株式会社TIMEWELLの濱本です。今回はサービス紹介ではなく、グローバルビジネスに携わるすべての企業にとって無視できない、輸出規制の最新動向について書きます。
2026年2月現在、米中間の技術覇権争いを核とした輸出管理の激変が続いています。米国EARアフィリエイトルールの一時停止、中国による日本企業40社を名指しした輸出規制、EUやアジア各国の独自規制強化。主要国・地域の規制動向を項目別対比表にまとめ、日本企業が今すぐ着手すべき4つの具体策を整理しました。
激動する世界の貿易ルールを読み解く
2026年2月現在、世界の貿易環境は凄まじいスピードで変わり続けています。米中間の技術覇権争いを核とした地政学的な緊張が、半導体やAIといった先端技術分野を中心に各国の輸出管理政策を根底から揺さぶっている。もう輸出管理は通関手続きの一部などではありません。国家の安全保障と直結し、企業のサプライチェーン、研究開発、経営戦略そのものを左右する最重要課題に変わりました。
2025年後半から2026年初頭にかけて、米国によるEAR(輸出管理規則)のアフィリエイトルールの一時停止、中国による日本企業40社を名指しした輸出規制の発動など、事業の前提を覆しかねない動きが相次いでいます。私自身、日々クライアントの相談を受ける中で、「うちの会社は大丈夫なのか」という切実な声が増えていると感じています。
以下、2026年2月時点での国内外の輸出規制を整理しています。米中だけでなく、欧州、アジア、中東、中南米まで。不確実な時代だからこそ、正確な情報があるかどうかで打ち手の精度が変わります。
2026年 輸出管理の最新トレンド
まず全体像から。現在の輸出管理をめぐる環境には、3つの大きな潮流があります。
米中対立の深化とデカップリングの加速
最大の変動要因は米中間の対立です。半導体、AI、量子コンピューティングなど先端技術をめぐる覇権争いは激化の一途をたどっています。米国はEARを戦略的なツールとして駆使し、エンティティ・リストによる特定企業の名指しや、技術仕様に基づく広範な輸出制限を通じて、中国をサプライチェーンから切り離すデカップリングを加速させている。中国も輸出管理法や信頼できないエンティティリスト規定を整備し、レアアースなどの戦略物資を武器に対抗措置をとる構えです。この応酬が世界経済全体に緊張をもたらしています。
経済安全保障の主流化
米中対立は各国に経済安全保障という概念を強く意識させました。自由貿易の原則の下でグローバルに最適化されてきたサプライチェーンが、地政学的リスクに対して脆弱であることが露呈したのです。EUは対ロシア制裁を通じてエネルギー安全保障の再認識を迫られ、タイやベトナムといった東南アジア諸国もデュアルユース品目の管理体制を新たに構築し始めている。企業がビジネスを行う上で、各国の経済安全保障政策という変数を常に考慮しなければならない時代が来ました。
地政学リスクの増大と新たな枠組みの形成
ロシアによるウクライナ侵攻はエネルギーや食料の供給網を寸断し、輸出管理が外交上の強力な手段であることを改めて示しました。中東地域の紛争、南シナ海をめぐる緊張など、地政学的な火種は世界中に点在しています。一方で、米英豪によるAUKUSのように、戦略的利益を共有する国々の間で防衛装備品や先端技術の貿易を円滑化する動きも生まれている。世界が完全に分断されるのではなく、複数のブロックに分かれていく可能性があり、企業はどの経済圏でどのルールに基づいて事業を展開するのか、戦略的な判断を迫られています。
米中両国の輸出規制強化とそのインパクト
米国 ── EARを軸とした戦略的規制の強化
米国商務省産業安全保障局(BIS)が管轄するEARは、米国の安全保障政策における最も強力な武器の一つ。中国を念頭に置いた規制は年々複雑かつ厳格になっています。
EARアフィリエイトルールの1年間停止、その本当の意味
2025年11月、BISはアフィリエイトルール(通称50%ルール)の適用を1年間停止すると発表しました。このルールは、米国外の企業であっても議決権の50%以上を米国の事業体が所有または支配している場合、EARの適用対象とみなすというものです。
この停止措置の背景には、2025年10月に発表されたApplied Materials社に対する2.5億ドルという巨額の罰金があります。同社の中国法人が行った取引がEAR違反と認定され、親会社の監督不足が問題視されました。
