株式会社TIMEWELLの濱本です。アメリカ市場への輸出は、日本企業にとって依然として魅力的な成長機会です。ただ、その裏側で動いている輸出管理の仕組みは、ここ1〜2年で別物と言っていいほど変わりました。特に2025年秋に導入されたEARのアフィリエイトルール、そして2026年2月に最高裁判決が出たトランプ関税の混乱は、実務担当者にとって無視できないインパクトがあります。
私自身、クライアント企業の輸出管理支援に関わる中で「ここまで変わるのか」と感じた場面が何度もありました。今回は、アメリカ向け輸出で実際にトラブルになりやすいポイントを、できるだけ現場目線で整理してみます。
アメリカの輸出管理が厳しくなっている背景
アメリカの輸出管理は、手続きの話ではなく安全保障の話です。先端半導体やAI関連技術の軍事転用リスク、テロ支援国家への物資流出を防ぐという目的のもと、規制は年々厳格化しています。
違反した場合のペナルティは深刻で、1件あたり最大30万ドルの民事罰金、あるいは取引額の2倍の罰金が科される可能性があります。刑事罰の場合は最大100万ドルの罰金と20年の禁固刑。企業の輸出権が剥奪されれば、事業そのものが立ち行かなくなる。
2025年以降、この流れはさらに加速しています。
EARアフィリエイトルールが変えたゲームのルール
2025年9月29日、米国商務省産業安全保障局(BIS)が発表した暫定最終規則の中で、最もインパクトが大きかったのが「アフィリエイトルール」です。別名「50%ルール」とも呼ばれています。
EAR(米国輸出管理規則)は、米国の安全保障や外交政策上の理由から、特定の貨物やソフトウェア、技術の輸出や再輸出を規制する法律です。規制対象の品目や取引相手によっては、BISからのライセンスが必要になります。
従来、EARの規制はEntity List(エンティティリスト)などに名前が載っている企業そのものだけに適用されていました。子会社や関連会社は、別の法人格であれば規制の対象外だった。
アフィリエイトルールは、この前提をひっくり返しました。
Entity List、MEU List(軍事最終用途・使用者リスト)、特定のSDNリスト(特別指定国民リスト)に掲載されている事業体が、直接または間接に50%以上所有する外国企業にも、親会社と同じ規制が自動的にかかるようになったのです。
間接所有の連鎖に注意
厄介なのは「間接所有」の計算方法です。BISの公式FAQにこんな例が載っています。
Entity List掲載の企業Aが、未掲載の企業Bを50%所有。企業Bは未掲載の企業Cを50%所有。この場合、企業Bはアフィリエイトルールで規制対象になり、企業Cも企業Bの50%子会社として規制対象になる。
数学的に「50%の50%だから25%」と薄めて計算するのではなく、各段階で50%に達しているかどうかを判定していく。この考え方はOFAC(米財務省外国資産管理局)の50%ルールと同じ方式です。取引先の資本関係を、表面だけでなく何層も掘り下げて調べなければならなくなりました。
複数リスト掲載者が所有する場合
もう一つ押さえておきたいのが「最も制限的なルール」の適用です。MEU List掲載企業が48%、Entity List掲載企業が2%を所有している会社があったとします。合計50%でアフィリエイトルールの対象になりますが、適用される規制はより厳しいEntity Listの基準です。わずか2%の所有でも、最も厳しい規制が全体に波及する。
Red Flag No.29と厳格責任
BISはこのルールと合わせて「Red Flag No. 29」を新設しました。取引相手の外国企業にEntity ListやMEU List掲載者が所有者にいると知っている場合、所有割合を確認する積極的な義務が課されます。確認できなければ、ライセンスを申請するしかありません。
このルールは厳格責任ベースで執行されます。「知らなかった」は免責の理由にならない。所有権構造の分析が可能な第三者スクリーニングツールの導入など、従来とは次元の異なるデューデリジェンス体制が求められています。
CSL Searchだけでは足りなくなった
