こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
取引先スクリーニングの話をしていると、「結局どのリストを見ればいいのか」という質問をよく受けます。米国のEntity List、EUの制裁リスト、日本の外国ユーザーリスト。どれも名前は聞くけれど、中身の規模感を答えられる人は多くありません。
台湾に展開している日本企業の方から、「台湾側では何を見ればいいのか」と聞かれたのがきっかけで、両方を取ってきて数えてみました。台湾11,664件、日本835件。およそ14倍の差です。
ただ、この数字を「台湾のほうが厳しい」と読むのは間違いでした。数えているうちに、2国はリストというものの作り方が根本的に違うと分かってきたからです。
どう数えたか
台湾側は、經濟部國際貿易署が公開している「我國戰略性高科技貨品出口實體管理名單」です。政府資料開放平臺にデータセットとして登録されていて、CSVで直接取得できます。更新頻度は1日ごとと記載されています。2026年8月27日に取得したところ、11,664件でした。項目は名称、別名、住所、パスポート番号、産製日付の5つです。
日本側は、経済産業省の「外国ユーザーリスト」です。2025年9月29日の改正で15か国・地域の835団体(87団体増)となり、令和7年10月9日から適用されています。この改正では、従来の大量破壊兵器等の懸念に加えて、通常兵器の開発等、取引状況等の確認を要する外国団体の情報も追加されました。
数える前に、両者の位置づけを確認しておきます。ここを飛ばすと比較そのものが成り立ちません。
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数が違うのではなく、思想が違う

まず日本。経産省は外国ユーザーリストについて、「禁輸リストではありません」と明記しています。キャッチオール規制の実効性を向上させるため、懸念が払拭されない団体の情報を参照用として提供するもの、という位置づけです。掲載団体が需要者の場合、大量破壊兵器等や通常兵器の開発等に用いられないことが明らかな場合を除き、輸出許可申請が必要になります。
つまり日本のリストは、日本政府が自ら懸念を持っている団体を挙げたものです。15か国・地域の835団体という規模は、その性格から来ています。
次に台湾。データセットの説明文にこう書かれています。「協助企業檢視交易相關對象是否屬各國政府公佈之具出口管制高風險的個人或實體」。訳せば、取引相手が各国政府が公表した輸出管理上のハイリスクな個人・実体に該当するかを、企業が確認できるようにするもの、です。
台湾の名單は、各国のリストを束ねて1本にして配っているものでした。台湾独自の指定だけを集めたリストではありません。だから11,664件という規模になります。
この違いが分かってから、14倍という数字の意味が変わりました。日本は「うちが懸念しているのはここだ」と表明し、台湾は「世界中の当局が挙げた先をまとめて渡すから照合しなさい」と言っている。 目的が違うので、多いほうが優れているという話ではありません。
説明文はさらに踏み込んでいて、輸出や再輸出のときだけでなく、海外の輸出管理対象顧客から国内業者へ送金があったとき、輸出管理対象顧客の貨物にサービスを提供するときにも照合すべきだと書いています。政府に通知して許可を得ない限り、これらの取引は一律中止せよ、とも。実務の踏み込み方としては、かなり具体的です。
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台湾の名單はロシアに大きく傾いている
台湾側は住所欄があるので、所在地を機械的に分類してみました。

ロシアが3,554件で突出しています。住所が記載されている10,401件の34%です。次いで中国・香港1,282件、イラン1,140件、シリア537件、北朝鮮389件と続きます。
先に断っておくと、これは住所の文字列から正規表現で推定した分類です。住所の記載がないものが1,263件、国名を含まず特定できなかったものが1,822件あります。合計3,085件、全体の26%は分類できていません。正確な国別内訳ではなく、傾向を見るための集計として読んでください。
それでもロシアの多さは明らかです。2022年以降に各国が積み上げた対露措置が、そのまま束になって現れています。リストを束ねるという方式は、どこかの国が大量に指定すれば、その分だけ膨らむわけです。
もうひとつ、実務者向けに書いておきたいことがあります。米国所在の実体が17件含まれていました。 これは米国企業が問題視されているという意味ではありません。制裁対象の関連実体が米国内に住所を持つ場合などが含まれます。リストに載っている=その国や企業が悪い、という読み方をしないのが、この種の資料を扱う基本です。日本企業が海外のリストに載る可能性も、当然あります。
台湾側は「参照」ではなく許可制で運用されている
もうひとつ、日本のリストとの決定的な違いがあります。台湾の名單は参照用ではありません。
國際貿易署が2026年4月1日に出した発表に、運用が明記されています。国内業者が名單に載っている管制対象実体へ輸出しようとする場合、事前に輸出許可証を取得しなければ輸出できません。そして「海關將協助執行邊境攔查」、つまり税関が水際で止める、とも書かれています。許可なく名單掲載先へ輸出しようとすれば、通関で放行されません。
