株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。
2026年7月23日、EUが対ロシア制裁の第21次パッケージを採択しました。規則(EU) 2026/1848、官報掲載も同日で、発効は掲載の翌日にあたる7月24日です1。そして同じ24日、中国時間の16時に、中国商務部がEU加盟8か国の14事業体を輸出管制の管控名簿(管控名单)へ載せる公告2026年第30号を公表しています2。48時間のあいだに、EU側と中国側の両方のリストが動きました。
先に一つ断っておきます。中国側の公告第30号の本文には、EUのパッケージへの言及が一切ありません。理由として書かれているのは「国家の安全と利益を維持し、拡散防止等の国際義務を履行するため」だけです。ですから私は、これを「対抗措置」だと断定しません。原文から確実に言えるのは、EU採択の翌日に公告が出たという時系列と、4月にも同じ並びがあったという反復パターンまでです。
この記事で扱うのは、その48時間で増えたリストを、月曜の朝に自社の取引先マスタと品目マスタへどう落とすかという一点です。EU側の条文を読むと、今回の追加がそもそも名前で照合する前提で作られていないことがはっきり分かります。そこが実務の勘所だと思っています。
5系統のリストを1本の手順で回すために: 米OFAC/BIS・EU・英国・国連、そして日本の外国ユーザーリストという5系統のスクリーニング手順書を配布しています。系統ごとに更新の頻度も識別子の書き方も違うため、どこを何の頻度で見て、ヒットしたら誰が何を判断するかを1枚の手順に落としてあります。この記事で触れるEU側の識別子(TRN/BRN/TIN/OGRN等)の扱いも、同じ手順の中で処理できます。 → 経済制裁リスト5系統 スクリーニング手順書をダウンロード(無料。会社名とお勤め先のメールアドレスのご登録が必要です)
まず時系列を確定させる
| 日付 | 何が起きたか | 一次情報 |
|---|---|---|
| 2026年4月23日 | EU第20次パッケージ採択(規則(EU) 2026/506) | 第21次規則の脚注1・欧州委員会DG FISMAの年表3 |
| 2026年4月24日 16:00 | 商務部公告2026年第20号。EU7事業体を管控名簿へ | 商務部公告原文4 |
| 2026年7月23日 | EU第21次パッケージ採択・官報掲載(規則(EU) 2026/1848) | EUR-Lex原文1 |
| 2026年7月24日 | 同規則が発効(第2条:官報掲載の翌日) | EUR-Lex原文1 |
| 2026年7月24日 16:00 | 商務部公告2026年第30号。EU14事業体を管控名簿へ | 商務部公告原文2 |
「第21次パッケージ」という呼び方は、欧州委員会(DG FISMA)の公式ページが7月23日の措置を Twenty-first package と明記していることに拠ります3。理事会・委員会のプレスリリース本文は今回取得できていないため、当局者の発言や声明の引用はこの記事に入れていません。書いているのは、規則の条文・附属書と商務部の公告本文から直接読める内容だけです。
Annex IVは資産凍結リストではない
法的効果を揃えておきます。今回51事業体が追加されたAnnex IVは、規則(EU) No 833/2014の第2条(7)・第2a条(7)・第2b条(1)が参照するリストで、掲載の効果は資産凍結ではなく輸出等の禁止です。第2b条(1)は、両用品目およびAnnex VII掲載の品目・技術を、EU原産か否かを問わずAnnex IV掲載の者へ直接または間接に販売・供給・移転・輸出することを禁止しています5。
見落としやすいのが同条(1a)です。禁止されるのは物の出荷だけではありません。技術支援・仲介その他のサービス、資金供与・金融支援、そして知的財産権や営業秘密のライセンス、移転、アクセス許諾も同じ枠に入ります。装置の販売は止まったがソフトウェアのライセンスと保守だけ残っている、図面と技術指導だけ続いている。そういう契約が「販売ではない」として台帳の外にあるなら、そこは見直しの対象です。免脱(derogation)は第2b条(1b)にありますが、健康・安全・環境への重大な影響を緊急に防止・緩和する場合と、2022年2月26日より前の契約(許可申請も2022年5月1日より前が要件)に限られ、実務で使える場面は狭いです5。
なお、EUが公表している Consolidated list は「EUの金融制裁の対象となる個人・団体を集約したリスト」で、833/2014のAnnex IVのような輸出禁止リストとは別建てです6。ウクライナ関連の資産凍結の根拠は規則(EU) No 269/2014で、その第2条が同規則Annex I掲載者の資金と経済的資源の凍結を定めています7。「EUの制裁リストを取り込んでいます」という説明を受けたら、それが資産凍結側なのか833/2014のAnnex IVのような輸出禁止側なのかを必ず確認してください。混同したままスクリーニングを回している例は実際に見ます。リストごとの性格の違いは制裁リストの完全ガイドとEntity List・MEUリスト・SDNリストの比較にまとめています。
