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【完全解説】Huawei Ascend 910Bを「使用」しただけで輸出規則違反になり得る理由|BISのGP10ガイダンス徹底解説

2026-05-20濱本 隆太

米BISは2025年5月、Huawei Ascend 910Bを「使用」しただけで米国輸出管理規則に違反し得るとするGP10ガイダンスを公表。中国は「一方的いじめ」と反発し、反外国制裁法違反を警告。日本企業がクラウド経由で巻き込まれるリスクと実務対応を、米国主張・中国反論・第三者評価の3視点から中立に整理します。

【完全解説】Huawei Ascend 910Bを「使用」しただけで輸出規則違反になり得る理由|BISのGP10ガイダンス徹底解説
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。今日は、AIインフラ・クラウド戦略を担当している方、中国市場と接点のある法人営業や経営企画、そして輸出管理の担当者にぜひ読んでいただきたいテーマです。

「Huawei Ascend 910B 使用 違反」と検索してこの記事にたどり着いた方は、おそらくこんな状況ではないでしょうか。社内で生成AI活用が進み、コスト面から中国製AIチップやHuawei Cloudの利用を検討している。あるいは、中国子会社が独自に910BベースのAIサーバーを導入したと聞いた。海外パートナーから「Ascend 910Bは触らないほうがいい」と言われたが、根拠が曖昧で判断に困っている。

結論から書きます。2025年5月13日、米商務省産業安全保障局(BIS)は「Huawei Ascend 910B / 910C / 910Dを使用すると、米国輸出管理規則(EAR)違反になり得る」とするガイダンスを公表しました[^1]。当初は「世界中のどこで使っても違反になり得る」と踏み込んだ表現を使い、Bloombergが大きく報じ、業界に激震が走りました[^2]。中国側はこれを「一方的な経済的いじめ」と強く反発し、ガイダンスに従う企業は中国の反外国制裁法違反に問われ得ると警告[^3]。BISは数日後に「anywhere in the world」という表現を静かに撤回しましたが、規制本体は撤回されていません[^4]。

この記事では、初心者の方でもつまずかないように、まず用語を3つだけ理解するところから始めます。そのうえで、Ascend 910Bの技術的位置づけ、BISの主張、中国の反論、第三者シンクタンクの評価を等距離で並べ、最後に「日本企業として明日から何をすべきか」を整理します。読み終わったとき、自社の中国AIインフラやクラウド連携を一度棚卸ししたくなる、そんな記事を目指しました。


この記事でわかること

  • 米BISが2025年5月13日に出したGP10ガイダンスが何を言っているか、初心者向けに3つの用語から理解できる
  • Ascend 910BがNVIDIA H100と比べてどの程度の性能で、なぜ規制の標的になったのか
  • 米国の主張(BIS)、中国の反論(商務部)、第三者シンクタンク(CSIS/RAND/CSET/ITIF)の評価を並列で把握できる
  • 日本企業が引っかかりやすい3つのパターン(クラウド経由、中国子会社経由、共同開発)の輪郭がつかめる
  • 違反時のリスク(Seagateの3億ドル罰金事例)と、実務でやるべき5ステップが具体的に分かる

まず用語を3つだけ理解する(GP10 / FDPR / Ascend 910B)

輸出管理の世界は専門用語が多く、初心者の方がつまずきやすいポイントです。今回の話を理解するために、まず3つだけ用語を押さえましょう。これさえ分かれば、本記事の8割は読み解けます。

1つ目はAscend 910B(アセンド 910B)。Huaweiが開発したAI処理向けのチップ(半導体)です。NVIDIAのH100に対抗する位置づけで、ChatGPTのような生成AIや画像認識AIの学習・推論に使われます。初代Ascend 910は台湾のTSMCが製造していましたが、2020年にHuaweiが米国のエンティティリストに掲載されTSMCが取引を停止。Huaweiは中国国内のSMIC(中芯国際)に製造を移管しました。これが910Bです[^5]。

2つ目はFDPR(外国直接製品ルール、Foreign Direct Product Rule)。米国外で製造された製品でも、米国技術が一定割合以上使われていれば、米国の輸出管理規則(EAR)が及ぶというルールです。たとえば日本の工場で組み立てた装置であっても、内部に米国製の重要部品やソフトウェアが入っていれば、米商務省の管轄下に置かれます。「米国外で作ったから米国法は関係ない」が通用しない、というのがFDPRのインパクトです。

