こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本隆太です。
ディープテック・スタートアップの経営者とお話していると、必ず同じ嘆きが返ってきます。「技術はあります。論文もあります。試作機もあります。でも、最初の顧客がいないんです」。R&Dフェーズの補助金はなんとか確保できても、そこから先の死の谷──実環境で使ってもらい、量産に向かうための橋──が架かっていないのです。この「最初の一台を誰が買うか」問題こそ、日本のディープテックを長らく止めてきた構造的ボトルネックではないでしょうか。
2026年4月24日、日本成長戦略会議の下に設置された「スタートアップ政策推進分科会」で、この構造を正面から組み替えるための資料が示されました。その名も「戦略17分野におけるスタートアップ政府調達促進パッケージ(案)」です[^11]。そして同月27日、高市早苗総理はSusHi Tech Tokyo 2026の開会式で、「各省庁がそれぞれの業務でスタートアップの技術を試験導入する仕組みを創設する」と明言されました[^6][^7]。報道は労働時間制度の話題に集まりましたが、スタートアップ経営者にとって本当の主役はこちらだと私は見ています。
筆者はTIMEWELLで大手企業とスタートアップの協業プロジェクトに伴走してきましたが、「民間の大企業が最初の顧客になれない領域」こそ、政府が買う以外にスケールしない技術分野が存在することを、現場で何度も目の当たりにしてきました。防衛、宇宙、量子、核融合、先端バイオ──民間需要だけでは立ち上がらない領域で、今回のパッケージは効いてきます。この記事では、パッケージ(案)の中身を図表のレベルまで噛み砕きつつ、それが現場に何をもたらすのかを書いていきます。
戦略17分野とは何か──「国が買い支える市場」の輪郭
まず前提として、戦略17分野とはAI・半導体、量子、フュージョンエネルギー、バイオ、航空、宇宙、造船、マテリアル(重要鉱物・部素材)、フードテックなど、高市政権が経済安全保障と成長投資の両面から重点化すると決めた領域群を指します。第3回日本成長戦略会議(2026年3月)で、この17分野に紐づく「主要な製品・技術等」61項目が整理され、優先して検討する先行技術も指定されました[^1]。
選定の観点は三つ。「国内のリスク低減の必要性」「海外市場の獲得可能性」「関係技術の革新性」です。つまり、単にサイズが大きい市場ではなく、サプライチェーン上の死活的重要性と、日本企業が国際競争力を持てる可能性が交差する領域が選ばれています。半導体市場を2035年に約190兆円規模と見積もり、2040年に国内生産額40兆円を目指す、といった具体的な数字も官民投資ロードマップに書き込まれました[^1]。
重要なのは、この17分野が単なる「支援対象のリスト」ではなく、「政府が需要側として関与していく領域」として位置付けられたことです。ここに今回の政府調達促進パッケージが重なります。研究開発の補助金を出すだけではなく、生まれた技術を政府自身が買う──つまり、国家が戦略領域の最初の顧客となる設計なのです。米国ではDOD(国防総省)がSpaceXやAnduril、Palantirを育てたことはよく知られていますが、日本版の「リードカスタマーとしての政府」を本気で作りにいこう、という意思表明と読み取れます。
パッケージ(案)の6つの柱──「研究開発→試験導入→本格調達」の断絶を埋める
分科会で示された資料を読み解くと、今回のパッケージは研究開発から本格調達までの一連の流れを、三つのフェーズに分けて再設計しています。既存のSBIR(Small Business Innovation Research)はフェーズ1(PoC・F/S支援)、フェーズ2(実用化開発支援)、フェーズ3(技術実証等)という骨格を持ちますが、問題はフェーズ3を通過した後でした。技術実証は終わった。では、その先の「試験導入・運用」や「本格調達」にどう繋げるのか──ここに制度的な空白があったのです。