注意してほしいのは、この1年間の停止は規制緩和ではないということです。BISはこれを「執行の一時停止」と位置づけている。私はこれを、グローバルなコンプライアンス体制を整備するための猶予期間だと捉えています。海外に子会社や関連会社を多数持つ日本企業は、自社のグループ構造全体がEARの規制網にどう関わっているのかを正確に把握し、実効性のあるガバナンス体制を構築しなければならない。この1年を無為に過ごせば、2026年11月以降、より厳しい執行が待ち受けている可能性が高い。
先端半導体規制の最前線
米国の対中半導体規制は、技術水準で一律に規制するアプローチから、特定の製品を狙い撃ちする動的なアプローチへと進化しています。2026年1月15日に発効したライセンス審査方針の改定がその象徴です。
NvidiaのH200やAMDのMI325Xといった高性能AIチップについて、中国向け輸出であってもケースバイケースでの審査が行われることになりました。中国市場の完全な締め出しではなく、米国の技術的優位を脅かさない範囲で米国企業のビジネス機会を確保しようとする意図が見えます。ただし、ケースバイケースとはBISの裁量の余地が大きいことを意味する。輸出企業にとって予測可能性が低い状況は続きます。
下院外交委員会ではAI OVERWATCH法案も通過しており、高性能AIチップの輸出に対する議会の監視は強まる一方です。TSMCが南京工場向けの年間輸出ライセンスを取得できたのは朗報ですが、個別の許可に依存する構造自体がリスクであることは認識しておくべきでしょう。
中国 ── 輸出管理法を武器とした対抗措置
米国の厳しい規制に対し、中国も黙ってはいません。2020年施行の輸出管理法を法的根拠として、対抗措置を本格化させています。日本に対しては2026年初頭から立て続けに厳しい措置が打ち出されました。
対日輸出規制の二段階強化 ── 40社リストの衝撃
中国の対日輸出規制は二段階で強化されました。
第一弾は2026年1月6日。中国商務部が「日本の軍事力向上に寄与する一切のエンドユーザーや用途」を対象に、デュアルユース品目の輸出管理強化を発表し、即日施行しました。日本企業は中国からの調達に際し、より詳細な用途説明を求められることになった。
そして第二弾。2026年2月24日、中国商務省は日本の企業と団体40社を名指ししたリストを発表し、即日施行。正直なところ、このスピード感には驚きました。リストは2種類に分かれています。
禁輸対象となる輸出管理規制リスト20社には、三菱造船、三菱重工航空エンジン、川崎重工業航空宇宙システムカンパニー、IHIグループ各社、富士通ディフェンス&ナショナルセキュリティ、NECネットワーク・センサ、NEC航空宇宙システム、ジャパン マリンユナイテッド、JMUディフェンスシステム、防衛大学校、JAXAが含まれます。デュアルユース品目の輸出が原則禁止。
監視リスト20社には、スバル、TDK、日野自動車、三菱マテリアルなど、防衛産業に限らない広範な製造業の企業が含まれています。輸出は禁止されないものの、取引が厳しく監視される。
対象品目がデュアルユース品目と広範であるため、自動車部品から電子部品、素材に至るまで影響がどこまで広がるか予断を許しません。リスト掲載企業との直接取引だけでなく、サプライチェーン上でこれらの企業と繋がっている場合も、中国からの部材調達が滞るリスクがあります。
レアアースという戦略カード
中国は世界の生産量の大半を占めるレアアースを、かねてより戦略的なカードとして利用する姿勢を見せてきました。今回の対日輸出管理強化でもレアアースが含まれるデュアルユース品目が対象となっており、供給が政治的意図によって左右されるリスクが改めて浮き彫りになっています。ハイブリッドカーのモーターや半導体研磨剤など、日本の基幹産業に不可欠なレアアースの安定調達は、サプライチェーンの強靭化を考える上で避けて通れない課題です。
項目別対比表 ── 主要国と地域の輸出規制動向(2026年2月版)
米中だけではありません。他の主要国や地域も独自の輸出管理制度の強化を急いでいます。日本企業が押さえておくべき国と地域の最新動向を対比表にしました。
