隆太

韓国の戦略物資輸出管理(対外貿易法・yesTrade・KOSTI)の全体像と、2026年2月11日にBISが発表したApplied Materialsへの2.5億ドル罰金事案を、初心者向けに整理しました。「韓国で組み立てれば米国規制を逃れられる」という考え方がなぜ崩れたのか、日本企業の韓国子会社・三角貿易に与える影響、実務5ステップまで丁寧に解説します。

【完全解説】韓国の戦略物資輸出管理|Applied Materials 2.5億ドル罰金事案とyesTrade運用
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株式会社TIMEWELLの田中 美咲です。最近よく受けるのが「韓国経由の取引って、なにを気にすればいいんですか?」という質問です。きっかけは、2026年2月にBIS(米国商務省産業安全保障局)が発表したApplied Materialsへの2億5,250万ドルの巨額罰金。本記事では、外為法は知っているけれど米国EARや韓国法はこれからという担当者を想定し、韓国の戦略物資輸出管理の構造と、Applied Materials事案がなぜここまで衝撃を与えたのかを整理します。

この記事でわかること

  • 韓国の戦略物資輸出管理の全体像(対外貿易法・MOTIE・KOSTI)
  • yesTradeシステムの運用と該非判定の二層構造
  • 2026年2月11日に発表されたApplied Materials事案の全体像
  • 「dual-build」スキームと substantial transformation 不成立の論点
  • 韓国子会社を持つ日本企業がやるべき4つの影響整理と実務5ステップ

まず用語を7つだけ押さえる

韓国側の3用語(yesTrade/KOSTI/substantial transformation)と、米国EAR側の4用語(de minimis/FDPR/Entity List/Military End User)を最初に押さえると、本文がぐっと読みやすくなります。

yesTrade(イエストレード):韓国の戦略物資輸出入管理情報システム(https://www.yestrade.go.kr)。輸出者がオンラインで該非判定から輸出許可申請までを一気通貫で処理できる仕組みで、日本のNACCSと外為法電子申請を合わせたような位置づけです。

KOSTI(コスティ):韓国戦略物資管理院(Korea Strategic Trade Institute)。産業通商資源部(MOTIE)の傘下にあり、該非判定・教育・企業支援を担う公的機関で、yesTradeの運営主体でもあります。CISTECと経産省の現場機能を足したようなイメージです。

substantial transformation(実質的変更):「加工によって原産国が変わったとみなせるか」を判断する米国の法理。部品が別の国で加工されて「名称・性格・用途」が本質的に変わると、原産国がその国に変わると考えます。Applied Materials事案でBISが「韓国での組立は substantial transformation に当たらない」と判断したことが、世界の製造業に大きな波紋を広げました。

de minimis(デミニミス):米国EARの「最小限度ルール」。海外で作られた製品でも、含まれる米国製コンテンツの価額比率が一定(一般10%、懸念国向け25%)を超えると、その完成品全体が米国EARの再輸出規制の対象になる、という考え方です。「韓国製の装置だから米国法は関係ない」とは言えなくなる根拠の一つです。

FDPR(Foreign Direct Product Rule/外国直接製品規則):米国製の技術・ソフトウェア・装置を使って海外で作られた製品にも、米国EARの管轄を及ぼすルール。半導体ではとくに広範に適用されており、「米国の技術を使って韓国や台湾で作った半導体製造装置」も、特定の仕向地(中国の軍関連等)向けには許可が必要になります。

Entity List(エンティティ・リスト):BISが指定する取引制限リスト。掲載された企業(例:SMIC、HUAWEI等)への米国原産品・FDPR該当品の輸出・再輸出には、原則として個別許可が必要で、しかも多くは「拒否推定(presumption of denial)」が適用されます。Applied Materials事案でも、SMICが2020年12月にEntity List入りした後の取引が処分対象になりました。

Military End User(軍事エンドユーザー):BISが指定する「軍関連用途・関係者」リスト(MEUリスト)。リスト掲載企業や、用途・ユーザーが軍事関連と分かっている取引には、たとえEntity Listに載っていなくても許可義務が発生します。中国・ロシア・ベラルーシ等向けには広い適用範囲を持ち、半導体装置・素材は特に注意が必要です。