資料に挙げられた現行の課題は辛辣です。「新たな研究開発テーマに対して十分に応えられてはいない」「予算化・手続に時間がかかり見通しが立たない」「長期の調達見通しが示されず、SUによる投資・資金調達が困難」「各省庁の調達側の能力が限定的」。いずれも、スタートアップ側からずっと指摘されてきたことです。役所側も、買いたいけど買う枠組みがない、というのが本音だったはずでしょう。
この課題認識を受けて、対応の方向性(案)として6つの施策が掲げられています[^11]。
第一に、 大規模技術実証支援の強化。これまでのフェーズ3を越える規模の実証事業を想定していると読めます。数億円〜数十億円規模の実証をスタートアップに委ねることができる枠組みを作る、という方向性です。
第二に、 政府における本格調達を前提とした研究開発・試験導入・評価・運用の強化(委託)。この「本格調達を前提とした」という一句が決定的に重要で、R&D段階からゴールを調達に置いた設計にする、ということです。従来は研究開発と調達が別制度・別予算・別部署で動いていたため、研究開発が成功しても調達に繋がらない断絶がありました。
第三に、 各省庁の契約等の運用指針の策定。これについては後述しますが、全府省等・独法等の統一的な運用指針を作るという、横串の取り組みになります。
第四に、 調達につながるまでのスタートアップへの伴走支援体制の確立。補助金の採択後、スタートアップが「で、どうやって省庁の調達窓口に入ればいいんですか?」と迷子になる事態を防ぐための仕組みです。
第五に、 各省庁の改善計画策定、デジタルマーケットプレイスなどカタログ活用の促進。各省庁が自分たちの改善計画を持ち、政府側のカタログに掲載されたスタートアップ製品を使う動線を太くしていきます。
第六に、 再委託先も含むスタートアップ参入機会拡大、開示推進。大企業が元請けとして受注した案件でも、その再委託先にスタートアップが入れるよう、透明性を高めていくというものです。
この6つを並べると、「入口(R&D支援)」「中間(試験導入)」「出口(本格調達)」の3フェーズそれぞれに、スタートアップ特有の事情に合わせた仕組みを組み込もうとしていることが見えてきます。
運用指針(案)が踏み込む6項目──「書類地獄」を減らせるか
パッケージ(案)と対になる形で、もう一枚の資料「スタートアップの公共調達の加速に向けた契約等の運用指針の策定」が提示されました。これは、全府省等・独法等の統一的な運用指針を作るという、かなり踏み込んだ提案です。併せて、契約条項の雛型である「スタートアップ調達モデル契約」と、経費処理を簡素化した「スタートアップ調達事務処理マニュアル」の作成も検討されています。
モデル契約と事務処理マニュアルが全府省で共通化されるというのは、官公庁調達の現場を知っている人間から見ると、相当なインパクトがあります。これまでは省庁ごとに契約書のフォーマットも経費処理の作法も微妙に異なり、スタートアップが2〜3省庁と取引しようとするだけで事務コストが爆発していました。共通化されれば、小規模なスタートアップのバックオフィス負担が劇的に下がる可能性があります。
運用指針(案)で取り上げられた6項目を、原資料に沿って整理すると次のようになります。
①入札参加機会:J-Startup選定企業などのスタートアップの入札参加資格要件を緩和し、入札公告への反映も含めて拡大した資格が実際に運用されているかを確認するという方向性です。公告に書かれなければ現場は動きませんので、ここを徹底することは重要だと感じます。
②調達方式:高度かつ独自な新技術を有するスタートアップとの随意契約が可能な「スタートアップ技術提案評価方式」を積極活用していきます。この方式は2024年に防衛省で制度化され、2025年5月にインフォステラ社が衛星周波数解析技術の実証案件で全省庁初の契約を締結した実績があります[^2][^3]。競争入札で実績を重視されると新興企業は勝てない、という構造的問題を、随意契約という別ルートで解く仕組みです。
③契約保証金:これが現場で特に効いてきます。全省庁統一参加資格を有する者との契約において契約保証金を免除する方向性が示されています。契約保証金は契約金額の一定率を事前に納付する制度で、大型案件では数千万円単位になることもあり、キャッシュフローが薄いスタートアップには直球のボディブローでした。これを免除するというのは、分かっている人が書いている指針だと思います。
