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AI駆動社会の経営戦略|富士通CTO高木氏が語る「人間中心AI×企業変革」のリアル【SusHi Tech Tokyo 2026】

2026-04-29濱本 隆太

SusHi Tech Tokyo 2026で富士通CTO高木一弘氏が語った「AI駆動社会の経営戦略」。レガシー企業がAIネイティブに変革するための具体的な手順、Fujitsu Kozuchiの実装事例、人間中心AIの哲学を、TIMEWELL代表が経営者視点で解説します。

AI駆動社会の経営戦略|富士通CTO高木氏が語る「人間中心AI×企業変革」のリアル【SusHi Tech Tokyo 2026】
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

「スタンフォード大学のAI活気度ランキングで、日本は2023年に9位に転落しました」——SusHi Tech Tokyo 2026の会場で、富士通CTO・高木一弘氏がスクリーンに映した一枚のスライドが、会場の空気を凍らせました。

この日の高木氏の講演は、**日本のテクノロジー企業トップから発せられた極めて率直な「危機宣言」**でした。ただ危機を煽るだけの内容ではありません。富士通が40年にわたって蓄積してきたAI研究の蓄積を、「AI駆動社会」の実装にどう繋げるか——その設計図を精緻に描く1時間でした。私は今年聞いた経営者講演の中で、最もエッジが立っていたと感じています。

この記事では、講演の論旨を経営者の視点で整理し、レガシー企業がAIネイティブに変革するための具体的な道筋を共有します。新規事業や変革に関わる方が、自社のAI戦略を点検する材料として読んでもらえれば嬉しいです。


SusHi TechがAI議論の主戦場になった

SusHi Tech Tokyo 2026は2026年4月27日〜29日に東京ビッグサイトで開催中の、アジア最大級のグローバルイノベーションカンファレンスです。今年のフォーカステーマは「AI・ロボティクス」「レジリエンス」「エンターテインメント」を含む4分野。その中でもAI関連セッションの密度は圧倒的で、富士通CTOの単独講演は最も注目を集めた枠の一つでした。

高木氏は2月にインドで開催された「AI Impact Summit 2026」で、モディ首相を含む各国政府首脳のラウンドテーブルに参加した話から講演を始めました。インド国内の強烈な国家コミットメント、若い優秀人材による活気——それを目の当たりにしながら、「日本のAI分野における現在位置」について深い危機感を抱いたといいます。この個人的な原体験が冒頭で語られたことで、以降のすべてのメッセージに「一人の経営者としての切迫感」が宿りました。

数字で見る「日本のAI遅延」

講演で示された数字は、直視するのが辛いほど明確でした。

  • スタンフォード大学AI活気度ランキングで日本は36カ国中9位(2023年)
  • 日本の労働年齢人口は2020年の約7,500万人から2050年に約5,300万人へ30%減少する見通し
  • 豪雨イベント数は1980年代比で約2倍に増加
  • 韓国の人工肥料生産量は1,200万トンで、日本の約2倍

R&D(研究成果・特許)、経済指標(スタートアップ投資・M&A)の両領域で、日本は顕著に遅れています。この「遅延」が構造的課題として存在することを、トップ企業のCTOが公の場で明言したことの意味は大きいと感じました。大手企業が自ら「負けている」と認めることは、日本の経営文化では長くタブーでした。その空気が、ようやく変わり始めています。

フィジカルAI — AIが「現実世界」に出ていく

高木氏が複数のAI活用領域を示した中で、最もインパクトがあったのが**「フィジカルAI」**の概念でした。これまでのAIはデジタル世界に留まり、人間の意思決定支援にとどまっていました。フィジカルAIは違います。センサー情報取得→判断→実行というサイクルを現実世界で実現するのです。ロボット、自律移動体、自動運転がその典型例になります。

なぜフィジカルAIが日本にとって決定的に重要なのでしょうか。それは労働力不足への対応だからです。製造、物流、インフラ整備、危険業務——これらの領域で人間が不足する中、フィジカルAIが不可欠となります。高木氏は医療領域の事例も紹介しました。AIエージェントが受付業務や診察補助を担うことで、医療スタッフがルーチン業務から解放され、患者ケアに集中できるというものです。

Monaka CPU — 2027年に向けたハードウェア戦略

富士通が2027年に利用開始予定の次世代CPU「Monaka」は、高効率・低消費電力設計を軸にしています。フィジカルAIの実装には、小型ドローンや家庭用ロボットなど限定スペースでの使用時に「低消費電力」が必須になる一方、大量センサーデータをリアルタイム処理する「高性能計算能力」も求められます。この二律背反の要求のバランスこそがハードウェア設計の核心課題です。