3つ目はGP10(一般禁止規則10、General Prohibition 10)。EAR上の禁止規則のひとつで、「EAR違反があると知りながら、その品目を売る・買う・使う・運ぶ・修理する等のあらゆる行為を禁止する」というルールです。違反品と知っている限り、関わること自体がアウトになる、かなり広い網です。

この3つを組み合わせると、BISが2025年5月に主張した三段論法がきれいに見えてきます。

Ascend 910Bは米国製の半導体製造装置を使って作られている(FDPRが効く)→ よってEAR対象品目 → かつHuaweiはエンティティリスト企業なので、ライセンスなしの製造品はEAR違反品 → それを「知りながら」使う行為はGP10違反

この論理が成立すれば、確かに「910Bを使うだけで違反」という強い主張も成り立ちます。ただし、ここには中国側からの強い反論があり、また執行可能性についてシンクタンクから疑問も呈されています。順番に見ていきましょう。


Ascend 910Bの技術的位置づけ──NVIDIA H100との仕様比較

そもそも、なぜ910Bがこれほど強い規制の標的になったのか。性能を見ると理解しやすいです。

項目 Huawei Ascend 910B NVIDIA H100(参考)
製造プロセス SMIC 7nm相当(N+2、DUV露光) TSMC 4nm
メモリ HBM2e 64GB HBM3 80GB
メモリ帯域 約400GB/s〜1.2TB/s 約3TB/s
FP16性能(公称) 約320 TFLOPS 約1,000 TFLOPS
INT8性能(公称) 約640 TOPS 約2,000 TOPS
消費電力 約400W 約700W
価格(参考) 約11万元(約230万円) 約2.5〜3万ドル(約380〜450万円)

出典:Tom's Hardware、TrendForce、CSET(米ジョージタウン大学)等の分析[^6]。

数字だけ見ると、910BはH100の6〜7割程度の性能で、消費電力は低めです。最先端ではないが、生成AIの学習・推論に使うには十分競争力がある、というのがおおむねの評価。中国国内では2024年に約45万枚が販売されたとされ、NVIDIAの中国向け規制適合版「H20」の販売数(約100万枚)の半分程度を占めるまでに広がっています[^6][^7]。

ユーザー側を見ると、China Mobile(中国移動)やiFlytek、SenseTimeといった国有寄りの企業に加え、Baidu、Tencent、Alibabaといった大手テックもまとまった枚数を購入しています。中国発の生成AIモデル「DeepSeek」も、後継のAscend 950PR向け最適化が進んでおり、910Bの流れを引き継ぐ形でエコシステムが広がりつつあります[^7][^8]。

ここで注意したいのは、910Bが「最先端ではない」ことが規制議論を複雑にしている点です。最先端でないなら自由にしてよいというわけではなく、量的に普及することで中国のAI基盤全体を底上げするため、米国は警戒を強めている、というのがBISのロジックです。


該非判定の属人化を、AIで解消する。

経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDなら、判定時間を約7割削減し、判定根拠を構造化データで保存できます。

BISの主張──2025年5月13日 GP10ガイダンスと撤回された「anywhere」表現

ここからは米国側の主張を整理します。中立性のため、後ろのセクションで中国の反論も同じ分量で扱います。

公式文書の位置づけ

正式名称は "Guidance on Application of General Prohibition 10 (GP10) to People's Republic of China Advanced Computing Integrated Circuits"。2025年5月13日付で発行された、米国商務省BISの公式文書です[^1]。

ポイントは、これが新法ではないことです。GP10そのものは既存のEAR上に存在していたルールで、今回のガイダンスは「GP10をAscend 910B等の中国製AIチップにどう当てはめるか」を解釈として示したものです。つまり、ある日突然新しい禁止行為が増えたわけではなく、「もともとあったルールが、実はこのチップにも効きますよ」という整理。法的にはこの点が議論の余地を生んでいます。

「anywhere in the world」の撤回エピソード

当初のBISプレスリリースは、こんな表現を使っていました。

"using Huawei Ascend chips anywhere in the world violates U.S. export controls"

