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旅行業のAI経営変革|中抜きされる「手配業」から、目利きの供給者へ載せ替える

公開2026-07-20更新2026-07-21濱本 隆太

訪日客は過去最高なのに、旅行会社の懐は温まらない――「客は増えているのに儲からない」。その正体は、主力の予約・手配・造成の粗利が、ネット予約に静かに中抜きされていることです。中小旅行会社が、既存の手配網と地域人脈を捨てずに「AIを足し」、採算の合わないオーダーメイドの生産性を上げ、地域と体験の目利きを「売り」に変える道筋を、実務目線で解説します。まずは直近の1件から。無料のAI経営診断シート(壁打ちプロンプト同梱)付き。

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造成・企画・見積、手配・精算・管理、多言語インバウンド接客、目利きの商品化・着地型、新規事業・経営の5領域を0〜4で自己採点し、どこからAIを「足す」かを整理する記入式シートです。

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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

中小の旅行会社やランドオペレーター(地上手配業者)の社長さんと話していると、最近きまって出てくる焦りがあります。訪日のお客様は過去最高、問い合わせの電話もメールも鳴りやまない。なのに、期末に数字を締めてみると、去年とさして変わらない。むしろ、忙しさのわりに手残りは薄くなっている。「お客は増えているのに、儲からない」。この居心地の悪さを、多くの方が口にされます。

からくりは、そう複雑ではありません。訪日客は2025年に約4,268万人、消費額は約9.5兆円と過去最高を更新しました。ところが、旅行会社がいちばん得意としてきた募集型企画旅行(パッケージツアー)は、主要43社ベースで2019年度比の約39.4%減。お祭りの陰で、主力商品ほど戻っていないのです。理由は、予約の主戦場がネット予約サイト(OTA)やお客様の直接予約に移り、旅行会社が握ってきた「予約・手配・造成」の粗利が、そこへ静かに中抜きされているから。市場が縮んでいるのではなく、儲けの置き場所が付け替わっている。

だから私は、旅行会社にこそAIの出番があると考えています。ただし、既存の手配網や長年の地域人脈を捨てて、新しいシステムに入れ替えろという話ではありません。今ある手配の段取り、予約データ、そしてベテランの頭の中にある地域の目利きを捨てずに、そこにAIを「足す」。この記事は、採算の合わないオーダーメイドを回せるようにし、多言語の接客を軽くし、そして地域と体験の目利きという自社最大の資産を「売り」に変えるところまでを、実務目線で追いかけます。先に背骨を言っておきます。すべての第一歩は、経営のトップ自身がAIを毎日触って使いこなせるようになることです。理由は後で書きます。

まず、採算の合わない「オーダーメイド」から

こんな場面はないでしょうか。個人手配(FIT)や富裕層のオーダーメイドの引き合いが来る。単価は高い。でも、いざ動き出すと、地域の素材を集め、宿や体験施設へ手配のメールを送り、多言語で見積を取り、行程表に落とし込む。担当がまる一日がかりで組み上げる。単価は高いのに、かけた時間で割ると、ちっとも採算が合わない。しかも、その段取りはベテラン1人の頭の中にあって、休むと止まる。「一件一様」の手仕事が、旅行会社でいちばん時間を食い、いちばん属人化しています。

ここが、AIをいちばん実感しやすい入口です。お客様のヒアリングメモをAIに渡して行程の初稿を出させ、担当は確認と監修だけをする。ゼロから作る作業を、直す作業に変える。

モデルケースで、具体的に言います(あくまで仮の前提で、地域や案件の複雑さで大きく変わります)。個人手配(FIT)向けの5日間の行程作成を例にとると、これまで1件あたり3時間かけて組んでいたものが、ヒアリングメモ→AI初稿→有資格者の監修という流れにすると、1件45分ほどに縮む。担当1人あたり月8件で手一杯だったものが、月20件をさばけるようになる――そんなイメージです。「AIが旅程を決めてくれる」わけではありません。最終的な行程管理と案内の責任は、旅程管理主任者や通訳案内士、旅行業務取扱管理者といった有資格者が必ず持つ。ここは崩しません。AIは初稿と下ごしらえ、人は判断と監修。この分担が肝です。