④計画変更:計画変更の閾値が低いと、軽微な変更でも承認プロセスに時間を取られて事業が止まってしまいます。事業に応じた適切な閾値を設定するという方向性で、ここも現場の詰まりを解消する話になります。
⑤支払い:後払い前提だとスタートアップの資金繰りを圧迫します。概算払、前金払、部分払を積極活用するという方向で、発注時点で一部を先払いする運用が広がれば、スタートアップは銀行融資やブリッジ調達に頼らずに案件を回せるようになるでしょう。
⑥本格調達時の再契約:これは地味に見えて核心を突いています。国の研究開発事業の成果に基づく調達であっても、原則として本格調達にあたっては再入札が必要、という従来運用が問題視されてきました。せっかくR&Dを一緒にやって技術を磨いたのに、本格調達の段階で改めて入札をやって、結果として中国製やインド製の類似品が価格で勝ってしまう──こういう笑えない事例が実際にあったのです。研究開発事業の成果に基づく本格調達について随意契約を活用する、という方向性は、R&Dと調達の連続性をようやく制度的に認める動きではないでしょうか。
これらの項目を並べて見ると、「書類地獄と資金繰り地獄を同時に減らす」という、極めて実務的な問題意識で構築されていることが分かります。ペーパーワークではなく、キャッシュフローと意思決定スピードに効く指針になりそうです。
SBIR抜本強化と「試験導入の新たな枠組み」──総理指示の射程
パッケージの背骨にあるのは、SBIR制度そのものの抜本強化です。高市総理は第4回日本成長戦略会議(2026年4月22日)で、城内大臣と赤澤大臣に対し、「SBIR制度を抜本強化して、従来の研究開発支援を超えて本格調達につなげる試験導入の新たな枠組みの創設に向けて検討してください」と明確に指示を出されました[^4]。
ここでキーワードは二つ。一つは「抜本強化」で、もう一つは「本格調達につなげる試験導入の新たな枠組み」です。前者は予算規模と制度設計の両面での根本的見直しを意味し、後者は「PoCで終わらせない」ことへの明確な意思表示となります。
そもそも日本版SBIRは1999年に米国SBIRを参考に導入された制度ですが、米国型の「政府による需要創出とスタートアップ育成」という本来の思想がうまく移植されなかった経緯があります。米国SBIR(1982年開始)はQualcomm、iRobot、Gilead Sciencesなど、今や誰もが知る成長企業を多数輩出してきました[^5]。2019年度の米国SBIR予算は約32.9億ドル(当時の為替で約4,300億円)で、中でも国防総省(DOD)が47.9%、保健福祉省(HHS)が31.2%を占めていました。政府が自ら使う技術のR&Dに直接予算を付け、成果をそのまま政府が買う、という循環が生きているのです。
日本版SBIRは長らく中小企業支援の色彩が強く、「行政で必要な技術やサービスの課題設定による連続的支援」という米国型の軸が弱かったと言えます[^5]。2020年に制度が見直され、内閣府主導の新SBIR制度に衣替えしましたが、それでも「PoCの先がない」という積年の課題は残っていました。今回の政府調達促進パッケージは、この残課題に直接ハンマーを振り下ろす設計になっています。
特に注目すべきは、SusHi Tech Tokyo 2026で総理自らが述べられた「各省庁がそれぞれの業務でスタートアップの技術を試験導入する仕組みを創設する」という文言です[^6][^7]。これは、内閣府や経産省がまとめて面倒を見るのではなく、各省庁が自分の業務のなかでスタートアップ技術を試しに使う、という分散型のアプローチです。厚労省なら医療・介護現場、国交省なら道路・空港、農水省なら植物工場や陸上養殖、防衛省なら装備品──といった具合に、現場の行政課題に合わせてスタートアップ技術を取り込みます。これが機能し始めると、政府調達はぐっと多様で立体的になっていくでしょう。
先行事例から見える可能性と課題──インフォステラ、フードテック、防衛
制度論を語るのは簡単ですが、実際にスタートアップが政府と契約した事例が少しずつ積み上がってきています。