「世界中のどこでHuawei Ascendチップを使っても米国輸出規則違反になる」。これをBloombergが大きく報じ、Communications DailyやCryptopolitanといった専門メディアが追随[^2]。グローバル企業の輸出管理部門は一気に騒然となりました。

ところが、中国商務部の強硬反発を受け、BISは5月20日前後に静かに表現を書き換えました。「世界中のどこでも違反」という断定的な表現は消え、「リスクを警告する(alerting industry to the risks)」という穏当な表現に差し替えられたのです[^4]。

注意すべきは、ガイダンス本体(GP10適用の枠組み)は撤回されていないという点です。撤回されたのはあくまでレトリック(言い回し)であり、規制の中身は維持されている。私の見立てでは、BISは中国との外交摩擦を緩和する一方で、実務上の網(GP10適用)は外さない、という二段構えに切り替えたのだと思います。

BISが示した「レッドフラグ」

ガイダンスは、企業向けに以下のような確認項目(red flags、危険信号)を提示しました。これらに該当する取引には、追加のデューデリジェンス(適正評価手続き)が求められます[^9][^10]。

  • 取引先の最終納品先・設置先が不明
  • 取引先がデータセンターを保有しているかが確認できない
  • 取引先のウェブサイトが英語版と非英語版(中国語版等)で記載が異なる
  • 取引先の本社・親会社の所在地が不明(特にD:5諸国=中国・マカオ等の武器禁輸国に該当するか)
  • 取引先が情報開示を拒否する、あるいは不完全な情報しか出さない

「いつもの取引先で、特に怪しい点はない」と思っていても、これらの項目に該当する場合はBISが追加調査を期待している、というメッセージです。怠った場合、BISは罰則を加重すると明言しています[^9]。


中国側の反論──「一方的いじめ」と反外国制裁法による報復示唆

ここからは中国側の主張を、同じ分量で整理します。BISの論理だけを見て「中国製チップは危険だ」と早とちりするのは公平ではありません。

中国商務部の公式声明

中国商務部は2025年5月15日、スポークスマンを通じて以下のように述べました。

  • BISの今回のガイダンスは「典型的な一方的いじめ(unilateral bullying)と保護主義」である[^3]
  • グローバルな半導体サプライチェーンの安定を「深刻に損なう」行為であり、米中間で進行中だった貿易交渉の成果を米国自身が損なった[^11]
  • 第三国の企業がBISガイダンスに従ってHuawei Ascendを不買すれば、中国の反外国制裁法(2021年成立)違反に問われ得る[^3]
  • 中国市場でのビジネス継続を望むなら、米国の一方的な要求に従うべきではない

注目したいのは、反外国制裁法による報復示唆です。同法は2021年に成立し、外国の制裁に従う企業を中国側が制裁する根拠法となっています。具体的な発動例はまだ多くありませんが、日本企業の中国子会社・現地法人にとっては、米国規制に従うほど中国側の規制に抵触する、いわゆる板挟みリスクが現実的なものになっています。

Huaweiの反応

Huawei自体は、本件についての公式・包括的なプレス声明を控えめにしている点が特徴です。これまでの過去事例(2019年のエンティティリスト掲載時等)と比べると、強く反発する声明よりも、中国政府の立場と整合的に静かに動いているように見えます。

中国側全体としては「政府が法的・外交的に反論し、Huaweiは実務的に粛々と販売・サービスを継続する」という役割分担のように映ります。これは初心者の方が見落としやすい構図なので、ニュースを読むときは「誰が」「どの立場で」発言しているのかを意識すると整理しやすくなります。


第三者の評価──CSIS/RAND/CSET/ITIFは何と言っているか

米中いずれの当事者でもない第三者(米国のシンクタンク)は、今回のガイダンスをどう評価しているのか。複数の主要シンクタンクのレポートを並べると、興味深い見解が浮かびます。

**CSET(ジョージタウン大学)**は、Ascend 910Bが米国の輸出規制の限界を試している、と分析しています。SMICが7nm相当のチップを量産できている時点で、米国の対中輸出規制は当初の想定よりも限定的な効果しか上げていない可能性がある、というトーンです[^12]。

CSIS(戦略国際問題研究所)は、DeepSeek・Huawei・輸出規制を巡る一連の動きを「米中AIレースの将来を左右する転換点」と位置づけつつ、規制の執行可能性については慎重な立場をとっています[^13]。「世界中のクラウド利用者まで監視するのは現実的か」という根本的な疑問です。

