SaaS・クラウド用語集|ARR・MRR・チャーンレート等40語を初心者向けに解説
株式会社TIMEWELLの濱本です。SaaS業界に転職した、SaaS製品の導入を担当することになった、投資先のSaaS企業を評価する必要がある――そんな場面で「ARR」「NRR」「マルチテナント」といった用語に戸惑ったことはないでしょうか。SaaSビジネスには独自の指標と考え方があり、従来の「売り切り型」ビジネスとは評価軸がまったく異なります。この用語集では、SaaS・クラウドの世界で必ず出てくる40の基本用語を、ビジネス職の方にも伝わるように解説します。
目次
収益指標編
SaaS(Software as a Service) — 「買い切り」ではなく「使い放題の定額制」でソフトウェアを使うモデル。インストール不要でブラウザからアクセスでき、月額または年額で利用します。Gmail、Slack、Salesforceが代表例。TIMEWELL製品(ZEROCK、BASE、EX-Check)もこの形態で提供しています。
ARR(Annual Recurring Revenue / 年間経常収益) — SaaS企業の「体重計」。サブスクリプション契約から毎年繰り返し得られる収益で、MRRを12倍して算出します。「ARR100億円企業」のように事業規模の代名詞として使われ、一回きりのコンサル料や初期費用は含めません。
MRR(Monthly Recurring Revenue / 月次経常収益) — サブスクリプション契約から毎月繰り返し得られる収益です。新規MRR、拡張MRR(アップセル分)、解約MRR(チャーン分)に分けて追跡することで、収益の増減要因を把握できます。
New MRR(新規MRR) — その月に新たに獲得した顧客からの月次収益です。営業・マーケティング活動の成果を直接示す数字です。
Expansion MRR(拡張MRR) — 既存顧客がプランのアップグレードやオプション追加により増加した月次収益です。カスタマーサクセスの成果が数字として表れる部分です。
Churned MRR(解約MRR) — 解約やダウングレードにより減少した月次収益です。新規MRRと拡張MRRの合計が解約MRRを上回っていれば、事業は成長しています。
NRR(Net Revenue Retention / 売上維持率) — 「新規ゼロでも売上が伸びるか?」を測る指標。既存顧客からの収益が1年間でどの程度維持・成長したかを示し、アップセルの増収と解約の減収を差し引いて計算します。100%を超えていれば「ネガティブチャーン」——つまり既存顧客だけで収益が伸びている理想的な状態。優良SaaS企業はNRR 120%以上を目指します。
GRR(Gross Revenue Retention / 粗売上維持率) — NRRからアップセル分を除き、既存顧客の「離脱による収益減少」だけに注目した指標です。GRRが90%以上あれば、顧客基盤は安定していると判断されます。
ARPU(Average Revenue Per User / ユーザーあたり平均収益) — 全顧客から得られる収益を顧客数で割った値です。ARPUの推移を追うことで、値上げやアップセルが効いているかどうかがわかります。
ACV(Annual Contract Value / 年間契約額) — 一つの契約が1年間に生み出す収益額です。3年契約で300万円なら、ACVは100万円です。営業担当者の成績評価や目標設定に使われます。
次はお金の話からお客さまの話へ。SaaSビジネスでは「獲得」より「維持」の指標のほうが経営に効く場面が多いです。
顧客指標編
チャーンレート(Churn Rate / 解約率) — SaaSの天敵。一定期間内に解約した顧客の割合で、いくら新規を獲得しても、チャーンが高ければ穴の空いたバケツに水を注いでいるのと同じです。月次チャーン2%は一見小さく見えますが、年間で約21%の顧客が消える計算。甘く見てはいけない数字です。
カスタマーチャーン(Customer Churn) — 顧客数ベースの解約率です。100社のうち5社が解約すれば、カスタマーチャーンは5%です。
レベニューチャーン(Revenue Churn) — 収益ベースの解約率です。大口顧客が解約すると、カスタマーチャーンが低くてもレベニューチャーンは大きくなります。両方を並行して監視することが重要です。
LTV(Life Time Value / 顧客生涯価値) — 一人の顧客が契約期間全体を通じてもたらす収益の総額です。月額10万円のサービスを平均30か月利用するなら、LTVは300万円です。LTVはCAC(獲得コスト)との比較で使われ、LTV/CACが3倍以上であれば健全とされます。