そしてこの記事全体を通した但し書きを、ここに置きます。私の配慮ではなく、EUの法令がそう書いていることです。
Annex IVの前文(chapeau)は、このリストが軍事エンドユーザー、ロシアの軍民複合体の一部を構成する者、またはロシアの防衛・安全保障部門と商業上その他のつながりを持つか同部門を支援する者を掲載するものだと定めています。これはリスト全体にかかる一般的な区分の基準で、個々のエントリーがどれに当たるかは書かれていません。そのうえで前文は、末尾でこう述べています。
Their inclusion in this Annex does not entail any attribution of responsibility for their actions to the jurisdiction in which they are operating.(このAnnexへの掲載は、当該事業体が活動する法域に対して、その行為の責任を帰属させるものではない)5
**掲載は規制上の区分であって、掲載された企業や、その企業が所在する国の是非を判断するものではありません。**加えてAnnex IVは掲載理由(grounds)の欄を持たず、個社ごとの根拠は条文上示されていません。資産凍結側の規則(EU) No 269/2014は第3条(2)でAnnex Iに掲載理由を記載することを求めているので、この点は対照的です7。ですから本記事でも社名を出すのは照合手順の実例として必要な最小限にとどめ、個社が何をしたかという記述はしません。
追加51件の所在地内訳と、EUが示した迂回領域
Recital (5)によれば、対応するCFSP決定がAnnex IVに51事業体を追加しています。追加はエントリー番号922から972までの51件で、あわせて既存エントリー581が差し替えられました。改正前の統合版のAnnex IVは1から921まで欠番なく揃っていたので、改正後の掲載総数は972件です15。
各エントリーの住所欄で分類すると、内訳は次のとおりでした(原文からの数え上げです)。
| 所在地 | 件数 |
|---|---|
| ロシア | 24 |
| 中国本土 | 10 |
| 香港 | 4 |
| トルコ | 4 |
| キルギス | 3 |
| インド | 2 |
| UAE | 2 |
| カザフスタン | 2 |
ロシア以外の第三国が27件、つまり過半です。EU自身が第三国事業体を追加する理由をRecital (5)でこう説明しています。ロシアの軍事的・技術的能力向上に間接的に寄与し、それによってEUの制限措置の迂回を可能にし、またはその目的を損なう第三国の事業体であって、そこにはマイクロエレクトロニクス、CNC(数値制御)工作機械、半導体加工装置に関するEUの制限措置が含まれる、と1。この3領域の名指しが、後述する品目側レッドフラグの一次根拠になります。
なお、Annex IV全972件の法域別内訳は、1エントリーに複数国の住所が併記される例があるため正確に数え切れません。数字を出しているのは、確実に数え切れた今回の追加51件に限っています。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
経産省2024年度データによれば、外為法違反の52%は該非判定起因。TRAFEEDの機能・導入フローをまとめたサービスカタログを無料でダウンロードできます。
名前で照合すると外れる ── 識別子ベースへの切り替え
ここが実務の本題です。今回の追加51件は、全件に登録番号(登記識別子)が付いています1。メタデータも厚めで、51件のうち現地語名が42件、電話番号とWebサイトが各33件、メールアドレスが28件、a.k.a.(別名)が24件に付いています。EU側は、名称の一致だけでは突合できないことを前提にリストを作っているわけです。
ただし、その識別子のラベルが法域ごとにばらばらです。原文を数え上げると、ロシアの24件は全件にINN(規則の他のエントリーでは「Tax ID/INN」と書かれている納税者番号)が付き、うち3件はOGRNも併記。中国本土の10件はUSCC(統一社会信用コード)が9件で、残る1件だけラベルが「USSC」。香港の4件はいずれもBRNとTRNの2種類を持ちます。キルギスの3件はTIN、カザフスタンの2件はBIN、インドは956が「AAJ-2354 (Trade Register Number)」で969が「33AAAFF7255L1ZC (GST No)」、UAEは962がTRN、965が「4203387.01 (License No.)」でした1。