RAND研究所は、対中AIチップ規制は必要だとしつつ、現在のGP10ガイダンスのような広範な手法ではなく、より標的を絞った(smart)チップ規制が望ましいと提言しています。広すぎる網は同盟国企業の負担を増やし、結果として規制の信頼性を損なうという懸念です[^14]。

最も踏み込んでいるのはITIF(情報技術イノベーション財団)で、2025年10月のレポート「Backfire(裏目)」は、米国の輸出規制が逆にHuaweiの市場シェアを中国国内で押し上げてしまったと指摘しています。「中国製品を使うな」と命じれば命じるほど、中国側は国産化を加速させ、結果的に米国企業(NVIDIA、AMD等)が中国市場を失う皮肉な構図[^15]。

これらの見方は、BISの主張をそのまま肯定しているわけでも、中国の反論をそのまま支持しているわけでもありません。「規制は必要だが、現在の設計には問題がある」という、いわばグレーな評価が主流です。日本企業として状況を判断するときは、米中どちらか一方の主張だけでなく、こうしたグレーな第三者評価も視野に入れるべきだと考えます。


日本企業が引っかかるパターン──クラウド経由、中国子会社経由、共同開発

ここからが、本記事を読んでいただいている方にとって最も実務的な部分です。日本企業が今回のガイダンスに「うっかり」抵触してしまう典型パターンを3つに分けて整理します。

パターン1:クラウドサービス経由の間接利用

最も身近で、最も見落とされやすいのがこのパターンです。Huawei Cloud(華為雲)は「Ascend AI Cloud Service」と称して、海外の利用者にも910B / 910Cベースの計算資源を提供しています。UAE、サウジアラビア、タイ、南アフリカで販売活動を行っているとの報道もあり、対象は中国国内に限定されません[^16]。

ここで起きる典型例はこうです。日本企業のAI開発チームが、コストや性能、特定機能の関係でHuawei Cloudの一部サービスを試験利用する。バックエンドで何のチップが動いているかは意識していない。しかし、そのチップが910Bだった場合、GP10の「使う(use)」に該当する可能性が高い、というのが主要法律事務所(Crowell & Moring、Mayer Brown、Gibson Dunn等)の解釈です[^17][^18][^19]。

BISは「knowledge(知りながら)」を要件にしていますが、業界ガイダンスでは「reason to know(知るべきだった)」も含むと解釈されており、「知らなかった」では済まされない可能性があります。特に、Huawei Cloud側が公式に「Ascend搭載」と明示しているサービスを意図的に選んだ場合は、まず逃げられないと考えるべきです。

パターン2:中国子会社経由

日本企業の中国現地法人が独自判断で910BベースのAIサーバーを導入する、というケースもあり得ます。「現地子会社が現地調達するのは当然」と考えがちですが、米国法は親会社の知見・統制が及ぶ範囲で親会社にも責任を問い得る構造になっています。

逆方向のリスクもあります。中国商務部が反外国制裁法を根拠に、「Ascendを排除すれば中国側で制裁する」と踏み込んできた場合、子会社レベルでは「米国規制に従うとビジネスが立ち行かない」「中国規制に従うと米国規制に抵触する」という板挟みになります。グループ全体のリスク管理として、米中双方の規制を同時に見るコンプライアンス体制が必要です。

パターン3:共同開発・サプライチェーン参画

中国系AI企業との共同開発、あるいは中国系AIインフラ事業者向けの部品・サービス提供を行っている場合、サプライチェーンの先で910Bが使われている可能性があります。Baidu、Tencent、Alibabaといった大手テックも910Bを採用しているため、これらの企業のAIサービスを使う、あるいはこれらの企業に何かを納入する、という時点で間接的に910Bエコシステムに組み込まれているわけです。

実務上、サプライチェーンの末端まで完全に把握するのは現実的に困難ですが、BISのレッドフラグ項目を参考に、最終納品先・設置先を確認するルートを社内に持っているかどうかが分かれ目になります。


