こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。
大学入学者のおよそ5人に1人が、総合型選抜で進学する時代になりました。文部科学省が令和7年11月26日に公表した最新の実施状況によると、総合型選抜での入学者は12万6,766人で全体の19.5%、私立大学に限れば22.8%に達しています^1。そして文科省の実施要項は、この入試で必ず評価に使う活動報告書に「総合的な探究の時間」で取り組んだ課題研究の記載を求めています[^2]。つまり、授業として全員が取り組んでいる探究の時間が、そのまま入試の中心資料になる制度がすでに動いているわけです。この記事では、総合型選抜がどこまで広がったのか、評価される探究とされない探究は何が違うのか、ポートフォリオに何を残せばよいのか、そして高1からどう逆算するのかを、文科省の一次資料だけを根拠に整理します。
私たちTIMEWELLは企業のAI伴走支援を本業にしつつ、高校生向けのプログラムにも取り組んでいます。その現場で、探究担当の先生と進路指導の先生から同じ悩みを別々の言葉で聞くことが増えました。探究側は「頑張った生徒の成果が進路に接続できていない」、進路側は「総合型選抜で語れる材料が出願直前になっても揃わない」。原因はたいてい共通していて、記録が残っていないことです。先に要点を3つ挙げます。
- 総合型選抜と学校推薦型選抜を合わせると入学者の53.6%。半数以上が一般選抜より前に合否が決まる、いわゆる年内入試で進学先を決めており、その評価の中心に探究の記録があります
- 評価の分かれ目は、成果の見栄えではなく「問いの独自性」「過程の記録」「検証の深さ」の3つです。令和9年度選抜から面接が必須になり、過程を語れない探究は書類が立派でも崩れます
- ポートフォリオ作りは高3から始めると間に合いません。出願受付は毎年9月1日以降と定められており、高1からの記録の習慣がそのまま差になります
総合型選抜はもう特別な入試ではない。数字で見る拡大
まず、どれくらい広がっているのかを正確に押さえておきます。文部科学省「令和7年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要」によると、令和7年度に総合型選抜で大学に入学した人は12万6,766人、入学者全体の19.5%でした^1。設置者別に見ると国立7.7%、公立6.0%、私立22.8%。学校推薦型選抜の34.1%と合わせると53.6%になり、大学入学者の半数以上が、一般選抜より前に合否の決まる入試で進学先を決めた計算になります^1。実施する側も同様で、総合型選抜を行う大学は728大学、全体の93.6%に上ります^1。ほとんどの大学に、探究の成果で挑める入口があるということです。
なお、この統計には注意書きがあります。令和7年度の実施要項から選抜区分の整理が変わったため、令和6年度以前の数値とは単純に比較できません^1。「前年から何ポイント伸びた」という書き方を私があえてしていないのは、このためです。それでも、5人に1人、私立なら4人に1人に迫る水準そのものが、もはや傍流とは呼べない規模だということは動きません。
総合型選抜は、かつてAO入試と呼ばれていた区分の流れをくむ入試です。文科省は高大接続改革の中で、多面的・総合的な評価の観点から名称と中身を改めました[^3]。現行の実施要項は総合型選抜をこう定義しています。「一般選抜とは異なる観点や方法により評価を行うという前提のもと、詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせることによって、入学志願者の能力・適性や学習に対する意欲、目的意識等を総合的に評価・判定する入試方法」[^2]。一芸入試とか、学力不問の抜け道とか、そういう古いイメージで語られることがまだありますが、制度の設計思想は真逆です。書類を細かく読み、時間をかけて対話し、その人の学ぶ意欲と目的意識を見る。手間のかかる入試なのです。
探究との関係で見逃せないのは、入試全体の評価軸である「学力の三要素」の定義に、探究という言葉そのものが埋め込まれている点です。実施要項は三要素の2つ目を「知識・技能を活用して、自ら課題を発見し、その解決に向けて探究し、成果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力」と定めています[^2]。探究は入試の周辺にあるオマケではなく、評価軸の中心に据えられた概念だということです。
