こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本隆太です。
量子コンピューティング業界に大きな動きがありました。超電導量子コンピュータのパイオニアであるRigetti Computing(リゲッティ・コンピューティング)が、世界最大のノートPC・サーバー製造企業Quanta Computer(クアンタ・コンピューター、年間売上高430億ドル)と戦略的提携を締結し、3,500万ドル(約52億円)の出資を受けたことが明らかになりました。
この提携は、量子コンピュータの「研究段階から商用化段階への移行」を象徴する出来事です。本記事では、提携の詳細、量子コンピューティング業界の競争環境、そして企業が備えるべきポイントを解説します。
Rigetti×Quanta提携の全貌
提携の経緯
2025年2月27日にRigettiとQuantaの戦略的協業契約が発表され、2025年4月30日にQuantaからRigettiへの3,500万ドルの株式投資がクローズしました。株式は1株あたり約11.59ドルで取得されています。
提携の内容
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 投資額 | 3,500万ドル(約52億円) |
| 投資形態 | 株式投資(1株約$11.59) |
| 協業期間 | 5年間 |
| 総投資規模 | 双方合わせて1億ドル以上(5年間) |
| 目的 | 超電導量子コンピューティングの開発・商用化加速 |
なぜこの提携が重要なのか
Rigetti側の強み: 超電導量子チップの設計・製造からソフトウェアプラットフォームの開発まで、ハードウェアとソフトウェアの垂直統合を実現する数少ない量子コンピューティング企業です。独自のFab-1量子チップ製造施設を保有しています。
Quanta側の強み: ノートPC、サーバー、ワークステーションの受託製造で世界最大のシェアを持つ企業です。Apple、Dell、HPなど主要メーカーの製品を製造しており、大量生産と品質管理のノウハウは世界トップクラスです。
両社の強みを組み合わせることで、量子コンピュータの「スケールアップ」と「コスト削減」を同時に実現することが期待されています。
量子コンピューティングの基本と現在地
量子コンピュータの現在の技術水準を理解するために、基本的な仕組みと最新の開発状況を整理します。
量子コンピュータとは
従来のコンピュータが0または1の「ビット」で情報を処理するのに対し、量子コンピュータは量子力学の原理を応用した「量子ビット(キュービット)」を使用します。量子ビットは0と1の「重ね合わせ」状態を取ることができ、この特性を活用することで特定の計算を飛躍的に高速化できます。
量子コンピューティングの主要方式
| 方式 | 代表企業 | 特徴 |
|---|---|---|
| 超電導方式 | Rigetti、IBM、Google | 極低温で動作、最も開発が進んでいる |
| トポロジカル方式 | Microsoft | エラー耐性が高い理論的優位性、実用化はこれから |
| イオントラップ方式 | IonQ、Quantinuum | 高い量子ビット品質、スケーラビリティが課題 |
| 光量子方式 | Xanadu、PsiQuantum | 室温動作可能、大規模化に期待 |
Rigettiは超電導方式を採用しており、2025年中頃に36量子ビットのモジュラーシステムをリリース予定、年末までに100量子ビット以上のシステムを目標としています。
Google・IBM・Microsoftとの競争環境
量子コンピューティング業界では、Rigetti以外にもテクノロジー大手が激しい開発競争を繰り広げています。
主要プレイヤーの開発状況(2025〜2026年)
Google: 量子チップ「Willow」を発表し、大きな注目を集めました。Googleの親会社Alphabetの株価はAIブームと量子コンピューティングへの期待から約90%上昇しています。2019年に「量子超越性」の達成を発表した実績があり、業界をリードする存在です。
IBM: 2025年にKookaburraプロセッサ(1,386量子ビット)のロードマップを公開。3つのチップを量子通信リンクで接続し、合計4,158量子ビットのシステムを構築する計画です。2025年11月にはIBM Quantum Nighthawk(120量子ビット)を発表し、エラー率を維持しながら30%複雑な回路を実行できることを実証しました。