違反した場合のリスク──Seagate3億ドル罰金事例から学ぶ

「ガイダンスに従わなくても、実際には罰せられないのでは」と考える方もいるかもしれません。しかし、米国の輸出管理規制は罰則が極めて重いことで知られています。

法定の罰則

  • 行政罰:1件あたり最大約36万ドル(約5,400万円)または取引額の2倍、いずれか大きい方
  • 刑事罰:法人は最大100万ドル または取引額の10倍の罰金、個人は最大20年の禁錮および最大100万ドルの罰金
  • 輸出特権の剥奪:Denial Order(米国原産品の輸出入禁止命令)

加えて、米財務省OFAC(海外資産管理室)による二次制裁の対象になれば、米ドル決済の停止、米国系銀行との取引断絶、米国企業との一切の取引停止といった、事実上のビジネス継続不能事態に発展しかねません。

具体例:Seagate 3億ドル罰金(2023年4月)

ハードディスク世界大手のSeagate Technologyは、2023年4月、FDPR違反でHuaweiおよびその関係会社にハードディスク約740万台(429件、総額約11億ドル相当)を販売したとして、BISから3億ドル(約450億円)の行政罰金を科されました。これはBIS史上最大級の単独行政罰です[^20]。

罰金だけでなく、多年度の監査義務、5年間のDenial Orderの猶予付き発動という重い附帯処分も付いています。「Huaweiにモノを売っていたのが見つかっただけで、年間営業利益の数年分が吹き飛ぶ」という規模感です。

Seagate事例は、輸出管理規制が事後的に摘発される性質を持つことも示しています。違反行為が起きた時点ではなく、数年後の調査で発覚するケースが多い。今この瞬間に910Bを使っている企業も、数年後にBISの調査対象になり得ます。


実務でやるべき5ステップ

ここまでの内容を踏まえ、明日からの実務として取り組むべきことを5ステップに整理します。

ステップ1:自社のAIインフラ・クラウド利用先を棚卸しする

社内で利用中のAIクラウドサービス、AIサーバー、AI学習基盤を全て洗い出してください。バックエンドのチップ構成まで把握できているかが鍵です。Huawei Cloudや、Huaweiと提携している中国系AIサービスを直接・間接に利用していないか確認します。

ステップ2:中国子会社・現地法人のIT調達ポリシーを点検する

子会社が独自にAIインフラを調達している場合、何を使っているか・何を導入予定かをグループ本社が把握できる仕組みになっているか。910B、910C、910D、Ascend 950シリーズなど、Ascendブランドのチップが含まれていれば即座にフラグを立てる体制が必要です。

ステップ3:取引先・サプライヤーへのデューデリジェンスを強化する

BISのレッドフラグ項目を社内チェックリストに落とし込み、新規取引・継続取引の双方で運用します。最終納品先の確認、ウェブサイトの言語別記載差異、データセンター保有状況、本社所在地、情報開示への協力姿勢など、定型項目として確認できる体制にします。

ステップ4:米中双方の規制に対応するシナリオを準備する

「米国規制に従うと中国側に制裁される」「中国規制に従うと米国側に制裁される」という板挟みシナリオを想定し、リスクベースで判断する枠組みを持ちます。米国輸出管理に詳しい法律事務所、中国法に詳しい現地カウンセル、両方との連携体制を整えるのが理想です。

ステップ5:輸出管理AIエージェントの活用を検討する

人手だけで全てのチップ、サプライチェーン、規制動向を追うのは限界があります。TIMEWELLが提供するTRAFEED(旧ZEROCK ExCHECK)は、世界初の輸出管理AIエージェントとして、経産省基準に準拠したリスクスクリーニング、リアルタイムの規制動向監視、取引先デューデリジェンスの自動化を支援します。Ascendチップを含む先端AIチップ規制も、フィードを通じて自動的に追跡可能です。


よくある誤解/FAQ

Q1. 「世界中のどこでも違反」表現は撤回されたから、もう気にしなくていいのでは?

A. 撤回されたのは表現だけで、ガイダンス本体(GP10適用の枠組み)は維持されています[^4]。むしろ、米中外交の力学を反映して穏当な表現で生き残った規制と考えるべきで、警戒レベルを下げてはいけません。

Q2. 日本の社員が中国出張中にHuawei Cloudを使ったら違反になりますか?

A. その裏で910Bが動いていればGP10違反のリスクが理論上はあります。ただしBISは「knowledge(知りながら)」を要件にしているため、明らかに910B利用と分かっているサービスを意図的に使う場合と、一般的なクラウド利用で知らずに使った場合では責任が異なります。社内ポリシーで利用可否を整理し、明示的に910B搭載と分かっているサービスは避けるのが安全策です。

Q3. AIモデルを910Bで学習させると、そのモデル自体も輸出規制対象になりますか?

