こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
新しい取引先と契約する前に、「この会社、本当に大丈夫だろうか」と調べる。銀行口座を開くときに、本人確認を求められる。どちらも当たり前の風景ですが、法人相手の確認にはKYB(Know Your Business)、個人の本人確認にはKYC(Know Your Customer)という名前が付いていて、それぞれ法律上の根拠と決まったやり方があります。
この記事は、KYBと反社チェックの入門編です。「UBOって何?」というところから、確認が必要になる場面の整理、そして2027年に予定されているeKYC(オンライン本人確認)の大きな制度変更まで、警察庁・法務省・金融庁の一次資料に基づいてやさしく解説します。
そもそもKYBとは。なぜ「会社の中の人」まで調べるのか
KYBの法的な土台は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)です[^1]。マネーロンダリングやテロ資金供与を防ぐため、金融機関や不動産業者、士業などの「特定事業者」に、取引相手の確認(取引時確認)を義務づけています。
ここで大事なのが、法人相手の確認は会社の名前と登記を見るだけでは終わらない、という点です。悪いお金を動かしたい人は、自分の名前を出さずにペーパーカンパニーを間に挟みます。だから確認は、会社の背後にいる「実質的に支配している生身の個人」まで遡る必要がある。この個人のことをUBO(Ultimate Beneficial Owner、実質的支配者)と呼びます。
UBOとは。判定は「50%超→25%超→影響力→代表者」の順
UBOの判定ルールは犯収法の施行規則に定められています。株式会社のような資本多数決法人の場合、次の順番で特定します[^2]。
| 順位 | 判定基準 |
|---|---|
| 1 | 議決権の50%超を直接・間接に持つ個人 |
| 2 | 1がいなければ、議決権の25%超を直接・間接に持つ個人 |
| 3 | 1・2がいなければ、事業活動に支配的な影響力を持つ個人 |
| 4 | それもいなければ、代表者 |
実務でよく「UBOは25%が基準」と言われますが、正確には50%超が第1順位で、25%超はその次です。もうひとつのポイントは「間接」保有も数えること。A社の株主がB社で、そのB社を握っているのが個人Xなら、Xまで遡って判定します。持株会社やファンドが何層も挟まると、この遡り作業が一気に難しくなります。
なお、合同会社や一般社団法人のように議決権が株式数に比例しない法人では、議決権ではなく収益の配当や財産の分配を受ける権利の割合(50%超→25%超)で判定します[^2]。
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UBO確認が登場する3つの場面。混同しやすいので整理
「実質的支配者」という言葉は、実は3つの別々の制度に登場します。ここを混同すると実務で迷子になるので、表で整理します。
| 場面 | 制度 | 義務か任意か |
|---|---|---|
| 特定事業者と取引するとき | 犯収法の取引時確認 | 必須(特定事業者側の義務) |
| 株式会社などを設立するとき | 公証人の定款認証でのUBO申告(2018年11月開始) | 設立時に必須[^3] |
| 設立後、UBO情報を証明したいとき | 商業登記所の実質的支配者リスト制度(2022年1月開始) | 任意・手数料無料[^4] |
3つ目のリスト制度は意外と知られていません。株式会社が申し出れば、登記官がUBO情報を確認・保管し、認証文付きの写しを無料で交付してくれる仕組みです。海外銀行との取引や補助金申請でUBOの証明を求められたときに使えます。ちなみに、UBO情報を登記事項として義務的に登録する制度は、2026年7月時点では導入されていません。
反社チェックのやり方。根拠と基本の4ステップ
KYBとセットで行われるのが反社チェックです。根拠は、2007年6月19日に犯罪対策閣僚会議幹事会が申し合わせた政府指針「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」[^5]と、全都道府県で制定されている暴力団排除条例です。上場審査や銀行取引でも事実上必須の実務になっています。
基本の流れは4ステップです。
- データベースで検索する。新聞記事データベースや専門の反社データベースで、社名・代表者名・役員名を検索します。過去の事件報道や行政処分歴が基本のスクリーニング対象です
