株式会社TIMEWELLの濱本です。今日は中国向け輸出ビジネスについて、かなり踏み込んだ話をしていきます。
中国市場が日本企業にとって巨大であることは、いまさら説明するまでもないでしょう。ただ、ここ数年で状況は一変しました。米中対立の激化、経済安全保障の強化、中国独自の規制ラッシュ。気づけば、中国にモノを売る、中国で事業をやるという行為そのものが、かつてないほどの複雑さとリスクを帯びるようになっています。
私のもとにも「中国向けの取引、このまま続けて大丈夫なのか」という相談が増えています。答えはケースバイケースですが、一つだけ確実に言えるのは、何も知らないまま従来のやり方を続けるのが最もリスクが高いということです。
米国の対中輸出規制が日本企業を直撃する構図
中国ビジネスのリスクを語るとき、避けて通れないのが米国の輸出管理規則、いわゆるEARです。Export Administration Regulationsの略で、米国の安全保障を守るために特定の製品や技術の輸出と再輸出を規制する仕組みです。
押さえておきたいのが、EARの射程は米国企業だけに留まらないという点。米国原産の部品を一定割合以上含む製品や、米国の技術を使って製造された製品であれば、日本企業が日本から中国に輸出する場合でも規制の対象になります。「うちは日本の会社だから関係ない」は通用しません。
EARの中核をなすのがエンティティリスト。事実上の禁輸リストです。ここに載った中国企業に対してEAR対象品目を輸出しようとすれば、米国商務省産業安全保障局(BIS)の許可が必要になりますが、この許可はほぼ下りない。エンティティリストに加え、軍事エンドユーザーリストやSDNリストなども含めると、規制対象の企業や団体は合計3,500を超えます。
2025年9月29日、BISはさらに踏み込んだ措置を講じました。関連事業体ルール、いわゆるAffiliates Ruleの導入です。エンティティリスト掲載企業が50%以上の株式を持つ子会社や関連会社も、自動的に規制対象に加わることになりました。
これが何を意味するか。取引先の親会社がリストに載っていなくても、その先のグループ構造まで調べなければ安全とは言えない。取引先の中国企業が、リスト掲載企業の出資を受けた合弁会社だったというケースは十分にあり得ます。日本企業にとっての調査負担は、一気に跳ね上がりました。
違反した場合のペナルティも深刻です。刑事罰として最大100万ドルの罰金や20年の禁固刑。行政罰としてDenied Persons Listへの掲載があり得ます。このリストに載れば、米国製品や技術を一切扱えなくなる。事業の根幹が揺らぎかねない制裁です。
日本の経産省も動いている
米国の動きに呼応する形で、日本政府も対中輸出管理を強化しています。
2023年7月、経済産業省は先端半導体製造装置など23品目を輸出管理の対象に追加しました。建前上は特定の国を名指ししていませんが、事実上の対中措置であることは誰の目にも明らかです。東京エレクトロンやSCREENホールディングスといった日本の半導体装置メーカーは、この規制によって中国向け売上の一部を失うことになりました。
2025年4月には外為法関連の省令改正も行われ、キャッチオール規制が強化されています。キャッチオール規制とは、リスト規制の対象外であっても、大量破壊兵器や通常兵器の開発に使われるおそれがある場合に輸出を制限できる仕組みのこと。この改正により、経産省の裁量で輸出を止められる範囲が広がりました。
日本企業は米国のEARと日本の外為法、二つの規制体系を同時に遵守しなければならない。どちらか一方だけ見ていればいい時代は、とっくに終わりました。
厄介なのが、米中の板挟みという構図です。米国からは「中国の軍事力強化に繋がる取引をするな」と圧力がかかる。中国からは「我が国の市場で商売したいなら、我が国のルールに従え」と迫られる。コンプライアンス部門だけの問題ではなく、経営戦略そのものに関わる話です。
ある半導体関連企業の経営者が「米国に怒られないように中国との取引を絞れば、中国市場を失う。中国との取引を維持すれば、米国から制裁を受けるリスクがある。どちらに転んでも痛い」と漏らしていたのが印象的でした。一社の悩みではなく、中国ビジネスに関わるすべての日本企業が直面しているジレンマです。