CAC(Customer Acquisition Cost / 顧客獲得コスト) — 「お客さん一人を連れてくるのに、いくらかかった?」を表す数字。広告費、営業人件費、イベント費用などを新規顧客数で割って算出します。SaaSは初月から黒字になるビジネスではないので、CACの管理が文字どおり経営の生命線です。
余談ですが、CACの計算範囲をどこまで含めるかで社内の議論が紛糾するケースをよく見ます。広告費だけなのか、マーケティングチームの人件費も含むのか、展示会のブース代は?——正解は「自社で統一基準を決めて、毎月同じルールで追跡すること」です。絶対値より推移のほうが大事です。
CAC回収期間(CAC Payback Period) — CACを回収するまでにかかる月数です。月額10万円のサービスで、CACが120万円なら回収期間は12か月です。一般に12〜18か月以内が目安とされます。
オンボーディング(Onboarding) — 契約後の顧客に対して、製品を使い始められるよう支援するプロセスです。初期設定の支援、操作説明会の実施、キックオフミーティングなどが含まれます。オンボーディングの質が、その後の解約率に直結します。
カスタマーサクセス(Customer Success / CS) — 顧客が製品を通じて望む成果を達成できるよう、能動的に支援する部門・活動です。問い合わせに対応する「サポート」と異なり、利用状況を監視して先手を打つのが特徴です。SaaS企業ではカスタマーサクセスの質がNRRに直結します。
ヘルススコア(Health Score) — 顧客のサービス利用状況や関係性を数値で表したものです。ログイン頻度、機能利用率、サポート問い合わせ回数などを総合して算出し、解約リスクの高い顧客を早期に発見するために使います。
ここからは「SaaSの仲間たち」と、課金モデルの話です。PaaS、IaaSの違いは面接でも聞かれる定番テーマ。
サービス提供形態編
PaaS(Platform as a Service) — アプリケーション開発に必要な基盤(OS、ミドルウェア、データベースなど)をクラウドで提供するサービスです。HerokuやGoogle App Engineが代表的です。開発者はインフラの管理を気にせず、コードの開発に集中できます。
IaaS(Infrastructure as a Service) — サーバー、ストレージ、ネットワークなどのITインフラをクラウドで提供するサービスです。AWS EC2やGoogle Compute Engineが代表的です。自由度は高いですが、OSの設定やセキュリティ対策は利用者の責任です。
BPaaS(Business Process as a Service) — 業務プロセスそのものをクラウドで提供するサービスです。経理代行、給与計算、物流管理などを、ソフトウェアと人的サービスの組み合わせで提供します。
フリーミアム(Freemium) — 「無料(Free)」+「プレミアム(Premium)」の造語。基本機能をタダで使わせて大量にユーザーを集め、その一部を有料プランに転換して収益化する戦略です。Slack、Zoom、Notionが代表例。無料ユーザーの何%が課金に至るか(コンバージョン率)がこのモデルの生命線になります。
プライシングモデル(Pricing Model) — SaaSサービスの料金体系のことです。ユーザー数課金、従量課金、機能別のティア制など複数のモデルがあり、顧客のニーズに合った設計がLTVの最大化に直結します。
ここからは技術寄りの話が増えますが、SaaS選定時に「マルチテナントですか?SSOは対応していますか?」と聞ける知識は、非エンジニアにも役立ちます。
技術・アーキテクチャ編
マルチテナント(Multi-tenant) — マンションのイメージ。一棟の建物(システム基盤)に複数の住人(顧客)が住み、壁(セキュリティ)で区切られています。運用効率が高く、SaaSの大半はこの方式。ただし「隣の部屋の騒音」的に、他テナントの高負荷が自社に影響するリスクもゼロではありません。
シングルテナント(Single-tenant) — 一つの顧客に専用のシステム環境を用意するアーキテクチャです。セキュリティやカスタマイズの要件が厳しい大企業向けに提供される場合があります。コストはマルチテナントより高くなります。
SSO(Single Sign-On / シングルサインオン) — 一度のログインで複数のSaaSサービスに認証なしでアクセスできる仕組みです。従業員がサービスごとに異なるパスワードを管理する手間を省き、セキュリティも向上します。エンタープライズ契約の必須要件になっていることが多い機能です。
