研究インテグリティと研究セキュリティとは?大学・研究機関がいま備えるべき理由をやさしく解説【2026年版】
こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
「研究インテグリティ」や「研究セキュリティ」という言葉を、大学からのお知らせやニュースで見かけて、なんだか難しそうだと感じたことはないでしょうか。漢字が多くて、いかにもお役所的な響きがします。けれど中身は、日常の感覚に置き換えればすっと理解できるものです。
ざっくり言うと、研究インテグリティは「研究を正直に、隠しごとなく進めること」、研究セキュリティは「大事な研究の中身を、よその国にこっそり持っていかれないように守ること」です。この二つはセットで語られることが多く、2025年から2026年にかけて、日本でも国が本腰を入れて整え始めました。
私はこの話題を、難しい制度論というより「研究者が安心して研究を続けるための備え」だと考えています。だから制度の細かい条文よりも、そもそも何のための仕組みなのかを、身近な例えを交えてやさしく説明します。
研究インテグリティってそもそも何だろう
研究インテグリティ(research integrity)の「インテグリティ」は、日本語にすると「誠実さ」や「健全さ」に近い言葉です。研究の世界での誠実さ、つまりウソやごまかしをせず、利害関係を隠さずに研究する姿勢を指します[^3]。
たとえば、スーパーで売っている食品に産地や原材料がきちんと表示されているから、私たちは安心して買えます。もし表示がデタラメだったら、その店の商品はもう信用できません。研究も同じで、データをでっち上げたり、他人の成果をこっそり自分のものにしたりすれば、その研究は信用を失います。捏造(ねつぞう。ないものをあるように見せること)や改ざん、盗用をしないというのは、研究インテグリティのいちばんわかりやすい部分です。
もう一つ大事なのが「利益相反」の開示です。利益相反とは、本人の立場と、お金や人間関係から来る別の都合とがぶつかってしまう状態のことです。野球の審判が、実は片方のチームのコーチも兼ねていたら、その判定を信じられませんよね。研究者が、ある国の政府や企業からお金をもらっていながらそれを隠して、日本の公的な研究費も受け取っていたら、これと同じ問題が起こります。だから、誰からお金や支援を受けているのか、どこと一緒に研究しているのかを、きちんと申告して見えるようにしておく。これが研究インテグリティの考え方です[^1]。
こうした誠実さは、研究者個人を縛るためのものではありません。研究全体への信頼を守り、国際的な共同研究の輪に入り続けるための、いわば入場券のようなものだと私は捉えています。
研究セキュリティとの違いを「家」でイメージする
ここで多くの人がつまずくのが、研究インテグリティと研究セキュリティの違いです。言葉が似ているので混ざりやすいのですが、家にたとえると整理できます。
研究インテグリティが「家計簿を正直につけること」だとすれば、研究セキュリティは「玄関にきちんと鍵をかけること」です。前者は中の正しさ、後者は外からの脅威への備えと、役割がはっきり分かれています。同じ家を守る話でも、向いている方向が違うわけです。
研究セキュリティ(research security)は、研究の成果や技術が、本人の意図しないうちに外へ流れ出てしまうのを防ぐ取り組みです。とくに気をつけるのが「機微技術」と呼ばれるものです。機微技術とは、平和な目的で生まれた技術なのに、使い方しだいで武器や軍事に転用できてしまう技術のことです。たとえば、ドローンを安定して飛ばす制御技術も、新しい素材も、見方を変えれば軍事に役立ってしまうことがあります。
こうした技術は、論文の発表や共同研究、留学生の受け入れといった、研究の世界では当たり前のやりとりを通じて、知らないうちに外へ出ていく可能性があります。悪気がなくても流出は起こりうる、という点が研究セキュリティの難しいところです。だからこそ、誰がどの情報にアクセスできるのかを管理したり、一緒に研究する相手や受け入れる人がどんな背景を持つのかを確認したりして、大事な中身を守ります。これが研究セキュリティの基本的な発想です。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDなら、判定時間を約7割削減し、判定根拠を構造化データで保存できます。
なぜ今こんなに注目されているのか
背景にあるのは、技術がそのまま国の競争力や安全保障につながる時代になった、という大きな流れです。AIや半導体のように、どの国が先端技術を握るかが経済にも防衛にも直結するようになり、各国が自国の技術を守ろうとし始めました。日本でも経済安全保障という言葉がすっかり定着しています。
そして何より、実際に技術が流出した事件が起きています。わかりやすいのが産業技術総合研究所(産総研)の事件です。元主任研究員が、温暖化への影響が小さい絶縁ガス向けの合成技術にかかわる研究データを、2018年に中国企業へメールで送ったとして、不正競争防止法違反(営業秘密の開示)に問われました。東京地裁は2025年2月25日に有罪判決を言い渡し、懲役2年6月・執行猶予4年・罰金200万円とされたと報じられています[^9]。国の研究機関ですらこうしたことが起こりうる、という現実が、関係者に強い危機感を与えました。