中国側の報復的規制が加速している
ここからが、最近特に動きが激しい部分です。
米国や日本の規制強化に対し、中国も黙ってはいません。2026年に入ってから、日本を名指しした規制が立て続けに発表されています。
2026年1月6日、中国商務部は日本に対する軍民両用品目(デュアルユース品)の輸出管理強化を施行しました。続く2月24日には、三菱重工業やIHI、川崎重工業の子会社など日本の防衛関連企業20社を輸出規制リストに追加。同時に、SUBARUやTDK、日野自動車、ENEOS、三菱マテリアル、日東電工など20の企業や団体を監視リストにも加えています。
注目すべきは、リストに載った企業の顔ぶれです。防衛装備品を直接製造している企業だけでなく、自動車部品や電子部品、素材メーカーまで含まれている。軍事転用可能性の解釈が極めて広く、中国当局の裁量で運用される余地が大きい。「うちは民生品しか作っていないから大丈夫」という思い込みは危険です。
レアアースやガリウムなど、日本の製造業にとって代替が難しい素材が禁輸対象に含まれる可能性も指摘されています。ガリウムは半導体の製造に不可欠な素材であり、世界の生産量の約98%を中国が占めている。ここを止められると、日本の半導体産業は深刻な打撃を受けます。
中国側は「日本の軍事力拡大への対抗」を名目にしていますが、実態としては日本の対中政策に対する経済的な揺さぶり、いわゆる経済的威圧の側面が強いと私は見ています。
中国版エンティティリストの存在を見落とすな
米国にエンティティリストがあるように、中国も独自の制裁リストを整備しています。知名度はまだ低いですが、実務上の影響は無視できません。
一つは「信頼できないエンティティリスト」。掲載された外国企業は、中国との貿易や中国国内での投資活動が厳しく制限されます。2025年には米国企業を中心に複数回にわたって企業が追加されており、10月には14の外国企業や団体が新たに掲載されました。
もう一つが「輸出管理制御者リスト」で、こちらはより輸出管理に特化した規制対象リストです。掲載されると、中国からの特定品目の輸出が禁止されます。
2025年10月には、米国のAffiliates Ruleを意識した「50%ルール」も導入されました。リスト掲載企業が50%以上支配する子会社や支店も規制対象になるという仕組みで、米国の手法をそっくりそのまま模倣した格好です。米中が互いの規制手法を学び合いながらエスカレートさせている構図は、企業にとって悪夢としか言いようがありません。
余談ですが、最近は中国版CSLサーチとでも呼ぶべき、中国の規制リストを横断的に検索できるツールやデータベースも登場し始めています。従来は米国側のリストだけチェックしていれば足りたものが、いまや中国側のリストも同時にスクリーニングしなければならない。管理コストは確実に増大しています。
いまのところ、これらのリストに日本企業が大量に掲載されているわけではありません。ただし、2026年2月の20社追加を見ればわかるとおり、日中関係の悪化次第で一夜にして状況が変わりうる。この不確実性こそが、最大のリスクです。
サイバーセキュリティとデータ規制という見えにくい壁
輸出管理の話が目立ちますが、中国ビジネスにはもう一つ、見落とされがちな大きな壁があります。データ関連の規制です。
中国ではサイバーセキュリティ法、データセキュリティ法、個人情報保護法の三法が、データの取り扱いに関して非常に厳格なルールを敷いています。サイバーセキュリティ法は2017年に施行され、2026年1月に改正法が施行されたばかり。データセキュリティ法と個人情報保護法はいずれも2021年の施行です。
核心にあるのはデータ主権という考え方です。中国国内で収集や生成されたデータ、とりわけ重要データや個人情報は、原則として中国国内のサーバーに保存しなければなりません。日本の本社にデータを移転したい場合は、中国当局の審査と許可が必要になります。
たとえば、中国の工場で収集した生産データを日本本社で分析したい。中国の顧客データベースを本社のCRMに統合したい。グローバル企業なら当たり前にやりたいことが、中国ではそう簡単にはいきません。手続きは煩雑で、許可が下りないケースも珍しくない。
