株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。
スタートアップ界隈で、スマートラウンド証券が第一種金融商品取引業の登録を完了したというニュースが話題になっています1。登録の種別は「非上場有価証券特例仲介等業務」で、日本証券業協会への加入手続を経て、セカンダリー取引を中心とした未上場株式のサービスを提供する予定とされています。
「セカンダリー」という言葉は業界では当たり前に使われますが、これから起業する方や、株主になったばかりの方には分かりにくい言葉だと思います。しかも今回は制度の話が絡んでいて、なぜ今なのかが分かりにくい。
そこで、セカンダリー取引とは何かというところから、法改正で何が変わったのか、そして起業家にとって実際にどう良いのか、逆に何に気をつけるべきかまでを整理します。
この記事の要点
- セカンダリー取引とは、すでに発行された株式を既存株主が他の投資家に売る取引。会社にお金は入らない
- 日本では未上場株の買い手を見つけること自体が難しく、創業者も従業員も、上場するまで株式を現金化できない状態が続いてきた
- 制度が動いた根拠は令和6年法律第32号。関係する政省令は2025年5月1日施行
- 非上場有価証券特例仲介等業務が創設され、自己資本規制比率・兼業規制・責任準備金の規制が適用除外に
- あわせて、流動性の低い未上場有価証券のみを扱う私設取引システム(PTS)は認可不要となり、登録だけで運営できるようになった
- ただし対象は「特定投資家等」。一般個人が自由に売買できる市場ではない
- 起業家にとっての意味は、採用力・出口の多様化・IPOを急がない選択肢の3つが大きい
- 一方で、譲渡承認の運用、株価の扱い、株主構成の変化は経営マターとして先に方針を決めておくべき
そもそもセカンダリー取引とは
プライマリーとセカンダリーの違い
株式の取引には2種類あります。
| 何をするか | お金はどこへ | |
|---|---|---|
| プライマリー(発行市場) | 会社が新しく株式を発行して投資家に引き受けてもらう | 会社に入る |
| セカンダリー(流通市場) | すでにある株式を、持っている人が別の人に売る | 売った株主に入る。会社には入らない |
スタートアップが「シリーズAで10億円調達しました」というのはプライマリーです。新株を発行して、その対価が会社の口座に入り、採用や開発に使われます。
セカンダリーは違います。 創業者や初期の投資家、あるいはストックオプションを行使した元従業員などが、持っている株式を誰かに売る。お金は売った本人に入り、会社の資金は1円も増えません。
ここが最初の分かれ目です。「セカンダリーで資金調達した」という言い方は、正確ではありません。
上場株では当たり前のこと
普段ニュースで見る株式市場の売買は、ほぼすべてセカンダリーです。トヨタの株を証券会社経由で買うとき、トヨタにお金は入りません。前の持ち主に入ります。
つまりセカンダリー取引自体は特別なものではなく、上場企業では毎日、当たり前に行われていることです。問題は、それが未上場株ではほとんど成立してこなかったことにあります。
なぜ日本で育たなかったのか
理由はいくつも重なっています。
買い手が見つからない。 未上場株には市場がありません。売りたい人がいても、買いたい人をどうやって探すのか。人づてに当たるしかない状態が続いてきました。
値段が分からない。 上場株なら株価が表示されますが、未上場株の価値は直近の資金調達ラウンドの条件などから推定するしかありません。売り手と買い手で見方が割れます。
手続が重い。 多くのスタートアップの株式には譲渡制限が付いています。定款で「譲渡には取締役会の承認が必要」と定めているのが一般的で、当事者同士で合意しても会社の承認が要ります。
そして規制。 未上場株の仲介をビジネスとして行うには金融商品取引業の登録が必要ですが、第一種金融商品取引業の要件は重い。自己資本規制比率、兼業規制、責任準備金の積立といった規制は、本来は上場株を大量に扱う証券会社を想定したものです。未上場株を細々と仲介するだけの事業者には、明らかに過剰でした。
結果として何が起きたか。創業から上場まで10年近くかかることも珍しくない中で、創業者も従業員も、その間ずっと株式を現金化できないという構造が固定されていました。
制度が動いた
ここが今回のニュースの背景です。
令和6年の金融商品取引法改正
根拠は「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第32号)です。関係する政令は2025年3月25日に閣議決定・3月28日公布され、内閣府令等とあわせて2025年5月1日から施行されました2。
改正の要綱には、こう書かれています3。
5.非上場有価証券特例仲介等業務に関する規定の整備 特定投資家等を対象とした非上場有価証券の仲介等の業務のみを行う第一種金融商品取引業者について、自己資本規制比率に関する規制、兼業規制及び金融商品取引責任準備金の積立に関する規制の適用を除外することとする。
要するに、未上場株の仲介だけをやる事業者には、重い規制を外すという趣旨です。
さらにもう1点、見落とされがちですが重要な改正があります。