しかも、これは大きな初期費用のいる話ではありません。既存の予約・手配の仕組みを入れ替えずに生成AIを足すだけなら、初期費用を大きくかけずに、数週間から1ヶ月ほどの小さな試しで、自社の1業務に効くかを「時間」と「件数」で測れます。いきなり全社導入ではなく、1件・1業務から。それが、人も資金も限られる中小の、正しい順番です。

まずは、直近のオーダーメイド1件で試してみてください。 過去に組んだ行程のヒアリングメモを1件、AIに渡して初稿を出させ、ベテランの仕上がりと見比べてみる。それだけで、どこまで任せられて、どこは人が要るかが体感できます。自社のAI活用が今どの段階にあるかは、AIリテラシー診断でも確認できます。

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第一歩は、社長がAIを毎日触ること

打ち手の一覧に入る前に、順番として最初に来るものを置きます。経営トップ自身が、AIを使いこなせるようになることです。旅行業では、これに特別な意味があります。

この業界で起きているのは、個別業務の自動化ではなく、「目減りする手配業から、地域と体験を売る高付加価値業へ」という、事業の重心そのものの移動です。どの工程にAIを足し、どの新しい柱に踏み出すか。これは現場の一担当が決められる話ではなく、事業の方向を決める経営判断です。だからこそ、トップ自身が構想する必要がある。

トップが、AIに事業の相談をしてみる。「うちの地域の、まだ知られていない体験素材を10個挙げて、富裕層向けの行程の骨子を作ってみて」「ネット予約に中抜きされている今、うちが直販で選ばれる強みは何か、一緒に整理して」。返ってくる答えの半分は的外れでも、その的外れを自分で判定して直せるようになることが、使いこなしの入口です。AIはいま、社長にとって最も安価な「壁打ち相手」でもあります。

日本企業の生成AI利用率は、総務省の令和7年版情報通信白書で55.2%どまり。最大の導入懸念は「効果的な活用方法がわからない」でした。この「わからない」は、外注や研修では埋まりません。トップが毎日10分でも触る。ここを飛ばした会社のAI活用を、私はあまり見たことがありません。同じ考え方は、業種は違えど製造部品メーカーのAI経営変革にも通じます。

コストを下げる:造成・手配・多言語接客に「足す」

オーダーメイドの次は、もう少し広く、日々の事務を軽くします。原則は同じで、システムを入れ替えるのではなく、その前段や横にAIを「足す」だけです。

造成では、地域の祭事・農漁業・工房・食といった一次素材から、テーマ別のコース案や行程表、原価積算のたたき台をAIで量産する。手配では、宿・交通・体験施設への依頼メールや、多言語での空き確認・見積依頼、バウチャーの下書きをAIで作る。属人化していた段取りを記録に残し、担当者どうしで使い回せるようにする。精算や添乗報告、旅程管理の記録、クレーム対応の要約も、AIで下書きできます。

そして、インバウンドの追い風を取りこぼさないための多言語接客です。問い合わせの一次対応、着地後のチャットサポート、多言語のFAQや観光案内をAIエージェントに担わせ、人手が回らない現地対応を補う。掲載用の多言語の紹介文やSNS発信も、AIで初稿を作る。中抜きされる代わりに、「指名」と「直販」を生む方向へ、マーケの力を振り向けるのです。ただし、旅券や決済といった機微な個人情報を扱う業界です。AIへの入力時の情報管理には配慮が要りますし、最終的な案内と旅程管理は有資格者が担保する。この線引きは崩せません。

どこから手を付けるかを、社長やAIと一緒に整理するための壁打ちプロンプトを、ひとつ置きます。そのまま貼って、【】の中を自社の情報に置き換えて使ってください。残りの2本(地域の目利きを売りに変える/新しい柱の種を出す)は、無料の診断シートに同梱しました。

あなたは中小旅行会社の業務改善コンサルタントです。既存の手配網・地域人脈・予約データを捨てずにAIを「足す」前提で、どの業務から着手すべきかを一緒に決めてください。旅程管理・案内の最終責任は有資格者にある前提です。

# 入力(私が埋めます)
- 事業の種類と規模:【例:地域限定の旅行会社、着地型とインバウンド手配、従業員◯名】
- いま最も時間を食っている業務を3つ:【例:造成/手配依頼と見積/添乗報告と精算】
- それぞれの担当者と、1件あたりの所要時間:【例:オーダーメイド行程作成は1件◯時間】
- 属人化している業務:【例:地域の体験素材と手配段取りはベテラン1名の頭の中】
- 手元にあるデータ:【例:過去の予約実績、行程表、地域の素材リスト】

