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非連続成長を起こすのは誰か|日本企業が次のレベルでリスクを取るための4つの転換点【SusHi Tech Tokyo 2026】

2026-04-29濱本 隆太

SusHi Tech Tokyo 2026のセッションで語られた「非連続成長と日本のリスクテイク」。グローバル投資家・大企業CEO・起業家が議論した、日本企業が次の成長ステージに進むための4つの転換点を、TIMEWELL代表が経営者視点で整理します。

非連続成長を起こすのは誰か|日本企業が次のレベルでリスクを取るための4つの転換点【SusHi Tech Tokyo 2026】
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。

「リスクを取らないことが、最大のリスクです」——SusHi Tech Tokyo 2026のあるセッションで、登壇者3人が異口同音に繰り返したこの言葉に、会場の空気が静かに張り詰めました。私はTIMEWELLで「挑戦の民主化」を掲げる立場として、このセッションを最優先で聞きに行きました。期待を遥かに超える、日本経営者の肉声が交差する90分だったので、その内容を経営者の視点で整理しておきます。

セッション名は「非連続な成長で世界へ〜日本企業が挑むリスクテイク〜」。ロッテホールディングスCEOの玉塚元一氏、マネーフォワードCEOの辻庸介氏、ペガサステックベンチャーズのディレクター石黒友梧氏が、日本語で議論を展開しました。英語セッションでは抽象論になりがちな「日本企業の組織課題」が、ここでは数字と失敗談と戦略を伴って生々しく語られたのです。

この記事では、そのセッションで議論された内容を踏まえつつ、日本企業が次のレベルでリスクを取るための4つの転換点として整理し直しました。新規事業や経営企画に関わる方が、明日の意思決定を一段引き上げるためのヒントとして読んでもらえたら嬉しいです。


SusHi Techが「日本発のグローバル挑戦」を語る場になった

SusHi Tech Tokyo 2026は2026年4月27日〜29日に東京ビッグサイトで開催されているアジア最大級のグローバルイノベーションカンファレンスです。過去最多770社のスタートアップ、海外VC、大企業、都市リーダーが集い、AI・ロボティクス・レジリエンス・エンターテインメントを軸に議論が交わされています。

その中で、日本語で日本企業のグローバル戦略を議論するセッションが組まれた意義は小さくありません。会場は300席の大部屋でしたが立ち見が出るほどの満員で、来場者は単なる事例紹介ではなく「明日の意思決定をどう変えるか」を探していたように見えました。経営者3人の口から、数字と失敗談と戦略が同時に飛び出す——希少な時間でした。

ロッテ玉塚氏 — 日本4,000億円、韓国7兆円という現実

玉塚氏が冒頭に提示した数字に、私は正直驚きました。ロッテは日本の菓子事業が年商約4,000億円なのに対し、韓国事業は約7兆円。同じ「ロッテ」という名前で、日本本社と韓国事業では規模感が約20倍違うわけです。グループ経営の難しさを、玉塚氏は率直に語りました。

玉塚氏はもともとファーストリテイリング(ユニクロ)の元社長であり、その後ローソン社長を経て、現在ロッテホールディングスのCEOを務めています。日本の消費財・小売業界の中でも、最もグローバル展開の現場を経験してきた経営者の一人と言って良いでしょう。その経歴があるからこそ、この日の発言には重みがありました。

特に興味深かったのが、日韓の意思決定文化の違いを踏み込んで評したくだりです。「韓国はトップダウンでスピードがある一方、エグゼキューションが荒い時もあります。日本はボトムアップで失敗確率は低いものの、タイミングを逃しやすい。足して2で割ると、ちょうどいい」。長年日韓を往復してきたCEOだからこそ出せる実感だと感じました。

ロッテは現在、基礎化学品から高付加価値バイオ・ファインケミカルへのピボットを進めています。中国のオーバーサプライで基礎化学品市場が崩れる中、韓国側の素早い意思決定でバイオ医薬品領域への大規模投資を決断したそうです。この転換は、まさに「非連続な成長」を体現する事例だと思いました。

ユニクロ・ロンドンの30店舗シュリンクという失敗談

セッションの中で、玉塚氏はユニクロのロンドン進出失敗にも触れました。1998年当時、ユニクロは年商700億円・時価総額300億円規模。ロンドンに30店舗を一気に展開したものの、売上が急落し5店舗まで縮小する局面があったといいます。そこから再度チャレンジし、現在の世界2.5兆円規模、時価総額20兆円超え(日本3位)に至りました。

この話が強烈なのは、「失敗したから成功した」という典型的なナラティブではなく、**「失敗してもチャレンジを続けられる財務余力と意思を持っていたか」**という冷静な問いに還元されている点です。多くの日本企業は一度の失敗で撤退します。ユニクロは粘り、再挑戦しました。この違いが、世界企業と国内企業を分けるということでしょう。

マネーフォワード辻氏 — 3段階のグローバル化戦略

辻氏の説明は、フレームワークとして綺麗に整理されていました。マネーフォワードは**「資本のグローバル化→人のグローバル化→事業のグローバル化」**の3段階で海外展開を進めているというのです。

