株式会社TIMEWELLの濱本隆太です。
2026年3月17日、NVIDIAのジェンセン・ファンCEOがGTC 2026の基調講演で発表した「AIネイティブ企業」103社のリストが話題になっています。OpenAIやAnthropicから自動運転、創薬AI、ヒューマノイドロボットまで——多様な企業が並ぶなか、日本企業は1社も含まれていませんでした。本記事では、各カテゴリの企業を詳しく解説し、日本不在の構造的要因を分析します。
ジェンセン・ファンが描いた「新しい産業地図」
GTC 2026の基調講演は、単なる製品発表会ではなかった。ファンが描いたのは「AIファクトリー」という概念に基づく新しい産業構造だ。データセンターはもはやファイルを保管し、人間が手動で操作するソフトウェアを動かす場所ではない。AIエージェントが自律的にワークフローを実行し、コンテキストを適切な場所にルーティングする環境へと変貌している。ファンはNVIDIA GPUへの計算需要が「ここ数年で100万倍に増加した」と述べ、2025年から2027年にかけて累計1兆ドル(約150兆円)の収益を見込んでいることを明かした。
この文脈で登場したのが、103社のAIネイティブ企業だ。Forbesの報道によれば、スライドは12のカテゴリに分類されていた。「AI for Auto(自動車)」「AI for Customer Support(カスタマーサポート)」「AI for Engineering(エンジニアリング)」「AI for Healthcare(ヘルスケア)」「AI for Robotics(ロボティクス)」「AI for Search(検索)」など、産業横断的にAIネイティブ企業が台頭していることを示す構成だった。ファン自身は講演中、「もっと多くの企業を見せるか、少なくするか迷ったが、結局誰も読めないくらいのサイズにした。誰の気分も害さないように」とユーモアを交えて語っている。だが、そのスライドに日本企業の名前がなかったという事実は、ユーモアでは済まされない重みを持つ [1]。
基盤モデル開発——世界のAIを牽引する「頭脳」たち
103社のなかで最も注目度が高いのは、大規模言語モデル(LLM)や基盤モデルを開発する企業群だろう。OpenAI(米国・2015年設立)は説明不要の存在で、GPTシリーズで生成AIブームの火付け役となった。Anthropic(米国・2021年設立)はOpenAIの元研究者たちが立ち上げた企業で、「Constitutional AI」というアプローチでAIの安全性を重視した開発を行っている。Claude Codeと呼ばれるエージェント型システムは、すでに多くのエンジニアの日常に溶け込んでいる。
Elon Muskが設立したxAI(米国・2023年設立)はGrokというモデルをX(旧Twitter)上で展開しており、10万基のH100 GPUを使ったトレーニングという桁違いのリソース投入で話題を集めた。フランスからはMistral AI(2023年設立)がリストに入っている。Google DeepMindの元研究者アーサー・メンシュらが設立した同社は、EUのデータ主権に対応したモデルを提供し、多言語対応やオンプレミス導入の選択肢で欧州企業から強い支持を得ている。NVIDIAが新たに立ち上げた「Nemotronコアリション」にもMistral AIは参画しており、次世代の基盤モデル「Nemotron 4」の共同開発に名を連ねる [2]。
カナダのCohere(2019年設立)はエンタープライズ向けのLLMに特化し、Perplexity(米国・2022年設立)はAIネイティブな検索エンジンとして急成長した。NVIDIAはPerplexityにも直接投資しており、両社の関係は単なる顧客を超えたパートナーシップに発展している。基盤モデルの領域では、米国勢が圧倒的だが、フランスのMistral、カナダのCohereの存在が光る。一方で、日本から独自の基盤モデルで世界に名乗りを上げた企業は、少なくともこのスライドには見当たらなかった [3]。
自動運転とフィジカルAI——中国勢の存在感
「AI for Auto」のカテゴリには、自動運転技術を手がける企業が並ぶ。Waymo(米国・Alphabet傘下)はすでにサンフランシスコやフェニックスで商業ロボタクシーサービスを展開しており、AIネイティブ企業の代表格だ。Aurora(米国・2017年設立)は自動運転トラック技術に焦点を当て、2021年にSPACで上場。同社のAurora Driverプラットフォームは商用物流の自動化を目指している。
注目すべきは、このカテゴリに中国企業が含まれていることだ。Pony.ai(小馬智行・2016年設立)は中国でロボタクシーの都市規模での完全無人運行許可を初めて取得した企業で、深圳での商業展開を進めている。WeRide(文遠知行・2017年設立)も中国の自動運転スタートアップで、ロボタクシーや自動運転バスの開発を手がける。米国のNuro(2016年設立)は自動配送ロボットに特化しており、ラストワンマイルの物流を変えようとしている。
フィジカルAI(物理世界で動作するAI)の領域では、ヒューマノイドロボットの企業も目立つ。Figure AI(米国・2022年設立)はNVIDIAから直接出資を受け、2025年9月のシリーズCで企業価値390億ドルに到達した。Physical Intelligence(米国・2024年設立)はロボットの汎用的な制御AIを開発し、1X Technologies(ノルウェー・2014年設立)は人型ロボット「NEO」の開発で知られる。Agility Robotics(米国・2015年設立)は二足歩行ロボット「Digit」を倉庫作業向けに投入している。FieldAI(米国)は産業用AIエージェントに特化し、NVIDIAのフィジカルAIデータファクトリーのブループリントにも協力企業として名前が挙がっている [4]。