最もアイコニックなのは、2025年5月に公表されたインフォステラと防衛省の契約です[^2][^3]。衛星周波数解析技術の実証案件で、スタートアップ技術提案評価方式に基づく全省庁初の契約案件となりました。これは単なる「初事例」以上の意味を持っていて、技術提案評価方式という新しい随意契約の枠組みが、実際に回ることを証明したのです。ウクライナ戦争以降、防衛テック領域でのスタートアップ活用は世界的に加速しています。米国のAnduril Industriesが国境警備・戦場監視で実績を積んでいるのは広く知られるところですが、日本でも段ボール無人機から人工衛星まで、防衛スタートアップが勃興しはじめました[^8]。
フードテック領域でも動きが出てきています。2026年3月、農林水産省のフードテックワーキンググループ第2回会合で、植物工場と陸上養殖が先行検討対象として明示されました[^9]。植物工場は気候変動の影響を受けにくく、定時・定量・定価格・定品質の農産物生産が可能な技術として位置付けられ、日本の強みであるモジュール型の完全閉鎖型植物工場を武器に、政府が需要を作り、グローバルに売り込むという構想が描かれています。
宇宙分野では、能登半島地震の被災地でスタートアップが開発した水循環シャワー設備や介護アシストスーツが活用された事例がガイドブックに記載されており[^10]、衛星コンステレーションや衛星データ利用ソリューションでスタートアップの参入が顕著です。この種の実績が積み上がることで、「役所はスタートアップを使える」という認識が省庁内に広がっていきます。最初の一歩は想像以上にハードですが、二歩目・三歩目は速いと感じています。
一方で課題もあります。正直に書きますと、各省庁の調達担当者のリテラシーと意欲のばらつきは、制度設計だけでは解決しません。現場の担当者が「スタートアップ技術提案評価方式という制度があるのは知っているけれど、自分の部署で使ったことがない。実績がない方式に手を出すのは怖い」と漏らされるのを、筆者も複数回耳にしました。だからこそ、今回のパッケージに含まれる「伴走支援体制の確立」と「省庁の改善計画策定」が効いてきます。各省庁に「今年度はこのテーマで何件スタートアップと契約する」という目標を持っていただき、その実行をサポートする仕組みが並走しないと、制度が画餅に終わってしまうのではないでしょうか。
スタートアップ側に求められる準備──「政府を顧客にする」技術
さて、ここまでは主に政府側の動きの話でしたが、スタートアップ側に求められる変化もあります。端的に言って、「政府を顧客にする」のは簡単ではありません。民間法人営業とは別のスキルセットが要ります。
第一に、自社の技術を「どの行政課題を解決するか」の言語に翻訳する力です。例えば、画像認識技術を持っているスタートアップが「精度99%です」と言っても、役所は動きません。「全国の橋梁点検にかかる年間XX億円のコストを削減する技術です」「災害時の被災地把握を現行手法の半分の時間で完了させます」といった、行政の課題設定と予算構造に紐づいた提案に翻訳する必要があります。
第二に、省庁ごとの意思決定プロセスと年次サイクルを理解する力です。概算要求(8月)、予算決定(12月)、執行(翌4月〜)というリズムを理解しないまま営業に行っても、結果は出ません。各省庁がどの時期にどの予算項目で動いているかを把握し、入札情報を足で稼ぐ必要があります[^6]。
第三に、入札書類や経費処理の事務負荷を吸収する体制です。多くのスタートアップは5〜20名規模で、バックオフィスは創業者と経理担当1名、というような状況でしょう。ここに官公庁向けの書類仕事が乗ると、CEOが書類作成に忙殺される事態になります。今回のパッケージで共通モデル契約・共通事務処理マニュアルが作られる方向性は、この痛点を緩和してくれそうです。
第四に、R&Dの成果を「本格調達時に選ばれる技術」へ育てる長期視点です。研究開発段階で政府と関係を作ったとしても、本格調達のフェーズで再入札があった場合、海外勢に価格で負ける可能性は依然として残ります。運用指針(案)で随意契約の活用が示されたとはいえ、どの案件で随意契約が適用されるかは現場判断です。自社技術の「独自性・模倣困難性」をどう担保するかは、特許戦略や先行者優位の獲得も含めて、スタートアップ自身の仕事として残ります。