A. BISは2025年5月のガイダンスとは別に、「特定の演算性能を超えるAIモデル」を輸出規制対象とする方向で検討中です。現時点で学習済みモデル自体が直接EAR対象とは限りませんが、将来規制される可能性が高い領域です。

Q4. NVIDIA H20なら使っても大丈夫ですか?

A. NVIDIA H20は当初、中国向けに性能を落とした「規制適合版」として設計されましたが、2025年に米政府はH20の中国向け輸出にも追加ライセンスを要求する方向で再規制を進めました。H20も完全に安全とは言い切れない状況になっています[^21]。

Q5. 「米国法だから日本企業には関係ない」のでは?

A. EARの域外適用(FDPR)により、日本企業にも直接適用される構造です。米国内法上の違反として摘発されれば、米国側との取引停止、米ドル決済不可など、日本でのビジネス継続にも実害が出ます。「日本国内法では違反ではない」は、米国制裁の前ではほとんど意味を持ちません。


まとめ──押さえるべき5つのポイント

長くなりましたので、最後に要点を整理します。

  • BISは2025年5月13日、Ascend 910Bの「使用」自体がGP10違反になり得るとするガイダンスを公表。当初の「世界中のどこでも」表現は撤回されたが、規制本体は維持されている
  • 米国の主張:910Bは米国技術で製造されており、Huaweiはエンティティリスト企業。GP10により「使う」行為自体が禁止対象
  • 中国の反論:「一方的な経済的いじめ」であり、ガイダンスに従う企業は反外国制裁法違反に問われ得る
  • 第三者シンクタンクの評価:執行可能性に疑問、ITIFは「逆にHuaweiを利した」と指摘。標的を絞った規制を求める声が多い
  • 日本企業の実務:クラウド経由・子会社経由・共同開発の3パターンに注意。Seagateの3億ドル罰金事例が示すとおり、罰則は現実的

私の見方を率直に書きます。今回のガイダンスは「米国の輸出管理規制が、製造段階から使用段階まで対象を広げた」という点で、輸出管理の歴史のなかでも重要な転換点です。これまでは「売らなければよい」「輸出しなければよい」で済んでいた領域に、「使うな」「触るな」という規制が入り始めた。これは輸出管理担当者だけの話ではなく、AIインフラ調達、クラウド戦略、海外子会社マネジメントといった経営判断そのものに影響します。

中国製AIチップが「悪」だと言いたいわけではありません。米国の主張、中国の反論、第三者の評価をフラットに並べたうえで、自社のリスクをどう取るかを冷静に判断する。それが、いま日本企業に求められている態度だと考えています。

関連記事:MATCH法と米国輸出規制──日本の半導体装置メーカーが今すぐ点検すべきこと 関連記事:2026年の米中半導体輸出規制まとめ 関連記事:日本企業の対中輸出リスク2026


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参考文献

[^1]: U.S. Department of Commerce, Bureau of Industry and Security, "Guidance on Application of General Prohibition 10 (GP10) to People's Republic of China Advanced Computing Integrated Circuits", May 13, 2025. https://www.bis.gov/media/documents/general-prohibition-10-guidance-may-13-2025.pdf

[^2]: Bloomberg, "US Warns That Using Huawei Ascend AI Chip 'Anywhere' Breaks Its Rules", May 13, 2025. https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-05-13/us-warns-that-using-huawei-ai-chip-anywhere-breaks-its-rules

[^3]: Washington Times, "China blasts new U.S. rule banning use of Huawei's Ascend advanced computer chips", May 15, 2025. https://www.washingtontimes.com/news/2025/may/15/china-rips-new-us-rule-banning-use-huaweis-ascend-advanced-computer/

[^4]: Communications Daily, "BIS Eliminates Language Saying Use of Huawei Ascend Chips 'Anywhere' Violates Export Controls", May 20, 2025.

