スパイ防止法と重要経済安保情報保護活用法を企業視点でわかりやすく解説【2026年5月最新】
株式会社TIMEWELLの濱本隆太です。
ここ1年ほどで、いわゆる「スパイ防止法」を取り巻く制度の動きが一気に加速しました。整理しておくと、現時点で動いている柱は次の3つです。
- 重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律(2024年5月成立、2025年5月16日施行)。日本版セキュリティクリアランス制度の本体で、運用基準とガイドラインも揃って実装フェーズに入っています [1] [2]。
- 国家情報会議設置法案(2026年3月13日閣議決定)。首相を議長とする国家情報会議と、内閣情報調査室を改組した国家情報局を新設する法案で、政府は2026年7月の発足を目指しています [3]。
- 外国代理人登録制度(FARA日本版)。2025年10月の自民党・日本維新の会の連立政権合意書に制定が明記され、夏の有識者会議を経て法案化が議論されています [4]。
これらは別個の法律として進んでいますが、ねらいは1つです。「先端技術と重要情報を、人と組織の経路から守る」。本記事では2026年5月時点の最新状況を、ビジネスパーソン向けに整理します。なお、私自身はテック業界で事業を営む立場なので、賛否両論を紹介したうえで自分のスタンスは明示するようにしました。
スパイ防止法の現状(2026年5月時点)
「スパイ防止法」という呼び名は、メディアによって指している中身がかなり違います。ここを整理しないと議論が噛み合いません。
単独の「スパイ防止法」はまだ存在しない
2026年5月時点で、スパイ行為そのものを包括的に処罰する単一の法律は、日本には存在していません。1985年に自民党が「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」を提出しましたが、最高刑を死刑とし、国家秘密の範囲が政府裁量で広がるとの批判で廃案になっています [5]。2013年の特定秘密保護法は、防衛・外交・テロ・スパイの4分野の特定秘密漏洩への罰則を強化したものの、スパイ活動全般を取り締まる法律ではありません。
代わりに動いているのは「制度群」
その代わりに進んでいるのが、冒頭で挙げた3本柱です。重要経済安保情報保護活用法でクリアランス制度を作り、国家情報会議設置法案でインテリジェンスの司令塔を整え、外国代理人登録制度で外国の影響工作を可視化する。それぞれは別の法律ですが、束で見ると「スパイ防止法制」と呼んでよい構造になっています。
連立政権合意書には、これらに加えて「2027年度末までに対外情報庁を創設する」と書かれており、対外情報機関の設置まで視野に入っています [3]。
現行法でカバーしきれないグレーゾーン
現行法の限界も整理しておきます。窃盗罪、不正競争防止法、外為法、特定秘密保護法。いずれも個別の場面を切り取った法律で、たとえば「外国公務員と頻繁に接触し、対価を受け取って国内政策に関する非公開情報を口頭で伝える」といった行為を直接取り締まる条文はありません。CISTECも、経済安全保障の領域では現行法のすき間が広く、運用基準と教育で当座をしのいでいる現状を指摘しています [6]。
つまり、企業から見ると「個別の法律をパッチワークで守る」状態がまだ続いており、これからの2〜3年で複数の法律が同時に動くことになります。
重要経済安保情報保護活用法とセキュリティクリアランス制度
最初に押さえておきたいのは、この法律はもう「議論中」ではなく「運用中」だということです。
法律の骨格
重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律は、2024年5月10日に成立、2025年5月16日に施行されました [1]。経済安全保障上、保護が必要な情報を「重要経済安保情報」として指定し、政府との契約等を通じてその情報を扱う民間事業者を「適合事業者」として認定。さらに、その情報にアクセスする従業者は「適性評価」、いわゆるバックグラウンドチェックを受けたうえで取り扱う、という建付けです [2] [7]。
適性評価で見られる項目
適性評価の調査項目は、特定秘密保護法のクリアランス制度に近い内容です。
| 評価項目 | 主な内容 |
|---|---|
| テロリズムとの関係 | 暴力的破壊活動、テロ組織との関わり |
| 犯罪・懲戒歴 | 過去の刑事事件、懲戒処分の有無 |
| 情報管理 | 過去の情報漏洩、機密取扱い経歴 |
| 薬物・アルコール | 違法薬物、過度な飲酒の問題 |
