こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。今日は輸出管理と経済安全保障の担当者が必ず向き合うテーマ、経済制裁リストの全体像を一気に整理します。
先に、検索でいちばん多い疑問に答えておきます。SDNリストとは、米国財務省の外国資産管理局(OFAC)が指定した個人・団体・船舶・航空機の名簿で、掲載先の米国内の資産は凍結され、米国人は原則として取引できません。調べるときは、OFACの公式検索ツール「Sanctions List Search」に英文の名称を入れ、つづりの違いも拾えるよう一致度の基準を下げて検索します。2026年10月2日に公表された最新のCSVを当社で数えたところ、掲載は1万9,488件でした12。
2026年に入ってからも、各国のリストは止まらずに動いています。米国OFACはロシア産原油の一時的な許可を差し替え続け、ホルムズ海峡の通航料をめぐる指定を重ねました。英国は1月28日にOFSI統合リストを閉じてUK Sanctions Listに一本化し、EUは4月に第20次、7月に第21次の対ロシア制裁パッケージを採択しています。日本でも10月2日付で財務省の資産凍結等の一覧が更新され、特定の船舶35隻に関する役務取引の規制が加わりました。どこか1つのリストだけ見ていれば安全、という時代はもう終わっています。自社の確認体制にどこまで穴があるかを先に知りたい方は、輸出管理体制の簡易診断で点検してみてください。
この記事の要点は次の4つです。
- SDNリストは米国財務省OFACの金融制裁リストで、資産凍結と米国人との取引禁止が柱です
- 単発の確認はOFACのSanctions List Search、米国の複数リストの横断はtrade.govのConsolidated Screening List(13リスト)を使います
- 日本企業は、米国(OFACとBIS)、EU、英国、国連、日本(外国ユーザーリストと財務省の資産凍結リスト)の5系統を、同じ相手に同じタイミングで照合する体制が必要です
- リストへの掲載は各国法令上の区分であり、掲載企業の是非を判断したものではありません
SDNリストとは?定義と調べ方を先に整理します
SDNはSpecially Designated Nationals and Blocked Personsの略で、OFACが大統領令や制裁関連の法律にもとづいて指定した相手を載せる、米国の金融制裁の中核リストです。載るのは個人と団体だけではありません。2026年10月2日公表分のCSVを当社で集計すると、個人が7,570件、船舶が1,539件、航空機が342件、残る約1万件が企業などの団体でした2。掲載先が米国内に持つ資産や権益は凍結(ブロック)され、米国人(米国籍の個人、米国の永住権保持者、米国法人、米国内にいる者)は原則としてあらゆる取引を禁じられます。イラン関連などの掲載には「Subject to Secondary Sanctions(二次制裁の対象)」と付記されたものがあり、こうした相手と重要な取引をすると、米国外の企業も制裁を受けるおそれがあります。
見落とされがちなのが、OFACにはSDNとは別に「非SDN」のリスト群があることです。OFACはこれをConsolidated Sanctions Listとしてまとめて配布しており、中身は6本あります3。ロシアの特定分野の企業に新規の資金調達など限られた取引だけを禁じるSSI、米国の制裁を回避する取引に関わったとOFACが判断した外国人を載せるFSE、米国内でのコルレス口座の開設や維持が禁止・制限される外国金融機関のCAPTA、メニュー型制裁(複数の措置から選んで科す制裁)の対象を載せるNS-MBS、米国人による証券の購入が制限される中国企業を載せるNS-CMIC、パレスチナ立法評議会の一部議員を載せるNS-PLCです。非SDN側にだけ名前がある相手には資産凍結ではなく限定された禁止がかかるので、同じ「ヒット」でも取るべき対応が変わります。
調べ方は、次の手順で進めるのが確実です。
- Sanctions List Searchを開き、Nameに取引先の英文正式名称を入れ、Listは「All」にしてSDNと非SDNの両方を検索します4
- Minimum Name Scoreを既定の100から下げます。OFACのFAQは、100なら入力と完全に一致する名前だけ、50なら50%似ている名前まで返すと説明しています5
- 候補が出たら、制裁プログラム名(Program)、住所、生年月日、登録番号などを取引先の情報と突き合わせます
- 一致が強い場合は出荷や送金を止め、社内手順に沿って輸出管理責任者、取引銀行、弁護士に相談します
- 検索した日時、入力した名称、一致度の設定、結果を記録に残します
手順2の一致度は、個人的には80〜85あたりから始め、候補が多すぎるときだけ上げる運用が現実的だと考えています。OFAC自身も、候補が出たときは一致の質を評価し、米国人なら資産の凍結や取引の拒否を判断して10営業日以内に報告する、という6段階の流れをFAQで示しています6。注意したいのは、OFACが検索ツールについて「適切なデューデリジェンスの代わりにはならない」と明記している点です4。米国の複数リストをまとめて見たいときは、商務省・国務省・財務省の13リストを横断できるtrade.govのConsolidated Screening List(CSL)が便利で、毎日午前5時(米国東部時間)に自動で更新されます7。なお、SDNとEntity List、MEU Listの所管や効果の違いは、エンティティリストとは?米国3大リストの違いで1枚の表にまとめています。