厄介だったのがトルコの4件です。970は「26722 (Trade Register Number)」とTINの併記、971は「985592 (trade register number (Istanbul Merkez))」で小文字表記のうえ登記所名まで括弧に入っている。そして926と937は「145225-5」「411319-5」と番号だけで、ラベルがそもそも付いていません1。ちなみにこれらの略語は、規則の本文にも附属書にも定義がありません。読む側が推測するしかない作りです。
不揃いは今回の追加分に限りません。改正前の921件まで遡ると、同じ中国の統一社会信用コードが「USCC」「UNCC」「China Unified Social Credit Code」「China, Unified Social Credit Code」と4通りで書かれていて、今回そこに「USSC」が加わりました。ロシアのINNは「Tax ID/INN」が622件と「INN」が46件。香港の会社登記番号は「CR No.」「CRN」「CR number」「CR no」「CR. No.」の5通りが混在しています5。つまり、ラベル文字列を識別子の型として信用する実装は、遅かれ早かれ外れます。
原文を読んでいて手が止まった実例を2つ出します(以下で社名を挙げるのは突合の技術的な例としてで、個社の行為についての判断は含みません)。
**同じ住所・同じ電話・同じサイトで、2エントリー。**エントリー950「AAA China Limited」の別名欄には「Shenzhen Wanma International Freight Forwarding Co., Ltd.」が入り、登録番号は 91440300570016397Q (USCC)。エントリー951「Shenzhen Wanma International Freight Forwarding Co., Ltd.」の別名欄には「AAA China Limited」が入り、登録番号は 91440300MA5GJRFX36 (USCC)。住所(Room 1201, Baihuo Plaza West Building, No. 3020 Shennan Road E, 518001 Shenzhen)、電話(+86 755 82192157)、Webサイトはいずれも同一です。それでも登録番号が別なので、独立した2件として掲載されています1。名称で名寄せして「同じ会社だから1件」と潰すと、片方の登記番号が手元のマスタから落ちます。
**ローマ字表記の揺れが、公式リストの中に埋まっている。**エントリー955「Suzhou Goodwill Machinery Equipment Co. Ltd.」の別名は「Suzhou Gedewei Machinery Equipment Co., Ltd.」と「Suzhou Godeway Machinery Equipment Co. Ltd.」、現地語名は 苏州歌得维机械设备有限公司 です。Goodwill / Gedewei / Godeway が同一の漢字社名に対応している。エントリー946「Chongqing Giaero Electrical Co. Ltd」も、別名が「Chongqing Guihang Electrical Appliance Co., Ltd」、現地語名が 重庆贵航电器有限公司。Giaero と Guihang(貴航)が同じ社名です。おまけにこの946が、さきほどラベルだけ「USSC」になっていた1件で、値そのものは18桁の統一社会信用コード形式(91500107345943637F)でした1。表記の揺れは、突合される側だけでなく公式リストの側にもある、ということです。
ここから導かれる照合手順は、そう複雑ではありません。
- **差分は「エントリー番号+登録番号」で取る。**名称は変わりますが、登記識別子は変わりにくい。取引先マスタに法域ごとの登記番号(中国のUSCC、ロシアのINN、インドのGSTなど)を格納する列がないなら、まずそこを作る。一番効きます
- **別名(a.k.a.)と現地語名を独立したキーとして取り込む。**正式名称だけを検索対象にしていると、Gedewei や Godeway で起票された発注書を拾えません。漢字社名での照合も同様です
- **同一エントリー扱いに潰さない。**950と951のように、EU側が2件で立てているものは2件のまま保持する
- **住所・電話・Webサイト・メールも突合キーに入れる。**名称も番号も一致しないのに電話番号だけ一致する、という当たり方が実際にあります
- **ラベルの表記揺れを吸収する。**USCC / USSC / UNCC / China Unified Social Credit Code を別々の型として扱う実装は、946のような1件を取りこぼします。ラベル文字列ではなく値のフォーマット(統一社会信用コードなら18桁)で正規化するのが安全です。ラベルの付いていない926・937のような番号も、ラベル必須の取り込み処理だと落ちます