日本はトヨタ、ホンダといった自動車メーカーがNVIDIA DRIVE AGXプラットフォームを採用しているものの、「AIネイティブ」という定義——つまりAIを基盤として創業した企業——という枠組みでは、日本の自動運転スタートアップはリストに入れなかった。ティアフォーやチューリングといった企業が存在するにもかかわらず、だ。
コーディングとエンジニアリング——開発者の仕事を根本から変える企業たち
AI for Engineering、あるいはコーディング領域のAIネイティブ企業も、リストの重要な構成要素だった。Cursor(米国)はAI搭載のコードエディタで、NVIDIAのジェンセン・ファン自身が「NVIDIAの全エンジニアが使っている」と名指しで言及した6社のうちの1社だ。単なる補完ツールではなく、コードベース全体を理解した上で提案や修正を行うAIエージェント的な振る舞いが開発者コミュニティで高い評価を得ている。
Cognition(米国・2023年設立)は世界初のAIソフトウェアエンジニア「Devin」を開発した企業で、リポジトリ全体の理解、バグ修正、機能実装までを自律的に行う能力が話題になった。Harvey(米国・2022年設立)は法務AIに特化しており、契約書のレビューやリーガルリサーチをAIで自動化する。ファンが個人的に利用しているAIツール6社のなかにHarveyも含まれている。Replit(米国・2016年設立)はブラウザベースのAIコーディングプラットフォームで、コード生成から実行、デプロイまでを一気通貫で提供する。Lovable(スウェーデン)はAIによるアプリ構築プラットフォームで、プロンプトだけでアプリケーションを生成できる点が注目されている。OpenEvidence(米国)は医療エビデンスに特化したAIで、これもファンが個人利用するツールとして挙げた [5]。
このカテゴリにはCodium(現Qodo、イスラエル発)やGitHub Copilotの競合となる企業が複数含まれていたと見られ、AIによるソフトウェア開発の変革がNVIDIAのエコシステムにおいても中心的なテーマであることが分かる。
ヘルスケアとライフサイエンス——創薬AIの最前線
ヘルスケア領域のAIネイティブ企業は、LinkedIn上のHealthcare AI Guyの分析によれば8社が確認されている。Arc Institute(米国・2021年設立)はスタンフォード大学、UCバークレー、UCSFの研究者が集う非営利研究所で、バイオAIの発展を推進している。Biohub(米国)はマーク・ザッカーバーグとプリシラ・チャンのChan Zuckerberg Initiative傘下の研究拠点で、感染症やヒト細胞のアトラス作成にAIを活用する。
Isomorphic Labs(英国・2021年設立)はAlphabet傘下のDeepMindからスピンオフした創薬AI企業で、AlphaFoldの技術をベースに分子レベルの予測を行う。英国拠点という点で、米国一辺倒ではないリストの多様性を示す存在だ。Chai Discovery(米国・2023年設立)もAI創薬モデルを開発しており、分子の相互作用予測に強みを持つ。ワシントン大学のInstitute for Protein Design(タンパク質設計研究所)もリストに入っており、デビッド・ベイカー教授率いるこの研究所は2024年にノーベル化学賞を受賞したことで知られる [6]。
Recursion Pharmaceuticals(米国・2013年設立)もNVIDIAと深い関係を持つTechBio企業で、自社の実験室で生成したデータとAIを組み合わせた創薬プラットフォームを運営している。日本にもPFNやMOLCURE、Elix、理化学研究所の関連プロジェクトなど創薬AIの取り組みは存在するが、103社のスライドには含まれなかった。
AIインフラとクラウド——「AIファクトリー」を支える屋台骨
NVIDIAの「AIファクトリー」構想を最も直接的に支える企業群がAIインフラ領域だ。CoreWeave(米国・2017年設立)はKubernetesネイティブなAIクラウドプラットフォームで、NVIDIA GPUに特化した高速なインスタンス起動を売りにしている。2025年にはIPOを果たし、Weights & Biases(W&B)を買収するなど急拡大中だ。Nebius(ロシア発→オランダ本社・2024年再編)はYandexのクラウド部門を母体とするフルスタックAIクラウドで、GTC 2026に合わせてNVIDIAとの大型パートナーシップを発表した。
Lambda(米国・2012年設立)はGPUクラウドの老舗で、研究者やスタートアップに手頃な価格でNVIDIA GPUへのアクセスを提供する。Together AI(米国・2022年設立)はオープンソースモデルのトレーニングとサービングに特化したプラットフォームだ。Cerebras(米国・2016年設立)はウェハースケールのAIチップという独自技術で注目を集め、Groq(米国・2016年設立)はLPU(Language Processing Unit)と呼ばれる推論特化チップを開発した。NVIDIAは実際にGTC 2026でGroqのシリコンと自社GPUを組み合わせた推論用サーバーラックを発表しており、競合であっても協力するという柔軟な姿勢を見せている。
