こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
生成AIの世界では、アメリカのOpenAIやAnthropicといった名前がよく話題になりますが、いま静かに、そして確実に世界中の開発者へ広がっているのが、中国のAlibabaがつくる「Qwen(クウェン)」というモデル群です。日本語では通義千問とも呼ばれます。2026年7月には、上海で開かれたWAIC(世界人工知能大会)で最新の最上位モデル「Qwen3.8-Max」のプレビュー版が発表され、あらためて注目を集めました。ご相談の中でも「Qwen3.8がすごいらしい」と聞くことが増えています。
この記事では、Qwenを技術の細かさではなく、ビジネスの仕組みとして読み解きます。なぜ最上位のモデルは閉じたまま、その一段下を無料で即座に公開するのか。無料で配って何が儲かるのか。同じ中国発のDeepSeekとどう違うのか。そして日本の会社がこれをどう受け止めればよいのか。専門用語はそのつど噛み砕いて説明しますので、AIにあまり詳しくない方でも読み通せるはずです。自社のAI活用の現在地が気になる方は、先にAIリテラシーの無料診断で足元を確かめておくと、後半の実務の話が具体的に感じられると思います。
そもそもQwenとは何者なのか
まず、Qwenが何者なのかから始めます。Qwenは、中国のAlibabaがつくる生成AIのモデルの総称です。ひとつのモデルの名前ではなく、用途や規模の違うたくさんのモデルをまとめた「シリーズ」だと考えてください。文章のやりとりをする基本のモデルから、プログラムのコードを書くのが得意なモデル、画像や音声を理解するモデルまで、いくつもの種類がそろっています。手元のスマートフォンでも動くような小さなモデルから、巨大なサーバーでしか動かせない大きなモデルまで、規模の幅も広いのが特徴です。
ここで名前の整理をしておきます。Qwenのバージョンは、初代のQwenから始まり、Qwen1.5、Qwen2、Qwen2.5、Qwen3という順に進んできました。そして2026年7月に、最新の最上位モデルとしてQwen3.8-Maxがプレビュー発表されています。各世代の中は、用途を表すサフィックスと、モデルの規模で枝分かれさせる方式です。たとえば、オープンに公開されているフラッグシップはQwen3-235B-A22B、コードに特化したものはQwen3-Coderといった具合で、末尾の記号や数字が役割と大きさを示しています。名前の付け方には少し慣れが必要ですが、頭に「Qwen」と世代の番号、後ろに用途と規模がつく、という構造をつかんでおけば迷いません。
ここで一度、言葉の定義をはさみます。この後たびたび出てくる「オープンウェイト」という言葉です。生成AIのモデルは、膨大な計算によって調整された無数の数値のかたまりでできていて、この数値を「重み(ウェイト)」と呼びます。この重みを一般に公開するのがオープンウェイトです。重みが手に入れば、自分のパソコンや自社のサーバーでそのモデルを動かせます。ただし、学習に使ったデータや、学習の細かな手順までが全部公開されるわけではありません。だから「オープンソース」と厳密には呼び分けられることが多く、この記事でも実態に合わせてオープンウェイトと表現します。
2026年7月、Qwen3.8-Maxがプレビュー発表された
まず、いちばん新しい動きから押さえます。2026年7月19日、Alibabaは上海のWAIC(世界人工知能大会)で、最新の最上位モデルとしてQwen3.8-Maxのプレビュー版を発表しました1。プレビューというのは、正式な一般公開の前に、先行して一部の環境で試せるようにする段階のことです。同社によれば、このモデルは2.4兆パラメータという巨大な規模のスパースMoE構成を採り、文章だけでなく画像なども扱えるマルチモーダルなモデルだとされています。
用語を補っておきます。パラメータというのは、先ほど触れた重みの数のことで、大まかに言えば多いほどモデルの表現力が高くなる傾向があります。MoE(Mixture-of-Experts、混合エキスパート)というのは、巨大なモデルの中に役割の異なる小さな専門家をたくさん抱えておき、入力に応じて必要な専門家だけを働かせる仕組みです。全部を一度に動かさずに済むため、規模のわりに計算の負荷を抑えられます。スパースMoEは、その専門家のうちごく一部だけを選んで動かす設計を指します。
ただし、ここは冷静に受け止める必要があります。2.4兆パラメータという数値も、マルチモーダル対応も、性能の高さも、現時点では基本的にAlibaba社の発表・主張です。第三者による独立したベンチマークの結果や、詳しいモデルカード、実際に動くパラメータ数といった裏づけは、まだ十分に出そろっていません。同社は性能面で高い水準にあると説明しており、報道では他社の最上位モデルに迫るとする比較も紹介されていますが、これも同社の内部評価に基づくものです。数字が独り歩きしやすい分野なので、この記事では「Alibaba社の発表による」という留保をはっきり付けたうえで扱います。オープンウェイトとしての正式公開も予定されているとされますが、公開の日付やライセンスの詳細は、これからの発表を待つ段階です。実物の検証が進むまでは、期待も評価も少し引いて見ておくのが安全だと考えています。
