こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
「AIは内製化したほうがいいんですよね?」
よく聞かれます。そして、この問いには答えづらい。内製化は目的ではなく手段なので、何のためにやるのかによって答えが変わるからです。
全部を自社でやる必要はありません。かといって丸投げでも困る。どこに線を引くかが問題です。この記事では、その線の引き方を書きます。AIを発注する側の視点です。
先に要点です。
- 内製化は目的ではない。判断の軸は「変更の頻度」と「自社の業務知識がどれだけ効くか」
- モデルを自分で作る必要は、ほとんどの会社にない
- 人は足りない前提。DX人材の量が不足している企業は85.5%
- 外注するなら、成果物ではなく判断の記録をもらう
- 内製化の本体は、技術力ではなく決められる状態を社内に持つこと
内製化という言葉が指すものが、広すぎる
まず言葉を分けます。「AIの内製化」と言ったとき、実は5つくらいの違う層が混ざっています。
1. モデルそのものを作る。 基盤モデルを自社で学習させる層。ほとんどの企業に必要ありません。 費用も人材も桁が違います。
2. モデルを自社データで調整する。 追加学習や微調整。ここも、やる前に検索で足りないかを確認したほうがいい層です。
3. アプリケーションを作る。 業務に合わせた画面と処理。既製品で足りなければここを作ります。
4. 業務への組み込みと運用設計。 どの業務のどこで使うか、人がどこを確認するか、精度が落ちたらどうするか。
5. 使い方と判断基準を決める。 何を任せて何を任せないか、出力をどう検証するか。
「内製化」の議論が噛み合わないのは、話している層が違うからです。多くの会社にとって重要なのは4と5で、1と2はまず関係ありません。
そして4と5は、外注すると本質的にうまくいきにくい層です。自社の業務を知らないと決められないので。
軸は2つでいい
線を引く基準は、複雑にしないほうがいいと思っています。私が使っているのは2つです。
軸1:変更の頻度が高いか。
毎週のように調整したいものは、内側に置いたほうがいい。1回の変更に見積もりと発注と2週間かかる体制だと、改善が止まります。
AIの活用は、一発で決まりません。プロンプトを直す、参照する資料を入れ替える、確認の手順を変える。この小さな往復の回数が成果を決めます。往復のたびに外部の稼働が必要だと、回数が確保できません。
逆に、年に1回しか触らないものを内製しても、この利点は効きません。
軸2:自社の業務知識がないと決められないか。
「この見積もりは妥当か」「このお客様にこの言い方でいいか」「この工程は飛ばしてよいか」。これらは外部の人には判断できません。 判断の基準を教えること自体が難しい。
一方、「どのモデルを使うか」「サーバーをどう構成するか」「認証をどう作るか」は、業務知識がなくても決まります。ここは外に出して問題ありません。
この2軸で分けると、たいていこうなります。
| 変更が多い | 変更が少ない | |
|---|---|---|
| 業務知識が要る | 内製(最優先) | 内製寄り。判断基準だけは社内に |
| 業務知識が不要 | 内製か、機動的に動ける外注先 | 外注でよい |
左上が、内側に置くべきところです。そしてここは、技術力ではなく業務知識の話なので、情報システム部門ではなく現場に近い人が担うことが多くなります。
人が足りないのは前提
内製化の議論で必ず出るのが「人がいない」です。
実際そのとおりで、IPAが2026年7月に公表した調査では、DXを推進する人材の「量」について「やや不足している」「大幅に不足している」と答えた企業の合計が**85.5%**でした。国内企業1,799社への調査です1。
AI関連の人材でも、多くの人材種別で「不足している」が過半数を占めています。特に「現場の知見と基礎的AI知識を持ち、自社へのAI導入を推進できる従業員」の不足が高いままだと指摘されています1。
この人材像が、まさに先ほどの表の左上を担う人です。いちばん足りないところが、いちばん内側に置くべきところになっている。
だから結論は逆になります。人が足りないからこそ、全部を内製しようとしてはいけない。 限られた人を左上に集中させて、右下は外に出す。全部を内側に置こうとすると、いちばん大事なところに人が残りません。
