株式会社TIMEWELLの濱本です。グローバルにモノや技術を動かす企業にとって、輸出規制は「通関の付帯業務」ではなく、経営そのものの前提条件になっています。
2026年7月現在も、米中の技術・貿易を巡る応酬、各国の経済安全保障政策、東南アジアでの制度整備が同時に進んでいます。米国EARのアフィリエイトルール一時停止、中国商務部による対日リスト措置、EUや日本のリスト更新。事業の前提を動かす出来事が続いています。
この記事では、2026年7月21日時点の主要国・地域の動向を対比表にまとめ、日本企業が今すぐ着手すべき4つの打ち手を整理します。社名やリスト名は、公表された規制区分として事実を扱うにとどめます。リスト掲載は「規制上の区分」であり、掲載された企業や団体の是非を判断するものではありません。
まず一枚で見る。2026年の輸出管理トレンド
| 潮流 | 何が起きているか | 企業への含意 |
|---|---|---|
| 米中の応酬 | EARのエンティティ規制と中国側の両用品輸出管理が交互に強化・一時停止 | 片方だけ見ると意思決定を誤る。両建ての影響評価が必要 |
| 経済安保の主流化 | 自由貿易前提のサプライチェーンが地政学リスクに弱いことが顕在化 | 調達多角化と代替部材の検討が経営課題に |
| 制度の多極化 | EU・日・ASEAN各国が独自リストと許可制度を更新 | 「米国だけ守ればよい」は通用しない |
| 執行の高度化 | 関連会社・迂回・最終用途への踏み込みが強まる | 直接取引先だけでなくグループ構造の可視化が要る |
輸出管理の入口である該非判定と取引審査の書式がまだバラバラな場合は、該非判定書・非該当証明書 記入ガイド+様式セット(2026年版)を先に揃えておくと、後述の4対策が回りやすくなります。
米国 ── EARとアフィリエイトルールの「停止=猶予」
米国商務省産業安全保障局(BIS)が所管するEAR(Export Administration Regulations)は、米国の安全保障・外交政策に基づく輸出・再輸出規制の中核です。日本企業が日本から出荷する場合でも、米国原産品目・技術の含有や再輸出規制によりEARが関与することがあります。
アフィリエイトルール(50%ルール)の1年停止
2025年9月末、BISはエンティティリスト等に掲載された事業者の関連会社にも規制を拡張するアフィリエイトルール(いわゆる50%ルール)を導入しました。その後、2025年11月10日から 2026年11月9日まで の1年間、この拡張を停止する最終規則が Federal Register に掲載されています1。
合算持分が50%に届くかは、取引先の名前を見ているだけでは分かりません。株主をさかのぼって合算する作業を試せるBIS 50%ルールの簡易チェックを無料で公開しているので(登録不要)、気になる取引先で一度確かめてみてください。最終的な判断は貴社の輸出管理責任者と当局の最新公表を正としてください。
ここで重要なのは、停止が「規制そのものの撤廃」ではないことです。BISは停止期間中も、リスト未掲載の関連会社に関する安全保障上の評価を続けると説明しています。実務的には、次のように捉えるのが安全です。
- いま: 停止中でも、エンティティリスト本体・MEU・その他のEAR義務は生きている
- 2026年11月以降: アフィリエイト拡張が再適用される前提で、グループ構造の可視化を終えておく
- 日本企業: 海外子会社・合弁・間接出資先まで含めたスクリーニング設計が必要
なお、関連会社が関与した取引をめぐる高額の民事和解事例が報じられたこともあり、親子会社関係まで執行が及びうることは広く認識されています。こうした執行事例は規制の射程を示すものであり、個別企業の是非を論じるものではありません。
アフィリエイトルールの詳細はAffiliate Rule 50% 完全ガイドと2026年11月施行への備えに分けて書いています。
先端半導体・AI関連の運用
対中を含む先端コンピューティング品目のライセンス方針は、技術水準の一律規制と個別審査が混在する運用が続いています。ケースバイケースの余地が大きいほど、輸出企業から見ると予測可能性は下がります。議会側の監視法案の議論も含め、「許可が一度出たから将来も同じ」とは限りません。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
中国 ── 両用品輸出管理と対日措置(事実の整理)
中国は2020年の輸出管理法を軸に、両用品目(デュアルユース)の輸出管理を制度化しています。日本企業にとっては、中国からの調達と中国向け販売の双方で、用途説明・需要者確認・リスト照合の負荷が上がっています。
2026年の対日措置:公告に基づく規制区分
時系列だけを、公表事実として置きます。
- 2026年1月6日