韓国対外貿易法の構造を3階建てで理解する

韓国の輸出管理は、ざっくり3つの法令を3階建てで組み合わせる構造です。

階層 法令名 役割 日本の対応法令
1階 対外貿易法(대외무역법) 戦略物資の輸出入規制の中核 外為法
2階 外国為替取引法 資金面の規制 外為法(資金面)
3階 テロ資金供与・大量破壊兵器拡散資金供与禁止法 金融制裁の根拠 国際テロリスト財産凍結法など

実務上、中心となるのは1階の対外貿易法です。下位規範として産業通商資源部(MOTIE)の「戦略物資輸出入告示」があり、規制対象品目リスト(Annex 2=デュアルユース、Annex 3=軍需品)を定めています。

規制対象は、(1)戦略物資(デュアルユース品+軍需品+核関連)、(2)状況許可(Catch-all)対象、(3)無形技術移転(ITT、電子データ送信・口頭説明・国内での外国人への技術提供も対象)の3カテゴリ。「物だけ気にしていればよい」という発想は通用しません。

罰則は日本より重く、大量破壊兵器拡散目的の無許可輸出は懲役7年以下または取引額の5倍以下の罰金、その他目的でも懲役5年以下または取引額の3倍以下。両罰規定もあります。WA・NSG・MTCR・AGの4レジーム全てに加盟し、2023年には日本のホワイト国(グループA)に再指定されています。

該非判定の属人化を、AIで解消する。

経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDなら、判定時間を約7割削減し、判定根拠を構造化データで保存できます。

yesTradeシステムの運用——該非判定の二層構造

韓国の輸出管理が他国と比べてユニークなのは、yesTradeを軸に該非判定プロセスがかなり整理されている点です。公開判定情報の検索、自家判定の登録、KOSTIによる事前判定の取得、MOTIE宛て許可申請、キャッチオール判断支援まで一気通貫で扱えます。

韓国の該非判定は、企業が自社責任で行う「自家判定」と、KOSTIが正式書面を発行する「事前判定」の二層で運用されます。

種類 主体 法的効力 推奨される場面
自家判定 輸出者 企業の責任 定型的な品目、判定実績がある場合
事前判定 KOSTI 2年間の公式判定書 初回案件、グレー案件、高額取引

「定型ものは自家判定、初回・グレーは事前判定」が基本です。Applied Materials事案のような巨額制裁を見ていると、迷ったら事前判定を取りに行くほうが結果的に安い、と感じる場面が増えています。

加えて、社内輸出管理プログラムが一定水準以上に整っている企業をMOTIEが認定するCP制度(自律遵守貿易取引者制度)があります。日本の「特定包括許可」に近いポジションで、包括許可の対象拡大や審査期間短縮の優遇を受けられます。

2026年2月11日、Applied Materials事案——BIS史上2番目の罰金

ここからが本題です。なぜ「韓国経由の取引」がいま、これほど神経質に語られるのか。きっかけは、2026年2月11日のBIS発表でした。

項目 内容
発表日 2026年2月11日
罰金額 2億5,250万ドル(約378億円)
位置づけ BIS単独制裁として史上2番目、法定上限(取引額の2倍)
対象企業 Applied Materials, Inc.(米国本社)+ Applied Materials Korea(AMK/韓国子会社)
違反期間 2020年11月8日〜2022年7月18日
違反回数 56件(再輸出または再輸出未遂)
対象機器 イオン注入装置(半導体製造工程の中核装置)
対象取引額 約1億2,630万ドル
最終仕向地 SMIC(中国・上海)および同子会社

ポイントは、米国本社単独ではなく「米国本社+韓国子会社」の連名で処分されている点と、罰金額が法定上限である取引額の2倍に張り付いている点です。BISが「これは絶対に許さない」というメッセージを意図的に強く出した事案だと読み取れます。

違反スキーム——「dual-build」の中身

AMATとAMKが採っていた手法は、業界で「dual-build(二段組立)」と呼ばれるものでした。流れを単純化すると次の通りです。

  1. 米国マサチューセッツ州グロスター工場で、イオン注入装置を部分的に組み立てる
  2. 部分組立済みの装置をAMK(韓国子会社)へ輸出する
  3. AMKで残りの組立・テスト・最終調整を実施する
  4. 完成品をAMKから中国SMICへ出荷する

AMAT側の論理は「韓国で残りの組立とテストを行ったのだから、韓国で substantial transformation が成立している。原産国は韓国に変わっているので、米国EARの再輸出規制は適用されない」というものでした。