2026年1月に施行された改正サイバーセキュリティ法では、罰則が大幅に強化されました。最大で5,000万元(日本円にして約10億円)、あるいは前年度売上の5%の罰金が科される可能性があり、事業許可の取り消しまであり得ます。
グローバルで統一されたデータ基盤を前提にビジネスモデルを組んでいる企業にとって、これは根本的な問題です。中国事業だけ別のITインフラを構築するのか、それともデータ活用の範囲を限定するのか。技術的な問題ではなく、経営レベルの判断が求められます。
ところで、ロイターの2025年12月の報道によると、欧州企業の約3割が中国の輸出規制強化を受けて調達先の変更を検討しており、4割が中国商務省による輸出許可の処理が約束より遅いと回答しています。データ規制だけでなく、輸出許可の実務レベルでも不透明さが増しているのが現状です。
現地法人を自分たちだけでは作れない
中国で法人事業を展開しようとする場合、もう一つ知っておくべき構造的な制約があります。
2020年に外商投資法が施行され、外資企業の設立手続き自体は以前より透明化されました。ネガティブリスト方式が採用され、リストに載っていない分野であれば外資100%の独資企業を設立できるようになっています。
ただし、通信、メディア、教育、医療といった分野は依然としてネガティブリストに記載されており、外資単独での参入が禁止または制限されています。これらの分野で事業を行うには、中国企業との合弁が必須です。
合弁事業には、現地パートナーの知見やネットワークを活用できるメリットがある反面、経営の主導権をめぐる対立や、技術やノウハウの意図せぬ流出といったリスクが常につきまといます。合弁パートナーの選定を誤ると、技術を吸い取られたうえで合弁を解消される、といった最悪のシナリオも現実に起きている。パートナーのデューデリジェンスは、通常の取引以上に慎重に行う必要があります。
独資で設立できる分野であっても、実務上は現地の会計事務所や法律事務所、行政手続きの代行業者との連携が不可欠です。登記手続き、税務登録、銀行口座の開設、社会保険の手続き。一つひとつが日本とは異なるルールで動いており、現地の事情に精通した専門家なしには前に進みません。
稼いだお金を日本に持ち帰れない問題
中国ビジネスの構造的な課題として、もう一つ避けて通れないのが資金の持ち出し制限です。意外と知られていないのですが、中国ビジネスの収益性を考えるうえで極めて大きな要素です。
中国で事業を行い、利益を上げたとしても、そのお金を自由に日本へ送金できるわけではありません。中国は依然として厳格な外貨管理制度を維持しており、特に資本取引に関しては強い規制がかかっています。
現地法人の利益を日本の親会社に配当として送金するには、いくつものハードルを越えなければなりません。まず過年度の累積赤字をすべて解消すること。次に、利益の10%を法定準備金として積み立てる義務があり、この積立額が登録資本金の50%に達するまで続きます。配当額に対しては10%の企業所得税が課されます。日中租税条約の適用で軽減される可能性はありますが、手続きは煩雑です。
原則として中間配当も認められていないため、年に一度の決算後にしか配当を出せません。急な資金需要に対応できない。資金計画の柔軟性は著しく損なわれます。
中国で儲けても、お金を持ち出せない。大げさな話ではなく、中国ビジネスに携わる企業の偽らざる実感です。対中投資を検討する際には、この資金回収の難しさを織り込んだうえで事業計画を立てる必要があります。
具体的に何をすべきか
ここまで懸念点を並べてきましたが、ではどうすればいいのか。私が考える現実的な対応策を整理します。
サプライチェーンの棚卸しと分散
最初にやるべきは、自社のサプライチェーン全体を可視化し、中国への依存度を正確に把握することです。代替の利かない部品や原材料を中国の特定企業から調達していないか。その企業が米中いずれかの規制対象になるリスクはないか。ここを詳細に洗い出す作業が出発点になります。
そのうえで、調達先の分散を進める。ASEAN諸国やインドへの移管、いわゆるチャイナ・プラスワンは、もはや先進的な取り組みではなく、すべての企業にとっての基本動作です。
