こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。普段は「世界No.1の挑戦インフラを創る」というビジョンのもと、社内起業家やスタートアップの伴走支援をしています。日々、志ある起業家や、日本で事業を起こそうとする海外出身の仲間たちと話す機会も多いだけに、このテーマを避けて通るわけにはいかないと感じました。
2026年3月末、内閣官房が「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」の進捗状況をまとめた資料を公表しました[^1]。正直に言うと、政府資料というのは読みづらい。専門用語が並び、時系列が入り組み、「で、何がどう変わるんだっけ?」と途中で迷子になります。ただ、中身を丁寧に読み解いていくと、日本がこの一年で相当踏み込んだ改革を進めていることが分かる。起業家や経営者にとっても、「海外人材をどう巻き込むか」という論点で無関係ではいられない内容です。
本記事では、この資料のエッセンスを、スタートアップの現場感覚でかみ砕いてお伝えします。単なる要約ではなく、「なぜ今これが必要なのか」「私たちの事業や暮らしにどう効いてくるのか」という視点で書きました。
1. そもそも、なぜ「共生社会」が国の最重要テーマになったのか
高市政権が2025年10月に発足した直後、新たに「外国人との秩序ある共生社会推進担当大臣」というポストが創設されました[^2]。閣僚が専任で張り付くテーマになったわけです。内閣官房には専用の推進室も置かれ、関係閣僚会議、有識者会議、土地取得ルールの検討会と、複数のレイヤーで議論が並走しています。
背景にあるのは、二つの矛盾する現実です。一つは、日本の人口減少と人手不足。介護、建設、外食、物流、そして私たちスタートアップ業界も、海外人材なしには立ち行かない状況に近づいています。もう一つは、急増する外国人に対する国民の「ルールは守られているのか」「制度が悪用されていないか」という不安。土地の買い占め、医療費の踏み倒し、不法滞在、特定の公営住宅への集中など、具体的な懸念が各地で噴出していました。
総合的対応策は、この二つの現実のあいだで、「受け入れるけれど、ルールはきちんと整える」 という方針を示すものです。キーワードは「秩序ある共生」。決して扉を閉じるのではなく、扉の通り方を整備するという発想です。資料は大きく「出入国・在留管理の適正化」「制度の適正化」「国土の適切な利用・管理」の三部構成になっています。順番に見ていきましょう。
2. 出入国・在留管理の適正化——入口で何が変わるのか
JESTA(日本版ESTA)が2028年度中に導入へ
まず目玉の一つが、電子渡航認証制度「JESTA(ジェスタ)」の導入 です。ビザ免除の国・地域から来る観光客等に、渡航前にオンラインで事前申請してもらう仕組み。米国のESTA、韓国のK-ETA、カナダのeTAと同じ発想です。
当初は2030年度目標とされていましたが、前倒しされ、2028年度中の導入 をめざす方針が固まりました[^3]。遅くとも2029年3月末までには運用開始される見通しです。関連法案は2026年3月の第221回国会に提出済みです。
私自身、海外出張のたびにESTAを申請していますが、5〜10分で済む簡単な手続きです。それでも、入国時に「事前審査済み」というステータスがあるだけで、空港の列の長さが劇的に変わる。インバウンド需要を取り逃がさず、同時に不法滞在や安全保障リスクを事前に減らす。この二兎を追える制度設計は、理にかなっていると感じます。
「経営・管理」ビザ——起業家の世界では大ニュース
ここは、スタートアップ業界の人間としてひときわ注視している領域です。
2025年10月16日から、「経営・管理」という在留資格(会社経営や事業管理のためのビザ)の許可基準が大幅に厳格化されました[^4]。それまで資本金要件は500万円以上だったのが、一気に3,000万円以上に引き上げ。加えて、常勤職員1名の雇用、日本語能力B2(N2相当)、経営経験3年以上または学歴要件、専門家による事業計画確認、自宅兼事務所は原則不可——と、ハードルが幾重にも上がっています。
結果は数字に表れました。資料によれば、在留資格認定証明書の交付申請件数は月約1,700件から月約70件へ、約96%減。気持ちが良いほどの激減です。ペーパーカンパニーで形だけ起業し、そのままビザを取得するような使い方は、ほぼ不可能になったと言っていい。