- 会社の実体を確認する。登記情報、所在地、事業内容、そしてUBOまで確認します。名前を変えた会社や、背後に別の人物がいる会社をここで見抜きます
- 契約書に暴排条項を入れる。相手が反社会的勢力と判明した場合に無催告解除できる条項です。暴排条例が求める実務でもあります
- 定期的に再チェックする。契約時に問題がなくても、その後に株主や役員が変わることはあります。取引開始後の継続的な確認まで含めて、はじめて反社チェックと呼べます
法改正の動きとeKYC。2027年4月に大きな変更が来る
最後に、この分野の「いま」を押さえましょう。動きは3つあります。
1つ目は、継続的な顧客管理へのシフトです。金融庁のマネロン・テロ資金供与対策ガイドライン(最新版は2026年3月31日改訂)は、取引開始時の一度きりの確認ではなく、顧客情報を定期的に更新し続ける継続的顧客管理を求めており、金融機関の態勢整備は2024年3月末が期限でした[^6]。確認は「点」から「線」の業務に変わっています。
2つ目は、eKYCの手段の進化です。2025年6月24日公布の施行規則改正で、スマートフォンに搭載したマイナンバーカードの公的個人認証を使う本人確認方法が新設され、同時になりすましリスクの高い確認方法が廃止されました[^7]。
3つ目が最大の変更です。2027年4月1日施行予定の施行規則改正で、非対面の本人確認は、本人確認書類の画像を送る方式(いわゆるホ方式)や写しの送付が原則廃止され、マイナンバーカードの公的個人認証(JPKI)に原則一本化される予定です。対面でも、運転免許証などのICチップ読み取りが原則義務化される方向です[^8]。背景には、偽造書類による口座開設が特殊詐欺に悪用されている実態があります。「免許証の写真をアップロードして本人確認」という光景は、あと1年ほどで過去のものになる見込みです。
実務の本丸は「継続的な取引先調査」に移る
ここまでを俯瞰すると、共通のトレンドが見えてきます。確認は厳格に、かつ継続的に。個人の本人確認はマイナンバーカードで技術的に解決へ向かう一方、法人側の確認、つまりKYBはむしろ難しくなっています。資本関係を何層も遡ってUBOを特定し、反社・制裁リストと照合し、株主や役員の変化を追い続ける。この作業を取引先の数だけ、継続的に回す必要があるからです。
私たちが提供するTRAFEEDは、輸出管理の取引先調査を起点に、まさにこの「会社の背後にいるのは誰か」を法人約1億件規模のナレッジで辿るAIエージェントです。資本関係・関連会社の調査を自動化し、確認の根拠を記録として残します。企業ナレッジは現在も拡大を続けており、今後はKYB・反社チェックを含むより幅広い取引先調査に対応していく計画です。取引先確認の負荷に悩んでいる方は、お気軽にご相談ください。
まとめ
- KYBは法人版の取引先確認。会社の登記だけでなく、実質的支配者(UBO)という「背後の個人」まで遡るのが特徴
- UBOの判定は議決権50%超→25%超→支配的影響力→代表者の順。間接保有も含める
- UBOが登場する場面は3つ(取引時確認=必須、定款認証申告=設立時必須、登記所リスト制度=任意)で、それぞれ別制度
- 反社チェックは政府指針と暴排条例が根拠。データベース検索・実体確認・暴排条項・継続チェックの4ステップ
- 2027年4月、eKYCは画像送信方式の原則廃止・マイナンバーカード一本化へ(施行予定)。確認業務は「点」から「線」の時代に
参考文献
[^1]: 犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)— e-Gov法令検索 [^2]: 犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則 第11条 — e-Gov法令検索 [^3]: 日本公証人連合会「定款認証における実質的支配者となるべき者の申告制度」 [^4]: 法務省「実質的支配者リスト制度の創設」(令和4年1月31日運用開始) [^5]: 法務省「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月19日 犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ) [^6]: 金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(令和8年3月31日改訂) [^7]: 警察庁JAFIC「犯罪収益移転防止法施行規則の改正事項に関する資料」(令和7年6月24日公布) [^8]: 金融庁「犯罪収益移転防止法施行規則の一部を改正する命令(案)等の公表について」(令和9年4月1日施行予定)