現状はこうです。株主の半分以上が海外機関投資家。エンジニアの60%以上がノンジャパニーズ。この資本と人材の基盤の上に、事業展開を進めているわけです。日本のSaaS企業でここまで国際化した組織は、他にほとんど例がありません。

興味深かったのが、辻氏が語った「サイドドア戦略」でした。米国のIT領域にはマネーフォワードの数十倍の巨大プレイヤーが立ち並びます。ガチンコ勝負は不可能。そこで辻氏が選んだのが**「米国で会計事務所を買収し、そこをAI化する」**というアプローチでした。既存のSaaSレッドオーシャンに入らず、既存プレイヤーのオペレーションを裏側からAIで変革するという発想です。

辻氏が強調したもう一つの概念が「フォワードエンジニア」でした。顧客の現場にエンジニアが直接入り込み、50時間かかっていた業務を5分に短縮する——生産性100倍超の改善事例が実際に出ているといいます。これはSaaSビジネスの常識を根本から書き換える話で、従来の「汎用プロダクトを大量に売る」モデルから「顧客の業務を一緒に再設計する」モデルへの転換と言っていいでしょう。

辻氏の個人エピソードも印象深いものでした。11歳の娘を海外の寮制学校に留学させたというのです。企業経営のリスクテイクだけでなく、個人の家族選択としても非連続を実践している——経営者の「言行一致」の迫力がそこにありました。

辻氏の指摘 — AIは「10年に1度のチャンス」

辻氏がセッション後半で繰り返したのは、**「AIはプラットフォーム変化で、10年に1度のチャンスです。AIかける何かが有効です」**というメッセージでした。極めて実践的な経営指針だと思います。

AIを単体で導入する時代は終わりました。「既存事業×AI」の掛け算で、非連続な成長曲線を描く局面に入っています。マネーフォワードの会計×AI、ロッテの食品×AI、自動車メーカーの自動運転×AI。すべて「X×AI」で桁が変わる世界観です。

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ペガサステックベンチャーズ石黒氏 — SpaceX・OpenAIへのアクセス

石黒氏が紹介したペガサステックベンチャーズは、日本ではあまり知られていませんが、世界的には極めてユニークなポジションを取っています。日本の大企業のために、米国のスタートアップを選別・紹介するVCという立ち位置です。

ポートフォリオが尋常ではありません。SpaceXに300億円を投資し、OpenAI、Anthropic、xAIにも投資しているといいます。米国のインナーサークルに深く入り込み、そのディールフローを日本の大企業に届けるビジネスモデルです。日本の機関投資家や事業会社が、直接シリコンバレーのトップディールに手を出すのは至難の業ですが、ペガサスはその「橋」を実現しているわけです。

石黒氏が語った日米のスピード差の話は、私にも深く刺さりました。「日本はコンセンサス型で意思決定が遅いのに対し、アメリカは失敗を想定済みで、高速に試行錯誤を繰り返しています」。GoogleやOpenAIが小規模チームで高速にPoCを回す手法と、日本の大企業の稟議プロセスの差が、そのまま競争力の差になっているという指摘でした。

日本企業が次のレベルでリスクを取るための4つの転換点

ここからは、私の整理です。3人の発言を踏まえると、日本企業の非連続成長を阻む構造的な壁は明確で、突破口も4つの方向に集約できそうです。

転換点1:経営層のリスク許容度をリセットする

第一に、経営層のリスク許容度のリセットです。玉塚氏のロンドン撤退から再挑戦の事例にあるように、「失敗してもまだ続ける意思」を経営層が持っているかどうかが、企業の上限を決めます。失敗をネガティブ評価する人事ではなく、「失敗の質と学び」を評価する仕組みに作り替える必要があります。

転換点2:出資・買収予算を事前に確保する

第二に、出資・買収予算の事前確保。辻氏のサイドドア戦略のような買収によるレバレッジは、その都度ボードで議論していてはタイミングを逃します。毎年「使い切らなくてよい」枠を予算に入れておくことで、案件が発生した瞬間に動ける体制を作る。これは石黒氏が指摘した日米のスピード差を埋める制度設計の話です。

転換点3:新規事業のKPI設計を独立させる

第三に、新規事業のKPI設計の独立化です。既存事業のKPI(売上・利益率・市場シェア)で新規事業を評価すると、すべての新規事業が早期に潰されます。新規事業には「学習速度」「仮説検証回数」「顧客接点の質」といった独立KPIを設定し、3〜5年単位でホールドする運用が必要です。

転換点4:外部人材の活用を制度化する

第四に、外部人材活用の制度化。マネーフォワードのエンジニア60%以上がノンジャパニーズという数字は、単なるダイバーシティ施策ではなく、競争力の源泉としての人材構成です。日本企業が経験ある経営人材・エンジニア・科学者を社外から呼び込むためには、報酬体系・契約形態・キャリアパスの全面刷新が前提になります。