最上位は閉じ、その下は即オープン。二層構造の意味
Qwenの戦略を理解するうえで、いちばん大事なのがこの点です。Alibaba は決して「全部を無料で公開している」わけではありません。実際には、稼ぎ頭になる最上位モデルは閉じておき、その一段下を惜しみなくオープンにする、という二層構造になっています。
上の層にあたるのが、クローズドの最上位モデルです。前の世代で言えば、2025年9月に開かれたAlibabaのカンファレンスで発表されたQwen3-Maxがこれにあたり、報道によればパラメータ数は1兆を超え、36兆トークンという膨大なデータで学習されたとされています2。このQwen3-Maxは重みが公開されておらず、Alibaba CloudやチャットアプリのQwen Chat、そしてAPIを通じてのみ使えます。2026年7月に発表されたQwen3.8-Maxも、まずはプレビューという形で同社のサービス上から先行提供される流れで、この最上位を軸に収益を確保するという位置づけは変わっていません。つまり、最も性能が高いとされるモデルは、まず自社のサービス経由でお金を払って使う形から始まります。
下の層にあたるのが、オープンウェイトで公開されているQwen3シリーズです。フラッグシップはQwen3-235B-A22Bで、2025年4月にApache 2.0というライセンスのもとで公開されました3。総パラメータが235B、その中で実際に動くのが22Bという設計で、大きな頭脳を持ちながら計算の負荷を抑える工夫がされています。加えて、より軽いモデルから、スマートフォンでも動くような小さなモデルまで、幅広いサイズが同時に公開されました。コードに特化したQwen3-Coderも、2025年7月にオープンで公開されています4。ここで押さえたいのは、最先端の一歩手前にあたる高性能モデルを、出し惜しみせず、しかも商用利用も認めるライセンスで、世に出しているという事実です。Qwen3.8-Maxについても、正式なオープンウェイト公開が予定されているとされており、この「上を閉じ、下を開く」型が今後も続く見込みです。
なぜこの二層に分けるのか。ひとことで言えば、最上位で収益を確保しつつ、その下の層で世界中の開発者を取り込むためです。最上位を閉じておけば、本当に高い性能が必要な顧客はお金を払ってAPIやクラウドを使ってくれます。一方で、その一段下を無料で配れば、コストを抑えたい開発者や研究者、スタートアップが次々と採用します。閉じる層と開く層を分けることで、収益とシェアの拡大を同時に狙う。これがQwenの設計思想の核心だと私は見ています。
狙いはモデル販売ではなくクラウド利用の拡大
では、無料でモデルを配って、Alibabaは何で儲けているのでしょうか。ここがビジネスとしていちばん面白いところです。答えは、モデルを売ることではなく、モデルを動かす場所であるAlibaba Cloudを使ってもらうことにあります。
生成AIのモデルは、ダウンロードしただけでは動きません。実際に文章を生成したり質問に答えたりさせるには、それなりに強力な計算資源が必要です。特に大きなモデルは、高性能なGPUを積んだサーバーがないと満足に動きません。そこで多くの企業や開発者は、自前で高価な機材をそろえるかわりに、クラウド上でモデルを動かします。AlibabaはModel StudioやDashScopeといった仕組みで、Qwenを含むモデルをAPIとして呼び出せるサービスを提供しています。APIというのは、外部のプログラムからモデルの機能を呼び出す窓口のことです。オープンウェイトのモデルを無料で世に広めておけば、それを動かすためのクラウドの計算資源やAPIの利用が増えていきます。無料配布は、クラウド事業への入り口を広げるための投資だと理解すると腑に落ちます。
この構造は、開発者を自社の環境に引き込む効果も持ちます。ある会社がQwenで社内の仕組みを作り込むほど、その周辺のツールやデータの流れがAlibabaのクラウドに合わせて最適化されていきます。いったんそこで作り込むと、別のモデルや別のクラウドへ乗り換えるのは手間がかかるようになります。無料で配ることは一見すると気前がよく見えますが、その裏には、広く採用してもらい、事実上の標準の位置を取り、開発者をエコシステムの内側に留める、という計算があります。中国のAI戦略という文脈で言えば、閉じたモデルを軸にするアメリカ勢に対して、開かれたモデルで開発者を囲い込み、世界の標準を取りにいく動きだと位置づけられます。この米中の構図に関心のある方は、アメリカと中国のAI競争を投資や特許から読み解いた記事もあわせてご覧いただくと、背景が立体的に見えてきます。