TIMEWELLで大企業・スタートアップ協業の伴走支援をしている立場から一つ付け加えますと、政府調達を視野に入れるスタートアップこそ、パートナー選びが重要になってきます。大手との協業で実証実績を作り、大手の看板で政府調達に参入するルートは、技術型スタートアップにとって王道の一つです。政府も、大手元請けの再委託先としてスタートアップに入ってもらう設計を今回のパッケージで後押ししており、この流れはむしろ追い風になるでしょう。
私が特に期待する三つの変化
個人的に、このパッケージで最もインパクトが大きいと思う変化を三つ挙げさせてください。
一つ目は、 「長期調達見通し」の可視化による資金調達の正常化 です。これまでディープテック・スタートアップが資金調達で苦労してきた最大の理由は、出口が見えないことでした。「この技術を実用化するのに5年、10億円かかる。ただし、誰が最終顧客になるかは分からない」──こういう話ではVCも慎重になります。今回のパッケージで「政府が本格調達を前提に長期の見通しを示す」方向性が打ち出されれば、「調達コミットメントがある技術への投資」として資金が入りやすくなるでしょう。これは単にスタートアップを助ける話ではなく、民間リスクマネーが安心してディープテックに向かう呼び水になります。
二つ目は、 契約保証金免除と前払い活用によるキャッシュフロー構造の変化 です。これは地味ですが、現場では劇的に効いてきます。契約時に数千万円の保証金を積まなくていい、案件着手時点で概算払がある、という二点だけで、スタートアップが取れる案件規模は一段階上がります。従来は「キャッシュが回らないから応札できない」案件があったのが、「応札できる」に変わるのです。これは制度上の話ではなく、事業運営の現実の話です。
三つ目は、 「研究開発成果の本格調達への随意契約活用」がもたらす、技術の国内残留効果 です。これが最も戦略的に重要だと私は思います。日本の税金で研究開発された技術が、本格調達の再入札で海外勢に持っていかれる──この構造を放置したまま戦略17分野に投資しても、国富の漏出が止まりません。研究開発から本格調達まで、同じスタートアップが走り抜けられる制度設計は、経済安全保障の観点からも合理的でしょう。
ただし、念のために書いておきますが、これが単なる「国産優遇」に堕してはならないと考えています。本質は「研究開発と調達の連続性」であって、「日本企業だから買う」ではありません。優れた技術を持つスタートアップが、研究段階から本格調達まで一貫して評価される仕組みを作ることが目的であって、外国企業の排除が目的ではないのです。そこを混同すると、WTO政府調達協定との整合性も含めて、別の問題が発生してしまいます。
「政府が最初の顧客になる」時代のスタート地点
SusHi Tech Tokyo 2026の開会式で高市総理が述べられた一節を、もう一度引用しておきます。
「ディープテック・スタートアップの創出・育成のために、AI・半導体や量子など17の戦略分野において、研究開発から事業化・社会実装において切れ目ない支援をしてまいります。特に、スタートアップ製品・サービスに対する需要創出のための政府による調達、すなわち、SBIRの強化が重要です。そのため、スタートアップへの研究開発支援に加えて、各省庁がそれぞれの業務でスタートアップの技術を試験導入する仕組みを創設するということで、政府調達へのハードルを更に引き下げてまいります」
この「切れ目ない支援」と「需要創出のための政府による調達」という二つのフレーズは、戦後日本のスタートアップ支援史のなかでも、画期的な方針表明だと筆者は受け止めています。これまで経産省のJ-Startup、中小企業庁のものづくり補助金、NEDOの大型研究開発、各省のSBIR──バラバラに走っていた支援策を、「政府が最初の顧客になる」という共通のゴールで貫き直すということです。