最後に、読み方の前提を1つ。SDNを含む各国のリストへの掲載は、その国の法令上の区分です。掲載された企業が不正をしたと認定されたことを意味するものではなく、民生の事業を営む企業が広い区分に含まれることも少なくありません。照合の結果は感情を交えず、法的な効果と取引への影響として扱うのが実務の基本です。
この記事の照合手順を、そのまま社内の手順書に: 米国(OFAC・BIS)、EU、英国、国連の各リストと日本の外国ユーザーリストについて、どの公式ソースを・どの頻度で・何と突き合わせるかを記入しながら決められる手順書を配布しています。50%ルール(所有・支配テスト)とRed Flagsも記入項目に含むので、埋めた内容がそのまま社内のスクリーニング手順書のたたき台になります。 → 経済制裁リスト5系統 スクリーニング手順書(2026年版)をダウンロード(無料。会社名とお勤め先のメールアドレスのご登録が必要です)
なぜ今、制裁リストの理解が日本企業の死活問題になったのか
ほんの10年前まで、制裁リストへの対応は、主要な銀行と一部の総合商社、そして防衛関連企業の一部がやっていれば足りる作業でした。ところが2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、G7とEUがそろって戦時水準の制裁パッケージを重ねた結果、取り扱い品目も対象国も一気に広がりました。半導体、数値制御工作機械、軸受、EV用電池素材、ドローン部品、産業用ソフトウェア、そして金融サービスまで、普通のBtoB企業が日常的に扱う領域がまるごと制裁の射程に入っています。
決済の面も大きく変わりました。ドル建て送金で触れる米国金融網、ユーロ建て送金で触れるEU、ポンドや保険市場で触れる英国、どれか一つでも引っかかると取引そのものが止まります。米国OFACの二次制裁、EUの迂回防止条項、英国の制度、日本の外為法の国際約束履行の規定などが組み合わさり、日本企業が日本国内で日本円建てで決めた取引であっても、相手先や仕向地、最終用途しだいで海外当局の制裁に抵触する構造になっています。2026年は海運でもこの構造がはっきり表に出ました。ホルムズ海峡の通航料をめぐって米国が制裁リスクを警告したことで、日本の船会社や荷主も無関係ではいられなくなっています(経緯はホルムズ海峡封鎖の現状と再開条件で整理しています)。
現場が苦しいのは、この複雑さに対して「一本化された正解リスト」が存在しないことです。米国だけ見ても、SDN、非SDNの各リスト、Entity List、Denied Persons List、Unverified List、Military End-User List、国防総省の1260H条リストなど、役割の違う名簿が並びます。EUは対ロシアだけで21次のパッケージを重ね、英国は2026年1月にリストの構造そのものを変え、日本には外国ユーザーリストとキャッチオール規制という独自の仕組みがあります。全部を手作業で追うのは事実上不可能で、スクリーニング体制をどう組むかは経営課題になりました。
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主要リストの最終更新日と、初版からの変化(2026年10月4日確認)
照合の記録には「どのリストの、どの版と突き合わせたか」を残す必要があります。そこで、主要リストの公式の確認先と最終更新日を一覧にしました。2026年10月4日に各機関の公式ページと配布ファイルで確かめた内容です。
| リスト | 所管 | 公式の確認先 | 最終更新(2026年10月4日確認) |
|---|---|---|---|
| SDNリストと非SDNリスト | 米国財務省OFAC | Sanctions List Search、Recent Actions | 2026年10月2日(テロ対策関連の指定)8 |
| Consolidated Screening List | 米国商務省(trade.gov) | CSLの検索画面とAPI | 毎日午前5時(米国東部時間)に自動更新7 |
| Entity List | 米国商務省BIS | EAR第744部補足第4、連邦官報 | 2026年8月24日(1団体の削除と住所の修正。追加は2025年10月9日が最後)9 |
| Unverified List | 米国商務省BIS | EAR第744部補足第6、連邦官報 | 2025年4月25日の改正規則が直近10 |
| 外国ユーザーリスト | 経済産業省 | 安全保障貿易管理のページ | 2025年9月29日改正(835団体、10月9日適用)11 |
| 資産凍結等の対象者リスト | 財務省 | 経済制裁措置及び対象者リスト | 2026年10月2日現在12 |
| EU金融制裁統合リスト | 欧州委員会 | Financial Sanctions Files、EU Sanctions Map | 2026年9月22日生成のファイル(6,241件)13 |
| UK Sanctions List | 英国政府 | gov.uk | 2026年10月2日(ロシア制裁の指定の改廃)14 |
| 国連安保理統合リスト | 国連安保理 | 統合リストのXML・PDF | 2026年10月2日生成のファイル(1,011件)15 |
当時(2026年4月)と現在(2026年10月)で何が変わったか
初版を出した2026年4月24日から半年弱で、記事の前提になっていた事実のいくつかが動きました。次の表は、初版の記述と現在の状況を並べたものです。