中国商務部が、日本向け両用品目の輸出管理強化に関する措置を発表し、即日施行。日本側のエンドユーザー・用途について、より詳細な説明を求められる運用が広がりました(公告第1号など)。 - 2026年2月24日
商務部が公告により、日本の事業者・団体を 管控名单(輸出管理規制リスト) と 关注名单(監視リスト) に区分して掲載しました(公告第11号・第12号など)。管控名单掲載先への両用品目の輸出は原則禁止、关注名单は輸出禁止ではないものの審査・監視が厳格化される区分です2。
必ず押さえておきたい中立の前提
リスト掲載は、中国国内法に基づく規制上の区分です。掲載された日本企業・団体が不正を行ったとか、軍事転用に加担したといった評価を意味するものではありません。正規の民生事業を営む事業者が、広範な規制区分に含まれるケースもあります。当事者企業にとっては、自社や取引先の位置づけを把握し、顧客や調達先へ説明する実務課題です。
掲載先の社名を「悪い見本」として使う書き方はしません。影響の範囲だけを一般化します。
- 直接取引がなくても、サプライチェーン上で掲載区分の事業者が関与すると、中国発部材の供給遅延や追加確認が発生しうる
- 対象が両用品目全般に及びうるため、自動車部品・電子部品・素材まで波及しうる
- レアアースなど戦略鉱物を含む品目では、供給が政策判断で動きやすい
詳細な時系列と実務チェックは中国の対日輸出管理2026と中国向け輸出リスクにまとめています。
項目別対比表 ── 主要国・地域(2026年7月版)
| 国・地域 | 主な枠組み | 直近の注目動向 | 時期の目安 | 日本企業への留意点 |
|---|---|---|---|---|
| 米国 | EAR, ITAR | アフィリエイトルール1年停止(〜2026年11月9日)。エンティティリスト本体は継続 | 2025年11月〜 | グループ構造の可視化と再適用準備 |
| 中国 | 輸出管理法・両用品条例 | 対日の用途管理強化、管控/关注のリスト区分 | 2026年1月〜2月〜 | 調達・販売の双方で用途・需要者記録 |
| EU | Dual-use Reg. 2021/821 | 管理リスト更新、CRA等の製品規制と並走 | 2025〜2027 | リスト該非+第4条・第5条。詳細はEU輸出規制 |
| 日本 | 外為法・輸出令 | リスト改正(例: 2026年2月14日施行の政省令改正)、補完的輸出規制見直し | 2025年10月・2026年2月 | 該非判定とキャッチオールの2段構え |
| 英国 | UK Export Control | 制裁リスト統合、AUKUS関連の防衛貿易の議論 | 2025〜2026 | 英向けでも最終用途・リスト照合 |
| インド | SCOMET, FEMA | 新興技術カテゴリの整備 | 2025後半〜 | 成長市場ほど初期のICP設計が効く |
| タイ | 新制度 | デュアルユース管理制度の段階導入 | 2026年〜 | 製造拠点の現地規程と教育 |
| ベトナム | 戦略的貿易管理 | 政令に基づく運用の定着途上 | 2025年10月〜 | 実務解釈の更新を定期確認 |
| シンガポール | 戦略物資管理法 | 先端半導体・AI関連で国際協調 | 2025〜 | 米規制と連動した社内ルール |
| 豪州 | Defence Trade Controls | AUKUS関連の枠組み整備 | 2026年〜 | 防衛・宇宙連携時の許可設計 |
| 中東 | 各国法+米制裁 | AIチップ等の移転に米国意向が反映されやすい | 2025〜 | 再輸出とエンドユーザー確認 |
| 中南米 | 各国法+OFAC等 | 国別制裁の緩和・強化が併存 | 2026年〜 | 一般化せず、案件ごとに一次確認 |
輸出管理は米中だけの問題ではありません。製造拠点が集中するタイ・ベトナムで制度が本格化すると、現地オペレーションの見直しが避けられません。早めの情報収集とICPの現地語化が差になります。
日本 ── 外為法と経済安保のアップデート
リスト改正と補完的輸出規制
日本の輸出管理の根幹は、外国為替及び外国貿易法(外為法)と輸出貿易管理令です。国際レジームの合意を反映したリスト改正が続いており、例として 2026年2月14日施行 の政省令改正では、FPGA関連など先端品目の扱いが更新されています3。2025年10月9日施行の補完的輸出規制(キャッチオール)見直しも、用途・需要者確認の実務を変えました。
企業は最新の施行版で該非判定をやり直し、非該当でもキャッチオール確認を残す必要があります。「リストに無い=輸出OK」は誤りです。差分はリスト規制とキャッチオール規制の違いを参照してください。
防衛装備移転と投資審査の議論
防衛装備移転三原則の運用見直しや、いわゆる日本版CFIUSに相当する対内直接投資審査の強化は、輸出管理そのものとは別系統ですが、技術の国外移転という点で同じ経営課題に接続します。輸出が広がるほど、ICPと該非判定の精度がより重要になります。