一方で、本気で日本に拠点を構えて勝負したい海外起業家にとっては、ハードルが上がったのは事実です。既存保持者には2028年10月16日までの3年間の経過措置が設けられていますが、更新時には活動実態の説明書が必須になり、税金・社会保険料の納付状況も厳しく見られます。悪く言えば排他的、よく言えば「量から質へ」の政策転換。私は後者の面で正解だと思っています。日本で本気で価値を生む起業家なら、3,000万円の資本金は超えられないハードルではない。むしろ、薄く広く乱立していた「起業家風」を整理し、本物に資本と機会が集まる環境になるほうが、エコシステム全体の健全性は増します。
技・人・国、留学、企業内転勤——地味だが効く審査強化
エンジニアやマーケター等が取得する「技術・人文知識・国際業務」(通称・技・人・国)については、2026年3月から派遣形態での就労審査が強化、4月からは日本語能力を主に用いる業務の審査が強化されます。留学生の資格外活動(アルバイト)の実態把握も、日本語教育機関と連携して4月から開始。企業内転勤についても同時期に申請書類が見直されます。一つ一つは地味ですが、制度の隙間を塞いでいく作業です。
永住・帰化・不法滞在——「権利」と「義務」の再整理
永住許可については、「在留5年ではなく3年でも申請可」という経過措置が廃止。さらに、公租公課(税金や社会保険料)の不払いがあった場合、2027年4月から永住資格の取り消しも運用開始されます。帰化についても住所要件が5年から10年に引き上げ。永住要件(10年)との整合を取る形です。
不法滞在対策もかなり踏み込んでいます。「不法滞在者ゼロプラン」のもとで、不法残留者数は2025年1月の74,863人から2026年1月には68,488人へ(6,375人減、▲8.5%)。同時に被摘発者数は1,378人から1,837人へ(33.3%増)、国費送還も249人から318人へ(27.7%増)[^1]。取り締まりを強めた結果、摘発は増え、本体は減るという、政策として一つの理想形です。
手数料引き上げ——財源と抑止の両立
あまり話題になっていませんが、実務上インパクトが大きいのが手数料の見直しです。資格変更・期間更新は1万円から10万円に、永住許可は1万円から30万円に、一次査証は3,000円から15,000円に引き上げられる予定です。2026年度中の引き上げが予定されており、法案は3月に国会提出、査証手数料の政令改正は3〜4月にパブリックコメントが実施されています。値上げ分は審査体制の強化に回される設計です。
3. 制度の適正化——暮らしの現場で起きていること
医療費不払いは「1万円以上」から共有対象に
訪日客が治療を受けて踏み倒す——この問題、現場の医療従事者にとっては深刻です。これまで医療費不払い情報の共有基準は「20万円以上」でしたが、2026年4月からは1万円以上に引き下げ[^5]。少額でも繰り返せば悪質という考え方です。さらに2027年度以降は、保険料滞納のある外国人の在留資格変更・更新を原則認めない方針も示されています。
これは日本人読者には「遅すぎるくらい」と映るかもしれませんが、同時に企業側にも重い話です。特定技能など外国人を雇用する企業では、社会保険の適正加入と給与からの天引き管理が、採用定着と直結する経営課題になります。
日本語教育とプレクラス——「支える側」の投資
一方で、政府は支援にも着実に予算を振っています。地域日本語教育の体制整備は2025年に58団体が支援対象、日本語指導補助者への支援は221自治体に拡大[^1]。2027年度からは「プレクラス(初期支援)」の抜本強化が検討中で、2026年度から地域社会のルール習熟のための地方財政措置も開始されます。法務大臣政務官を長とするプロジェクトチームも2026年3月に発足しました。
厳しくする施策ばかりが目立ちがちですが、日本語学習、生活ルールの学びの機会、初期支援——こちらの整備も着実に進んでいます。片側だけ見ると全体像を見誤ります。
留学生の在籍管理、外国人学校への就学支援金
在籍管理が不十分な大学等は国が指定し、2026年2月に通知・公表。専修学校についても4月に周知予定です。高等学校等就学支援金制度については、外国人学校を法律上の支援対象外とする改正法が2026年3月に成立。ただし「施行後3年以内に検証と見直しを行う」ことも同時に明記されました。制度の線引きを明確にしつつ、効果検証の仕組みも内蔵している点は、政策設計として誠実です。
公営住宅の入居管理