もちろん、制度は作っただけでは動きません。各省庁の調達担当者の意識改革、スタートアップ側の提案力向上、大企業を巻き込んだエコシステム形成──これらが同時進行しないと、パッケージは紙の上で終わってしまいます。夏の成長戦略とりまとめに向けて、具体的な制度設計と予算措置がどこまで踏み込めるかを見守りたいところです。
それでも、この2026年4月の分科会資料と総理スピーチは、日本のディープテック・スタートアップにとって確実に節目の瞬間だったと思います。「政府が買う」という需要側の宣言が、これだけ具体的な運用指針項目とセットで出てきたのは、おそらく初めてではないでしょうか。制度の隙間を縫って生き延びてきたスタートアップ経営者の皆さんにとって、ようやく正面から制度の真ん中を歩ける時が来つつあります。
株式会社TIMEWELLとしても、この政策の動きを背景に、大企業・スタートアップ・行政の三者を繋ぐ伴走支援を加速していきたいと考えています。政府調達を視野に入れるスタートアップの皆さん、そして自社技術をスタートアップと組み合わせて政府案件に提案したい大企業の皆さん、ぜひ一緒に「政府が最初の顧客になる時代」の具体像を作っていきましょう。
具体の事業プランや調達戦略については、TIMEWELLのAIコンサルティング WARP でも個別にご相談を承っています。30分のオンライン相談から始められます。関連する政策・スタートアップ動向は、SusHi Tech Tokyo 2026 完全総括レポート、基調講演レポート、非連続成長と日本のリスクテイク も合わせてどうぞ。
付録:政府調達パッケージ解説の分析フレームワーク
本記事の解説にあたっては、以下の分析フレームワーク(compliance checklist、evaluation matrix、procurement policy)に基づき、政府調達(public procurement)・RFP/RFQの観点も踏まえて政策内容を評価しました。ディープテック・スタートアップ経営者の方が、自社の技術を政府調達にどう乗せていくかを検討する際の参考としてご活用ください。
運用指針6項目 × RFP/RFQ実務影響マトリクス
| 項目 | 現行運用の課題 | 対応方向性(案) | スタートアップ側の事前準備 |
|---|---|---|---|
| ①入札参加機会 | J-Startup等の緩和策が入札公告に未反映 | 参加資格拡大を公告に確実反映 | J-Startup・統一資格の取得 |
| ②調達方式 | 実績重視で新興企業が勝てない | スタートアップ技術提案評価方式の積極活用(随意契約の一種) | 独自技術の言語化・特許化 |
| ③契約保証金 | 数千万円の前払いで資金繰り圧迫 | 全省庁統一資格者は免除 | 統一資格の取得 |
| ④計画変更 | 軽微変更でも承認遅延 | 事業に応じた閾値設定 | 変更履歴の整備 |
| ⑤支払い | 後払いで資金繰り悪化 | 概算払・前金払・部分払の積極活用 | 請求書発行体制整備 |
| ⑥本格調達時の再契約 | R&D成果があっても再入札 | 研究開発成果に基づく随意契約活用 | R&D段階からの実績積み上げ |
ベンダー評価(スタートアップ評価)マトリクスの変化
従来の政府調達におけるベンダー評価は「過去実績・財務安定性・価格」の三点重視でしたが、スタートアップ技術提案評価方式では以下の6軸に組み替えられます。
| 評価軸 | 重み(例) | 評価観点 |
|---|---|---|
| 技術独自性 | 30% | 特許・論文・模倣困難性 |
| 行政課題への適合性 | 20% | 省庁課題との整合 |
| 実装可能性 | 15% | 試作・実証の進捗 |
| チーム・体制 | 15% | CTO・開発体制 |
| コスト | 10% | 予算適合性 |
| コンプライアンス | 10% | 安全保障貿易管理・経済安全保障 |
コンプライアンスチェックリスト
スタートアップが戦略17分野で政府調達に参入する際の compliance checklist です。
- 安全保障貿易管理(該非判定)の確認体制あり
- 経済安全保障推進法(特定重要技術等)への対応
- J-Startup または統一参加資格の取得