ここで少し、自社の話に引きつけて考えてみてください。無料で強力なモデルが手に入る時代になったからといって、それをそのまま業務で使いこなせるかは別の問題です。どのモデルを、どこで動かし、どの業務に当てるのか。その設計こそが成果を分けます。私たちがWARPというAIコンサルティングで経営者と一緒に取り組んでいるのも、まさにこの「入れどころの設計」の部分です。モデルが無料になるほど、使い方の巧拙で差がつく時代になっていると感じています。
成果とDeepSeekとの違い
このオープンウェイト戦略は、数字のうえでも成果を出しています。中国国営の新華社が2026年1月13日に伝えたところによれば、Qwenのモデルは、モデル共有サイトHugging Faceでの累計ダウンロードが7億回を超え、2025年10月にはMetaのLlamaを抜いて、世界最大のオープンソースモデルのエコシステムになったとされています5。同じ報道では、Qwen系で約400のモデルがオープンに公開され、そこから派生してつくられたモデルは18万を超えたとも伝えられています。ダウンロード数や派生モデル数は、情報源や時点によって数字がかなり変わるため、この記事では日付と出典のはっきりしたこの報道の数値だけを使います。ともあれ、無料公開という戦略が、普及の量という点で確かに機能していることは押さえておいてよいと思います。
ここで、同じ中国発でオープンウェイトを掲げるDeepSeekと比べてみます。DeepSeekは、推論に強いR1というモデルなどを、MITライセンスというさらに緩い条件で公開して注目を集めました。両社に共通するのは、重みを公開して世界に広め、開かれたモデルで存在感を高めるという方向性です。一方で、力の入れ方には違いがあります。DeepSeekは少数の先鋭的なモデルに集中する構成で、鋭さで勝負する印象が強いのに対し、Qwenはチャットアプリ、API、オープンウェイト、そして極小から巨大までそろったサイズ帯という、フルスタックの品ぞろえで裾野を広げる構成です。どちらが優れているという話ではなく、攻め方の思想が違うと捉えるのが正確です。DeepSeekそのものについてはDeepSeekを技術と背景から解説した記事で詳しく扱っていますので、興味があればそちらもどうぞ。
一点だけ、冷静に付け加えておきます。両社とも公開しているのは基本的に重みであって、学習データや学習の全手順までを開示しているわけではありません。オープンウェイトは、透明性という意味では完全なオープンソースとは違います。導入を検討する際は、この違いを踏まえたうえで、自社にとって何が確認できて何が確認できないのかを整理しておくことが大切です。
日本企業はこれをどう受け止めればよいか
最後に、日本の会社の目線で、何を意味するのかを書きます。結論から言えば、高性能なオープンウェイトのモデルが無料で手に入る状況は、日本の中堅・中小企業にとって、追い風になり得ると私は考えています。かつては最先端のAIといえば、限られた大企業が高額なライセンスで使うものでした。それが、無料でダウンロードして自社の環境で動かせるモデルが増えたことで、選択肢の幅が大きく広がりました。特に、機密情報を外部のサービスに送らずに、自社のサーバーやオンプレミスの環境でモデルを動かしたい会社にとって、オープンウェイトは現実的な選択肢になります。
ただし、無料だからといって、そのまま業務に使ってよいわけではありません。実務では、いくつか確認すべき点があります。まず、ライセンスです。Qwenのオープンウェイト版の多くは商用利用も認めるApache 2.0で公開されていますが、モデルごとにライセンスや利用条件は異なります。Qwen3.8-Maxのように、正式なオープンウェイト公開が予定されている段階のモデルは、公開時のライセンスがどうなるかがまだ分からないため、飛びつく前に条件を確かめる姿勢が要ります。業務で使うなら、対象のモデルがどの条件で配布されているかを必ず確かめてください。次に、動かす場所とデータの流れです。自社の環境で動かすのか、クラウドのAPI経由で使うのかによって、機密情報がどこへ渡るかが変わります。特に個人情報や取引先の情報を扱う場合は、データの経路を検証したうえで導入する必要があります。海外製のモデルを使うこと自体は問題ありませんが、どこで動かし、何を渡すのかは、自社の責任で見極めるべき部分です。国内での基盤モデル整備の動きに関心のある方は、国産AI基盤とNEDOの取り組みを整理した記事もあわせて参考になると思います。