取引先のスクリーニングといえば、米国政府が提供するConsolidated Screening List(CSL)の検索ツール、いわゆるCSL Searchが定番でした。Entity ListやSDN Listなど複数の規制リストを一括検索できるため、多くの企業が一次スクリーニングに使っています。
ところが、アフィリエイトルールの導入で状況が変わりました。アフィリエイトルールで新たに規制対象となった企業は、CSLには掲載されません。親会社がリストに載っていても、その50%子会社の名前はCSLに出てこないのです。
CSL Searchで「ヒットなし」と表示されても、実は規制対象企業の子会社だった、というケースが現実に起こり得る。CSLは引き続き有用なツールですが、それだけに頼る運用はもうリスクが高すぎます。資本構成や実質的支配者まで踏み込んだ調査プロセスを、スクリーニングのフローに組み込む必要があります。
日本側の規制も忘れてはいけない ── リスト規制とキャッチオール規制
アメリカの規制ばかりに目が行きがちですが、日本の輸出管理制度も当然クリアしなければなりません。外為法に基づく日本の制度は「リスト規制」と「キャッチオール規制」の2本柱で構成されています。
リスト規制は、大量破壊兵器や通常兵器の開発に転用される可能性のある貨物や技術を具体的にリストアップし、輸出に経済産業大臣の許可を求める制度です。輸出品がリストに該当するかどうかを判定する作業を「該非判定」と呼びます。
キャッチオール規制は、リスト規制に該当しない品目でも、用途や需要者に兵器開発の懸念がある場合に許可を求める、いわば「網」の役割を果たす制度です。食料品や木材など一部を除き、ほぼすべての品目が対象になります。
ここで見落としがちなのは、日本の規制とアメリカの規制は完全に独立しているという点です。日本の該非判定で「非該当」と出ても、EARでは規制対象になるケースがあります。たとえば、製品に米国製の部品やソフトウェアが組み込まれている場合、再輸出規制の対象となる可能性がある。日米両方の規制を並行してチェックする体制が不可欠です。
連邦法だけでは終わらない ── 州法という見えにくいハードル
アメリカでビジネスをする上で意外と見落とされるのが、連邦法と州法の二重構造です。
輸出管理規制そのもの(EARやITAR)は連邦法で定められており、ライセンスの申請先も連邦政府の機関です。ここまでは多くの企業が認識しています。
問題は、実際に製品を販売する段階で各州の法律が別途かかってくることです。
| 分野 | 具体例 | 影響 |
|---|---|---|
| 製造物責任(PL法) | 州法に由来し、訴訟条件や賠償額上限が州ごとに異なる | 消費者向け製品では特に注意が必要 |
| 環境規制 | カリフォルニア州Proposition 65(化学物質の警告表示義務) | 製品ラベルの変更が必要になる場合がある |
| データプライバシー | カリフォルニア州CCPA、各州の独自プライバシー法 | ソフトウェアやIoT製品で対応必須 |
| 商取引法 | 統一商法典(UCC)の州ごとの採用状況の違い | 契約条件の設計に影響 |
連邦の輸出管理をクリアしても、州法への対応を怠れば販売停止や集団訴訟に発展するリスクがあります。アメリカは一つの市場ではなく、50の異なる法域の集合体です。輸出先の州がどこかによって、チェックすべき法律が変わってくる。この認識を持っているかどうかで、トラブルの発生率は大きく変わります。
トランプ関税の混乱 ── 港で何が起きているか
ここからは、2025年から続くトランプ政権の関税政策が現場にもたらしている影響について触れます。
関税を巡る法的混乱
2025年、トランプ政権は国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に、中国をはじめ各国に対して追加関税を次々と発動しました。税率は25%から170%まで乱高下し、企業はコスト計算すらままならない状態が続きました。
2026年2月20日、米連邦最高裁はIEEPAに基づく関税を違法と判断。判事6対3の判決で、IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていないと結論付けました。