基礎はエンドユーザー・スクリーニングと顧客デュー・ディリジェンス、取引先の信用調査ガイドにまとめてあります。今回はそこに「識別子の列を持つ」という一段を足す話です。
品目側のレッドフラグを、機能単位で設計する
Recital (5)が名指しした3領域は、規則の中では**共通高優先品目(Annex XL)**とほぼ重なります。Annex XLは50のCNコードで構成され、代表例は次のとおりです5。
| CNコード | 品目(原文の記述) |
|---|---|
| 8457 10 | 金属加工用のマシニングセンタ |
| 8458 11 / 8458 91 / 8459 61 | 数値制御の旋盤・フライス盤 |
| 8466 93 | 工作機械の部分品・附属品 |
| 8486 10 / 8486 20 / 8486 40 | 半導体デバイス・集積回路の製造用機器等 |
| 8542 31〜8542 39 | 集積回路 |
| 8482 10 | ボールベアリング |
| 9030 20 / 9030 82 | オシロスコープ、半導体ウェハ・デバイス測定機器 |
当事者側の視点を置いておきます。**この線引きは、品目が問題だという意味ではありません。**8482 10のボールベアリングは、あらゆる回転機械に入っている汎用部品です。第12gb条だけが参照するAnnex XLVIIIは2コードのみですが、その中身も8502 20(火花点火式内燃ピストンエンジンを備えた発電機セット)と8536 50(その他のスイッチ)という汎用品です5。制度が広い区分で線を引けば、正規の民生メーカーが広範な確認義務の中に入ってくる。掲載や規制対象化を「その会社・その品目に落ち度がある」と読み替えないこと。自社が同じ立場に置かれたときの説明の仕方にも直結します。
そのうえで、レッドフラグを企業単位ではなくチャネルの機能単位で設計するのが私の考える実装です。この会社は迂回ハブだ、といった属性づけは根拠がなく、実務的にも役に立ちません。代わりに、自社の販売経路のどの機能に追加の記録が必要かを決めます。
- フォワーダー・通関代理:仕向地の変更、B/L上の最終荷受人と契約上の需要者の不一致、経由地の追加。記録を残す起点はここです
- 販売代理店・ディストリビューター:エンドユーザー欄が空欄または代理店自身になっている注文。Annex XL該当品では、そこを埋めないまま出荷しない
- 補修部品・アフターサービス:装置本体の出荷が止まっていても、スピンドルや制御基板の交換部品だけ継続しているケース。8466 93(工作機械の部分品)は明示的にAnnex XLに入っています
- ソフトウェア・技術支援・ライセンス:第2b条(1a)は知的財産権や営業秘密のライセンス・移転・アクセス許諾も禁止対象に含めています。物流を止めても、ライセンス契約が残っていれば別途の判断が必要です
- レトロフィット・改造案件:既設機の数値制御装置の更新は、名目上「サービス」でも品目の実質はAnnex XL該当になり得ます
キャッチオール的な考え方はキャッチオール規制の基礎、ロシア向け部品迂回の構造は部品迂回の輸出管理を参照してください。
欧州法人が直接負う義務 ── 第12g条と第12gb条
EUの規則は他人事に見えがちですが、2本の条文は日系の欧州法人に直接かかります。しかも今回のパッケージでは第12g条・第12ga条・第12gb条は改正対象に入っていません。既存の義務がそのまま続いているという位置づけです1。
**第12g条(いわゆるNo-Russiaクローズ)。**Annex VIII掲載のパートナー国以外の第三国へ、Annex XI・XX・XXXV掲載品目、Annex XL掲載の共通高優先品目、または規則(EU) No 258/2012 Annex I掲載の銃器・弾薬を販売・供給・移転・輸出する場合、輸出者は2024年3月20日以降、契約上でロシアへの再輸出およびロシアでの使用のための再輸出を禁止しなければならない。同条(3)は違反時の適切な救済条項(adequate remedies)の設定を、(4)は相手方の違反を知った時点での所管当局への報告を義務づけています8。
そのAnnex VIIIには、米国・日本・英国・韓国・オーストラリア・カナダ・ニュージーランド・ノルウェー・スイス・リヒテンシュタイン・アイスランドの11か国・地域が掲載されています5。EUから日本向けの輸出は、この契約条項義務の対象外という関係です。EU側の取引先から「No-Russiaクローズを入れさせてほしい」と言われた際に、それが条文上の義務なのか商慣行としての要求なのかを切り分ける材料になります。