| 経済状況 | 借金、信用情報、不自然な資産形成 |
| 家族・同居人 | 配偶者・同居人の国籍、外国との関わり |
| 渡航歴 | 渡航国、滞在目的 |
評価は本人同意を前提に行われ、不同意の場合は当該業務に従事できないという扱いになります。Newton Consultingの解説でも、調査の範囲が広いため、企業側の同意取得・苦情対応・運用ルールの整備が実務上の最大の論点だとされています [8]。
企業にとっての影響
防衛、宇宙、サイバー、量子、半導体、AI、バイオなど、政府調達や国際共同研究に関わる企業は、適合事業者の認定取得を視野に入れざるを得ません。BUSINESS LAWYERSの解説のとおり、対象は防衛装備庁案件だけでなく、経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)など幅広い領域に及びます [7]。
私自身は、この制度は導入そのものに反対する理由は薄いと考えています。同盟国との情報共有や国際入札に参加する以上、相手国に通用する人材保証の仕組みは不可欠だからです。一方で、家族や渡航歴まで調べる以上、人事評価への流用や差別的な運用が起きないよう、社内ルールと監査体制を最初から作り込む必要があります。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDなら、判定時間を約7割削減し、判定根拠を構造化データで保存できます。
国家情報会議設置法案(2026年3月13日閣議決定、7月発足目標)
ここが2026年に入ってからの最大のニュースです。
法案の概要
2026年3月13日、政府は国家情報会議設置法案を閣議決定し、国会に提出しました [3]。骨子は2つ。
- 国家情報会議(NIC)の新設:首相を議長として、官房長官、外相、防衛相など関係閣僚で構成。インテリジェンス政策の中長期方針となる「国家情報戦略」を策定する。
- 国家情報局の創設:内閣情報調査室を発展的に改組し、各省庁に分散しているインテリジェンス機能を一元的に集約する事務局として機能させる。「総合調整権」を付与する点が新しい。
政府は早期成立を図り、2026年7月の発足を目標にしています [3]。連立合意書には、これに続く形で2027年度末までに対外情報庁を創設することも書かれており、戦後日本のインテリジェンス体制としてはかなり大きな組み替えになります。
賛成派・慎重派の論点
メディア報道や弁護士会の意見書を読むと、論点は概ね次のように整理できます。
賛成派の主張
- 各省庁に縦割りで分散しているインテリジェンスを束ねる司令塔がないと、迅速な意思決定ができない
- 同盟国との情報共有を強化するうえでも、相手側にとっての「カウンターパート」が必要
- 情報戦略を中長期で描く文書がない現状は異常
慎重派の主張
- 国家情報局に「総合調整権」を付与する一方で、国会や独立機関による監督の枠組みが弱い
- 兵庫県弁護士会の声明は、監督機関の設置や人権保障規定の整備が不十分なまま制定されることに反対している [9]
- 日弁連の2026年2月20日意見書も、インテリジェンス機関強化と外国代理人登録制度の双方について、人権侵害の可能性と必要性の両面から慎重審議を求めている [4]
- Human Rights WatchのNGO共同書簡(2026年4月26日)も、ジャーナリストや活動家の保護規定を明記すべきだと指摘している [10]
私自身のスタンスを言えば、司令塔機能の整備自体は必要だと考えています。ただし、国家情報局のような強い権限を持つ組織は、外部監督と情報公開の仕組みをセットで作らないと、長期的に必ず暴走します。法案審議では「何を作るか」と同じ熱量で「どう監督するか」を議論してほしい、というのが正直な意見です。
外国代理人登録制度(FARA日本版)の議論
続いて、もう1つの大きな柱である外国代理人登録制度です。
制度の概要
米国FARA(Foreign Agents Registration Act)をモデルに、外国政府・外国政党・外国企業等の利益のために日本国内で政策影響活動や世論形成活動を行う主体に、活動内容と資金源を政府に登録させる制度です [4]。本質は「禁止」ではなく「開示」で、誰がどの国の利益のために何をしているかを透明化することで、外国の影響工作を牽制することを狙います。
2025年10月の自民党・日本維新の会の連立政権合意書に制定が明記され、夏の有識者会議を経て法案化が議論されています [3] [4]。
想定される登録対象