| 項目 | 当時(2026年4月24日の初版) | 現在(2026年10月4日) |
|---|---|---|
| OFACのロシア産原油の一時許可 | 4月17日にGL 134Bを発出(期限は5月16日) | 5月18日のGL 134Cで期限を6月17日まで延長1617 |
| ホルムズ海峡の通航料 | 記載なし | 4月28日のFAQ 1249で、通航料の支払いを米国人に認めないと明示(5月29日更新)18 |
| Entity Listの追加 | 2025年9月の32団体追加を記載 | 2025年10月9日の追加が最後で、2026年の追加規則はなし(10月3日時点)199 |
| BIS 50%ルール | 記載なし(簡易チェックへの案内のみ) | 官報上の停止期限は2026年11月9日。米中は2027年1月10日までの延長を発表したが、BISの延長規則は官報に未掲載(10月3日時点)2021 |
| EUの対ロシア制裁 | 第20次パッケージを2月6日に提案 | 4月23日に第20次、7月23日に第21次を採択22 |
| 英国 | 1月28日にUK Sanctions Listへ一本化 | 一本化を維持し、10月2日まで更新が続く14 |
| 国連安保理統合リスト | 1,000件規模(4月15日時点) | 1,011件(個人736件、団体275件)15 |
| 外国ユーザーリスト | 835団体 | 変更なし(2025年9月29日版が最新) |
| 財務省の資産凍結等の一覧 | 記載なし | 10月2日現在の一覧に、特定の船舶35隻に関する役務取引等の規制が加わる12 |
表を見て分かるとおり、半年で動いたのは米国の金融制裁、EU、日本の財務省の側で、米国の輸出管理リスト(Entity List)は2026年に入って追加がありません。時期としては米中の通商協議が続いた期間と重なります。ただし、BIS 50%ルールの期限やEUの次のパッケージのように、秋以降に大きく動く可能性がある論点も残っています。更新日を見ずに「前回と同じ照合でよい」と判断するのが、いちばん危ない運用です。
米国OFACのSDN Listは金融制裁の本丸
SDNの実質的な威力は、ドル決済インフラとの結びつきから生まれます。世界の貿易金融はコルレス銀行の網を通じて最終的にニューヨークの決済銀行を経由することが多く、SDN掲載者が絡む送金は事実上どこにも流せません。日本のメガバンクや地銀でさえ、SDN関連の送金を通せば米国の金融当局から是正命令や罰金を科されるリスクがあり、相手の身分証や会社登記に少しでも疑義があれば送金を差し戻します。輸出入の契約が整っていても、入金できなければ取引は成立しません。
2026年に入ってからも、OFACの動きは止まっていません。ロシア関連では、すでに船に積まれたロシア産原油・石油製品の受け渡しを一時的に認める一般許可(GL 134系列)を3月から出し、4月17日の134B、5月18日の134Cと差し替えて期限を延ばしました(134Cの期限は6月17日)1617。イラン関連では、4月28日に公表したFAQ 1249で、ホルムズ海峡を安全に通るための通航料をイラン政府や革命防衛隊に支払うことは、米国人や米国の金融機関には認められないと明示しています18。直近の公表を見ても、10月2日にテロ対策関連の指定、10月1日にイラン関連の指定、9月30日にはベラルーシや麻薬対策、リビア関連の指定の解除が出ています8。追加だけでなく解除も起きる、入退場のあるリストだと意識しておく必要があります。
特に忘れがちなのが「50%ルール」です。OFACは2014年8月13日に改訂したガイダンスで、1者または複数の制裁対象者が、直接または間接に合計50%以上を保有する事業体は、名前がリストに載っていなくても制裁対象として扱うとしています23。ポイントは「合計」で、制裁対象者Aが25%、別の制裁対象者Bが25%を持つ会社は、合わせて50%に達するので対象になります。社名だけを照合していては構造的に見落とすため、株主や実質的支配者までさかのぼれるデータが欠かせません。
違反したときの代償も具体的に確認しておきましょう。国際緊急経済権限法(IEEPA)にもとづく制裁の違反には、1件あたり37万7,700ドルか取引額の2倍のいずれか大きい額を上限とする民事制裁金が定められています(2025年1月15日の官報でインフレ調整した額)24。故意の違反には刑事罰もあります。日本企業が米国法の罰則を直接受ける場面は限られるものの、二次制裁による指定や、取引銀行からの取引停止という形で、事業への影響は確実に及びます。実務では、OFACのRecent Actionsを日次で確認し、取引先、関連会社、エンドユーザーの名称と突き合わせる運用が欠かせません。
商務省BISのEntity List・MEU・Denied Persons・Unverified List
モノと技術の流れを管理するのが、商務省の産業安全保障局(BIS)が所管するEAR(米国輸出管理規則)の各種リストです。最も有名なのがEntity Listで、米国の安全保障や外交政策上の懸念があると判断された外国の個人・団体を載せ、EAR対象品目の輸出・再輸出・国内移転に許可を求めます。審査方針が「原則不許可」とされる掲載が多く、EAR対象品目については実質的に輸出できない状態になります。