BISの判断——substantial transformationを正面から否認

BISはこの主張を全面的に否認しました。理由は、(1)韓国での作業は「組立・調整」にすぎず装置の本質的性格は米国製のまま、(2)したがって機器は依然として "U.S.-origin"(米国原産)、(3)SMICは2020年12月にEntity Listに追加されており、その後の再輸出には許可が必要だった、というものです。

ここで重要なのは、BISが「米国税関の substantial transformation テスト」を明示的に拒絶したことです。米国税関は関税分類の文脈で「実質的変更があれば原産国は変わる」と判断する場面がありますが、BISは「輸出管理の文脈では、その基準では足りない」と切り離して判断しました。

ただし、どの程度の加工があれば "foreign-made" と認められるのか、明確な代替基準は示されていません。これは実務担当者にとっては不確実性ですが、同時に「組立だけ海外でやって規制を逃れる」設計は今後成立しないという強いシグナルとして受け止める必要があります。

参考までに、韓国国内でも2015〜2019年3月で156件の摘発(フッ化水素酸、ミサイル転用可能な金属材料、大量破壊兵器前駆体等)が報告されています。2019年の日韓貿易紛争の背景にあったこのデータは、2023年の「グループA」再指定により運用上は正常化したと整理されていますが、Applied Materials事案は「韓国経由=安全」という発想がいかに高くつくかを示した最新事例です。

米国EAR vs 韓国対外貿易法——管轄の根本的な違い

観点 米国EAR 韓国対外貿易法
管轄の基準 オリジンベース(米国製品なら世界中どこでも対象) テリトリーベース(韓国から輸出されるものが対象)
域外適用 あり(再輸出規制、de minimis、FDPR) 限定的
リスト CCL(Commerce Control List) Annex 2/Annex 3
キャッチオール あり(Know/Inform基準) あり(同様の基準)

韓国の戦略物資リストは国際レジームを基礎にしているので、米国CCLとは項目番号レベルで対応関係にあります。ただし、EARは米国製品が国外に出ても米国の管轄が及ぶのに対し、韓国対外貿易法は「韓国から輸出されるもの」を対象とするという根本的な違いがあります。「韓国子会社の取引だから韓国法だけ気にしていればよい」は半分間違いで、米国製コンテンツが de minimis 基準(一般10%、懸念国向け25%)を超えていれば、米国EARの再輸出規制が韓国国内取引にも及びます。

日本企業への4つの影響

(1) 韓国子会社を持つ日本企業:韓国子会社が戦略物資を扱う場合、韓国対外貿易法の遵守が当然に求められます。親会社が日本の外為法を遵守していても、韓国子会社の取引は韓国法の管轄です。該非判定体制の整備、KOSTIへの事前判定登録の活用、CP認定の取得検討が必要です。

(2) 韓国を経由する三角貿易:日本→韓国→中国の三角貿易は、日本の外為法・韓国の対外貿易法・米国EARが同時に適用される可能性があります。とくに米国製部品を含む製品の場合、米国EARの再輸出規制が韓国内取引にも及びます。Applied Materials事案が示したのは、「韓国で組み立てれば米国規制から逃れられる」という発想が完全に通用しなくなったということです。

(3) 半導体・素材業界へのインパクト:日本の半導体製造装置メーカー(東京エレクトロン、SCREEN、ディスコ等)や素材メーカー(ステラケミファ、信越化学等)は、韓国拠点経由で中国・東南アジアに出荷する場面が多くあります。米国EAR・韓国対外貿易法・日本外為法の三重チェックが必要です。業種別の「最初の一歩」を整理すると次の通りです。

  • 半導体製造装置メーカー(東京エレクトロン・SCREEN・ディスコ等):まず韓国出荷分について米国製コンポーネント・米国製技術の比率を棚卸しし、de minimis 10%/25% ラインと FDPR 適用条件を品番単位で可視化する。Applied Materials事案の「dual-build」設計が自社のサプライチェーンに紛れ込んでいないかも同時に点検する
  • 半導体素材メーカー(ステラケミファ・信越化学等):HSコードと該非番号(CCL/Annex 2)のマトリクスを作り、韓国出荷分のうち軍事エンドユーザー・Entity List関連企業に流れ得るチャネルを最初に切り出す。原料調達側の米国製コンテンツも同時に確認する
  • 韓国子会社を持つ商社・電機メーカー:韓国子会社の販売先データをCRMから引き、SMIC・YMTC・CXMT等の制裁対象企業との直接・間接取引が無いかを最初の3週間で確認する。あわせて、子会社の輸出管理規程が韓国対外貿易法と米国EARの両方をカバーしているかを点検する