法案の細部はまだ確定していませんが、米国FARAやオーストラリアのFITS(外国影響透明化制度)の運用から、日本でも次のような主体が議論の俎上にのると見られます。
- 外国政府との契約に基づき日本国内で広報活動を行うPR会社
- 外国政党・外国企業から委託を受けたロビイスト・コンサルタント
- 外国政府系メディアの日本支局
- 外国系シンクタンクが日本で行う政策提言活動
ここでポイントになるのが、日本企業もまったくの無関係ではないという点です。たとえば海外グループ会社からの委託で日本の規制当局に働きかける場合や、海外メディアと組んで世論形成キャンペーンを行う場合、グレーゾーンに入る可能性があります。
賛成派・慎重派の論点
賛成派の主張
- 既存の自衛隊法・国家公務員法・特定秘密保護法では、外国の影響工作を予防的に把握する仕組みがない
- 米英豪では同種の制度が機能しており、日本だけ未整備なのは安全保障上のすき間
- 規制ではなく開示の制度なので、表現の自由を直接制約しない
慎重派の主張
- 日弁連は2026年2月20日意見書で、自衛隊法など既存法制で一定程度対応できること、表現の自由・結社の自由など憲法上の人権に与える影響が大きいことから、必要性の検証から議論すべきだと指摘 [4]
- 「外国代理人」のラベルが付くこと自体に社会的烙印効果があり、ジャーナリスト・研究者・市民団体の活動を萎縮させる懸念
- 米国FARAも近年、執行強化の過程で過剰適用が問題視されている [11]
私の見立てを言えば、開示制度として設計する方向は妥当だと考えています。一方で、「誰を対象にするか」の線引きを政府裁量に委ねる設計は危険で、対象範囲は法律本体で具体的に書き込むほうが現実的です。後から運用基準で広げる方式は、結局のところ濫用を招きやすいというのが、米国FARAの近年の議論からも見えてきています。
企業の準備事項とTRAFEEDによる支援
ここからは実務の話です。法律ができてから慌てるのではなく、2026年中に手を打っておくべき領域を整理します。
1. 適合事業者・適性評価への準備
重要経済安保情報を扱う見込みのある企業(防衛・宇宙・サイバー・量子・半導体・AI・バイオ等)は、PwCのコラムが整理しているとおり、運用基準とガイドラインに沿った社内体制を先行的に作っておく必要があります [12]。
- 情報管理規程・誓約書テンプレートの整備
- 適性評価の同意取得プロセスと不同意者への代替業務の設計
- 苦情処理・不服申立ての社内窓口
- 情報区画・物理セキュリティの基準達成
2. 取引先・共同研究者のスクリーニング体制
国家情報局の発足や外国代理人登録制度の議論が進めば、「取引相手が外国の影響下にあるかどうか」の確認は通常業務に組み込まれていきます。具体的には次の照合が必要です。
- 経産省の外国ユーザーリスト(懸念国の軍事関連需要者)
- 米国OFACのSDNリスト(特別指定国民・ブロック対象者)
- 米国EARのEntity List、Unverified List、Military End User List
- EU・英国・国連の制裁リスト
- 各国の輸出管理制裁リストの最新版
これらは更新頻度が高く、複数言語で表記揺れもあるため、人手だけでは精度を維持できません。
3. 人材・契約の見直し
- 外国人研究者・エンジニアの受け入れ手続きにおける説明と同意の体系化
- 海外コンサル・ロビイスト・PR会社との契約における外国代理人該当性の事前確認条項
- 海外グループ会社からの依頼で日本政府に働きかける際の社内承認フロー
TRAFEEDによる支援
私たちTIMEWELLが開発した輸出管理AIエージェント TRAFEED(旧ZEROCK ExCHECK) は、こうした取引先・人材スクリーニングを自動化するために作りました。取引相手の名称・所在地・関連企業を入力すると、複数の制裁リストや規制リストと自動照合し、ヒットの根拠と該非判定の論点を数秒で返します。経産省の外為法基準に準拠し、多言語の名称表記揺れにも対応しています。
スパイ防止法制が段階的に整備されていく流れは、もう止まりません。法律が通ってから対応するよりも、いま運用に入っている重要経済安保情報保護活用法の段階で、取引先審査と人材管理の仕組みをデジタル化しておくほうが、結果的にコストは小さくなる、というのが私の現場感覚です。
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おわりに