SAML(Security Assertion Markup Language) — SSOを実現するための認証プロトコルの一つです。企業のID管理システム(IdP)とSaaSサービス(SP)間で認証情報を安全にやりとりします。「当社のActive DirectoryでSaaSにログインしたい」という要望に応える技術です。
API連携(API Integration) — SaaSサービス同士をAPIで接続し、データを自動的にやりとりする仕組みです。たとえば営業管理ツール(SFA)と会計ソフトをAPI連携すれば、受注データが自動で売上に反映されます。
Webhook(ウェブフック) — 「何か起きたら教えて」を自動化する仕組み。あるサービスでイベントが発生したとき、別のサービスへ自動的に通知を送ります。「新しい問い合わせが来たらSlackに通知」がわかりやすい例。APIがこちらから聞きに行く「プル型」なのに対し、Webhookは向こうから知らせてくれる「プッシュ型」です。
契約・運用編
SLA(Service Level Agreement / サービスレベル契約) — 「何かあったとき、どこまで保証してくれるの?」を明文化した契約です。稼働率99.9%保証、障害時は2時間以内に復旧、SLAを下回ったらサービスクレジット(返金)——こうした内容が記載されます。契約前に必ず確認すべきポイントです。
アップタイム(Uptime / 稼働率) — 99.9%と聞くと「ほぼ完璧」に思えますが、年間に換算すると約8.8時間のダウンタイムが許容される計算です。99.99%(フォーナイン)なら約53分、99.999%(ファイブナイン)なら約5分。「9がいくつ並ぶか」で運用コストが桁違いに変わるため、自社に必要な水準を見極めることが大切です。
SoC 2(Service Organization Control 2) — クラウドサービスのセキュリティ、可用性、処理の完全性、機密性、プライバシーに関する第三者認証です。エンタープライズ顧客がSaaS導入時に要求することが多く、取得していないと商談で不利になります。
ISO 27001 — 情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際規格です。組織が情報セキュリティのリスクを体系的に管理していることを第三者が認証します。SaaS提供者にとって、顧客の信頼を得るための基本資格です。
データポータビリティ(Data Portability) — サービスを解約する際に、蓄積したデータを他のサービスへ移行できること、またはエクスポートできることです。ベンダーロックインを避けるために、契約前に確認しておくべきポイントです。
ベンダーロックイン(Vendor Lock-in) — 「引越ししたいのに荷物が運び出せない」状態。特定のサービスに依存しすぎて乗り換えが困難になることです。独自形式でデータを保存するサービスや、APIが非公開のサービスはロックインリスクが高い。契約前に「データのエクスポートはできるか」を確認しておきましょう。
ここで一つ、SaaS選定でありがちな失敗を共有します。導入時は「機能の多さ」で選びがちですが、3年後に効いてくるのは「データの持ち出しやすさ」と「API連携の柔軟さ」です。乗り換えコストが高すぎるサービスを選んでしまうと、不満があっても使い続けるしかなくなる——これがベンダーロックインの本質です。
まとめ
SaaS・クラウドの用語は、「収益の見方」「顧客管理の考え方」「技術的な仕組み」の3つに分けて理解すると頭に入りやすくなります。
押さえておきたいポイントを整理します。
- SaaSビジネスはARR/MRRの成長率とチャーンレートで健全性が測られる
- NRRが100%を超える「ネガティブチャーン」が優良SaaSの条件
- LTV/CACが3倍以上、CAC回収期間が18か月以内が健全な目安
- カスタマーサクセスの質がNRRとチャーンレートに直結する
- SSOやAPI連携はエンタープライズ導入の必須要件
SaaS市場はここ数年で急速に成熟し、「機能で差がつかない」時代に入りつつあります。選定の決め手は、カスタマーサクセスの質、API連携の柔軟さ、そしてデータポータビリティに移ってきている——というのが、複数のSaaS企業を見てきた私の実感です。TIMEWELLが提供するZEROCK、BASE、EX-Checkは、SSO対応、API連携、エンタープライズグレードのセキュリティ基準を満たしたクラウドサービスです。SaaS選定の相談も受け付けていますので、お気軽にどうぞ。