さらに、直近で大きな変更がありました。令和8年5月27日付けの通知で示された令和9年度実施要項は、総合型選抜と学校推薦型選抜で「面接による評価を必ず行うこととした」と明記しています[^4]。面接の導入が難しい既存の選抜区分には令和11年度選抜までの経過措置がありますが、方向は固まりました[^4]。背景には、令和8年度選抜の一部で、2月1日より前に実施する教科型テストの配点が著しく高いなど、実質的に学力検査に偏った合否判定が行われ、総合型選抜の趣旨に合わない事例が見受けられたことがあります[^4]。大学入学者選抜協議会は各大学長に実施要項の遵守を求める文書まで出しました[^4]。国の姿勢ははっきりしています。総合型選抜は、書類と対話で人を見る入試であり続けよ、という方向です。受験生の側から見れば、語れる中身を持っている人がますます有利になる変更だと読めます。
評価される探究と、されない探究はどこで分かれるか
では、どんな探究が総合型選抜で強いのでしょうか。私は3つの分かれ目があると考えています。問いの独自性、過程の記録、検証の深さです。
1つ目は問いの独自性、正確に言えば「自分との接続」です。高等学校学習指導要領は、総合的な探究の時間の目標に「実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし、自分で課題を立て」というプロセスを明記しています[^5]。制度そのものが、問いと自分の関わりを要求しているのです。「SDGsについて調べました」という探究が弱いのは、テーマが大きすぎるからではなく、なぜあなたがそれを問うのかが見えないからです。祖父の畑の獣害から農業とテクノロジーに向かった問いと、教科書的に選ばれた環境問題の問いでは、面接で掘り下げられたときに耐える強度がまるで違います。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の学部長を務める伊藤羊一氏は、高校の進路指導教員向けの講演で「アントレプレナーシップ教育は『君はどうしたいんだ?』という問いに尽きる。キャリア教育も同じだ」と述べています[^6]。総合型選抜の書類審査と面接がやっていることも、突き詰めればこの問いです。
2つ目は過程の記録です。総合型選抜の定義にある「詳細な書類審査」という言葉を思い出してください[^2]。審査する側は、完成した成果物の裏にある思考の道筋を読もうとします。ところが多くの生徒の手元には、最終発表のスライド1枚しか残っていません。問いが最初は何で、どこで行き詰まり、誰の助言でどう変わったのか。この変遷こそが「自ら課題を発見し、その解決に向けて探究し」た証拠なのに、記録がないために語れない。もったいないと思います。きれいに完成した1つの結論より、3回書き直された問いの記録のほうが、審査する側には雄弁です。
3つ目は検証の深さです。アンケートを30人に取って「〜だと思いました」で終わる探究と、仮説を立てて試し、否定されて仮説を立て直した探究。扱うテーマが同じでも、評価は分かれます。学力の三要素の定義が求めているのは課題の「解決に向けて探究」する力であって、感想文の作成能力ではありません[^2]。仮説が外れた記録は、失敗の証拠ではなく検証をやった証拠です。むしろ一度も仮説が外れていない探究のほうが、検証していない疑いを持たれます。
この3つを比較の形で整理しておきます。
| 分かれ目 | 評価されにくい探究 | 評価される探究 |
|---|---|---|
| 問い | 一般論のテーマをそのまま扱う | 自分の経験や生活と接続した問いを立てている |
| 過程 | 最終スライドしか残っていない | 問いの変遷と行き詰まりの記録が日付付きで残っている |
| 検証 | 調べた内容の要約と感想で終わる | 仮説を試し、外れた結果も含めて次の一手につなげている |
念のため補足すると、この表の左側に当てはまる探究をしてきた生徒が総合型選抜を諦める必要はありません。分かれ目が過程と検証にあるということは、途中からでも記録を立て直し、検証を一段深めれば挽回できるということでもあります。テーマの立て直しを考えている場合は、AIを切り口にした問いの設計例をまとめた探究学習のAIテーマ50選も参考になるはずです。
ポートフォリオに残すべき素材。活動報告書の様式から逆算する