2026年5月時点で動いている「スパイ防止法」関連の制度群は、重要経済安保情報保護活用法、国家情報会議設置法案、外国代理人登録制度、そしてその先にある対外情報庁構想までを含みます。論点は多岐にわたり、賛否両論があります。安全保障の必要性と、人権・表現の自由・国際的な研究環境のバランスをどう取るか。この問いに正解は1つではありません。
ただ、企業実務の視点で言えば、論点整理を待っているうちに法律は施行されます。重要経済安保情報保護活用法はすでに運用フェーズで、国家情報局も2026年7月発足を目指して動いています。先に手を打った企業ほど、後の実務負荷は小さくなります。
この記事が、自社の備えを考える出発点になれば幸いです。
参考文献
- [1] 重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律(2025年5月16日施行版)e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/506AC0000000027/20250516_000000000000000
- [2] 内閣府「重要経済安保情報保護活用法」 https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/hogokatsuyou/hogokatsuyou.html
- [3] 時事通信「『国家情報会議』法案を決定 7月にも設置、インテリジェンス強化」2026年3月13日 https://www.jiji.com/jc/article?k=2026031300982&g=pol
- [4] 日本弁護士連合会「『スパイ防止法』として制定に向けた動きのあるインテリジェンス機関強化法制及び外国代理人登録制度についての意見書」2026年2月20日 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/opinion/2026/260220.pdf
- [5] 東京新聞「スパイ防止法ができたら、日本はどうなる? 40年前は廃案になったけど…政府が進める監視強化への道」2025年5月24日 https://www.tokyo-np.co.jp/article/406885
- [6] CISTEC「日本の安全保障貿易管理・経済安全保障政策の動向」2025年12月24日 https://www.cistec.or.jp/service/keizai_anzenhosho/yukan/data/20251224.pdf
- [7] BUSINESS LAWYERS「セキュリティ・クリアランス制度の概要を重要経済安保情報保護活用法に基づき解説」 https://www.businesslawyers.jp/articles/1402
- [8] Newton Consulting「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」 https://www.newton-consulting.co.jp/itilnavi/guideline/economic_security_act.html
- [9] 兵庫県弁護士会「いわゆる『スパイ防止法』の制定に向けた国家情報会議設置法案について、監督機関の設置等人権保障のための規定の整備や検討がなされぬまま、制定されることに反対する会長声明」 https://www.hyogoben.or.jp/news/iken/19584/
- [10] Human Rights Watch「高市早苗首相宛のNGO共同書簡:日本のスパイ防止法と」2026年4月26日 https://www.hrw.org/ja/news/2026/04/26/joint-letter-to-prime-minister-sanae-takaichi-on-japans-anti-espionage-law-and
- [11] AI Law「Japan's Anti-Espionage Law and Economic Security 2026」 https://ailaw.co.jp/en/blog-en/japan-anti-espionage-law-economic-security-2026/
- [12] PwC Japan「セキュリティ・クリアランス制度法制化の最新動向と日本企業が取るべき対応【第3回】」 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/awareness-cyber-security/economic-security/economic-security09.html