そのうえで私が強調したいのは、モデルの選択そのものより、使い方の設計のほうがはるかに重要だという点です。無料で強力なモデルが誰でも手に入るということは、裏を返せば、モデルの性能だけでは差がつきにくくなるということです。差がつくのは、自社のどの業務にAIを当て、どんな手順で使い、どこは人が担うのかという設計の部分です。この見極めは、モデルの技術に詳しいだけでは難しく、自社の業務の中身と経営の優先順位を突き合わせる作業になります。どこから手をつければよいか迷っておられるなら、WARPの担当までご相談ください。元大手企業でDXやデータ戦略を担ってきた専門家が、月次で伴走しながら、AIを経営に落とし込むお手伝いをしています。もっとも、AIを入れれば何もかも解決するわけではありません。どこに効いて、どこは人がやるべきかを一緒に見極めるところから始めましょう。
まとめ
長くなったので、要点を整理します。
- Qwenは、Alibabaがつくる生成AIのモデル群の総称で、用途や規模の違うたくさんのモデルをまとめたシリーズです。2026年7月には最新の最上位モデルQwen3.8-Maxがプレビュー発表されました
- Qwen3.8-Maxは2.4兆パラメータのスパースMoEでマルチモーダル対応とされますが、これはAlibaba社の発表であり、独立した検証はこれからです。オープンウェイトとしての正式公開も予定されている段階です
- 戦略の核心は二層構造です。最上位のMaxモデルは閉じてAPIやクラウドで収益化し、その一段下のQwen3-235B-A22Bなどを、商用利用も認めるライセンスで無料公開しています
- 無料配布の狙いはモデル販売益ではなく、モデルを動かす場所であるAlibaba Cloudの利用を増やすことです。広く採用させ、標準の位置を取り、開発者を自社の環境に留める計算があります
- 中国国営の新華社は2026年1月13日、Qwenの累計ダウンロードが7億を超え、Llamaを抜いて世界最大のオープンソースエコシステムになったと伝えました。派生モデルは18万超とされます
- 同じ中国発のDeepSeekは少数のモデルに集中する構成で、Qwenはフルスタックで裾野を広げる構成という違いがあります。ただし両社とも公開しているのは基本的に重みで、完全なオープンソースとは範囲が異なります
- 日本企業にとっては選択肢が広がる追い風ですが、業務利用の前にライセンスとデータの経路を必ず確認してください。差がつくのはモデルの性能より使い方の設計です
無料で強力なAIが手に入る時代は、準備のできた会社ほど恩恵を受け取れる時代でもあります。まずは自社のどの業務にAIが効くのかを見極めるところから、動き出してみてください。
参考文献・一次情報
Footnotes
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Qwen(Alibaba Cloud)公式サイト(https://qwen.ai/ )。2026年7月19日に上海で開催されたWAIC(世界人工知能大会)でのQwen3.8-Max(プレビュー版)発表に関する各社報道。パラメータ数・マルチモーダル対応・性能に関する数値は同社の発表・主張によるもので、独立した検証は本稿執筆時点で十分に出そろっていない。 ↩
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eWeek「Alibaba Unveils Qwen3-Max, Its Trillion-Parameter AI Model」(2025年9月)https://www.eweek.com/news/alibaba-qwen3-max-trillion-parameter-ai/ ↩
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Qwen Team「Qwen3: Think Deeper, Act Faster」(Qwen公式ブログ、2025年4月29日)https://qwenlm.github.io/blog/qwen3/ ↩
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Qwen Team「Qwen3-Coder: Agentic Coding in the World」(Qwen公式ブログ、2025年7月22日)https://qwenlm.github.io/blog/qwen3-coder/ ↩
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Xinhua「Alibaba's Qwen tops 700 mln downloads to become world's largest open-source AI ecosystem」(新華社、2026年1月13日)https://english.news.cn/20260113/004b0522f987475cbf83ffc3a8d009aa/c.html ↩