大学や研究機関がねらわれやすいのには理由があります。最先端の基礎研究が集まっている一方で、情報を広く共有しようとするオープンな文化があり、企業ほどセキュリティにお金や人をかけられていないことが多いからです。報道によれば、留学生や研究者が、本人も気づかないうちに協力者として取り込まれてしまうケースもあるとされます。最初から悪意があったわけではない人が、いつのまにか巻き込まれてしまう。だからこそ、個人の善意だけに頼るのではなく、組織として備える必要があるのです。
国はどこまで動いたのか(2026年6月時点)
ここ数年で、日本の取り組みは一気に前へ進みました。まず文部科学省です。研究費を申請するときに、外国政府からの資金や兼業、共同研究の相手などを申告するよう求める仕組みを整えてきました[^1]。各機関の取組状況は毎年のフォローアップ調査で確認されています[^2]。2024年(令和6年)12月には「大学等の研究セキュリティ確保に向けた文部科学省関係施策における具体的な取組の方向性」を取りまとめ[^10]、令和7年(2025年)4月10日には、各機関が困ったときに相談できる「研究セキュリティ相談窓口」を設けたことを通知しました[^1]。さらに令和7年度からは、科学技術振興機構(JST)の一部の研究開発プログラムから「試行的取組」を始めています。いきなり全部を対象にするのではなく、課題ごとにリスクを評価し、対象をしぼってから少しずつ広げていく、という慎重な進め方です[^1]。
内閣府も動いています。2025年4月18日から「研究セキュリティと研究インテグリティ確保に関する有識者会議」を開き[^4]、同年7月18日の会合で「研究セキュリティの確保に係る取組のための手順書(原案)」を示しました[^5]。これは重要技術の流出を防ぐためのガイドラインにあたるもので、各機関が何をどう進めればよいかの手引きになります。会議は同年12月1日まで計7回ひらかれ、議論を重ねた末に、2025年(令和7年)12月、原案を経て正式版となる「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」が公表されました[^11]。これで、各機関が拠りどころにできる国の手引きがそろったことになります。
民間でも準備が進んでいます。輸出管理の専門団体であるCISTEC(安全保障貿易情報センター)は、大学・研究機関向けの「機微技術管理ガイダンス」の第五版を2025年9月に公表し、Q&Aやヒヤリハット事例集など、現場で使える資料をそろえています[^8]。国の制度だけでなく、こうした実務寄りの手引きも頼りになります。
制度の中でとくに研究現場に関係が深いのが「みなし輸出」です。これは、国内であっても外国人などに規制対象の技術を提供する場合、海外へ輸出するのと同じように許可が必要になる、という考え方です。2022年(令和4年)5月の運用見直しで、外国政府から強い影響を受けている状態にある人(特定類型と呼ばれます)への技術提供も、はっきり規制の対象だと整理されました[^6][^7]。誰がこれに当てはまるのか、どんな場面で気をつければよいのかは、みなし輸出のリスクで具体的にまとめているので、あわせて読んでみてください。
こうした確認作業を人手だけでこなすのは、正直かなり大変です。規制リストは頻繁に改訂され、専門知識も要ります。そこで、輸出管理に特化したAIエージェントであるTRAFEED(旧ZEROCK ExCHECK)のような仕組みを使い、共同研究先や受け入れ候補者のチェック、研究中の技術が規制に当たるかどうかの判定を支援させる、という選択肢も現実的になってきました。
大学や研究室が、まず何から始めればいいか
むずかしく考えすぎる必要はありません。家の防犯と同じで、できるところから順に固めていくのが現実的です。
最初の一歩は、組織として「誰が責任者か」を決めることです。研究セキュリティを担当する部署や担当者をはっきりさせ、簡単でよいので学内のルールを文章にしておく。これだけで、いざというときに判断がぶれなくなります。文科省の相談窓口のような外部の頼り先を把握しておくのも、安心材料になります[^1]。
次に、人を受け入れるときの確認です。留学生や外国人研究者を迎えるとき、その人がどの機関の出身で、どこから資金を得て、外国政府と雇用関係がないか、といった点を一定の基準で確認します。いわゆる国防七校と呼ばれる、軍事との関わりが指摘される大学群の出身者との共同研究などでは、とくに丁寧な確認が望ましいとされています。これは特定の国や人を疑ってかかるためではなく、後でトラブルに巻き込まれないための、おたがいのための手続きです。
三つめは、技術と情報の管理です。自分たちの研究のどれが規制対象になりうるのかを把握し、機密性の高い情報には「知る必要がある人だけがアクセスできる」状態をつくります。そして、外国人へ技術を渡す場面ではみなし輸出のルールを思い出す。許可なく規制対象の技術を提供すると外為法に基づく罰則の対象になりうるため、迷ったら専門部署や外部の専門家に相談するのが安全です。