近年の大きな動きとしては、BISが2024年12月2日に発表し、12月5日の官報(89 FR 96830)に載せた140団体の一括追加があります19。半導体製造装置の分野が中心で、掲載先の所在地には中国のほか日本・韓国・シンガポールも含まれていました。これは各社が不正を行ったことを示すものではなく、EAR上の許可の区分を変更したものです。正規の民生事業者が広い規制区分に含まれた例であり、照合の実務では名称、拠点、親子関係の突き合わせが重要になります。続く2025年9月16日の規則では32団体(うち中国23団体)が、10月9日の規則では中国・トルコ・UAEの26団体(住所3件を含め29件)が追加されました。ここで追加の流れが止まり、2026年の官報にはEntity Listへの追加規則が1本もありません。2026年8月24日に1団体の削除と、香港所在の1団体の住所の削除があっただけです(10月3日時点)9。
Entity Listと並べて見ておきたいのが、Military End-User(MEU)List、Denied Persons List(DPL)、Unverified List(UVL)です。MEU Listは、BISが軍事エンドユーザーに当たると判断した中国やロシアなどの団体を載せ、特定の品目の輸出に許可を求めます。DPLはEAR違反を理由に輸出特権を剥奪する命令(Denial Order)を受けた個人や企業で、命令が出るたびに官報で告示されます。掲載者との間ではEAR対象品の取引が原則としてできません。UVLは、BISが出荷前後の現地確認(エンドユース・チェック)を完了できなかった相手で、取引を続けるにはエンドユーザーからUVL Statementを取る必要があり、許可例外(License Exception)の利用も制限されます。直近のUVLの改正は2025年4月25日の規則です10。
これらのリストの関係も整理しておきます。BISは2022年10月の規則(87 FR 61971)で、相手国政府の協力が得られずUVL掲載先の現地確認が長く完了しない場合を、Entity Listへ移す判断基準に加えました25。UVLが解決しないままだとEntity Listへ移る可能性がある、という関係です。一方、DPLは個別の違反に対する行政処分として載るもので、Entity Listからの「格上げ」という仕組みではありません。初版ではこの点を階層構造のように書いていたので、今回の改稿で訂正しました。どのリストも、いったん載ると外れるまでの手続きは重く、予防と記録の整備が何よりの対策になります。
もう1つ、2026年の秋に注目されているのがBISの50%ルール(Affiliates Rule)です。Entity List等の掲載企業が50%以上を持つ会社にも同じ規制を及ぼす規則で、2025年9月29日にいったん発効したあと、停止規則(90 FR 50857)で効力が止められています。官報上の停止期限は2026年11月9日です20。米中は2027年1月10日までの延長を発表しており、中国商務部は9月28日に公式サイトで明記しました(米財務長官の9月23日の発言は報道ベース)21。ただし、BISの延長規則は10月3日時点で官報に載っていません。11月9日を前提に準備を進めておくのが安全です。計算方法と準備の手順はBIS 50%ルールの正典記事で詳しく扱っています。株主をさかのぼって持分を合算する作業は、BIS 50%ルールの簡易チェックで試せます(無料・登録不要)。最終的な判断は、貴社の輸出管理責任者と当局の最新の公表を正としてください。
EU・英国・国連の制裁リストはスキームごとに読み解く
EUの制裁は、EU理事会が採択する制裁規則(Council Regulation)ごとに付属書(Annex)があり、そこに掲載された個人や団体が対象になります。資産凍結の対象を横断的にまとめたのがEUの金融制裁統合リストで、欧州委員会のFinancial Sanctions FilesやEU Sanctions Mapから参照できます。9月22日に生成された公開ファイルを当社で数えると、6,241件が載っていました13。対ロシアでは、2023年12月の第12次で第三国への再輸出を契約で禁じる「No Russia条項」が義務化され、2024年6月の第14次では第三国の子会社に迂回をさせないための「最善努力」義務などが加わりました。2025年10月23日の第19次に続き、2026年は4月23日に第20次、7月23日に第21次が採択されています22。第21次で輸出禁止の対象に加わった事業体と、翌日の中国側の対抗措置はEU第21次制裁パッケージの解説にまとめました。EU制裁の厄介さは、加盟27か国それぞれで執行当局と罰則が異なることで、同じ違反でもドイツ、フランス、オランダで手続きと量刑が違います。
英国は2026年1月28日をもって、従来のOFSI統合リスト(Consolidated List of Asset Freeze Targets)の更新を止め、UK Sanctions Listを英国の制裁指定の唯一の公式ソースにしました14。2025年に政府が示した単一リスト化の方針を実装した形です。企業側のスクリーニングシステムにとっては小さくない変更で、OFSIの統合リストを取り込んでいた接続先は、UK Sanctions Listのデータと識別子に切り替える必要があります。切り替えが遅れると、1月28日以降の新規指定がまるごと照合から漏れます。UK Sanctions Listは10月2日にもロシア制裁の指定の改廃で更新されています。英国の執行体制の変化は英国OTSIの権限拡大と執行で扱っています。