外注するなら、判断の記録をもらう
外に出す部分について。契約の時点で決めておくべきことがあります。
成果物ではなく、判断の記録をもらってください。
動くものを納品してもらうのは当たり前です。問題はその先で、なぜその設計にしたのか、何を試してうまくいかなかったのかが残っていないと、次に変更したいときに毎回ゼロから説明することになります。
具体的には、契約に次を入れておきます。
- 設計の判断理由を含むドキュメント
- 試して採用しなかった選択肢とその理由
- 運用で見るべき指標と、劣化したときの対処
- 別の会社が引き継げる程度の情報
4つ目が大事です。「この会社にしか分からない状態」を作らない。 これは相手を疑うという話ではなく、担当者が代わることも、会社の方針が変わることもあるからです。
もう一つ。社内の誰か1人は、必ず伴走させてください。 全部任せて成果物だけ受け取ると、次の変更もまた発注になります。一緒にやった人が1人いれば、その人が社内の窓口になり、次からの発注が小さくなります。
内製化の本体は、技術力ではない
ここが一番伝えたいところです。
内製化というと、エンジニアを採用して開発できるようにする話だと思われがちです。それも一部ですが、本体は別のところにあります。
決められる状態を社内に持つこと。 これが内製化の本体だと思っています。
- どの業務に使うかを、自分たちで決められる
- うまくいかなかったときに、原因の当たりをつけられる
- ベンダーの提案が妥当かどうかを判断できる
- やめるべきかどうかを判断できる
この4つができれば、実装を外に出していても実質的に内製です。逆に、開発を全部内製していても、何に使うかをベンダーに決めてもらっているなら、それは内製ではありません。
判断できるようになるには、ある程度は自分で触るしかありません。全部を外注すると、触る機会が生まれない。 これが丸投げの本当の問題です。技術が身につかないことより、判断の勘が育たないことのほうが痛い。
始め方
現実的な順番を書きます。
1. いま外に出しているものを棚卸しする。 何を、いくらで、どのくらいの頻度で変更しているか。変更のたびに時間がかかっているものが、内製の候補です。
2. 左上を1つ選ぶ。 変更が多くて業務知識が要るものを、ひとつだけ。複数を同時に内側へ持ってこようとすると、たいてい失敗します。
3. 担当を1人決めて、時間を確保する。 兼務で片手間だと進みません。週に何時間使えるかを明示します。
4. 外注先には伴走を頼む。 「全部やってください」ではなく「一緒にやって、できるようにしてください」。これは契約の書き方が変わるので、最初に伝えておく必要があります。
5. できるようになったら、次を選ぶ。 1つ内側に入れて回るようになってから次です。
PoCから本番化までの判断についてはPoC止まりから抜け出すに、組織に定着させる話は生成AIが社内で定着しない理由に書きました。
当社のWARPでは、この「一緒にやって、できるようにする」形の支援をしています。作って納めるより時間はかかりますが、次の発注が小さくなるのが正しい姿だと考えています。 自社の現在地を測りたい方は、AIリテラシー診断から始めてみてください。
まとめ
- 内製化は目的ではない。軸は「変更の頻度」と「業務知識が要るか」の2つ
- モデルを自分で作る必要は、ほとんどの会社にない
- 人は足りない前提。DX人材の量が不足している企業は85.5%
- 足りないからこそ、全部を内製しない。 限られた人を左上に集中させる
- 外注では成果物より判断の記録をもらう。別の会社が引き継げる状態にする
- 内製化の本体は技術力ではなく、決められる状態を社内に持つこと
- 始めるときは1つだけ。担当を決めて時間を確保する
内製と外注の線引きを具体的に相談したい方は、お問い合わせからご連絡ください。
参考文献
Footnotes
-
国内企業のDX動向・AI活用動向のポイント(IPA 独立行政法人情報処理推進機構、2026年7月16日)。DXを推進する人材の「量」について「やや不足している」「大幅に不足している」の合計が85.5%であること、およびAI関連人材のうち「現場の知見と基礎的AI知識を持ち、自社へのAI導入を推進できる従業員」の不足割合が高いままであることは同資料による。回収数1,799社、調査実施期間2026年4月17日から6月12日 ↩ ↩2