企業が今すぐ着手すべき4つの対策
1. 取引審査と該非判定体制の再構築
直接の取引先だけでなく、親会社・子会社・関連会社、さらにその先の需要者まで含めたスクリーニングが必要です。該非判定はスペックシートの確認で終わらせず、最終用途の説明と根拠資料をセットで残します。帳票の型は経産省ガイダンス帳票の読み方と該非判定テンプレートが使えます。
2. サプライチェーンの可視化とリスク評価
どこで誰が作り、どこへ誰が売るか。特定国依存の高い部品、リスト区分に入りうる取引先、代替調達のリードタイムを表にします。地政学リスクを織り込んだ調達多角化は、コンプライアンス部門だけの仕事ではありません。
3. 社内コンプライアンス・プログラム(ICP)の更新
経営の関与、該非判定・取引審査の手順、出荷管理、監査、教育を文書化し、2025〜2026年の法改正に合わせて版管理します。子会社・海外拠点の教育が空白になりがちです。
4. 一次情報の収集体制
経済産業省、BIS(Federal Register)、中国商務部の公告、欧州委員会の官報。二次情報の要約だけで数字や施行日を固定しない仕組みを作ります。拾った情報を自社影響に翻訳し、経営と現場へ届けるまでがワンセットです。
TRAFEEDで取引審査を自動化する
TIMEWELLのTRAFEED(旧ZEROCK ExCHECK)は、取引先や品目情報を起点に、制裁リスト・輸出管理リスト・懸念情報を横断照合し、根拠付きで判定を返します。マルチLLM合議によるクロスチェックで判定精度95%以上(岡山大学との共同実証・自社調べ)。各社独自のファイル形式にも柔軟に対応します。
機能概要はTRAFEEDサービスカタログ(PDF)から確認できます。体制再構築を検討中の方は、お問い合わせからご連絡ください。
まとめ
- 米国アフィリエイトルールの停止は 2026年11月9日までの猶予。再適用前提でグループ構造を可視化する
- 中国の対日リスト措置は 管控/关注という規制区分。掲載=企業の是非判断ではない。調達・販売の双方で用途・需要者記録を厚くする
- EUはデュアルユース規則に加え、CRAなど製品規制が並走する(詳細はEU記事へ)
- 日本は2025年10月のキャッチオール見直しと2026年2月のリスト改正を、該非判定の版管理に反映する
- 4対策: 審査・該非、サプライチェーン可視化、ICP更新、一次情報収集
この対比表は出発点です。案件ごとに一次ソースで施行日と対象を確認してください。本記事は2026年7月21日時点のスナップショットです。
関連記事
参考文献
- Federal Register, "One Year Suspension of Expansion of End-User Controls for Affiliates of Certain Listed Entities"(2025年11月12日)https://www.federalregister.gov/documents/2025/11/12/2025-19846/
- U.S. Bureau of Industry and Security (BIS) https://www.bis.gov/
- 中華人民共和国商務部 出口管制 https://exportcontrol.mofcom.gov.cn/
- 経済産業省「安全保障貿易管理」https://www.meti.go.jp/policy/anpo/
- EUR-Lex, Regulation (EU) 2021/821 https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32021R0821
- CISTEC(安全保障貿易情報センター)https://www.cistec.or.jp/
- JETRO 貿易管理 https://www.jetro.go.jp/
Footnotes
-
Federal Register, "One Year Suspension of Expansion of End-User Controls for Affiliates of Certain Listed Entities"(2025年11月12日)。第1段階として2025年11月10日〜2026年11月9日の停止。https://www.federalregister.gov/documents/2025/11/12/2025-19846/ ↩
-
中国商務部の2026年2月24日付公告等に基づく措置。管控名单・关注名单は中国国内法上の規制区分であり、掲載事業者の是非を示すものではない。原文は商務部・出口管制サイトの公告で確認すること。https://exportcontrol.mofcom.gov.cn/ ↩
-
経済産業省「安全保障貿易管理」関係法令・改正情報。https://www.meti.go.jp/policy/anpo/ ↩