国連安保理の統合リストも並行して確認が必要です。10月2日に生成されたXMLを当社で数えると、個人736件と団体275件の合計1,011件で、最も新しい掲載は7月22日、最も新しい記載の修正は9月28日でした15。委員会別では、ISIL(ダーイシュ)とアルカイダ関連が336件で最も多く、北朝鮮155件、タリバン140件、イラン121件と続きます。根拠となる安保理決議と指定の理由は委員会ごとに違うため、単純な「該当か非該当か」ではなく、どの決議にもとづく措置かまで確認しないと、日本の外為法上の対応を誤ります。イラン制裁などをめぐって各国の立場がどう分かれているかは、国連総会の一般討論で各国が示した安全保障と制裁の立場で演説の原文から整理しました。
日本の外国ユーザーリストと財務省の資産凍結リスト
日本の制度は、国連安保理決議や欧米との協調にもとづく外為法の資産凍結等の措置と、キャッチオール規制の二本柱で動いています。後者の中心にあるのが、経済産業省が公表する外国ユーザーリストです。大量破壊兵器等の開発等の懸念が払拭されない外国の団体の情報を輸出者に提供するもので、経済産業省は「参照用」であり「禁輸リストではありません」と明記しています11。そのうえで、輸出する貨物のユーザーが掲載されている場合は、その貨物が大量破壊兵器等や通常兵器の開発等に使われないことが明らかな場合を除き、輸出許可の申請が必要です。
最新版は2025年9月29日の改正で、15か国・地域の835団体(87団体増)が載り、2025年10月9日から適用されています。この改正で、従来の大量破壊兵器の懸念に加え、通常兵器の開発等や取引状況の確認を要する団体の情報も初めて加わりました11。2026年10月4日時点で、この版から改正はありません。リストはPDFで配布されていますが、現場で難しいのはローマ字表記の揺れと、同名の別団体の見分けです。中国語の団体名を英訳すると複数のつづりが並び、キリル文字やアラビア文字からラテン文字への転写は機関によって流儀が違います。エンドユーザーの正確な英語の正式名称と登記番号を自社のマスタに持っていないと、照合ミスは避けられません。
日本独自の注意点として、外国ユーザーリストに載っていなくても、用途や需要者の性格から兵器への転用が懸念される場合は、キャッチオール規制により輸出許可の申請が必要になります。外国ユーザーリストは「載っていれば懸念がある」ことを知らせる警戒リストであって、「載っていなければ自由」という安全リストではありません。リスト照合だけでスクリーニングを終えると、後の調査で指摘を受けることになります。キャッチオール規制の考え方はキャッチオール規制の入門記事で詳しく説明しています。
もう一方の柱が、財務省が公表する資産凍結等の対象者の一覧です。外為法にもとづき、送金や資本取引が規制される個人・団体を制度ごとに載せており、2026年10月2日現在の一覧では、ロシア連邦の団体・個人が1,179、イランの核活動等に関与する者が78団体・43個人(2025年9月から実施)などとなっています12。10月2日付で、特定の船舶に関する役務取引等の規制の対象として35隻のIMO番号(国際海事機関の船舶識別番号)も新たに加わりました。一覧はExcelとCSVでも配布されているので、自社のマスタと機械的に突き合わせる運用が組めます。外国ユーザーリストが「輸出の許可」の話、財務省の一覧が「お金とサービスの取引」の話と役割が違うので、両方を見る必要があります。
複数リストを実務で照合するにはTRAFEEDのような仕組みが要る
ここまで見てきたとおり、日本企業が抜け漏れなくスクリーニングしようとすれば、米国のCSL(13リストを横断)、EUの金融制裁統合リスト、英国のUK Sanctions List、国連の統合リスト、日本の外国ユーザーリストと財務省の一覧を、同じ相手に対して照合する必要があります。制裁リストではないものの近い情報として、米国防総省の1260H条リスト(2026年6月10日に官報で更新を告示)26、カナダのSEMA、オーストラリアのDFATのリスト、そして自社独自のウォッチリストも現場では並行して使われます。これら全部を人手で更新・照合しようとすると、中堅企業のコンプライアンス部門1〜2名ではまず回りません。
厄介なのが、表記揺れと所有関係の深掘りです。同じ中国企業でも、英文社名、簡体字社名、ピンイン表記、親会社名、ブランド名、事業所名がばらばらのデータで届きます。ロシア企業はキリル文字とラテン文字の間で転写のルールが複数あり、中東系はアラビア文字と英語のつづりの組み合わせが多様です。そのうえで、OFACの50%ルール、EUの所有・支配テスト、BISの50%ルールといった、表向きの社名だけでは分からない持株構造を読む必要があります。商流が複雑になるほど、輸入者、仕向地、エンドユーザー、運送会社、通関業者、決済銀行をそれぞれ別個にスクリーニングしないと、1社でも制裁対象が混じっていれば取引全体が止まります。
TIMEWELLが提供するTRAFEEDは、この複数リストの照合を現場の負担を増やさずに回すための輸出管理AIエージェントです。取引先名、仕向地、貨物情報を入力すると、米国の統合スクリーニングリストやOFACのSDN、EU・英国・国連・日本などのリストと照合し、約5秒で懸念度を可視化します。BIS 50%ルールにかかわる所有構造の確認(持分の比率が分からない場合は要確認として残します)、日本の該非判定の下調べ、判断の記録までを1つの画面で扱えます。米国の統合リストと各国の制裁リストは自動で取り込み、照合に使ったリストの更新日を画面に表示するので、担当者は「どの版で確認したか」を後から説明できます。最終的な判断は貴社の輸出管理責任者が行う前提の設計です。詳しくはTRAFEEDサービスカタログ(PDF)をご覧ください。
まとめ:チェック体制をすぐ整えるための3原則