6.私設取引システム運営業務に関する規定の整備 ⑴ 流動性の低い非上場有価証券のみを取り扱い、かつ、取引規模が限定的である私設取引システム運営業務については、その業務を行うに当たっての認可を要さないこととし、第一種金融商品取引業の登録により行えることとする。
私設取引システム(PTS)とは、取引所を通さずに株式を売買できる仕組みのことです。これまで運営には認可が必要でしたが、未上場株に限り、登録だけでできるようになりました。
仲介の規制を緩め、取引の場をつくるハードルも下げた。 この2つがそろって、はじめてセカンダリーの「市場」を作れる条件が整ったことになります。
そして今回の登録
2026年8月21日、スマートラウンド証券株式会社が、この非上場有価証券特例仲介等業務として第一種金融商品取引業の登録を完了しました(関東財務局長(金商)第3539号)1。日本証券業協会への加入手続などを経て、サービス提供を開始する予定とされています。
制度が2025年5月に動き出し、そこに乗る事業者が実際に登録まで到達した、という流れです。
起業家にとって何が良いのか
ここが本題です。順に見ていきます。
1. 採用の説得力が変わる
いちばん大きいのはここだと思っています。
スタートアップが優秀な人を採るとき、給与では大企業に勝てないことが多い。そこでストックオプションを出すわけですが、**候補者からすれば「上場したら価値が出るかもしれない紙」**です。しかも上場までの期間は読めません。
セカンダリーの経路があると、この説明が変わります。**「上場しなくても、一定の条件のもとで現金化の道がある」**と言えるかどうかは、意思決定の重さがまるで違います。
特に、二社目・三社目の転職を考えている30代・40代にとっては切実です。子どもの教育費や住宅ローンを抱えながら「10年後に価値が出るかもしれない」と言われても、乗れない。ここで人材を取りこぼしてきたスタートアップは多いと感じています。
2. 創業者が長期でリスクを取れるようになる
創業者が保有株の一部を売って現金化することについては、賛否があります。「コミットが下がるのでは」という見方は当然あるでしょう。
ただ実務的には、逆の効果のほうが大きい場面もあります。 生活が完全に会社に依存していると、短期でのイグジットへの誘惑が強くなる。目の前の買収提案を受けるかどうかで、経営判断が財務事情に引きずられます。
一部でも現金化できていれば、「いま売らない」という判断がしやすくなる。長い時間をかけて大きくする、という選択が現実的になります。
もっとも、どれだけ売るかは資本政策の問題です。次のラウンドの投資家がどう見るかにも直結します。ここは必ず投資家と事前に相談すべき領域です。
3. エンジェル投資が回りはじめる
見落とされがちですが、エコシステム全体への効果があります。
初期に投資したエンジェルや小規模ファンドは、上場まで待たないと資金が戻りません。戻らなければ、次の起業家に投資できない。 日本でエンジェル投資が広がりにくい理由のひとつがこれです。
セカンダリーで途中の出口ができれば、回収した資金が次のスタートアップに回る。10年に1回しか回らなかったお金が、5年で回るようになる。これは母数の問題として効いてきます。
4. IPOを急がなくてよくなる
日本のスタートアップは、諸外国と比べて早い段階で上場する傾向があると言われます。理由のひとつは、上場以外に株式を現金化する手段がなかったからです。
まだ小さい規模で上場すると、四半期開示の負担を負いながら、成長投資はしにくくなる。本当はもっと大きくできたのに、というケースは相当あったはずです。
セカンダリーがあれば、「上場せずに成長を続ける」という選択肢が現実味を帯びます。 これは日本のスタートアップの規模感そのものを変えうる話だと思っています。
経営者が先に決めておくべきこと
良いことばかり書いてきましたが、セカンダリーは経営マターです。 放っておくとトラブルになります。
譲渡承認の方針を先に決める
多くのスタートアップの株式には譲渡制限が付いており、譲渡には取締役会などの承認が必要です。つまり会社は誰が株主になるかをコントロールできます。
問題は、方針を持たずに個別対応を続けることです。「Aさんは認めたのにBさんは認めない」となれば、社内に不公平感が残ります。
先に決めておくべきことの例を挙げます。
- 誰が売れるのか(在籍年数、役職、退職者の扱い)
- いつ売れるのか(次のラウンドの後、年1回のタイミング、など)
- どれだけ売れるのか(保有株の何割まで)
- 誰に売れるのか(既存投資家に限るのか、新規も認めるのか)
「制度が整ってから考える」では遅いタイプの話です。最初の相談が来た時点で方針がないと、その場の判断が前例になってしまいます。
株価をどう扱うか
セカンダリーで付いた価格は、社内外にいろいろな影響を及ぼします。
次のラウンドの交渉で参照される可能性がありますし、ストックオプションの設計にも関わりえます。 税制適格ストックオプションには権利行使価額に関する要件があり、株価の評価は税務上も繊細な論点です。
ここは私が断定できる領域ではありません。 セカンダリーの実施を検討する段階で、税理士・弁護士に必ず確認してください。 「取引が成立したあとで税務上の問題が判明する」のがいちばん困る形です。