ただし、トランプ政権はすぐに1974年通商法122条を根拠とする10%の課徴金を全輸入品に課す代替措置を発動。USTRも301条に基づく新たな調査開始を表明しており、関税を巡る不確実性は解消されていません。
港湾の現場で起きていること
この混乱は、港湾の物流に直接的なダメージを与えています。
全米最大のロサンゼルス港では、2026年1月の貨物取扱量が前年同月比12%減少。約3年ぶりの低水準です。同港のジーン・セロカ局長は、中国向け輸出を「悲惨な状況」と表現しました。コンテナ化輸出は前年比26%減、大豆に至っては80%減という数字が出ています。
貨物量の減少は海上運賃の下落を招き、船会社は欠便(ブランクセーリング)で対応しています。その結果、アジアの港でコンテナが1〜2週間滞留する「ロールオーバー」が頻発。予定通りに荷物がアメリカに届かない事態が常態化しつつあります。
余談ですが、ロサンゼルス港の輸入に占める中国の割合は、2018年の60%から2026年時点で40%まで下がっています。ベトナムやタイ、インドネシアからの輸入が急増しており、サプライチェーンの地殻変動が起きている。ただ、セロカ局長が言うように「中国の一つの省すら、他の国で置き換えることはできない」というのが現実です。
既に支払ったIEEPA関税の還付がいつ実現するかも見通せず、企業のキャッシュフローを圧迫し続けています。
EX-CHECKでアフィリエイトルール対応を効率化する
CSLに名前が出てこない企業まで規制対象になる時代。人手だけでグループ構造を掘り下げるのは現実的ではありません。私たちTIMEWELLが開発したZEROCK EX-CHECKは、AIエージェントが取引先の懸念度を5秒で可視化し、マルチLLM合議によるクロスチェックで精度95%以上を達成しています。
エンティティリストやSDNリストへの直接該当だけでなく、関連会社構造まで踏み込んだスクリーニングを効率化できます。無料デモから実際の動作をご確認ください。
これからのアメリカ輸出に必要なこと
ここまで見てきた内容を踏まえて、対応のポイントを整理します。
| 領域 | やるべきこと |
|---|---|
| アフィリエイトルール対応 | 取引先の資本構成を50%ルールに基づいて調査する。間接所有の連鎖も確認する |
| スクリーニング体制 | CSL Searchに加え、所有権分析が可能なツールを導入する |
| 日本の輸出管理 | リスト規制の該非判定とキャッチオール規制のチェックを、EAR対応と並行して実施する |
| 州法対応 | 輸出先の州で適用されるPL法、環境規制、プライバシー法を事前に確認する |
| 物流リスク | 港湾の遅延や欠便を前提とした在庫計画と代替ルートを確保する |
個人的には、アフィリエイトルールの導入が最も大きな転換点だと考えています。CSLに名前が出てこない企業が規制対象になるという事実は、これまでの「リストを検索すれば大丈夫」という運用を根本から否定するものです。
輸出管理は法務部門だけの仕事ではなくなりました。営業、調達、物流、経営層まで含めた全社的な理解と体制構築が必要です。規制の変化は速く、半年前の知識がもう古くなっていることも珍しくありません。
困難な環境ではありますが、こうしたリスクを正しく理解し、適切に対応できる企業こそが、アメリカ市場で長期的に信頼を勝ち取れるのだと思います。
参考文献
- Baker McKenzie. (2025, October 2). BIS Introduces New "Affiliates Rule" Significantly Expanding Entity List, MEU List, and SDN End User Licensing Requirements Under the Export Administration Regulations. https://sanctionsnews.bakermckenzie.com/bis-introduces-new-affiliates-rule-significantly-expanding-entity-list-meu-list-and-sdn-end-user-licensing-requirements-under-the-export-administration-regulations/