最後に、これから制裁リスト対応の体制を見直す企業向けに、押さえるべき3原則を整理します。
第一に、単一リスト依存をやめること。SDNだけ、Entity Listだけ、外国ユーザーリストだけを見ていても、お金の入口、モノの流れ、キャッチオール規制のどこかで必ず穴が開きます。少なくとも米国のCSL、EUの統合リスト、UK Sanctions List、国連の統合リスト、日本の外国ユーザーリストと財務省の一覧を、同じタイミングで同じ相手に対して回す運用を標準にしてください。
第二に、更新への追随を自動化すること。OFACはほぼ毎日動き、EUはパッケージごとに付属書が差し替わり、英国は2026年1月にリストの構造そのものを変え、日本の財務省も10月に船舶の規制を加えました。担当者が休暇に入った週に照合が止まる体制では、経営層が説明責任を果たせません。リストの取り込み、変更の検知、ヒットの通知までを仕組みに載せるのが、人材の面でも現実的な選択です。
第三に、スクリーニング結果の根拠を残すこと。違反が疑われた際に税関や経済産業省、取引銀行から求められるのは、「出荷や送金の時点で何を見て、どう判断したか」という客観的な証跡です。いつ、どのリストのどの版で照合したか、どの設定でヒットさせ、誰が承認したかを残しておけば、合理的な注意を払ったことを示せます。ツールを入れるときは、ヒットの有無だけでなく、検索と判断の記録を説明できる形で保持できるかを必ず確かめてください。
制裁リストはこれからも動き続けます。2026年の米国の輸出管理リストのように追加が止まる時期もありますが、金融制裁や欧州、日本の側では指定が積み上がっています。体制の整備は早いほど費用対効果が高く、後回しにするほど過去の取引をさかのぼる負担が重くなります。リスト対応でお困りの方は、TRAFEEDの個別相談からご連絡ください。
参考文献
関連記事
- エンティティリストとは?Entity List・MEU List・SDN Listの違い
- BIS 50%ルール(Affiliates Rule)とは?停止期限・延長合意と計算例
- 取引先調査(エンドユーザー確認)の実務|外国ユーザーリスト・Entity Listの照合方法
- EU第21次対ロ制裁パッケージと翌日の中国公告
- 中国の輸出規制リストに載った日本企業はどこ?
Footnotes
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U.S. Department of the Treasury, OFAC「Sanctions List Service」(SDNリストと非SDNの統合リストの配布、検索ツールの説明)https://ofac.treasury.gov/sanctions-list-service ↩
-
OFAC「Specially Designated Nationals List」(SDN.CSV、2026年10月2日公表分を2026年10月4日に取得し当社で集計。個人7,570件、船舶1,539件、航空機342件、その他10,037件)https://sanctionslist.ofac.treas.gov/Home/SdnList ↩ ↩2
-
OFAC「Other OFAC Sanctions Lists」(Consolidated Sanctions Listに含まれる非SDNの6リスト)https://ofac.treasury.gov/other-ofac-sanctions-lists ↩
-
OFAC「Sanctions List Search」(検索項目、あいまい検索と免責の記載)https://sanctionssearch.ofac.treas.gov/ ↩ ↩2
-
OFAC FAQ 246〜249(Sanctions List Searchのあいまい検索とMinimum Name Score)https://ofac.treasury.gov/faqs/topic/1636 ↩
-
OFAC FAQ 5(候補が出たときの6段階の確認手順と10営業日以内の報告)https://ofac.treasury.gov/faqs/5 ↩
-
International Trade Administration「Consolidated Screening List」(商務省4、国務省2、財務省7の計13リスト、毎日午前5時の自動更新)https://www.trade.gov/consolidated-screening-list ↩ ↩2
-
OFAC「Recent Actions」(2026年10月2日、10月1日、9月30日の公表を2026年10月4日に確認)https://ofac.treasury.gov/recent-actions ↩ ↩2
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Federal Register「Removal From the Entity List」91 FR 54657 https://www.federalregister.gov/documents/2026/08/24/2026-17230/removal-from-the-entity-list 、「Revisions to the Entity List」91 FR 54658 https://www.federalregister.gov/documents/2026/08/24/2026-17231/revisions-to-the-entity-list (いずれも2026年8月24日。Federal Register APIで2026年1月1日〜10月3日のBISの規則を確認し、Entity Listへの追加規則がないことを確認) ↩ ↩2 ↩3