Microsoft: 独自の「トポロジカル量子ビット」の開発を進めており、理論的にはエラー率が極めて低い量子コンピュータを実現できる可能性があります。Azure Quantumを通じてクラウド型の量子コンピューティングサービスも提供しています。
市場規模の予測
| 年 | 市場規模 |
|---|---|
| 2025年 | 約35億ドル |
| 2026年 | 約14.7億ドル(別推計) |
| 2030年 | 約200億ドル |
| 2035年 | 約95.5億ドル(別推計) |
※市場規模の推計は調査機関により異なります。CAGR(年平均成長率)は41.8%と予測されており、急速な成長が見込まれています。
量子コンピュータの実用化に向けた課題
量子コンピュータの商用化には、まだいくつかの重要な技術的課題が残されています。
主要な技術課題
1. 量子ビット数のスケールアップ
現在の量子コンピュータは数十〜数百量子ビットの規模です。実用的な問題を解くためには数千〜数万の量子ビットが必要とされています。量子ビットを増やすほど極低温環境(約-273度)の維持が困難になり、技術的な難易度が指数関数的に上がります。
2. エラー訂正技術の確立
量子ビットは環境ノイズに極めて敏感で、計算エラーが発生しやすい特性があります。論理量子ビット(エラー訂正された量子ビット)を実現するには、多数の物理量子ビットが必要です。Rigettiのモジュラーアーキテクチャは、この課題に対する一つの解決策として注目されています。
3. ソフトウェアとアルゴリズムの整備
ハードウェアの進化に加え、量子コンピュータの性能を引き出すためのアルゴリズムやプログラミングツールの開発も不可欠です。Rigettiはハードウェアとソフトウェアの両方を自社で開発するフルスタック企業であり、この点が競争優位となっています。
量子コンピュータが変える産業の未来
量子コンピュータが実用化されると、以下の分野で革新的な変化が起こると予測されています。
主な応用分野
- 創薬・材料科学: 分子シミュレーションの高速化により、新薬候補の探索や新素材の設計を効率化
- 金融工学: ポートフォリオ最適化やリスク計算の高速化で、金融モデルの精度を向上
- 物流・最適化: 配送ルートの最適化やサプライチェーン管理の効率化
- 暗号技術: 現在の暗号方式が量子コンピュータで解読される可能性があり、量子耐性暗号(PQC)の開発が急務
- 機械学習: 量子機械学習による新たなAIモデルの可能性
企業が今から備えるべきこと
量子コンピュータの本格的な商用化は2027〜2030年頃と予測されていますが、企業は今から準備を始める必要があります。特に暗号技術の移行(ポスト量子暗号への対応)は喫緊の課題です。
TIMEWELLでは、量子コンピューティングやAIなどの最新テクノロジーが企業のビジネスに与える影響を分析し、中長期的なDX戦略の策定を支援するコンサルティングサービス「WARP」を提供しています。テクノロジーの進化を先取りし、競争優位を構築するための戦略立案から実行まで、専門家チームが伴走します。
今後の注目ポイント
2026年以降、量子コンピューティング業界では以下の動きが注目されます。
- Rigettiの100量子ビット超システムのリリース: Quanta Computerとの協業による量産体制の構築が鍵
- Google Willowの次世代チップ: 量子超越性の実証範囲を拡大
- IBM Quantum Network: 4,000量子ビット超のマルチチップシステムの実現
- 量子クラウドサービスの普及: AWS Braket、Azure Quantum、IBM Quantum Networkを通じたQaaS(Quantum as a Service)の拡大
- 量子耐性暗号の標準化: NISTによるポスト量子暗号標準の実装が各企業で本格化
まとめ
- Rigetti ComputingとQuanta Computerが5年間・1億ドル規模の戦略的提携を締結し、3,500万ドルの出資が完了
- Rigettiのフルスタック量子技術とQuantaの大量生産能力を組み合わせ、超電導量子コンピュータの商用化を加速
- Google、IBM、Microsoftなど大手テクノロジー企業との競争が激化し、業界全体の開発スピードが加速
- 量子コンピューティング市場はCAGR 41.8%で急成長し、2030年には約200億ドル規模に達する見通し
- 量子ビット数のスケールアップとエラー訂正技術の確立が実用化への最大の課題
- 創薬、金融、物流、暗号技術など幅広い分野での産業変革が期待されている