日本の外国ユーザーリストが「禁輸リストではない参照用」であり、掲載先が需要者なら許可申請が必要になるという建て付けなのに対し、台湾は名單そのものが許可制の対象を定義し、税関の水際執行と直結しています。同じ「照合するリスト」という言葉で括れない差です。
同じ発表で、名單の作られ方も分かります。「主要參考聯合國安全理事會及友盟國家的制裁與管制名單」。国連安保理と友好国の制裁・管制名單を主に参照している、と自ら書いています。私が数えた11,664件という規模の理由が、ここでも裏づけられます。
そして更新の実態も具体的です。2026年4月1日の更新では、ロシア、ハイチ、トルコ、中国大陸、UAEなどの67実体を追加し、8実体を削除したとされ、この時点で累計11,414実体を超えると書かれています。私が8月27日に取得した11,664件と並べると、約5か月で250件ほど増えた計算になります。
台湾の管制清單そのものも動いています。2026年2月11日には「軍商兩用貨品及技術出口管制清單」と「一般軍用貨品清單」が改正され、即日発効しました。ワッセナー・アレンジメント等の国際的な管制清單の更新を反映したものです。リストは年単位ではなく、数か月単位で書き換わっていると考えたほうが実態に近いと思います。
実務者が引き取るべきこと
数えた結果から、私が言えると思うことを書きます。
日本のリストだけ見ていると足りません。 835団体は、日本政府が懸念を表明した先です。台湾側の名單が11,664件あるということは、日本のリストに載っていない先が世界には大量にあるということです。台湾に子会社や取引先がある企業は、台湾側の照合義務も別途かかります。
台湾のリストだけ見ても足りません。 逆もまた真で、台湾の名單は各国リストの集約なので、日本固有の懸念が反映されているとは限りません。日本から輸出するなら外国ユーザーリストを見る必要があります。
更新頻度の差を運用に織り込む。 台湾側は1日ごとの更新とされ、日本の外国ユーザーリストは改正のたびの公表です。直近では2025年9月29日の改正が2025年10月9日から適用されました。手元のリストがいつ時点のものかを管理していないと、古いリストで照合し続けることになります。 これは実務でいちばん起きやすい事故だと思っています。
そして今回の改正で日本が通常兵器の開発等に関する団体情報を追加したことは、見落とされがちですが重要です。従来の大量破壊兵器の懸念だけでなく、通常兵器補完的輸出規制の見直しを受けた追加です。確認すべき範囲が広がっています。
当社のTRAFEEDは、経産省基準に沿った該非判定と取引先スクリーニングを支援しています。ただ、ツール導入の前にまず確認していただきたいのは、いま自社が照合しているリストが何本で、それぞれいつ時点のものかです。ここが答えられない状態で件数の議論をしても意味がありません。
輸出管理違反の実態については経産省の分析6年分を数えた記事にまとめました。違反の原因で最も多いのは「そもそも判定していない」でしたが、リスト照合も同じ構造で、照合していない先があること自体に気づいていないのがいちばん危ない状態です。
まとめ
台湾と日本の照合リストを全件取得して比べた結果です。
- 台湾「出口實體管理名單」は11,664件(2026年8月27日取得、更新頻度は1日ごと)
- 日本「外国ユーザーリスト」は15か国・地域の835団体(2025年9月29日改正・87増、10月9日適用)
- 件数比はおよそ14倍。ただしリストの性格が違う
- 台湾は各国政府が公表したリストを束ねて配布するもの。日本は自国が懸念を持つ団体を挙げるもので、禁輸リストではなく参照用
- 台湾の名單の所在地はロシアが3,554件で最多、中国・香港1,282件、イラン1,140件と続く(住所文字列からの機械推定。26%は分類できず)
- 米国所在の実体も17件ある。掲載は規制上の区分であって企業の是非の判断ではない
- 台湾の説明文は、輸出時だけでなく送金の受領時や役務提供時の照合まで求めている
- 台湾の名單は参照用ではなく許可制の対象。無許可で名單掲載先へ輸出しようとすると税関が放行しない
- 台湾は国連安保理と友好国の制裁・管制名單を主に参照して名單を作っている。2026年4月1日に67実体を追加・8実体を削除
- 台湾の管制清單本体も2026年2月11日に改正され即日発効。書き換わるのは数か月単位
- 日本は今回の改正で通常兵器の開発等に関する団体情報を追加した
数えてみて、いちばん腑に落ちたのは「多い=厳しい」ではないという当たり前のことでした。台湾は世界中のリストを集めて配る役を引き受け、日本は自国の懸念を絞って示す。どちらも合理的で、両方見ないと片方の穴が埋まらないというだけの話です。
台湾展開にともなう照合の設計や、社内のリスト管理をどう回すか相談したい場合は、個別相談でお受けしています。
出典: 台湾=經濟部國際貿易署「我國戰略性高科技貨品出口實體管理名單」(政府資料開放平臺 データセット102368。CSVを2026年8月27日に取得)。日本=経済産業省「大量破壊兵器等の懸念又は通常兵器の開発等、取引状況等の確認を要する外国・地域所在団体の情報を提供する『外国ユーザーリスト』を改正しました」(2025年9月29日)https://www.meti.go.jp/press/2025/09/20250929006/20250929006.html