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Federal Register「Revisions to the Unverified List」90 FR 17339(2025年4月25日)https://www.federalregister.gov/documents/2025/04/25/2025-07185/revisions-to-the-unverified-list ↩ ↩2
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経済産業省「大量破壊兵器等の懸念又は通常兵器の開発等、取引状況等の確認を要する外国・地域所在団体の情報を提供する『外国ユーザーリスト』を改正しました」(2025年9月29日、835団体、2025年10月9日適用)https://www.meti.go.jp/press/2025/09/20250929006/20250929006.html ↩ ↩2 ↩3
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財務省「経済制裁措置及び対象者リスト」(現在実施中の外為法に基づく資産凍結等の措置、令和8年10月2日現在)https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/gaitame/economic_sanctions/list.html ↩ ↩2 ↩3
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European Commission「Financial Sanctions Files」公開XML(generationDate 2026年9月22日、2026年10月4日に取得し当社で集計)https://webgate.ec.europa.eu/fsd/fsf ↩ ↩2
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GOV.UK「UK sanctions list」(OFSI統合リストは2026年1月28日に終了、UK Sanctions Listが唯一の公式ソース。最終更新2026年10月2日)https://www.gov.uk/government/publications/the-uk-sanctions-list ↩ ↩2 ↩3
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United Nations Security Council「Consolidated United Nations Security Council Sanctions List」XML(dateGenerated 2026年10月2日、2026年10月4日に取得し当社で集計)https://scsanctions.un.org/resources/xml/en/consolidated.xml ↩ ↩2 ↩3
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OFAC「Issuance of Russia-related General License」(GL 134B、2026年4月17日)https://ofac.treasury.gov/recent-actions/20260417_33 ↩ ↩2
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OFAC「Cuba Designations and Designations Updates; Issuance of Russia-related General License」(GL 134C、2026年5月18日)https://ofac.treasury.gov/recent-actions/20260518_33 ↩ ↩2
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OFAC FAQ 1249「Are "toll" payments to Iran for safe passage through the Strait of Hormuz authorized?」(2026年4月28日公表、5月29日更新)https://ofac.treasury.gov/faqs/1249 ↩ ↩2
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Federal Register「Additions and Modifications to the Entity List; Removals From the Validated End-User (VEU) Program」89 FR 96830(2024年12月5日、140団体)https://www.federalregister.gov/documents/2024/12/05/2024-28267/additions-and-modifications-to-the-entity-list-removals-from-the-validated-end-user-veu-program 、「Additions and Revisions to the Entity List」90 FR 44496(2025年9月16日、32団体)https://www.federalregister.gov/documents/2025/09/16/2025-17893/additions-and-revisions-to-the-entity-list 、「Additions to the Entity List」90 FR 48193(2025年10月9日、26団体と3住所)https://www.federalregister.gov/documents/2025/10/09/2025-19508/additions-to-the-entity-list ↩ ↩2