ポートフォリオという言葉は漠然としていますが、総合型選抜に限れば、何を残すべきかは制度側からかなり具体的に逆算できます。実施要項は、総合型選抜が「公募制という性格に鑑み、志願者本人の記載する資料を必ず評価に活用する」と定め、その資料として活動報告書、大学入学希望理由書、学修計画書等を挙げています[^2]。そして活動報告書には「『総合的な探究の時間』や理数探究等において取り組んだ課題研究等」の記載を求めるとし、参考様式には課題テーマを選んだ理由と、概要・成果を書く欄が用意されています[^2]。さらに「志願者本人が記載する資料に関するプレゼンテーションなどにより積極的に活用する」ともあります[^2]。つまり出願期に必要になるのは、テーマ選定の理由、取り組みの概要と成果、そしてそれを口頭で語り切る材料。この3つです。
ここから逆算すると、日々のポートフォリオに残すべき素材は次の5つに絞られます。
| 素材 | 何の証拠になるか | 残し方のコツ |
|---|---|---|
| 問いの変遷メモ | 課題テーマを選んだ理由、思考の深まり | 問いを書き換えるたびに旧版を消さず日付を付けて残す |
| 対話とフィードバックの記録 | 多様な人と協働する態度、助言を消化する力 | 誰に何を言われ、何を変えたかを3行で記録する |
| 試作品と失敗作 | 検証の実行力 | 動かなかった版も写真やスクリーンショットで保存する |
| データと分析の過程 | 情報を整理・分析する力 | 生データと集計表を分けて保存し、判断の理由をメモする |
| 発表資料と質疑の記録 | まとめ・表現する力 | 発表後に受けた質問と、答えられなかった質問こそ記録する |
見てのとおり、どれも高3になってから遡って作れるものではありません。だからこそ運用はできる限り軽くすべきです。私のおすすめは、週に10分だけ「今週の探究で変わったこと」を書く時間を決めてしまうことです。紙のファイルでも構いませんが、日付が自動で残り検索できるという点で、クラウドのドキュメントやスライドに集約するほうが実務的だと思います。書く内容は3行でいい。続くことがすべてに優先します。
生成AIを探究に使っている生徒なら、AIとの対話ログも立派な素材になります。ここで気を付けたいのは、AIに任せた部分と自分で考えた部分の線引きを、ログとともに自分の言葉で説明できるようにしておくことです。面接で「この分析はAIがやったのでは」と問われたとき、「ここまでをAIに任せ、この判断は自分がした」と具体的に答えられる生徒は、むしろAI時代のリテラシーの持ち主として評価されるでしょう。探究の授業に生成AIをどう組み込むかは、高校の探究学習と生成AIの実践記事で手順まで書いています。
動くプロダクトは最強の証拠になる
素材の話をもう一歩進めます。ポートフォリオの中で突出した説得力を持つのが、実際に動くプロダクトです。アプリでも、Webサービスでも、装置でも、売ってみた商品でも構いません。理由は単純で、書類の山の中で「動くもの」は検証可能な事実だからです。レポートに書かれた成果は読み手が信じるしかありませんが、URLを開けば動くアプリは、審査者が自分の手で確かめられます。
面接必須化は、この価値をさらに高めました。実施要項の面接にはプレゼンテーションや口頭試問が含まれます[^2]。抽象的な志望動機のやり取りは平板になりがちですが、実物が目の前にあると対話は一気に具体的になります。なぜこの機能を付けたのか、使った人は何と言ったか、どこで挫折して何を削ったか。過程の記録と実物が揃っている生徒にとって、面接は尋問ではなく、自分の得意な土俵になります。伊藤羊一氏は先の講演で、商業高校や農業高校の例を挙げて「商品や作物を売るなど実際にやってみると生徒の説得力が全く違ってくる」と語っています[^6]。試作品でいいから実際に世に出してみる。この一歩の有無が、語りの厚みを分けるという指摘です。私も高校生の伴走をしていて、まったく同じ実感を持っています。
そして今は、この一歩のハードルが劇的に下がった時代です。生成AIを使えば、プログラミング経験の浅い高校生でも、数週間でアプリの試作までたどり着けます。実際の道具立てと開発の進め方は高校生のAI開発実践ガイドに詳しくまとめましたが、要点だけ言えば、作れるかどうかはもう主な障壁ではありません。障壁は、作る対象を自分の問いから導けるかどうかに移っています。探究で立てた問いがあり、検証の記録があり、その先に動くプロダクトがある。この並びが揃ったポートフォリオは、総合型選抜において相当に強い。これは私の実務上の確信です。