さらに、今年予定されている1000量子ビット規模の量子コンピュータ設置は象徴的です。ソフトウェアとハードウェアの同時進化が、AI駆動社会の基盤となります。富士通は2023年に理研と共同で64量子ビットの超伝導量子計算機を稼働させた実績があり、そこから僅か数年で桁違いのスケールに到達しようとしているわけです。

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社会デジタルツイン — 政策を実装前にシミュレーション

私が個人的に最も興奮したのが、**「社会デジタルツイン」**という概念でした。実世界のデータを使って都市・地域・社会全体をデジタルに再現し、複雑な課題に対する解決策を探索するという考え方です。政策を実装前にシミュレーションして検証できるというのが核心です。

これは自治体・政府の意思決定プロセスを根底から変える可能性があります。「この地域にカーシェアリングを導入したら、10年後の交通渋滞はどうなるか」「この規制緩和が地域経済に与える影響は」——こうした問いに、デジタルツイン上で事前に答えられるようになります。失敗しても、現実世界には影響が及びません。政策立案において、これほど大きな変化はないと感じます。

ヒューマン・モーション・アナリティクス — 医療への応用

もう一つ印象的だったのが、カメラ映像から人間の動きを高速で3Dデータ化する技術でした。既に世界的な競技の採点判定(複雑で公正性が求められる分野)で活用されており、医療分野では高齢者の歩行映像を分析して身体機能改善の運動を提案するソリューションに応用されています。

これは超高齢化社会の日本にとって極めて重要な技術です。介護現場の人手不足を補い、かつ個別最適化された運動処方を提供できるというわけで、TIMEWELLで支援しているヘルスケア領域のスタートアップにも、このレイヤーに乗ることでスケールできる企業が複数見えてきます。富士通のような基盤提供者と、ユースケースを深掘りするスタートアップの組み合わせが、次のヘルスケア市場を作っていく予感があります。

レガシー企業がAIネイティブになるための「ハイブリッド戦略」

ここから少し深掘りしておきたいのが、富士通自身がどのようにAIネイティブ企業へ自己変革しているかという点です。これは多くのレガシー企業が直面する課題そのものです。

富士通のAI戦略の中核には「Fujitsu Kozuchi」があります。これは社内のAIサービスを全社統合するプラットフォームでありつつ、外部パートナーAI(基盤モデル、特化モデル)も選択的に統合する設計です。自前主義でも丸投げでもない、ハイブリッド戦略と言っていいでしょう。

レガシーIT資産を抱えた企業がAIネイティブ化する際の難題は、(1) 既存システムを止められない、(2) 一気にリプレースする予算がない、(3) 内製人材が足りない、の3点に集約されます。富士通の答えは、段階的なリプレースと用途別最適化でした。基幹系は守りながら、フロント業務・社内ナレッジ・顧客接点から順にAIネイティブ化していく——この順序が現実解です。

これは中堅・大企業の経営者にとって、そのまま参考になるアプローチだと思います。「全社一斉のDX」ではなく、「最も価値が出る業務から、AIで再設計する」発想に切り替えること。これがレガシーを抱えながら走れる唯一の道です。

日本のAI劣勢は、本当に「負け」なのか

高木氏の講演を聞いた直後、私は会場を歩きながら一つの問いを考え続けていました。「AI活気度ランキングで9位という現実を、どう受け止めるべきか」。

確かに、データで見れば日本は劣勢です。スタートアップ投資額でも米中に大差をつけられ、基盤モデル開発でも出遅れています。しかし、日本には日本の強みがあるのも事実です。

  • 第一に、世界トップクラスの製造業・ハードウェア能力。フィジカルAIの実装に直結します
  • 第二に、高齢化・労働力不足という「強制関数」。AI採用の緊急度が世界一高いという反転の論理が成立します
  • 第三に、安定した社会基盤。AI実装の社会実験を大規模に行える環境です

この3つは、欧米中にはない組み合わせです。高木氏が強調した「社会デジタルツイン」「フィジカルAI」「ヒューマン・モーション・アナリティクス」は、すべて日本の強みを活かせる領域に絞られています。これは偶然ではなく、極めて戦略的な選択だと読み取れます。

「AI最優先」の組織マインドセット

高木氏が最後に投げかけた問いが、最も重いものでした。

「私たちは本当に、AIが新常識となる世界を受け入れる準備ができているでしょうか」

単なる技術導入ではありません。すべての事業において、AI最優先のマインドセットから出発する——この組織文化の根本的転換なしには、AIの最大限の利益を引き出すことも、新規価値を発見することも不可能です。