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Federal Register「One Year Suspension of Expansion of End-User Controls for Affiliates of Certain Listed Entities」90 FR 50857(2025年11月12日、FR Doc 2025-19846)https://www.federalregister.gov/documents/2025/11/12/2025-19846/one-year-suspension-of-expansion-of-end-user-controls-for-affiliates-of-certain-listed-entities ↩ ↩2
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中華人民共和国商務部「商务部美大司负责人解读第八轮中美经贸磋商成果」(2026年9月28日)https://www.mofcom.gov.cn/syxwfb/art/2026/art_d9ea01824fc44fd8a29f7dc3f8ca9c72.html ↩ ↩2
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European Commission(DG FISMA)「Sanctions adopted following Russia's military aggression against Ukraine」(第19次2025年10月23日、第20次2026年4月23日、第21次2026年7月23日)https://finance.ec.europa.eu/eu-and-world/sanctions-restrictive-measures/sanctions-adopted-following-russias-military-aggression-against-ukraine_en 、EUR-Lex「Council Regulation (EU) 2026/1848」https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=OJ:L_202601848 ↩ ↩2
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OFAC「Entities Owned by Blocked Persons (50% Rule)」(2014年8月13日改訂のガイダンス)https://ofac.treasury.gov/faqs/topic/1521 ↩
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Federal Register「Inflation Adjustment of Civil Monetary Penalties」90 FR 3687(2025年1月15日、IEEPAの上限を37万7,700ドルに改定)https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-01-15/html/2025-00786.htm ↩
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Federal Register「Revisions to the Unverified List; Clarifications to Activities and Criteria That May Lead to Additions to the Entity List」87 FR 61971(2022年10月13日)https://www.federalregister.gov/documents/2022/10/13/2022-21714/revisions-to-the-unverified-list-clarifications-to-activities-and-criteria-that-may-lead-to ↩
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Federal Register「Notice of Availability of Designation of Chinese Military Companies」91 FR 35189(2026年6月10日)https://www.federalregister.gov/documents/2026/06/10/2026-11571/notice-of-availability-of-designation-of-chinese-military-companies ↩