私たちTIMEWELLも、学校・教育機関向けのWARP for Schoolsで、探究の問いを起点に生徒が自分の手でプロダクトを作るところまでの伴走を行っています。これまでに500名以上の育成に携わり、東京都との協定事業(WARP ENTRE)にも取り組んできました。探究の成果を進路に接続する設計を学校として整えたい先生方は、情報交換からでも覗いてみてください。
高1からの逆算スケジュール。締切は制度で決まっている
最後に時間の話をします。ここが一番、進路指導と探究担当の連携が効く部分です。総合型選抜の出願受付は9月1日以降、合格発表は11月1日以降と実施要項で定められています[^2]。令和9年度選抜なら令和8年9月1日、つまりこの記事の公開時点で高3生の出願開始まで1か月半しかありません。この日程の枠組みは近年の実施要項で毎年度同様に定められており[^2]、動かない前提で計画できます。裏を返せば、高3の夏までに探究の主要な材料が揃っていなければ、書類は書けても中身が伴わないということです。
高1から逆算すると、現実的な配分はこうなります。
| 時期 | やること | ポートフォリオ上のゴール |
|---|---|---|
| 高1 | 問いの種を探す。興味の記録を始め、週10分の記録習慣を作る | 問いの候補メモが日付付きで数本たまっている |
| 高2前半 | 問いを1本に絞り、情報収集と仮説設定に入る | 問いの変遷メモと対話記録が動き出している |
| 高2後半 | 検証と試作。外部の大人にぶつけてフィードバックを得る | 失敗を含む検証記録、試作品、中間発表資料が揃う |
| 高3春 | 成果をまとめ、志望校の求める学生像(アドミッション・ポリシー)と突き合わせる | 活動報告書の下書きがほぼ書ける状態 |
| 高3夏 | 書類の仕上げと面接練習。9月1日以降の出願へ | 過程を自分の言葉で語れる |
この表で一番大事なのは、高1の行が一番軽いことです。高1に必要なのは成果ではなく、記録の習慣と問いの種だけ。逆に高2後半の検証と試作を飛ばすと、高3でどれだけ文章を磨いても、語れる中身が足りなくなります。総合的な探究の時間は標準単位数3〜6単位の必履修として全員に割り当てられている時間です[^5]。この時間を記録付きで積み上げるだけで、総合型選抜の材料の大半は自然に揃う設計になっているのに、記録の一手間がないために消えていく。学校単位でポートフォリオの型を決めてしまうことが、個々の生徒の頑張りに頼るより確実だと私は考えています。
余談ですが、この構造は文科省が進める高校改革の方向性とも重なっています。国は探究や文理横断の学びを高校の中心に据える改革を進めており、その全体像はN-E.X.T.ハイスクール構想の解説記事で整理しました。探究の充実と入試での評価は、別々の政策ではなく一続きの流れです。
まとめ
- 総合型選抜の入学者は全体の19.5%、私立では22.8%。学校推薦型と合わせて53.6%がいわゆる年内入試で進学しており、728大学(93.6%)が総合型選抜を実施しています
- 実施要項は活動報告書に「総合的な探究の時間」の課題研究の記載を求め、令和9年度選抜からは面接が必須になりました。探究の記録は入試の中心資料です
- 評価の分かれ目は、問いの独自性、過程の記録、検証の深さの3つ。完成品より、問いの変遷と失敗を含む検証の記録が効きます
- 残すべき素材は、問いの変遷メモ、対話ログ、試作品と失敗作、データと分析過程、発表資料と質疑の記録。週10分の記録習慣で十分に回ります
- 出願受付は毎年9月1日以降。高1で記録の習慣、高2で検証と試作、高3で書類化と面接準備という逆算が現実的です
探究とは結局、記録を残しながら問いを育てる営みです。そしてそれは、総合型選抜が見ようとしている力そのものでもあります。入試のために探究を歪める必要はありません。探究を本気でやり、その過程を残す。それだけで、進路の選択肢は静かに広がっていきます。今週の探究の授業から、3行の記録を始めてみてください。
参考文献
[^2]: 文部科学省「令和9年度大学入学者選抜実施要項」(令和8年5月27日付け8文科高第318号 高等教育局長通知 別紙) [^3]: 文部科学省 高大接続改革FAQ「3-1-2 入試区分の名称はどのように変更されるのでしょうか。」 [^4]: 文部科学省「令和9年度大学入学者選抜実施要項及び大学院入学者選抜実施要項等について(通知)」(令和8年5月27日) [^5]: 文部科学省「高等学校学習指導要領比較対照表【総合的な探究の時間】」 [^6]: 第48回青森県高等学校教育研究会進路指導部会研究大会 全体講演「アントレプレナーシップ教育とキャリア教育」講演録(伊藤羊一氏、令和6年度研究紀要)