株主構成が変わることの意味
株主が増えれば、株主管理の手間も増えます。 総会の招集、各種同意の取得、情報開示の要求。未上場のうちは、株主が増えることのコストは思ったより大きい。
また、誰が入ってくるかは事業に影響します。 競合と資本関係のある投資家が入ってくれば、情報の扱いに気を使うことになります。承認プロセスは、この観点でも意味があります。
対象は「特定投資家等」であること
最後に、誤解されやすい点を書いておきます。
今回創設された非上場有価証券特例仲介等業務は、改正要綱の文言のとおり「特定投資家等を対象とした」業務です3。一般の個人が自由に未上場株を売買できる市場ができたわけではありません。
これは制度設計として合理的です。未上場株は情報が少なく、値段の妥当性も判断しにくい。投資判断に必要な知識と資力を持つ主体に限るという考え方です。
あわせて注意していただきたいのは、「未公開株が買える」とうたう勧誘とはまったく別物だということです。未公開株を口実にした詐欺は昔からあります。制度が整備されたことで、かえって「制度ができたので買えます」という語り口が出てくる可能性はあります。登録業者かどうかは金融庁のサイトで確認できます。
起業家として、いま準備しておくとよいこと
制度は動き出しましたが、実際の取引が広がるにはまだ時間がかかるはずです。そのあいだにやっておくとよいことを挙げます。
1. 株主名簿を正確にする。 意外とここが整っていない会社があります。誰が何株持っているのか、取得の経緯はどうか。セカンダリーの話が出てから遡って整理するのは大変です。
2. 定款の譲渡制限条項と、承認機関を確認する。 取締役会設置会社かどうかで承認機関が変わります。自社の定款が実際にどうなっているかを見ておいてください。
3. ストックオプションの規程を見直す。 退職者の扱い、行使条件、譲渡の可否。セカンダリーを前提にしていない規程になっていることが多いはずです。
4. 方針を言語化する。 前述の「誰が・いつ・どれだけ・誰に」です。文書にしておけば、相談が来たときに個別判断で揺れません。
5. 投資家と話しておく。 既存投資家が創業者や従業員のセカンダリーをどう考えているか。株主間契約に関連する定めがあることもあります。
最後に
制度の変化としては、規制の重さが実態に合っていなかったところを、実態に合わせたというのが正確な理解だと思います。派手な話ではありません。
ただ、効いてくるのは「時間」に対してです。 上場まで現金化できないという制約は、採用の判断、創業者の意思決定、エンジェルの投資頻度のすべてに影響していました。ここが緩むことの影響は、数年かけてじわじわ出てくるはずです。
起業を考えている方にとっては、「上場しか出口がない」という前提が変わりつつあるということを、頭に入れておく価値があります。資本政策の選択肢が増えるということですから。
私自身、起業家の方と話す機会が多いのですが、ストックオプションの説明で候補者が納得しきれない場面は本当によく見てきました。そこが変わるなら、それだけでも大きいと思っています。
まとめ
- セカンダリー取引は、既存株主が持っている株式を他の投資家に売る取引。会社にお金は入らない
- 日本では買い手探し・価格決定・譲渡承認・規制の重さが重なり、未上場株の取引が成立しにくかった
- 令和6年法律第32号により、非上場有価証券特例仲介等業務が創設。政省令は2025年5月1日施行
- 自己資本規制比率・兼業規制・責任準備金の規制が適用除外に。あわせて未上場株のみを扱うPTSは認可不要となった
- 2026年8月21日、スマートラウンド証券が同業務として第一種金融商品取引業の登録を完了
- 起業家にとっての意味は、採用の説得力・創業者の長期思考・エンジェル資金の回転・IPOを急がない選択肢
- 経営マターとして、譲渡承認の方針・株価の扱い・株主構成を先に決めておくべき
- 対象は特定投資家等。一般個人が自由に売買できる市場ではなく、未公開株詐欺とは別物
制度ができたからといって、明日から誰でも売り買いできるわけではありません。ただ、「上場まで何もできない」という前提は、確実に崩れはじめています。 資本政策を考えるうえで、選択肢に入れておくべき変化だと思います。
Footnotes
-
株式会社スマートラウンド「スマートラウンド証券、第一種金融商品取引業(非上場有価証券特例仲介等業務)の登録を完了」(2026年8月21日). https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000098.000042542.html ↩ ↩2
-
金融庁「令和6年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等に関するパブリックコメントの結果等について」(令和7年3月28日). https://www.fsa.go.jp/news/r6/shouken/20250328/20250328.html ↩
-
金融庁「金融商品取引法及び投資信託及び投資法人に関する法律の一部を改正する法律案 要綱」. https://www.fsa.go.jp/common/diet/213/01/youkou.pdf ↩ ↩2






