AIによるナレッジマネジメント革新:属人化を解消する実践手法

TIMEWELL編集部2026-02-01

企業を蝕む「属人化」の問題

「あの人に聞かないとわからない」「担当者が異動したら業務が回らなくなった」――こうした属人化の問題は、多くの企業が抱える慢性的な課題です。

属人化とは、特定の業務に関する知識やノウハウが個人に依存した状態を指します。ベテラン社員の退職、突発的な休職、組織変更などが起きたとき、属人化は深刻な業務停滞を引き起こします。

any株式会社が発表した「ナレッジマネジメント白書2024」によると、何らかの形でナレッジマネジメントに取り組んでいる企業は全体の51%に増加しました(2023年の46.2%から上昇)。さらに、業績が「大幅に増加している」と回答した企業では、全社的にナレッジマネジメントに取り組んでいる割合が他の企業を大きく上回っています。ナレッジの組織的な管理が、企業の業績と関連していることがデータからも読み取れます。

ナレッジマネジメントの基本:暗黙知と形式知

ナレッジマネジメントを理解するうえで欠かせないのが、「暗黙知」と「形式知」の区別です。

暗黙知:個人の経験や勘に基づく、言語化されていない知識。ベテラン営業担当の交渉テクニック、熟練技術者の故障診断の勘所などが該当します。

形式知:マニュアル、規程集、データベースなど、文書や数式で表現された共有可能な知識。

属人化の本質は、組織にとって価値ある暗黙知が形式知に変換されないまま個人にとどまることにあります。

SECIモデルという考え方

一橋大学の野中郁次郎氏が提唱したSECIモデルは、暗黙知と形式知の変換プロセスを4つのステップで説明するフレームワークです。

ステップ 名称 内容
S 共同化(Socialization) 暗黙知を他者と共有する(OJT、同行営業など)
E 表出化(Externalization) 暗黙知を言語化して形式知に変換する(マニュアル化、事例共有)
C 連結化(Combination) 形式知同士を組み合わせて新たな形式知を生み出す(資料の統合、分析)
I 内面化(Internalization) 形式知を実践を通じて再び暗黙知として体得する(研修、実務適用)

このサイクルを回し続けることで、組織の知識基盤は強化されていきます。

AIがナレッジマネジメントを変える3つのポイント

従来のナレッジマネジメントは「情報を蓄積しても検索できない」「文書化の負担が大きすぎる」といった課題がありました。生成AIの登場により、これらの課題が解消されつつあります。

1. 暗黙知の形式知化を支援する

これまで「言語化が難しい」とされてきた暗黙知も、AIの力を借りることで形式知に変換しやすくなっています。

たとえば、ベテラン社員へのインタビュー音声をAIで文字起こしし、要点を構造化して整理する。あるいは、日常のチャットでのやりとりからナレッジを自動抽出してデータベースに蓄積する。AIが「文書化の手間」を大幅に削減してくれるため、現場の負担が軽くなります。

2. 「探せない」問題を解消する

ナレッジを蓄積しても、必要なときに見つけられなければ意味がありません。従来のキーワード検索では、正確な用語を知らないと目的の文書にたどり着けない問題がありました。

AIを活用した意味検索では、「先月の大阪の商談で使った提案書」のような自然な質問で検索できます。さらに、RAG(検索拡張生成)技術を使えば、検索結果をもとにAIが質問に直接回答を返すことも可能です。

3. 知識同士の関連性を発見する

ナレッジグラフ技術を活用すると、個々の文書に閉じていた知識を関連付け、新たな気づきを生み出すことができます。

たとえば、ある顧客クレームの対応記録と、別の部署で作成された品質改善レポートが関連付けられることで、組織横断的な知見の活用が進みます。SECIモデルでいう「連結化」のプロセスを、AIが自動的に支援してくれるわけです。

AI活用ナレッジマネジメントの導入ステップ

ステップ1:重要なナレッジ領域を特定する

すべての業務知識を一度に扱おうとすると、プロジェクトが発散します。まずは「属人化のリスクが高い業務」「問い合わせが多い領域」「新人の立ち上がりに時間がかかる業務」など、優先度の高い領域を絞り込みます。

ステップ2:既存ドキュメントを整理・取り込む

対象領域のマニュアル、FAQ、議事録、報告書などをAIが検索できる形式で取り込みます。この段階でデータの重複排除やメタデータの付与を行っておくと、検索精度が向上します。

ステップ3:暗黙知の収集を仕組み化する

ベテラン社員へのインタビュー、業務の録画・録音、日報やチャットからのナレッジ抽出など、暗黙知を継続的に収集する仕組みをつくります。一度きりの取り組みでは効果が持続しないため、日常業務の中に自然に組み込むことが重要です。

ステップ4:利用と改善のサイクルを回す

ナレッジベースを公開したら、利用状況をモニタリングします。「よく検索されるがヒットしないキーワード」はナレッジの不足を示すシグナルです。ユーザーからのフィードバックをもとに、継続的にナレッジの追加と改善を行います。

導入時の注意点

現場の巻き込み:ナレッジマネジメントは現場の協力なしには成立しません。「なぜ知識を共有する必要があるのか」を丁寧に説明し、共有した知識が実際に役立つ成功体験を早期に作ることが大切です。

完璧を求めない:最初から完璧なナレッジベースを構築しようとすると、永遠に公開できません。8割の精度でまず公開し、利用しながら改善していくアプローチが現実的です。

評価制度との連動:ナレッジの共有や活用を人事評価に組み込むことで、組織としての取り組みが持続しやすくなります。

まとめ

  • 属人化は業務停滞のリスク要因であり、ナレッジマネジメントで解消を図る
  • 暗黙知を形式知に変換するSECIモデルが基本フレームワーク
  • AIは暗黙知の形式知化、検索性の向上、知識間の関連発見で貢献する
  • 優先領域の特定→ドキュメント整理→暗黙知収集→利用改善の順で進める
  • 現場の巻き込みと継続的な改善の仕組みが成功の鍵

TIMEWELLのZEROCKは、GraphRAG技術によって社内ドキュメント間の関係性を自動で構築し、属人化した知識の組織的な活用を支援します。「誰かに聞かないとわからない」状態を「AIに聞けばわかる」状態へと変えることで、組織全体のナレッジ基盤を強化できます。