地域によっては、特定の公営住宅に外国人住民が集中し、近隣の学校運営に負荷がかかるケースがあります。背景には、自治体が入居者の国籍や在留資格を把握していないという実務上の穴がありました。2026年2月、国は自治体に対して「新規入居者の国籍・在留資格の把握」「日本語でやり取りできる緊急連絡先の登録」を求める通知を出しています。UR(都市再生機構)にも同様の対応を継続要請中です。
4. 国土の適切な利用・管理——土地と水資源というもう一つの論点
外国人土地取得ルールの有識者会議が始動
2026年3月4日、「外国人による土地取得等のルールの在り方検討会」の第1回会合が開催 されました[^6]。4月9日には第2回も開かれています。政府は今夏までにルールの骨格を取りまとめる予定です。防衛施設や原子力施設、離島周辺など、安全保障上重要な地域の土地取得をどう規制するかが、立法の核になります。
同時に、不動産登記・森林法をはじめとする土地関連制度で、国籍把握等のための省令・告示改正が2026年1〜3月に実施されました[^7]。不動産取引を通じたマネーロンダリング対策として、「リスク評価書」作成マニュアルも2月に策定済みです。
不動産ベース・レジストリという基盤構想
「日本人自身ですら、誰がどの土地を持っているか分からない」——これは根本的な問題です。2027年度以降、「不動産ベース・レジストリ」という情報基盤の整備が検討されています。行政機関や国民が土地所有情報にアクセスできる仕組みづくりです。これは外国人規制というより、国土情報のDXと捉えるべき取り組みです。
マンション投機対策——日本人も含めた枠組み
興味深いのは、マンション取引の実態調査です。2025年11月、新築マンションの短期売買・国外からの取得状況が調査・公表され、その結果を受けて不動産協会が日本人も含めた投機的取引を抑制する取組方針 を決定しました。「外国人だけを狙い撃ち」ではなく、投機行為そのものを抑える——この設計思想は重要です。
地下水と離島
「外国人が水源を買い占めているのでは」という懸念については、2025年12月に地下水採取事例の調査結果が公表され、2026年3月から有識者会議で適正利用のあり方が議論されています。無主の離島(所有者のいない離島)の国有財産化、必要に応じた離島の土地取得ルール化も検討課題です。
5. 数字で見る主な成果(2026年3月末時点)
| 指標 | 変化 | 詳細 |
|---|---|---|
| 「経営・管理」認定証明書交付申請件数 | 約96%減 | 月約1,700件 → 月約70件 |
| 不法残留者数 | 6,375人減(▲8.5%) | 74,863人 → 68,488人 |
| 難民認定申請未処理数 | 3,531人減(▲18.1%) | 19,500人 → 15,969人 |
| 国費送還人数 | 69人増(△27.7%) | 249人 → 318人 |
| 被摘発者数 | 459人増(△33.3%) | 1,378人 → 1,837人 |
数字は嘘をつきません。摘発と送還が増え、本体の不法残留は減る。起業家ビザの申請は激減し、難民認定の処理も進んでいる。政策がドライブしている実感のある数字です。
6. 私が起業家として読み取った4つのメッセージ
① 「制限」と「支援」が一対で動いている
不法滞在や制度悪用には厳格に、一方で日本語教育・生活支援・初期プレクラスには投資拡大。片側だけ見れば排外的に見えますが、両方合わせて眺めると、むしろ**「まっとうに暮らす外国人」の立場は強化されている** とも読めます。曖昧にしていた線引きが明確になる分、真面目な人ほど得をする設計です。
② 「実態把握」こそが政策の起点になっている
土地、地下水、マンション、外国人学校、公営住宅——これまで「なんとなく不安」で済まされていた領域に、調査と情報基盤が入っていきます。スタートアップ的に言えば、データドリブンな行政への移行。印象論ではなく数字で判断する政策が、ようやく動き出しています。
③ 時間軸が短・中・長で並走している
2026年4月運用の即効策、2028年度のJESTA、2027年度以降のベース・レジストリ、そして「外国人の受入れの在り方」という根本議論。同じテーブルで時間軸の違う施策が走っているのは、スタートアップのOKR運用に近い構造です。短期の数字を追いつつ、長期のビジョンも並走させる。
④ 「外国人だけ」ではない施策が混ざっている
マンション投機対策は日本人も含む枠組み。土地所有の透明化は国民全体の情報アクセス改善です。共生社会というのは、外国人を特別扱いすることではなく、全員が納得できるルールを整える ことだと、資料は静かに主張しています。