条文を読んで意外だったのが第12g条(2)です。(a)としてCNC工作機械の5コード(8457 10 / 8458 11 / 8458 91 / 8459 61 / 8466 93)に関する契約の履行には(1)を適用しないと書かれており、この(a)には期限の定めがありません。(b)の2023年12月19日より前に締結された契約についての適用除外には「2025年1月1日または契約満了日のいずれか早い方まで」と期限が付いているのに、(a)には付いていない。この文言は改正法である規則(EU) 2024/1745の原文と統合版の双方で同一であることを確認しました8。ただし、なぜ期限がないのかを説明する欧州委員会のFAQやガイダンス原文は今回取得できていません。CNC工作機械の契約でこの除外を使う判断をするなら、条文の文言だけで走らず、所管当局または委員会のガイダンスで確認してください。
**第12gb条。**Annex XLまたはAnnex XLVIIIの品目を扱う事業者は、(a)自社の性質と規模に応じてロシア向け輸出およびロシアでの使用のための輸出のリスクを特定・評価し、そのリスク評価を文書化して最新の状態に保つ、(b)リスクを緩和・管理する適切な方針・統制・手続を実装する。適用開始はAnnex XLについて2024年12月26日、Annex XLVIIIについて2025年5月26日です。さらに(3)で、自社が所有または支配するEU外の法人がAnnex XL・Annex XLVIIIの品目を販売・供給・移転・輸出する場合、その法人にも(a)(b)の要件を実施させることを確保しなければならないと定めています((3)の適用開始日も(1)と同じ)。EU域内またはAnnex VIIIパートナー国向けのみの取引は対象外です。なお(4)に、自らに起因しない理由で保有先を支配できない場合は(3)を適用しないという逃げ道はあります。ただし持分を持ちながら「支配できなかった」と主張する話なので、事実の裏づけがない限り当てにしないほうがいい条項です5。
この(3)の書き方は、グループ構造によっては日本親会社の側にも作業を生みます。欧州法人が(3)の名宛人となり、その欧州法人が支配するアジアや中東の販売会社まで実施を確保する、という連鎖が成立し得るからです。「文書化して最新の状態に保つ」という要求は、監査で一番弱いところでもあります。リスク評価のエクセル1枚が3年前の日付で止まっている、というのは実際によくある状態です。
品目リストと附属書で、ほかに動いたところ
第21次パッケージはAnnex VII(両用品目に準ずる規制品目リスト)にも新項目を挿入しました。特徴は、製品名ではなく技術基準で線を引いていることです。UAVの制御奪取・妨害・プロトコル悪用のためのRF機器等(X.A.III.101 j)、最高使用温度413.15 K(140℃)超・最低使用温度233.15 K(−40℃)未満でASTM E595等によりTML≦1.0%かつCVCM≦0.10%の自己粘着シート・フィルム・テープ類(X.C.IX.018)、ニッケル純度50重量%以上のニッケル粉末・金属・合金(X.C.IX.019)、ベリリウム純度50重量%以上のベリリウム粉末(X.C.IX.020)、トルク/重量比0.16以上のサーボモータやUAV用の打上げシステム・地上支援装備・飛行停止(Flight termination)システムと関連ソフトウェア(X.A.VII.004〜007、X.D.VII.003)が加わっています1。Recital (6)は用途として、ジェットエンジンの耐食コーティング、推進薬と高性能合金、航空宇宙・防衛分野の自己粘着フィルム、UAVに固有の航空品目、UAVまたはミサイル用の飛行停止システムを挙げています1。
ここも当事者目線で読む必要があります。「ニッケル純度50重量%以上の粉末」や「TML≦1.0%の自己粘着テープ」は、規格値だけで書かれた広い区分です。粉末冶金メーカーや粘着材メーカーが、自社製品が該当し得ることを認識しないまま欧州法人経由で出荷している可能性は十分にあります。該非判定を製品カタログの単位でしか持っていない会社は、この手の技術基準ベースの項目で足をすくわれます。EU側の管理リストの構造はEUデュアルユース規則2021/821の基礎と2025年管理リスト改訂の概要をご覧ください。
そのほかは要点だけ拾います1。輸入側のAnnex XXIに銅鉱・ニッケル鉱・鉛鉱・貴金属鉱、酸化亜鉛・過酸化亜鉛、酸化クロム・水酸化クロム、トール油、7001〜7020の範囲にあるガラス15号(7013の食卓・台所用ガラス製品や7009の鏡まで入っています)、未加工亜鉛、車体および自動車部分品が追加されました。金融面ではAnnex XIVに33のロシア系銀行(適用2026年8月13日)、海運面ではAnnex XLIIに船舶41隻(652〜692、同7月24日)が加わりました。Annex XLVIIは港湾・閘門のPart AにOlyaとVysotskが、空港のPart Bにシェレメーチエボ・ウリヤノフスク東・ロストフナドヌー(プラトフ)・ミネラーリヌイェ・ヴォードィの4空港が追加され(いずれも7月24日適用)、さらに製油所を対象とするPart Dが新設されてジョージアの製油所1件(2027年1月25日適用)が入りました。航空便で部材を動かしている会社は、この空港の追加を先に見ておいたほうがいいと思います。