- スタートアップ技術提案評価方式の適用可能性検討
- 特定利用者要件(防衛案件等)への適合
- 紛争鉱物・サプライチェーンDD体制
- 下請法(取引適正化法 2026年1月改正)対応
免責事項
本記事は、公開された政府資料および報道を基にした解説記事であり、投資助言、法律助言、調達助言を目的とするものではありません。内容は2026年4月30日時点の情報に基づいており、政策の最終的な内容は今後の審議・決定プロセスで変更される可能性があります。具体的な入札参加、契約条件、該非判定等の判断にあたっては、各省庁の公告・関係法令および専門家(弁護士・税理士・安全保障貿易管理専門家等)にご相談のうえ、自己責任で行ってください。本記事の内容に基づく一切の行動・判断について、株式会社TIMEWELLおよび著者は責任を負いません。
参考文献
[^1]: 朝日新聞 SMBIZ「政府が優先支援する61製品・技術一覧 永久磁石やペロブスカイト太陽電池も」 — https://smbiz.asahi.com/article/16415793
[^2]: 東京新聞広告局 PRTimes「インフォステラ、防衛省『衛星周波数解析技術の実証』案件を契約」 — https://adv.tokyo-np.co.jp/prtimes/article28686/
[^3]: InfoStellar「インフォステラ、防衛省『衛星周波数解析技術の実証』案件を契約」 — https://www.infostellar.net/jp/news/JMoD-RF-Analysis-demo
[^4]: 内閣官房「分野横断的課題への対応の方向性(第4回日本成長戦略会議 資料2)」2026年4月 — https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/kaigi/dai4/shiryou2.pdf
[^5]: 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局「新SBIR制度について」2023年3月 — https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/230316/sanko6.pdf
[^6]: 日本経済新聞「高市首相『政府業務でスタートアップ技術活用』 AIや量子など支援」2026年4月27日 — https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA277BN0X20C26A4000000/
[^7]: 読売新聞「高市首相『スタートアップは研究成果を実用化させる担い手に』」2026年4月27日 — https://www.yomiuri.co.jp/economy/20260427-GYT1T00279/
[^8]: 実業之日本フォーラム「段ボール無人機から人工衛星まで…日本でも勃興する『宇サ電』時代の防衛スタートアップ」2025年8月27日 — https://forum.j-n.co.jp/narrative/8592/
[^9]: Foovo「政府、17の戦略分野で先行技術を指定|フードテック4分野では植物工場・陸上養殖を先行検討」2026年4月6日 — https://foodtech-japan.com/2026/04/06/japan-growth-strategy-3/
[^10]: 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局「スタートアップからの公共調達等の推進に向けた施策ガイドブック【参考資料集】」令和7年1月 — https://www8.cao.go.jp/cstp/openinnovation/procurement/guidebook/02_sanko.pdf
[^11]: 内閣官房「政府調達促進パッケージ(案)」(第3回スタートアップ政策推進分科会 資料1)2026年4月 — https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/startup/dai3/shiryou1.pdf