| 国・地域 | 規制の枠組み | 直近の注目動向 | 発効・予定時期 | 主要な対象品目 | 日本企業への留意点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 米国 | EAR, ITAR | アフィリエイトルール(50%ルール)の1年間停止、先端半導体規制の審査方針変更 | 2025年11月〜 | 半導体、AI、航空宇宙、量子技術 | グループ全体のコンプライアンス体制再構築が急務 |
| 中国 | 輸出管理法 | 対日40社リスト(禁輸20社+監視20社)、レアアースを含むデュアルユース品目の管理強化 | 2026年1月〜2月 | デュアルユース品全般、レアアース | サプライチェーン上の対象企業との取引リスク再評価が必要 |
| EU | EU規則428/2009 | 第20次対ロシア制裁パッケージ、デュアルユース品目リスト更新 | 2026年2月 | エネルギー関連技術、産業機械 | ロシア関連ビジネスの完全な見直しが必要 |
| 英国 | UK Export Control Act | AUKUS関連の防衛貿易規制緩和、UK Sanctions Listへの一本化 | 2026年1月 | 防衛装備品、デュアルユース品 | AUKUS枠組み内でのビジネスチャンスあり |
| インド | SCOMET, FEMA | SCOMETリストに新興技術カテゴリー新設、FEMA輸出入規則2026の導入 | 2025年後半〜 | 量子コンピューティング、半導体 | 成長市場参入時のコンプライアンス体制構築が必須 |
| タイ | 新制度 | デュアルユース品目の輸出管理制度を段階的に導入開始 | 2026年Q1〜 | 核関連から順次全カテゴリーに拡大 | 製造拠点としてICP導入・包括許可取得を早期検討 |
| ベトナム | 戦略的貿易管理政令 | 国内初の本格的な戦略物資管理法制の運用開始 | 2025年10月〜 | デュアルユース品全般 | 国内法の遵守体制構築が必要 |
| シンガポール | 戦略物資(管理)法 | 先端半導体やAI関連の輸出管理を米国と協調して強化 | 2025年12月〜 | 半導体製造装置、AI関連技術 | 米国規制と連動した厳格な管理が求められる |
| 豪州 | Defence Trade Controls Act | AUKUS関連のライセンスフリー環境を整備 | 2026年1月〜 | 防衛装備品 | 防衛・宇宙分野での連携に機会 |
| 中東 | 各国法 | 米国がサウジ・UAEへのAIチップ輸出を承認。イランに対しては制裁を大幅強化 | 2025年11月〜 | 高性能AIチップ、石油関連 | 湾岸諸国への技術移転には米国の意向が強く反映 |
| 中南米 | 各国法 | 米国がベネズエラに対する石油関連制裁を一部緩和(OFAC GL46)。ロシア・イラン関連は除外 | 2026年1月〜 | 石油関連技術・サービス | 制裁緩和は限定的かつ条件付き |
この表を見ると、輸出管理が米中だけの問題ではないことがはっきりします。世界各国がそれぞれの国益と安全保障に基づき独自のルールを形成し始めている。企業はこの多層的で複雑な規制の網を常に意識し、それぞれの結び目の意味を正確に理解する必要があります。
個人的に特に注目しているのは、タイとベトナムの動きです。日本企業の製造拠点が集中するこの2カ国で輸出管理制度が本格化すれば、現地オペレーションの見直しが避けられません。タイは2026年中にカテゴリー7から9へ規制対象を拡大し、その後カテゴリー1から6を追加する計画です。ベトナムは2025年10月に公布された政令259号に基づく運用が始まったばかりで、実務上の不透明さが残ります。早めの情報収集と体制整備が勝負を分けるでしょう。
日本の対応と企業が今すぐとるべきアクション
国際的な輸出管理の潮流が変化する中、日本政府も経済安全保障を国家戦略の中心に据え、法制度の整備を加速させています。
日本政府の動向 ── 守りから攻めの経済安保へ
外為法と輸出貿易管理令の着実なアップデート
日本の輸出管理の根幹をなす外国為替及び外国貿易法(外為法)と輸出貿易管理令は、国際的な規制動向に合わせて継続的に改正されています。直近では2026年2月14日に改正輸出貿易管理令が施行されました。FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)に関する規制が強化されるなど、先端技術の流出防止に向けた具体的な措置が講じられています。