ただし、サプライチェーンの再編にはコストと時間がかかります。一朝一夕にはいかない。だからこそ、今すぐ着手することに意味があります。
輸出管理のスクリーニング体制を二重に構築する
米国EARと中国の輸出管理法、両方を網羅したコンプライアンス体制の構築が急務です。
取引相手が米中の規制リストに掲載されていないか。その関連会社は大丈夫か。50%ルールを忘れずに確認してください。取引する製品や技術が規制対象品目に該当しないか。最終用途は何か。これらを取引の都度、厳格に確認するプロセスを確立しなければなりません。
社内の輸出管理担当者の育成も欠かせません。EARの改正は頻繁に行われており、中国側の規制も日々変化しています。外部のセミナーやJETROの情報提供なども活用しながら、常に最新の知識をアップデートできる体制を整えてください。
データガバナンスを中国仕様で再設計する
中国のデータ関連法規への対応は、IT部門だけの問題ではありません。中国国内で扱うデータの定義、ライフサイクル全体の管理体制、越境移転の要否判断。これらを経営レベルで設計し直す必要があります。
場合によっては、中国事業専用の独立したITインフラを構築するという判断も現実的な選択肢です。コストはかかりますが、違反時の罰則の大きさを考えれば、先行投資として合理的な判断だと考えています。
契約書を地政学リスク対応型に見直す
中国企業との契約書は、地政学リスクが顕在化した際の防波堤になります。見直すべきポイントは三つ。
一つ目は不可抗力条項。政府による輸出入制限や経済制裁が契約上の義務を免除する事由に含まれるか、明確にしておく。二つ目は法令遵守条項。米国EARや中国の輸出管理法など、第三国の法律を遵守するために契約を履行できなくなった場合の免責規定を盛り込む。三つ目は準拠法と紛争解決条項。万が一の際に、どの国の法律で、どこで解決するのか。自社に有利な条件を交渉段階で確保しておくことが肝要です。
資金回収スキームを事前に設計する
中国からの資金持ち出しの難しさを踏まえると、事業計画の段階で資金回収のスキームを設計しておくことが不可欠です。配当以外にも、ロイヤリティやサービスフィーの形で資金を回収する方法はあります。ただし、これらも移転価格税制や源泉徴収税の問題がからむため、税務の専門家と事前に詰めておく必要があります。
EX-CHECKで米中両方のスクリーニングを効率化する
取引先が米国と中国の規制リストに該当しないか、両方を同時にチェックする。この作業を人手で続けるのは現実的ではありません。私たちTIMEWELLが開発したZEROCK EX-CHECKは、AIエージェントが取引先の懸念度を5秒で可視化し、マルチLLM合議によるクロスチェックで精度95%以上を達成しています。
エンティティリスト、SDNリスト、中国の輸出管理制御者リストまで横断的にスクリーニングできるため、米中両方の規制に対応した二重チェック体制を効率的に構築可能です。無料デモで実際の動作をご確認ください。
これからの中国市場との向き合い方
ここまで読んで「もう中国とは取引しないほうがいい」と感じた方もいるかもしれません。ただ、私はそこまで極端な結論には立っていません。
中国市場は依然として巨大であり、成長の余地もある。問題は、従来と同じやり方では通用しなくなったということです。
一つの方向性として注目されているのが、In China, for China戦略の深化です。中国市場向けの製品は、開発から生産、販売、データ管理まで中国国内で完結させるモデルに転換する。これにより、データ越境移転のリスクも、米国の再輸出規制の影響も最小限に抑えられます。
地政学リスクは経営の変数から定数に変わりました。米中両国の政策動向を継続的にウォッチし、複数のシナリオを想定した対応計画を持っておくこと。台湾有事のような最悪のシナリオも含めて、事業継続計画に織り込んでおくこと。これが、これからの中国ビジネスにおける最低限の備えだと考えています。
規制環境は今後も変わり続けます。この記事の内容も、半年後には一部が古くなっているかもしれない。だからこそ、情報のアップデートを怠らず、必要に応じて外部の専門家の知見も活用しながら、自社にとっての最適解を探り続けてほしいと思います。