エネルギーでは日本に直結する内容があります1。Annex XXIXが差し替えられ、Part Aではサハリン2プロジェクト由来のコンデンセート混合原油(CN 2709 00)の日本向け海上輸送等の免除の期限が2028年3月31日までとされました。Recital (10)は延長の理由を「エネルギー安全保障上の懸念に鑑み」と書いています。そして同じAnnex XXIXに新設されたPart Bで、同プロジェクト由来のLNG(CN 2711 11 00)の日本向けおよび韓国向け海上輸送等について、2026年7月24日から2028年3月31日までの免除が置かれました。第3ra条(1)がロシア原産または輸出のLNGの購入・輸入・移転を2026年4月25日以降禁止しているので、新設の第3ra条(5)はその輸送等を対象国向けに限って外す構造です。日本政府がこのパッケージを受けて何か発出したかは今回確認していないので、日本側の受け止めについては書きません。
規制の作り方として覚えておく価値がある点も一つ。新設の第5bc条は暗号資産サービス事業者について「国単位」で取引禁止できる枠組みを作りましたが、対応するAnnex LVIIには現時点で国名が入っていません1。附属書が空だから関係ない、と読むのは早い。枠組みだけが先に置かれた場所は、次の更新で埋まる可能性があります。
中国側の公告第30号を、同じ日に並べる
同じ7月24日の商務部公告2026年第30号を見ます。発布単位は安全与管制局、根拠法として《中華人民共和国出口管制法》と《中華人民共和国両用物項出口管制条例》を挙げ、目的を「国家の安全と利益を維持し、拡散防止等の国際義務を履行するため」としています。施行は「本公告は公布の日から正式に実施する」、つまり即日です2。
措置は2項です。第1項が、輸出経営者が対象14事業体へ両用品目を輸出することの禁止、および中国国外の組織および個人が中国原産の両用品目を対象14事業体へ移転または提供することの禁止。進行中の関連活動は直ちに停止すること。第2項が、特殊な状況でどうしても輸出が必要な場合は商務部へ申請できることです2。
日本企業に効くのは第1項の後半です。名宛人が中国国内の輸出者に限られず「境外組織和個人」まで含まれている。判定軸は自社の国籍ではなく、扱う品目が中国原産の両用品目か、相手が掲載事業体か、の2点になります。域外適用の条文構造は中国輸出管理法の域外適用で、対象14事業体の一覧と法的根拠・罰則の水準は公告第30号を原文から読むで扱っています。所在国の内訳はドイツ3、フランス3、イタリア2、ポーランド2、オランダ1、チェコ1、ブルガリア1、リトアニア1です2。企業だけでなく研究機関も含まれており、共同研究の相手先が各国のリストに掲載され得るという点は、大学の国際連携担当者にとっても実務論点です。ここでもEU側と同じ扱いにします。掲載は規制上の区分であって、掲載された企業や機関の是非を判断するものではありません。
この「翌日」は初めてではありません。2026年4月24日16時の公告第20号で、EU7事業体が既に管控名簿へ掲載されています。措置の文言、根拠法、施行日の書き方は第30号とほぼ同一です4。EU第20次パッケージの採択日は4月23日でした13。商務部の2026年公告一覧を見ると、EU向け以外にも米国10事業体の管控名簿(第23号)、日本20事業体の管控名簿(第27号)と関注名簿(第28号)が並んでいます。日本向けは2月にも第11号・第12号で同じ組み合わせが出ていました9。名簿の運用そのものが定例化していると読むのが自然でしょう。日本企業は「規制する側/される側」の外側にいるのではなく、この制度群の中で記録を求められる当事者です。日本向けの公告は公告2026年第1号の全体像と日本向け両用品目輸出制限で扱っています。
48時間で回すための実務手順
特別な体制は要りません。順序と記録の残し方の問題です。
- **差分を取り込む。**Annex IVは追加51件(922〜972)と差し替え1件、中国側は公告第30号の14事業体。どちらも登記識別子または住所・郵便番号まで原文にあるので、そこまで取り込む
- **識別子で照合する。**名称一致だけの照合は、946のような表記揺れと950/951のような複数エントリーで確実に外れます
- **別名・現地語名を検索対象に入れる。**発注書がどの表記で起票されているかは、営業担当ごとに違うのが現実です
- **一次取引先の先まで見る。**中国側の公告は中国国外の第三者による移転も禁じ、EU側の第2b条は間接的な移転も禁じています。直販先リストだけでは足りません
- **品目側で線を引き直す。**Annex XLの50コードとAnnex XLVIIIの2コードを自社のHS/CNコードのマスタに突き合わせる。補修部品(8466 93)とソフトウェア・技術支援の契約を忘れずに
