こんにちは、TIMEWELLの濱本です。今日は多くの日本企業が「対岸の火事」だと思い込んでいる、しかし実はすぐそこまで火の手が迫っている話をさせていただきます。
突然ですが、あなたの会社が、ある日いきなり最大100万ドル、日本円にして約1億5000万円もの罰金を科され、責任者が逮捕され、さらに米国との一切の取引を禁止されたとしたら。どうしますか。
「そんな馬鹿な」「うちはアメリカと直接取引なんてしてないから関係ない」
そう思った方、非常に危険です。
2026年11月10日、あなたの会社を破滅に追い込むかもしれない米国の新しい輸出管理規則、通称「EARアフィリエイトルール」が本格的に牙を剥きます。米国製の部品やソフトウェアを一つでも使っていれば、あなたの会社もターゲットになり得る。これは脅しではなく、現実に起こりうる、すぐそこにある危機です。
忍び寄る悪魔のルール、「EARアフィリエイトルール」の正体
まず、この悪魔のようなルールの正体から。EARアフィリエイトルールとは、米国の輸出管理規則(Export Administration Regulations、略称EAR)に加えられた新条項です。2025年9月29日、米国商務省の産業安全保障局(BIS)が暫定最終規則として公表しました。
これまで、米国の規制対象となるのは「エンティティ・リスト」や「軍事エンドユーザーリスト(MEUリスト)」に掲載された企業や組織だけでした。多くの企業は、「リストに載っているヤバい会社と取引しなければ大丈夫」と考えていたはずです。
その常識はもう通用しません。
アフィリエイトルールが恐ろしいのは、リストに名前が載っていない、一見するとクリーンな企業でさえ、ある日突然「規制対象」に豹変させてしまう点にあります。そのからくりが、通称「50%ルール」です。
エンティティ・リストなどに掲載されている規制対象企業が、直接的または間接的に50%以上の株式を所有している子会社や関連会社は、リストに載っていなくても親会社と「一心同体」とみなされ、同様に規制対象となります。しかも、所有比率は合算で計算されます。例えば、ある外国法人がエンティティ・リスト掲載企業に20%、MEUリスト掲載企業に30%所有されている場合、合計50%で規制対象です。
あなたの取引先が、たとえリストに載っていなくても、その取引先の親会社や、さらにそのまた親会社がリスト掲載企業で、資本関係を辿っていくと50%以上の支配下にあった場合、あなたの取引先は「隠れ規制対象企業」だった、ということになるのです。
悪夢の連鎖、「カスケード適用」
恐怖はまだ終わりません。このルールは連鎖(カスケード)適用されます。所有権の連鎖が何層にもわたって規制を及ぼすのです。
例えばこうです。Company Aがエンティティ・リスト掲載企業で、Company AがCompany Bを50%所有している。Company BはCompany Cを50%所有している。この場合、BはAの規制を引き継ぎ、CはBの規制を引き継ぐため、孫会社であるC社までもが規制対象になります。BISの公式FAQにもこの例が明記されています。
取引先の表面だけを見て「安全だ」と判断することは、もはや不可能です。その会社の資本の奥深く、何層にもわたる支配関係の闇を覗き込まなければ、いつ地雷を踏むかわからない。そういう時代に入りました。
あなたの会社も対象に?日本企業を襲う「見えないリスク」
「なるほど、ルールは恐ろしい。でも、うちは海外の子会社も持ってないし、米国企業と直接取引してるわけでもない。やっぱり関係ないのでは?」
その考えが命取りになります。EARは「域外適用」という非常に厄介な性質を持っています。日本国内の取引であっても、以下のケースではその牙が襲いかかります。
| ケース | 具体例 |
|---|---|
| 米国原産品目を扱っている | 米国製の部品や材料をそのまま輸出・再輸出する |
| 米国由来の技術やソフトウェアを組み込んでいる | 米国製ソフトウェアをインストールしたPCや、米国の技術ライセンスで製造した製品を輸出する |
| 米国産部品の組込比率が一定割合を超える | 製品に含まれる米国産部品の価格が全体の25%を超える場合(デミニマス・ルール) |
現代のグローバルなサプライチェーンにおいて、自社製品が米国由来の技術や部品と「完全に無関係だ」と断言できる企業がどれだけあるでしょうか。半導体、ソフトウェア、製造装置…気づかぬうちに、あなたの製品にも「米国の目」が光っている可能性は十分にあります。
余談ですが、私自身、クライアント企業の輸出管理体制を見直すお手伝いをしていて、「え、この部品って米国製だったの?」と担当者が青ざめる場面に何度も遭遇しています。知らないことが一番怖い。本当にそう思います。