Scale AI(米国・2016年設立)はAIモデルのトレーニングデータのラベリングと品質管理で圧倒的なシェアを持ち、米国政府や軍との契約でも知られる。Databricks(米国・2013年設立)とSnowflake(米国・2012年設立)はデータプラットフォームの両雄で、どちらもAIワークロードへの対応を急速に強化している [7]。
エンタープライズAIとエージェント——ビジネスの現場に浸透するAI
エンタープライズ領域では、Glean(米国・2019年設立)が社内検索AIとして存在感を示している。社内のあらゆるドキュメント、Slack、メール、ナレッジベースを横断的に検索し、AIが回答を生成するプラットフォームだ。Hebbia(米国・2020年設立)は金融・法務のプロフェッショナル向けにドキュメント分析AIを提供し、数百ページの契約書や決算資料を瞬時に理解・要約する能力を持つ。Decagon(米国)はAIカスタマーサポートエージェントを構築する企業だ。
LangChain(米国・2022年設立)はLLMアプリケーション開発のフレームワークとして事実上の標準の地位を築きつつあり、NemotronコアリションにもCursor、Mistral AI、Perplexityとともに参加している [8]。
TIMEWELLが提供するZEROCKも、エンタープライズAIの領域でGraphRAGやナレッジコントロールを活用した社内情報検索を実現している。NVIDIAの103社リストに日本企業が入るためには、こうしたエンタープライズAIの領域でグローバルな認知を獲得することが一つの突破口になるかもしれない。
クリエイティブAIと新興国のプレーヤー
メディア・クリエイティブ領域も103社の重要な構成要素だ。Runway(米国・2018年設立)はAI動画生成のパイオニアで、Gen-3と呼ばれるモデルはハリウッドのプロダクションでも使われ始めている。Pika Labs(米国・2023年設立)はスタンフォード大学の研究者が立ち上げた動画生成AIで、5,500万ドルを調達済み。Black Forest Labs(ドイツ・2024年設立)はStable Diffusionの元開発者が設立した画像生成AI企業で、FLUXモデルで注目を集めている。ElevenLabs(米国/英国・2022年設立)は音声合成AIのリーダーだ。
新興国からの企業も見逃せない。Sarvam AI(インド・2023年設立)はインドの主権的言語AIの開発に取り組んでおり、ヒンディー語をはじめとする複数のインド言語に対応したモデルを構築している。Thinking Machines Lab(フィリピン)もNemotronコアリションに名を連ねている。
このリストにイスラエル、ノルウェー、ドイツ、フィリピン、インドといった多様な国の企業が含まれている。AIネイティブ企業のグローバル分布は、もはや「シリコンバレーだけの話」ではない。にもかかわらず、日本からの参入がゼロだったという事実は、技術力の問題だけでなく、NVIDIAのエコシステムのなかで「見える存在」になれていないことを示唆している [9]。
なぜ日本企業はゼロだったのか——構造的な課題
正直なところ、このリストに日本企業がないことに驚きはあっても、衝撃はなかった。理由はいくつかある。
まず、「AIネイティブ」の定義そのものが、日本のAIエコシステムと噛み合わない。ジェンセン・ファンが言うAIネイティブとは、創業時からAIを中核に据え、AIなしでは存在しえない企業のことだ。日本にはPreferred Networks、Sakana AI、AI insideといった優れたAI企業が存在するが、NVIDIAのGPUをどれだけ大規模に消費しているか、世界市場でどれだけのプレゼンスを持っているかという基準では、まだ103社に割り込むには力不足なのだろう。
次に、日本のスタートアップエコシステムが持つ構造的な制約がある。1,500億ドルというAIネイティブ企業への年間VC投資のうち、日本からの調達額は微々たるものだ。米国のScale AIが数十億ドル規模の評価額を持ち、Figure AIが1回のラウンドで10億ドル以上を集める世界で、日本のAIスタートアップの資金調達規模は1桁から2桁小さい。
もう一つ、見過ごせないのがNVIDIAとの関係性の深さだ。103社の多くはNVIDIAの直接投資先であり、NVIDIAのDGX CloudやNIM、Omniverse、DRIVE AGXといったプラットフォームの主要ユーザーでもある。NVIDIAは2024年11月に東京で「AI Summit Japan」を開催し、ソフトバンクの孫正義と対談している。だが、これらはあくまで「大企業によるAI基盤整備」であって、「AIネイティブ企業の輩出」とは別の話だ [10]。
103社が示す「次の10年」の産業地図
このスライドを「NVIDIAのお気に入りリスト」と矮小化するのは簡単だが、筆者はそうは思わない。ここに並んだ103社は、今後10年間で既存産業を根本から書き換える可能性を持つ企業群だ。Waymoが公道を走り、Harveyが法務を自動化し、Isomorphic Labsが創薬を加速し、Figure AIがヒューマノイドロボットを工場に送り込む。