(4) 「韓国経由は安全」という発想の見直し:組立だけでは原産国は変わらず、米国原産品はどこを経由しても米国EARの管轄から逃れにくい。韓国子会社の現地法人格があっても、米国本社・日本本社が一緒に処分される——これがApplied Materials事案の含意です。

韓国対応の実務5ステップ

担当部門・工数の目安は、半導体・素材メーカーの輸出管理部門が3〜5名(兼任含む)規模を想定したものです。組織規模に応じて読み替えてください。

  1. 取引マップを作る(担当:輸出管理部門+営業企画/工数:2〜3週間):韓国子会社・韓国経由の取引について「何を・どこから・どこへ・誰へ」を一覧化し、米国製コンテンツ比率・最終仕向地・最終ユーザーを可視化する。出荷データはSAP・販売管理システムからCSVで引き、製品マスタの該非番号と突き合わせる
  2. 該非判定体制の点検(担当:輸出管理部門+技術部門/工数:3〜4週間):自家判定の運用と判定根拠の文書化を点検。重要品目は事前判定(KOSTI正式判定)を取得する。技術部門に仕様書レベルで該非根拠を書いてもらう「判定根拠シート」の整備が肝
  3. 米国EAR管轄の整理(担当:輸出管理部門+法務/工数:2週間/必要に応じて外部法律事務所と並走):de minimis 基準、FDPR、Entity List・Military End User リストへの該当チェックを並走させる。米国法は社内に専門家がいないことが多いため、初回は外部リーガルレビューを入れる前提で計画する
  4. CP認定の取得検討(担当:輸出管理部門+経営企画/工数:申請準備3〜6か月、審査2〜3か月):定常的に戦略物資を扱う韓国子会社では本気で検討する価値がある。社内規程整備・教育・監査体制までの初期投資は数百万円〜1千万円規模が目安だが、包括許可化による工数削減で回収できるケースが多い
  5. 年1回の全体監査(担当:内部監査部門+輸出管理部門/工数:年あたり延べ4〜6週間):「組立工程を海外に置く設計」「最終出荷先がEntity Listに加わった場合の対応フロー」を書面で点検する。次年度の規制改正(BIS Affiliates Rule、FDPR拡張等)の影響を経営会議に報告するインプットにもなる

FAQ

Q1. 米国EAR違反は韓国法上も違反になりますか? 直接同時に違反になるわけではありませんが、並行して韓国対外貿易法上の許可義務が発生しているケースが多いです。SMICが韓国の懸念顧客リストに登録されていた場合は韓国法上も無許可輸出になり得ます。

Q2. 韓国CP認定を取れば米国EARからも免除されますか? されません。CPは韓国対外貿易法の優遇措置で、米国EARの遵守義務は別途残ります。米国製コンテンツが de minimis を超える場合、EARの管轄からは逃れられません。

Q3. 日本親会社は韓国子会社の違反責任を負いますか? 韓国法上は韓国法人が直接の責任主体です。ただし、親会社が韓国子会社の取引を指示・承認していた場合は、日本外為法・米国EAR・場合により民事責任の対象になり得ます。Applied Materials事案では米国親会社が和解の主体となりました。

まとめ

  • 韓国の戦略物資輸出管理は、対外貿易法・MOTIE・KOSTI・yesTradeを軸とした、国際レジームと整合した制度
  • 2026年2月11日のApplied Materials事案(2.5億ドル)は、BISが「組立だけでは substantial transformation は成立しない」と明示した記念碑的事案
  • 米国EARはオリジンベース、韓国対外貿易法はテリトリーベース。管轄の違いが事故の原因になりやすい
  • 「韓国経由=安全」は通用しない。韓国子会社・三角貿易・米国EAR・キャッチオールの四重チェックが必須

Applied Materialsの2.5億ドルは「他人事」ではありません。韓国子会社を持つ・韓国経由で動かしている日本企業ほど、自社の取引マップを今すぐ点検しなおす価値があります。

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