あなたが国内の優良企業だと思って取引している相手が、実は海外のエンティティ・リスト掲載企業の孫会社で、あなたが納品した米国製ソフトウェアを組み込んだ製品が規制対象国に渡ってしまったら。その瞬間、あなたはEAR違反の共犯者です。
違反したら最後…待ち受ける「最悪のシナリオ」
では、もしEARアフィリエイトルールに違反してしまったら、一体どうなるのか。ここからが本番です。
EAR違反に対する罰則は、冗談では済まされないレベルで苛烈です。
| 罰則の種類 | 内容 | 何が起こるか |
|---|---|---|
| 刑事罰 | 最大で20年以下の懲役 | 会社のコンプライアンス違反で、経営者や担当者が刑務所に入る |
| 罰金(刑事) | 最大で100万ドル(約1億5000万円) | 企業の屋台骨を揺るがす巨額の罰金。利益が一瞬で吹き飛ぶ |
| 罰金(民事) | 違反1件あたり約37万ドルまたは取引額の2倍 | 取引の数だけ罰金が累積する。気づいた時には天文学的な金額に |
| 輸出権限の剥奪 | 米国製品や技術に関する一切の取引が禁止される | 事実上の「死刑宣告」。事業継続が不可能になる企業も |
| 企業名の公表 | 違反企業として全世界に公表される | 社会的信用の失墜。取引先も顧客も離れていく |
「そんな大げさな」と思いますか?
2023年、米国のハードディスクメーカーSeagate Technology社が、規制対象であったHuawei社に製品を輸出したとして、3億ドル、当時のレートで約400億円の制裁金を支払うことで和解しました。単一企業に対する民事制裁金としては過去最高額です。
2025年にはCadence Design Systems社が、中国のエンティティ・リスト掲載企業への不正輸出で、刑事・民事合わせて1億4000万ドル超の罰金に合意しています。この事例は、「知っていた、または知るべき理由があった(reason to know)」に基づく初の大型エンフォースメントとして注目されました。
あなたの会社が、これだけの金額を支払えますか?
「知らなかった」は通用しない、Red Flag 29
追い打ちをかけるのが、アフィリエイトルールと同時に導入された「Red Flag 29」という新たな警告事項です。
これは、「取引相手の関連会社にリスト掲載企業がいるかもしれない、と知るべき理由があったにもかかわらず調査を怠った」場合、それは「知っていた」ことと同罪とみなす、という内容です。
「知らなかった」「気づかなかった」という言い訳は一切通用しません。輸出者には、取引先の資本関係の奥深くまで積極的に調査し、クリーンであることを証明する「積極的確認義務(Affirmative Duty)」が課せられました。エンティティ・リストやMEUリストの要件は厳格責任(strict liability)に基づいて執行されます。つまり、故意でなくても、結果として違反した場合は罰せられるのです。
いつまでに何をすべきか?施行スケジュールと対応ステップ
「怖いのはわかった。で、いつまでに何をすればいいの?」
ここが重要です。アフィリエイトルールは2025年9月29日に公表され即時発効しましたが、米中貿易交渉の一環として2025年11月10日から1年間の執行停止措置が取られました。つまり、2026年11月10日に「スナップバック」、自動的に再適用されます。
| 時期 | 状況 |
|---|---|
| 2025年9月29日 | 暫定最終規則を公表、即時発効 |
| 2025年11月10日から2026年11月9日 | 1年間の執行停止(猶予期間) |
| 2026年11月10日 | 本格施行(自動スナップバック) |
この猶予期間は「準備のための時間」であって「安全な時間」ではありません。停止はあくまで一時的なもので、廃止ではない。ここを勘違いしている企業が非常に多いのが正直なところです。
今すぐ着手すべきことを整理します。まず、自社が扱う製品や技術に米国原産品目が含まれているかの棚卸し。次に、主要取引先のリストアップと資本関係の調査。そして、社内の輸出管理内部規程(CP)にアフィリエイトルール対応の手順を追加すること。2026年の夏までにはスクリーニングツールの選定と導入を完了させ、11月の施行日には運用を回せる状態にしておくべきです。
ただし、問題はここからです。海外企業の資本関係を調査するのは、想像以上に困難です。公開情報は限られている。言語の壁がある。複雑な投資ファンドや信託が絡む所有構造を解き明かすのは至難の業です。これを全て手作業で、全ての取引先に対して行うのは、率直に言って現実的ではありません。
EX-Checkという選択肢