# あなたのタスク
(1) 挙げた業務を「所要時間」「属人度」「高付加価値化への効き」で評価する。
(2) 各業務で、AIに任せられる部分(初稿・下書き・下調べ)と、人が必ず担う部分(最終判断・法定業務)を分離する。
(3) 最初にAIを足す1業務を選び、その根拠を示す。
(4) その1業務の「1ヶ月の小さな実証」計画を示す。既存の手配網・データは活かす。
(5) 効果の測定指標(作成時間・一人当たり件数・単価など)を定義する。

# 出力形式(必ずこの通りに)
1. 評価表:列は[業務名/所要時間/属人度/高付加価値化への効き/AIで下書きする部分/人が必ず担う部分/想定削減(仮・計算式付き)]
2. 着手する1業務とその選定理由(3文以内)
3. 1ヶ月の小さな実証計画(何を、いつ、どう測るか)
4. 測定指標の定義

# 制約
- 「効率化」「便利」などの抽象語は使わず、何がどう変わるかを動詞で書く。
- 旅程管理・通訳案内・行程表の最終責任は有資格者・旅行業務取扱管理者にある前提を崩さない。
- 不明な数字は「仮」と明記し、前提と計算式を添える。捏造しない。
- 最後に、この計画で最も外れやすい弱い仮説・リスクを3つ挙げる。

旅行業のAI活用マップ:手配・予約の資産を捨てず、その上に「足す」

念のため、数字の性格について一度だけ書いておきます。訪日客数や消費額、パッケージツアーの約39.4%減は、政府や観光庁の公的統計です。一方で、この記事で触れる「AIで工数が何割減る」という効果値の多くは、ツールの提供側の「自社調べ」で、あなたの現場で同じ数字が出る保証はありません。だから私は、派手な数字を並べるより、自社の1業務で「時間」と「件数」を測ることを勧めます。この区別は、この記事全体を通しての前提です。

目利きを「売り」に変える

ここまではコストの話でした。ここからは攻めです。あなたの会社が長年かけて溜め込んだ「地域の目利き・体験の目利き」は、ベテランの頭の中に眠るコストではなく、外に打ち出せる「売り」に変えられます。

ネット予約サイトや大手のプラットフォームが、絶対に持ち得ないものがあります。「地域と体験の一次情報」です。その土地に根を張り、まだ知られていない体験素材を知り、常連の勘所を分かっているのは、地場の会社だけ。まず、ベテラン1〜2名に「なぜこの宿を、この順番で薦めるのか」を語ってもらい、AIで文字起こしして手順書や素材リストに構造化する。引退とともに消えていく目利きを、設備投資なしで言葉に残せます。

そして、その知は外向きの武器になります。買い手が実際に検索する言葉(地域・目的・季節)で、自社の体験提案を記事にする。AIで初稿を作り、人が事実を確かめて公開する。HPに素材やFAQを学習させたAIチャットを置いて、24時間の一次対応をしながら、来た質問を「次に書くべきネタ」にする。ここで大事なのは、追う数字を、記事のアクセス数ではなく、指名・見積依頼の件数に置くことです。アクセスが増えても商談が増えなければ意味がありません。

TIMEWELLの文脈でいえば、属人化した手配ノウハウや地域素材を整理して引ける形にするなら「ZEROCK」が、着地型体験の常連づくりや地域コミュニティの運営には「BASE」が、自然に接続します。ただし、これらは道具です。順番としては、やはりトップが事業の載せ替えを構想するところから始まります。採用や技能継承にも同じ発想が効きます。手配の段取りや地域素材をこの章のように記録し、若手が引ける状態にする。詳しくはAI×人事の実装パターンも参考になります。

手配業で溜めた地域と体験の目利きを、商品化して供給する側へ回る循環

立ち位置が変わります。中抜きされる「予約チャネル」から、真似のできない「目利きの供給者」へ。追う数字も、パッケージの取扱額ではなく、オーダーメイドや着地型の単価、直販・指名の比率、そして目利きを外販した収益へと置き換わります。

本業を止めず、その隣に新しい柱を小さく立てる

最後に、コスト削減の先の話を。生まれた余力を、目減りする手配業の延命だけに使うのはもったいない。とはいえ、真面目な会社ほど、目の前の受注をこなすことが正解になり、新しい芽に手が回らない。手配の毎日は、この罠と隣り合わせです。