- **欧州法人の第12gb条の文書を更新する。**リスク評価が文書化され最新か、EU外の被支配子会社にも実施を確保しているか。今回のAnnex IV追加は、この文書を更新すべき事由そのものです
- **進行中案件の停止判断を先に置く。**中国側の公告は「正在開展的相関活動応当立即停止」と書いています。まず事実関係を確定させ、法務と契約履行の整理に入る順序です
- **空の附属書と期限をカレンダーに入れる。**Annex LVIIは現時点で空。Annex XIVの銀行は8月13日、ジョージアの製油所は2027年1月25日。日付が入っているものは、それだけで作業指示になります
自社が今どのあたりにいるか分からない場合は、輸出管理の無料セルフ診断で現在地を確認してから手を付けると、優先順位が付けやすいはずです。
私たちがTRAFEEDで各国の規制情報を取り込み、取引先マスタとの照合を自動化しているのは、まさに今回のような更新の仕方に人手で追いつけないからです。EUR-Lexの官報は英語、商務部の公告は中国語、識別子のラベルは法域ごとに違う。この3つが同じ48時間の中で動きます。もっとも、最終的な該非判定と取引可否の判断は各社の輸出管理責任者が行うものです。私たちが担うのは、判断に必要な材料を漏れなく、根拠つきで揃えるところまでです。
まとめ
- EU第21次パッケージは規則(EU) 2026/1848。2026年7月23日採択・官報掲載、発効は翌24日。Annex IVに51事業体が追加され掲載総数は972件
- 追加51件の所在地はロシア24件、第三国27件(中国本土10・香港4・トルコ4・キルギス3・インド2・UAE2・カザフスタン2)。EUはRecital (5)で、マイクロエレクトロニクス・CNC工作機械・半導体加工装置に関する制限措置の迂回を理由に挙げている
- Annex IV掲載の効果は資産凍結ではなく輸出等の禁止。第2b条(1a)により技術支援・金融支援・知的財産権のライセンスも禁止対象
- 追加51件は全件に登記識別子が付き、別名24件・現地語名42件が併記。ただしラベルは不揃いで、USCC と USSC の混在、トルコの2件(926・937)はラベルなしの番号だけ。同一住所・同一電話で別番号の2エントリー(950/951)や Goodwill / Gedewei / Godeway の表記揺れ(955)もある。名称一致だけの照合では外れる
- 第12g条・第12gb条は今回改正されていないが既存義務として継続。Annex VIIIに日本が入るのでEU→日本は第12g条の対象外だが、第12gb条は日系欧州法人とその被支配子会社にかかる
- 同じ7月24日、中国商務部が公告第30号でEU8か国14事業体を管控名簿へ。中国国外の組織・個人が中国原産の両用品目を移転・提供することも禁止。ただし公告本文にEUへの言及はなく、意図は原文から読み取れない
- **リスト掲載は規制上の区分であって、掲載された企業や所在国の是非を判断するものではありません。**Annex IVの前文自身がそう書いています
最後にひとつ。Annex XLに入っているボールベアリングは、どこの工場にもある部品です。Annex VIIに追加された「ニッケル純度50重量%以上の粉末」も、素材メーカーの標準品に普通に該当します。制度が広い区分で線を引けば、真面目に民生品を作っている会社がその中に入ってくる。これはどの国の制度でも同じで、日本企業も米国の規則で、EUの規則で、中国の公告で、同じ立場に立たされます。だからこそリストを「悪い会社の名簿」として読む癖はやめたほうがいい。確認すべき手続きが増えた、それ以上の意味を勝手に足さないことが、最終的には自社と取引先の双方を守ります。
自社の取引網と今回の追加分の接点、あるいは欧州法人の第12gb条対応の進め方について整理が必要な場合は、TRAFEEDの担当までご相談ください。
参考文献・一次情報
Footnotes
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EUR-Lex「Council Regulation (EU) 2026/1848 of 23 July 2026 amending Regulation (EU) No 833/2014 concerning restrictive measures in view of Russia's actions destabilising the situation in Ukraine」OJ L, 2026/1848, 23.7.2026 https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=OJ:L_202601848 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18