7. 挑戦インフラの立場から——最後に伝えたいこと
TIMEWELLでは「挑戦の民主化」を掲げています。国籍、所属、経歴に関係なく、志ある人が挑戦できる社会インフラを作る。それが私たちの存在理由です。
だからこそ、この総合的対応策を読んで感じるのは、「挑戦の門」を狭めたのではなく、「門の通り方」を明確にしたのだ という解釈です。経営管理ビザの資本金3,000万円という数字に驚いた海外の起業家もいるでしょう。でも、本気で日本市場に勝負を賭けようとする人にとって、越えられないハードルではありません。むしろ、形だけの法人設立が淘汰された分、真剣勝負のステージがクリアになったとも言えます。
私たち日本人も、「外国人=不安」という粗い括りから一歩踏み出しましょう。個別の課題には制度的な対応が進んでいる。不法滞在は減っている。医療費踏み倒しには網が細かくなる。土地のルールは整備されつつある。そうした事実を踏まえた上で、隣に暮らす外国人の方に、日本語や地域のルールを一緒に学ぶ場を提供する。挨拶をする。困っていれば声をかける。極めてアナログで、でも一番効く取り組みです。
秩序ある共生の本質は、制度と人の営みが両輪で回ることにある。国が整えた制度の上に、私たち一人ひとりがどう振る舞うか。それが問われているのだと感じています。
この記事が、政府資料を読み解くきっかけ、そして身近な共生について考え直すきっかけになれば嬉しいです。
なお、こうした政策動向を踏まえた経営戦略・海外人材活用の伴走支援は、TIMEWELLのAIコンサルティング WARP でも個別の相談を承っています。経営層の意思決定に直結するテーマこそ、社外の専門家を巻き込んで議論する価値があります。30分のオンライン相談から始められます。
関連する政策・規制まわりは、防衛装備移転三原則の改正、スパイ防止法とビジネスへの影響、外為法違反の罰則と事例も合わせてどうぞ。
参考文献
[^1]: 内閣官房「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策 国民の安全・安心のための取組における進捗状況(令和8年3月末時点)」 — https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/symbiotic_society/pdf/sougoutekitaiousaku_shinchoku_gaiyo.pdf
[^2]: 内閣官房「外国人との秩序ある共生社会推進室」 — https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/symbiotic_society/index.html
[^3]: 法務省「法務大臣閣議後記者会見の概要(JESTA 2028年度中導入)」 — https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00613.html
[^4]: 日本経済新聞「政府、外国人の『経営ビザ』要件を厳格化 資本金500万円→3000万円」 — https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA120140S5A810C2000000/
[^5]: 出入国在留管理庁「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」 — https://www.moj.go.jp/isa/support/coexistence/04_00033.html
[^6]: TBS NEWS DIG「土地取得規制の有識者会議が初会合(2026年3月4日)」 — https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2507498
[^7]: TMI総合法律事務所「外国人による不動産取得をめぐる新たな規制の動き」 — https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2026/18051.html
濱本 隆太(はまもと・りゅうた) 株式会社TIMEWELL 共同創業者 兼 代表取締役CEO/信州大学 特任准教授。岡山県生まれ。2011年パナソニック入社。営業、社内新規事業プログラム運営、技術戦略・データ戦略担当を経て、「世界No.1の挑戦インフラを創る」をビジョンに株式会社TIMEWELLを創業。CHANGE by ONE JAPAN発起人。