抜け出す鍵は、新しい取り組みを、いまの手配の稼働率や短期の利益で測らないことです。それで測ると、育つ前に「儲からない」と潰れる。余力があれば少人数の別チームで、なければまず社長が週半日だけでいい。既存の手配業とは別枠にして、長年の予約実績データと地域の人脈に、AIを掛け合わせる。すると、これまで社内コストだったものが、外に売れるサービスに見えてきます。富裕層向けオーダーメイドの専業ブランド。DMOや自治体、宿泊施設向けの、観光コンテンツ造成・高付加価値化の受託。海外の旅行会社向けの、現地手配と多言語サポートの代行。体験予約を束ねる自社の仕組み。既存の手配・販売を止めずに、その隣で小さく試す。それが、中抜きされる側から、地域の目利きを供給する側へ回る、地味だが確かな一歩です。

ただし、ひとつ重い前提を添えます。インバウンドは、為替や地政学、感染症、災害で大きく振れます。過去最高を前提に固定費を増やすのは、危険です。だから新しい柱は、固定費を膨らませず、少人数・別枠で小さく始める。この慎重さは、崩さないでください。

両利きの姿勢:手配・パッケージ販売を続けながら、着地型コンテンツ工房×AIの新規を別枠で小さく立てる

新しい柱の種を出すための壁打ちプロンプトも、診断シートに同梱しています。ひとりで考え込む前に、AIを相棒にしてみてください。

まとめ:手配業から、目利きの供給者へ

要点を整理します。

  • いちばん実感しやすい入口は、採算の合わないオーダーメイド。ヒアリングメモ→AI初稿→有資格者の監修で、ゼロから作る作業を、直す作業に変える。まずは直近の1件から
  • 第一歩は、経営トップ自身がAIを毎日触ること。事業の重心を手配業から高付加価値業へ移すのは、現場ではなく経営の判断だから
  • コスト削減は「捨てずに足す」で。造成・手配・見積の初稿づくりと、多言語接客の24時間対応から。ただし旅程管理・通訳案内の最終責任は有資格者が担保する
  • 地域と体験の目利きは、社内コストではなく「売り」に変えられる。ネット予約が持ち得ない一次情報を握るのは地場だけ。追う数字はアクセスでなく指名・見積の件数
  • 新しい柱は、本業を止めずに別枠で。余力がなければ社長が週半日から。為替・災害で振れる業界だから、固定費は増やしすぎない

最後に、正直な考えを。この記事で触れた効果の数字の多くは提供側の自社調べで、あなたの現場で同じになるとは限りません。そしてインバウンドは、為替や災害で大きく振れます。それでも――お祭りの中で痩せていくのは、誰にでもできる「予約と手配」です。その地域の隠れた体験を知り、目利きできる人は、まだあなたしかいない。そこにAIで言葉と商品の形を与えたとき、中抜きされる側から、供給する側へ、立ち位置が変わるのだと考えています。

この記事を自社に当てはめて点検する「AI経営診断シート(旅行業版)」を、ページ冒頭から無料でダウンロードできます。造成・企画・見積、手配・精算・管理、多言語インバウンド接客、目利きの商品化・着地型、新規事業・経営の5領域を書き込みながら着手先を整理できるExcelで、本文で触れた壁打ちプロンプト3本も同梱しています。まずは社長ご自身が、AIと一緒に埋めてみてください。

自社の手配網とデータのどこからAIを足せば効くのかを一緒に整理したいときは、WARPのAIコンサルティングや、個別相談もお使いください。


参考文献・出典

  • 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2025年12月・年間確定値)」(2026年1月発表)1
  • 観光庁「インバウンド消費動向調査 2025年暦年」(2026年1月発表)2
  • 観光庁「2024年度 主要旅行業者の旅行取扱状況 年度総計」(2025年6月発表)3
  • 観光庁/日本旅行業協会(JATA)旅行データバンク(事業者数)4
  • 観光庁「持続可能な観光地域づくり/地域の高付加価値化」/日本旅館協会 営業状況等統計調査5

Footnotes

  1. https://www.jnto.go.jp/news/press/20260121_monthly.html

  2. https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_00071.html

  3. https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/ryokogyotoriatsukaigaku.html

  4. https://www.jata-net.or.jp/databank/jata-trend/page-66593/2025_15/

  5. https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/shukuhakutokei.html

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