TIMEWELLが日々向き合っているのも、まさにこの組織文化の問題です。多くの日本企業で「AIを活用せよ」という号令は出ています。しかし現場では、既存業務のちょっとした効率化ツールとしてしか使われていません。「AI最優先」で業務プロセスを再設計するところまで踏み込めている企業は、まだ少数派です。パナソニック時代に社内起業家支援をしていた頃から、この「号令と実装のギャップ」は日本企業共通の課題でした。号令を現場の動きに翻訳するミドル層の育成こそが、日本のAI実装を前進させる鍵だと考えています。

スタートアップにとっての機会 — 富士通のパートナーになる

富士通のような大企業が「AI駆動社会」を打ち出すとき、実はそこにスタートアップの大きな機会があります。Monaka CPU、量子コンピュータ、社会デジタルツイン、フィジカルAI——これらのプラットフォームの上で動くアプリケーション層、業界特化層は、多くがスタートアップによって提供されるはずです。

日本のスタートアップが富士通のようなインフラ企業と密接に連携することで、国内でのスケールと海外展開の両輪が回り始めます。私はSusHi Tech会場で、富士通のブースに多くのスタートアップ関係者が集まっている光景を目にしました。これが日本のエコシステムの新しい動き方です。大企業が囲い込むのではなく、開放的にパートナーを迎える姿勢が、会場の熱量を押し上げていました。

「人間中心AI」という富士通の哲学

高木CTOが繰り返し強調したのが、**「人間中心のAI(Human-Centered AI)」**という哲学でした。AIは人間を置き換えるものではなく、人間の能力を拡張するものだという視座です。

これは単なるレトリックではありません。富士通は実装レベルで、**「AIが判断を提案し、人間が最終決定する」**という設計原則を徹底しています。医療診断、金融審査、製造品質管理——どの領域でも、AIは意思決定を加速するツールであり、最終責任は人間が持ちます。

この哲学は、今後のAI規制との親和性も高いものです。EUのAI Actは「高リスクAIへの人間の監督義務」を定めており、富士通の設計原則はこの規制を先取りしている形になります。日本企業のAIが世界市場で選ばれる理由として、この「人間中心性」は強力な差別化要素になります。

実装の三本柱として高木氏が挙げたのは、(1) 意思決定の透明性、(2) AIの限界を理解する社員教育、(3) AIガバナンス体制の整備、でした。これは特殊な大企業の話ではなく、どの組織にもそのまま落とし込めるフレームワークです。AIを導入する前に、まずこの三本柱の現状をチェックしてみる価値があります。

40万人の従業員をどうAI時代にアップスキルするか

富士通は世界40万人規模の従業員を抱える巨大企業です。高木CTOが指摘したのは、この人材をAI時代にどうアップスキルするかという問いでした。

富士通は「Fujitsu University」という社内大学を運営し、AI・データサイエンス・クラウドのコースを全従業員に開放しています。年間数百万時間規模の学習時間が、組織全体で積み上げられているそうです。これは単なる研修ではなく、組織DNAの書き換えです。

日本の大企業がAI時代を生き抜く鍵は、このアップスキル投資にあります。TIMEWELLの社内起業家支援も、この文脈の一部です。組織全体のAI適応力を底上げする仕事——これは一企業の利益を超えた、日本経済全体への貢献だと考えています。

まとめ — 「AIを使う」から「AIで社会を設計する」へ

高木氏の講演から私が持ち帰った結論は明確でした。

AIの時代の勝敗は、「AIを業務に使う」レベルで終わる組織ではなく、「AIで社会全体を設計し直す」レベルで動く組織によって決まります

日本のAI活気度ランキング9位という数字は、確かに出発点としては低いものです。しかし、社会デジタルツインとフィジカルAIの両輪で、日本が独自の道を拓く可能性は十分にあると感じます。そのためには、大企業・スタートアップ・政府・大学の全員が「AI最優先」で組織を再設計する覚悟を持つことが前提になります。

高木氏の講演は、その覚悟を問う一時間でした。私自身、TIMEWELLという小さな会社からではありますが、挑戦のインフラをAI最優先で設計し直すことを改めて誓いました。日本が再びAI時代の主役になるために、必要なのは技術よりも覚悟だと、この講演ははっきりと教えてくれたように思います。


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参考文献

[^1]: YouTube. An AI-Driven Society Shaped by Technology. https://www.youtube.com/watch?v=5tSCXM0h3y0 [^2]: 富士通 公式サイト. https://www.fujitsu.com/jp/ [^3]: Stanford HAI. Global AI Vibrancy Ranking. https://aiindex.stanford.edu/vibrancy/

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