リスト入りした企業の多くは、まだ赤字だ。だが、ファンの視点では、これはインターネット黎明期の1990年代後半と同じ風景なのだろう。NVIDIAが103社を「AIネイティブ」と認定したのは、収益性への保証ではなく、プラットフォームシフトが本物であるという宣言に他ならない。
そして、この宣言のなかに日本の名前がないことは、日本のAI産業にとって、危機感を抱くべきシグナルだと筆者は考えている。世界のAI産業の主戦場がどこにあり、日本がそこにどうアクセスするかを真剣に考える時期に来ている。NVIDIAのGPUを買うだけでなく、NVIDIAに「次のスライドには載せたい」と思わせるような企業を、この国から生み出す必要がある。
参考文献
[1] Forbes. "A List Of All 103 AI Native Companies Nvidia's Jensen Huang Presented." https://www.forbes.com/sites/josipamajic/2026/03/17/a-list-of-all-103-ai-native-companies-nvidias-jensen-huang-presented/ (2026-03-17)
[2] Constellation Research. "Nvidia GTC 2026: We're a software company too." https://www.constellationr.com/insights/news/nvidia-gtc-2026-were-software-company-too (2026-03-17)
[3] Investing.com. "NVIDIA at GTC 2026: AI Expansion and Strategic Partnerships (Transcript)." https://www.investing.com/news/transcripts/nvidia-at-gtc-2026-ai-expansion-and-strategic-partnerships-93CH-4564073 (2026-03-17)
[4] NVIDIA Newsroom. "NVIDIA Announces Open Physical AI Data Factory Blueprint." http://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-announces-open-physical-ai-data-factory-blueprint-to-accelerate-robotics-vision-ai-agents-and-autonomous-vehicle-development (2026-03-17)
[5] Yahoo Finance. "Jensen Huang name-checks 6 AI companies." https://finance.yahoo.com/news/jensen-huang-name-checks-6-085752539.html (2026-03-17)
[6] LinkedIn (Healthcare AI Guy). "Jensen named 103 companies 'AI Native' at NVIDIA GTC." https://www.linkedin.com/posts/healthcareaiguy_jensen-named-103-companies-ai-native-at-activity-7439794964995223553-JNmB (2026-03-17)
[7] LinkedIn (Deedy Das). "Every single one of the 103 companies Jensen called AI Native at NVIDIA GTC today." https://www.linkedin.com/posts/debarghyadas_every-single-one-of-the-103-companies-jensen-activity-7439529024294588416-m_2g (2026-03-17)
[8] NVIDIA Newsroom. "NVIDIA Launches Nemotron Coalition of Leading Global AI Labs." http://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-launches-nemotron-coalition-of-leading-global-ai-labs-to-advance-open-frontier-models (2026-03-17)
[9] note.com. "NVIDIAのジェンセン・ファンCEOが発表した『103社のAIネイティブ企業』のリストに日系企業が一つもない." https://note.com/fair_godwit545/n/n067b4d6c3041 (2026-03-17)
[10] Fortune. "The day tech stood still to watch the Jensen Huang show." https://fortune.com/2026/03/17/the-day-tech-stood-still-to-watch-the-jensen-huang-show-nvidia/ (2026-03-17)