こうしたリスト規制品目のアップデートは今後も続く。企業は常に最新の規制リストをチェックし、自社製品の該非判定を正確に行わなければなりません。2025年10月9日付の大規模改正も含め、ここ半年で外為法関連の変更は加速しています。
防衛装備移転三原則の運用指針見直し
戦後日本の平和主義を象徴してきた武器輸出の原則も、大きな転換点を迎えています。2026年2月25日、自民党は防衛装備移転三原則の運用指針を見直し、輸出可能な品目を「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の5類型に限定してきた規定を撤廃し、殺傷能力のある武器を含め原則として可能とすべきだとの提言をまとめました。
これは日本の防衛産業にとって大きなビジネスチャンスになり得ます。ただし、輸出が拡大するほど厳格な輸出管理体制の構築がこれまで以上に求められることは言うまでもありません。
日本版CFIUSの創設
経済安全保障推進法に基づく施策が進む中、次の注目は日本版CFIUS(対米外国投資委員会に相当する組織)の創設です。政府は外為法を改正し、安全保障上の重要技術を持つ日本企業への外国からの投資について、直接的な株式取得だけでなくファンドなどを介した間接投資も事前審査の対象に加える方針を固めました。
企業が今すぐ着手すべき4つの対策
「知らなかった」では済まされない時代です。4つ挙げます。
1. 取引審査と該非判定体制の再構築
EARアフィリエイトルールや中国の40社リストが突きつけているのは、従来の取引審査体制ではもう足りないという事実です。直接の取引相手だけでなく、その親会社、子会社、関連会社、さらにその先のサプライヤーや顧客まで含めた深いスクリーニングが要る。該非判定もスペックシートの確認では終わらない。最終用途まで踏み込んだ分析が求められます。
2. サプライチェーンの可視化とリスク評価
自社の製品がどこで誰によって作られ、どこに誰に販売されているか。全容の可視化が第一歩です。特定の国への依存度が高い部品はないか、取引先が規制リストに載る可能性はないか。地政学リスクを織り込んで評価し、調達先の多角化や代替部材の確保を検討してください。
3. 社内コンプライアンス・プログラムの高度化
ICP(輸出管理内部規程)を最新の法令やリスク情勢に合わせて常に見直す。経営トップのコミットメント、管理体制、該非判定や取引審査の手順、監査、教育訓練の仕組みを文書化し、全社的に徹底する。関連部署の担当者に対する継続的な教育は、違反を未然に防ぐための生命線です。
4. 情報収集体制の確立
輸出管理の情報は日々変わります。経済産業省や外務省、JETROやCISTECといった専門機関の発信を迅速に拾う体制を作る。拾った情報を自社への影響として分析し、速やかに経営層や関連部署に伝達できるかどうか。この仕組みの有無が、変化への適応力を分けます。
EX-CHECKで取引審査を自動化する
私たちTIMEWELLはZEROCK EX-CHECKという輸出管理AIエージェントを開発しています。取引先の懸念度を5秒で可視化し、マルチLLM合議によるクロスチェックで精度95%以上を達成。岡山大学との共同実証で検証済みです。
各社独自のファイル形式にもAIが柔軟に対応するため、既存の業務フローを変えずに導入できます。取引審査の再構築が必要だと感じている方は、無料デモから始めてみてください。
まとめ
- 米国EARアフィリエイトルールの1年間停止は猶予期間。2026年11月までにグループ全体のコンプライアンス体制を構築すべき
- 中国の対日40社リストは禁輸20社と監視20社。サプライチェーン上の間接的な影響も要注意
- タイやベトナムなど東南アジアでも輸出管理制度が本格化。製造拠点の対応を急ぎたい
- 日本も外為法改正、防衛装備移転の緩和、日本版CFIUS創設と、経済安保を加速中
- この記事の対比表を、自社のリスク評価の出発点として使ってもらえれば幸いです。規制は待ってくれません
参考情報
- 経済産業省 貿易管理
- 日本貿易振興機構(JETRO)
- 安全保障貿易情報センター(CISTEC)
- 米国商務省産業安全保障局(BIS)
- 中華人民共和国商務部
- Reuters, Bloomberg, 日本経済新聞 等の国内外報道