完璧を一度に目指すより、責任者を決める、受け入れの確認を習慣にする、迷ったら相談する。この三つを回し始めることが、結局いちばんの近道だと私は考えています。
まとめ
研究インテグリティは研究を正直に進めること、研究セキュリティは大事な技術を意図せず流出させないこと。似た言葉ですが、片方は「中の正しさ」、もう片方は「外への備え」と役割が違います。家計簿を正直につけることと、玄関に鍵をかけること、という二つの例えを思い出してもらえれば十分です。
2025年から2026年にかけて、文部科学省の試行的取組や相談窓口の設置、内閣府の有識者会議による研究セキュリティ手順書の公表など、国の仕組みが大きく前進しました。産総研の事件で有罪判決が出たことも、研究現場に「これは自分ごとだ」という意識を広げています。
とはいえ、現場の研究者にとっては、研究の自由を保ちながらセキュリティも守るという二つのバランスを取るのは簡単ではありません。確認作業の負担をどう減らし、抜け漏れをどう防ぐか。そこに悩みを感じている大学・研究機関の方は、輸出管理AIエージェントTRAFEEDの活用を含め、個別相談からお気軽にご相談ください。貴機関の状況に合わせて、無理のない始め方を一緒に考えます。
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参考
[^1]: 研究インテグリティ・研究セキュリティ — 文部科学省 — 2026年6月時点 — https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/integrity/index.html [^2]: 研究インテグリティの確保に係る取組状況のフォローアップ調査 — 文部科学省 — 令和4〜7年度 — https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/integrity/followup.html [^3]: 研究インテグリティ — 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 — 2026年6月時点 — https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity.html [^4]: 研究セキュリティと研究インテグリティ確保に関する有識者会議 — 内閣府 — 令和7年4月18日開催開始 — https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/yushikisha.html [^5]: 研究セキュリティの確保に係る取組のための手順書(原案)〜重要技術の流出防止等のガイドライン〜(第5回有識者会議 資料1) — 内閣府 — 2025年7月18日 — https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/yushikisha/5kai/shiryo1.pdf [^6]: みなし輸出管理(安全保障貿易管理) — 経済産業省 — 2026年6月時点 — https://www.meti.go.jp/policy/anpo/anpo07.html [^7]: みなし輸出管理の運用明確化について(特定類型) — 経済産業省 — 令和4年5月1日施行 — https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/minashi/meikakukanitsuite2.pdf [^8]: 安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンス(大学・研究機関向け)第五版 — CISTEC(安全保障貿易情報センター) — 2025年9月25日公表 — https://www.cistec.or.jp/service/daigaku_annai.html [^9]: 産総研データ漏洩、中国籍元研究員に有罪判決 東京地裁 — 日本経済新聞 — 2025年2月25日 — https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE241U30U5A220C2000000/ [^10]: 大学等の研究セキュリティ確保に向けた文部科学省関係施策における具体的な取組の方向性(概要) — 文部科学省 科学技術・学術政策局 — 令和6年(2024年)12月18日 — https://www.mext.go.jp/content/20241218-mxt_kagkoku-000039402_1-1rrr.pdf [^11]: 研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書 — 研究セキュリティと研究インテグリティの確保に関する有識者会議(内閣府) — 令和7年(2025年)12月 — https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/integrity/yushikisha/guidelines_v1.pdf