[^5]: Tom's Hardware, "Huawei's homegrown AI chip examined: Chinese fab SMIC produced Ascend 910B is massively different from the TSMC-produced Ascend 910". https://www.tomshardware.com/tech-industry/artificial-intelligence/huaweis-homegrown-ai-chip-examined-chinese-fab-smic-produced-ascend-910b-is-massively-different-from-the-tsmc-produced-ascend-910

[^6]: TrendForce, Ascend 910Bおよび中国向けAIチップ市場動向分析(2024-2025年)

[^7]: CSET (Georgetown University), "Pushing the Limits: Huawei's AI Chip Tests U.S. Export Controls". https://cset.georgetown.edu/publication/pushing-the-limits-huaweis-ai-chip-tests-u-s-export-controls/

[^8]: CSIS, "DeepSeek, Huawei, Export Controls, and the Future of the U.S.-China AI Race". https://www.csis.org/analysis/deepseek-huawei-export-controls-and-future-us-china-ai-race

[^9]: U.S. Department of Commerce, Press Release on Rescission of AI Diffusion Rule and New Guidance. https://www.bis.gov/press-release/department-commerce-rescinds-biden-era-artificial-intelligence-diffusion-rule-strengthens-chip-related

[^10]: Arnold & Porter, "Commerce: New Guidance to Curb Adversaries' Access to Advanced AI Tech", May 2025. https://www.arnoldporter.com/en/perspectives/advisories/2025/05/commerce-new-guidance-curb-adversaries-access-to-advanced-ai-tech

[^11]: CNBC, "China says U.S. undermined trade talks with Huawei chip warning", May 19, 2025. https://www.cnbc.com/2025/05/19/china-us-trade-tariffs-chip-huawei.html

[^12]: CGTN, "New U.S. chip guidance on Huawei reveals deeper fears, tougher realities", May 14, 2025. https://news.cgtn.com/news/2025-05-14/New-U-S-chip-guidance-on-Huawei-reveals-deeper-fears-1DniqT0I33W/p.html

[^13]: CSIS, "DeepSeek, Huawei, Export Controls, and the Future of the U.S.-China AI Race"(同上)

[^14]: RAND Corporation, "Leashing Chinese AI Needs Smart Chip Controls", August 2025. https://www.rand.org/pubs/commentary/2025/08/leashing-chinese-ai-needs-smart-chip-controls.html

[^15]: ITIF, "Backfire: Export Controls Helped Huawei and Hurt U.S. Firms", October 27, 2025. https://itif.org/publications/2025/10/27/backfire-export-controls-helped-huawei-and-hurt-us-firms/

[^16]: Covington & Burling, "Unpacking The BIS Guidance On Chinese AI Chip Use", August 2025. https://www.cov.com/-/media/files/corporate/publications/2025/08/unpacking-the-bis-guidance-on-chinese-ai-chip-use.pdf

[^17]: Crowell & Moring, "US Department of Commerce Rescinds Biden Administration's AI Diffusion Export Control Rule and Issues New Guidance on Huawei Chips". https://www.crowell.com/en/insights/client-alerts/us-department-of-commerce-rescinds-biden-administrations-ai-diffusion-export-control-rule-and-issues-new-guidance-on-huawei-chips-for-ai-purposes-and-diligence-expectations

[^18]: Mayer Brown, "US Commerce Department Announces New Export Compliance Expectations Related to Artificial Intelligence", May 2025. https://www.mayerbrown.com/en/insights/publications/2025/05/us-commerce-department-announces-new-export-compliance-expectations-related-to-artificial-intelligence

[^19]: Gibson Dunn, "BIS Initiates Rescission of AI Diffusion Framework, Issues Strong AI and Advanced IC Guidance and Warnings". https://www.gibsondunn.com/bis-initiates-rescission-of-ai-diffusion-framework-issues-strong-ai-and-advanced-ic-guidance-and-warnings-more-to-come/

[^20]: U.S. Department of Commerce, BIS, Seagate Technology $300M Settlement, April 2023. https://www.bis.gov/node/20250

[^21]: JETRO, 「トランプ米政権、輸出管理の適用範囲を拡大」, 2025年9月. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/09/c92c704c4b353243.html


Disclaimer: 本記事は2026年5月時点で公開されている一次資料・主要報道・法律事務所の分析を参考に整理した解説記事であり、特定の取引に関する法的助言を行うものではありません。実際の輸出管理コンプライアンスについては、米国輸出管理に詳しい弁護士・専門家への個別相談を推奨します。

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