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中華人民共和国商務部「商務部公告2026年第30号 公布将14家欧盟実体列入出口管制管控名単」2026年7月24日 https://www.mofcom.gov.cn/zcfb/blgg/gg/2026/art/2026/art_452eed7fd22c431fbd3d7a8b9fad6d93.html ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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European Commission (DG FISMA)「Sanctions adopted following Russia's military aggression against Ukraine」(2026年7月23日更新、Twenty-first packageの記載) https://finance.ec.europa.eu/eu-and-world/sanctions-restrictive-measures/sanctions-adopted-following-russias-military-aggression-against-ukraine_en ↩ ↩2 ↩3
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中華人民共和国商務部「商務部公告2026年第20号」2026年4月24日 https://www.mofcom.gov.cn/zcfb/blgg/gg/2026/art/2026/art_d909592ea44b40148f244cb233773d4f.html ↩ ↩2
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EUR-Lex「Regulation (EU) No 833/2014」統合版(consolidated text, 02014R0833-20260717)Article 2b / Article 12gb / Annex IV / Annex VIII / Annex XL / Annex XLVIII。統合版は法的にauthoritativeではない編集物である点に留意 https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:02014R0833-20260717 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9
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European Commission (DG FISMA)「Overview of sanctions and related tools」(Financial sanctions: Consolidated list の説明) https://finance.ec.europa.eu/eu-and-world/sanctions-restrictive-measures/overview-sanctions-and-related-tools_en ↩
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EUR-Lex「Council Regulation (EU) No 269/2014 of 17 March 2014 concerning restrictive measures in respect of actions undermining or threatening the territorial integrity, sovereignty and independence of Ukraine」Article 2(資産凍結)・Article 3(2)(Annex Iへの掲載理由の記載) https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32014R0269 ↩ ↩2
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EUR-Lex「Council Regulation (EU) 2024/1745」(833/2014 第12g条の置換規定) https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32024R1745 ↩ ↩2
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中華人民共和国商務部「2026年商務部公告」一覧 https://www.mofcom.gov.cn/zcfb/blgg/gg/2026/ ↩