大企業に眠る「未開のイノベーション資源」をどう掘るか

このセッションで私が最も共感したのが、**「大企業の研究開発部門に眠っている豊富なイノベーションを使え」**という議論でした。

私はパナソニック時代に社内起業家支援に携わっていましたが、社内には本当に無数の技術資産・特許・ノウハウが眠っていました。それらが事業化されない理由は、技術がないからではありません。挑戦するインフラがないからです。社内のハードル、既存事業との利害対立、評価制度の不整合——これらが挑戦を殺します。

玉塚氏も辻氏も、大企業の「潜在力」を強く信じていました。日本の大企業は資金力が十分にあります。問題はスピードと意思決定構造です。これを解くアプローチとして3人が示唆したのが、経営層が現場感を持つ(ミクロ視点)、マクロな環境把握(業界・社会全体の変化)、そしてその往復から適切な仮説を設定する、というプロセスでした。

この「ミクロ⇔マクロの往復運動」は、TIMEWELLが新規事業担当者に日々提供しているフレームワークと本質的に同じです。大企業の中にいながらスタートアップ的に動く人材——社内起業家——の価値は、今後さらに高まっていくと確信しています。

サイドドア戦略の本質 — 正面突破しない勇気

辻氏のサイドドア戦略は、日本の新規事業全般に応用できる普遍的な戦略だと思います。レッドオーシャンを正面から攻めるのではなく、業界の既存プレイヤーのオペレーションを裏側から変革する発想です。

インド企業がアメリカ市場で「1/10の価格で売る」戦略を取っていることが議論で触れられましたが、同じ発想です。日本企業がかつて採用していた「安い人件費で高品質」モデルは、もう機能しません。新しいサイドドアを見つけられるかどうかが、日本企業のグローバル展開の成否を分けると感じます。

CEOのリスクテイク責任 — 現状維持はリスクそのもの

セッションの最後、3人が口を揃えたメッセージが強烈でした。「CEOこそがリスクテイクの可否を判断する責務があります。既存KPIの現状維持では、非連続成長はありません」。

既存事業のKPIを守ることは、短期的には安全に見えます。しかし市場環境が変化する中では、現状維持こそが最大のリスクになります。この感覚が経営層に内在化されているかどうかが、企業の10年後の姿を決めるのです。

「失敗の履歴書」をポジティブに扱う文化

セッションの休憩時間、登壇者たちと名刺交換する中で、ある投資家が面白いことを言っていました。「日本の起業家の履歴書には、失敗が書かれていません。成功だけが並んでいます」。これは一見美徳に見えて、実は信頼を失う要素なのだそうです。シリコンバレーでは、「3社の起業経験、うち2社は失敗」という履歴書のほうが「1社成功」よりも評価されます。失敗から学んだ経験こそが、次の成功の基盤になるからです。

日本社会全体で、「失敗の履歴」をポジティブに語れる文化を育てなければなりません。学校教育、企業の採用面接、メディアの起業家特集——すべての層で、失敗への見方を変える必要があります。

リスクテイクを支える「制度的安全網」

もう一つ重要なのが、リスクテイクを支える制度的安全網です。米国のChapter 11破産法、欧州の社会保障制度、シンガポールの起業家ビザ——いずれも「失敗しても再起できる仕組み」があります。

日本の破産手続きは厳しく、個人保証の慣行も重く、失敗後の再起が構造的に難しいのが現状です。**「挑戦のインフラ」**を整えるには、ベンチャー支援制度だけでなく、失敗後のセーフティネットも同時に整備する必要があります。TIMEWELLもこの議論には積極的に関わっていきたいと思います。

まとめ — 非連続な挑戦が、日本の未来を作る

玉塚氏、辻氏、石黒氏——それぞれ事業も立場も違いますが、共通するのは**「非連続な挑戦を、事実として経営判断している」**点でした。語るだけでなく、実際にやっているわけです。

TIMEWELLが掲げる「挑戦の民主化」は、こうした経営者の挑戦が特殊例ではなく、一般的な組織人にとっても実行可能な選択肢になることを目指しています。SusHi Techの会場で、目の色の変わった新規事業担当者を何人も見ました。彼らが実際に挑戦を選べるインフラを作ること——それが私たちの仕事です。

リスクを取らないことがリスク。この言葉を、明日の会議の冒頭で使ってみてほしいと思います。それだけで、議論の質が変わるかもしれません。日本企業が本当の意味で世界に挑戦するフェーズに入るために、このセッションは小さくない「言葉の起爆剤」を会場に置いていったと、私は感じています。


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参考文献

[^1]: YouTube. 「非連続な成長」で世界へ 〜日本企業が挑むリスクテイク〜. https://www.youtube.com/watch?v=v7TazRcfNKE [^2]: ロッテホールディングス 公式サイト. https://www.lotte.co.jp/ [^3]: マネーフォワード 公式サイト. https://corp.moneyforward.com/ [^4]: ペガサステックベンチャーズ. https://www.pegasustechventures.com/

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