EARアフィリエイトルールは、日本企業にとって、静かに、しかし確実に忍び寄る経営リスクの津波です。「知らなかった」では済まされない厳格責任の時代に、旧来の属人的なチェック体制ではこの大波を乗り越えることはできません。
私たち株式会社TIMEWELLは、この状況を打破するためのソリューションを開発しました。AI輸出管理エージェント「EX-Check」です。岡山大学と共同実証を行い、経済産業省・文部科学省主催のセミナーでも発表実績があります。
EX-Checkは、独自に構築したグローバル企業情報データベースとAI技術を駆使し、これまで不可能だった取引先の資本関係チェーンの分析を自動化します。取引先を入力するだけで、AIがその支配権の連鎖を瞬時に遡り、隠れたリスクパーソンを特定する。50%ルールに抵触する可能性を「懸念度スコア」としてS、A、B、Cの4段階で明確に提示し、なぜそのスコアになるのか根拠となる情報源も明示します。数週間かかっていた調査が、わずか数秒で完了します。
2026年11月のアフィリエイトルール本格施行に合わせ、EX-Checkも資本関係チェーン分析、エンティティリスト子会社チェック、50%以上所有関係の自動検出といった機能を完全対応させます。
個人的には、輸出管理は「面倒なコンプライアンス業務」ではないと思っています。日本の技術を守り、企業の信頼性を高め、グローバルビジネスを持続可能にするための、攻めの経営判断です。ただ、その判断を支えるツールがなければ、守りたくても守れない。そこをAIで解決したい。それがEX-Checkを作った理由です。
手遅れになり全てを失う前に、まずは自社がどれほどのリスクに晒されているのか、知ることから始めてください。
あなたの会社の未来は、この瞬間の決断にかかっています。
EX-Checkの詳細は、サービスサイトからご確認ください。
参考文献
[1] U.S. Department of Commerce, Bureau of Industry and Security「Expansion of End-User Controls to Cover Affiliates of Certain Listed Entities」(https://www.federalregister.gov/documents/2025/09/30/2025-19001/expansion-of-end-user-controls-to-cover-affiliates-of-certain-listed-entities) [2] 赤坂国際法律会計事務所「アメリカ輸出管理の新規制:BIS 50%ルール(アフィリエイト・ルール)とは?」 [3] U.S. Department of Commerce, Bureau of Industry and Security「Enforcement - Penalties」(https://www.bis.gov/enforcement/penalties) [4] U.S. Department of Commerce, Bureau of Industry and Security「BIS Imposes $300 Million Penalty Against Seagate for Export Control Violations」 [5] U.S. Department of Justice「Cadence Design Systems Agrees to Plead Guilty and Pay Over $140 Million for Unlawfully Exporting Semiconductor Design Tools」(https://www.justice.gov/opa/pr/cadence-design-systems-agrees-plead-guilty-and-pay-over-140-million-unlawfully-exporting) [6] U.S. Department of Commerce, Bureau of Industry and Security「One-Year Suspension of Expansion of End-User Controls for Affiliates of Certain Listed Entities」(https://www.federalregister.gov/documents/2025/11/12/2025-19846/one-year-suspension-of-expansion-of-end-user-controls-for-affiliates-of-certain-listed-entities)
