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生成AIの「学習データ開示」原則案を読む|プリンシプル・コードで自社が対象になるかの判定から

公開2026-08-19濱本 隆太

2026年8月18日、政府の検討会が生成AI事業者向けの原則案を示しました。学習データの収集方法を公表し、権利者からの照会に答える。法的拘束力はなく、コンプライ・オア・エクスプレインです。まず効いてくるのは「自社が対象になるのか」の判定で、業界特化型のAIサービスを出している会社はここを飛ばせません。原文に沿って整理します。

生成AIの「学習データ開示」原則案を読む|プリンシプル・コードで自社が対象になるかの判定から
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株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。

2026年8月18日、内閣府の「AI時代の知的財産権検討会」(第13回)で、生成AI事業者向けの原則案が示されました1。報道では「政府、AI学習データの開示要請」「拘束力なし」という見出しで流れています。

見出しだけ読むと、大手のAI開発企業の話に見えます。実際、原文を読むまでは私もそう思っていました。読んでみて印象が変わったのは、適用対象の切り分けにかなりの分量が割かれているところです。ここが本題だと思います。自社のAIサービスが対象なのかどうかで、やることが根本的に変わるからです。

この記事では、原文(資料1)に沿って、まず対象の判定、次に3つの原則の中身、最後に対象外だった場合に残る論点を整理します。

何が決まりつつあるのか

正式名称は「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)」です。長いので以下ではコードと呼びます。

出発点は2つあります。ひとつは2025年に成立・施行されたAI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律、令和7年法律第53号)と、それに基づく人工知能基本計画。もうひとつが、2026年6月12日に知的財産戦略本部が決定した知的財産推進計画2026で、そこにコードの策定が明記されました2

手法として参照されているのが、コーポレートガバナンスの分野におけるスチュワードシップ・コードです。法律ではなく、受け入れる企業が原則を実施し、実施しない場合は理由を説明する。いわゆるコンプライ・オア・エクスプレインです。原文にはこう書かれています。

この文書は、生成AI事業者に対して、生成AI事業者に帰属する機微な情報(営業秘密及び安全性・セキュリティに関するものをいう。)の強制的な開示を求めるものではなく、法的拘束力を有する規範ではない。

強制ではない。ただし、後で見るように「説明のしかた」にはかなり具体的な注文がついています。

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まず、自社が対象かどうか

コードの対象は「生成AI開発者」と「生成AI提供者」を合わせた生成AI事業者です。定義を要点だけ並べます。

区分 定義(要旨) 原則として含まれない例
生成AI開発者 生成AIシステムを構築し、それを公衆に実質的に提供した者 委託を受けてモデル開発・データ収集・前処理・学習などの一部工程のみを担い、納入する立場の者
生成AI提供者 生成AIシステムを製品や業務プロセスに組み込んだサービスを公衆に提供した者 委託を受けて検証・連携実装・運用サポートの一部のみを担う者
非該当 公衆への提供を行わず研究・開発をしているにすぎない者

ここから先が実務的に重要です。原文は、該当しない典型例を具体例つきで示しています。

1. 一社のデータだけで作った特化型を、その会社にだけ提供する場合

汎用の生成AIのライセンスを受けた法人Bが、法人Cから提供されたデータを使って法人Cの社内業務に特化させたシステムを開発し、法人Cに提供している。この場合の法人Bは該当しません(当該システムが法人Cのデータのみに基づいて生成する構築になっている場合に限る、という条件つきです)。法人Cが、そのチャットボットを自社の顧客だけに提供している場合も同様に該当しないとされています。

企業グループ内での提供も、グループ内から提供を受けたデータのみを使い、グループ内やその指定する範囲だけが使うのであれば、同じ扱いです。

2. 権利侵害のおそれが著しく低い場合

ここが、私が読んでいていちばん「なるほど」と思った部分です。

第三者の権利を侵害する生成物が生成されるおそれが著しく低い生成AIシステム又は生成AIサービスを開発又は提供している場合には、この文書における「生成AI事業者」に該当しない。

具体例として、次の生成物が極めて高い頻度で生成されるサービスが挙げられています。

  • 既存の著作物の創作的表現を直接感得することができない生成物
  • 意思決定に資する統計的データ、推論結果等にとどまる生成物

後者は、業務系AIの多くが当てはまり得ます。判定結果を返す、スコアを出す、該当・非該当の根拠を示す。こうしたアウトプットが中心のサービスは、そもそも著作物の創作的表現を出力する設計になっていません。

3. ただし、業界特化型は原則として該当し得る

一方で、上記1に当たらない限り、特定の業界に特化した生成AIを複数社に提供する者は該当し得るとされています。汎用モデルのライセンスを受けた法人Eが、業界Xに特化させたサービスを法人F・G・Hに提供している場合、法人Eは生成AI事業者に当たる、という例です。

ただし対応が求められるのは、法人Eが汎用サービスに付加した部分に限定されると明記されています。基盤モデル側は法人Dが原則を守ることで担保される、という整理です。ここは重要な緩和で、垂直特化型のSaaSが基盤モデルの学習データまで説明する義務は負いません。

4. 日本に拠点がなくても、日本向けなら対象

日本国内に本店又は主たる事務所を有しない生成AI事業者であっても、生成AIシステムや生成AIサービスが日本に向けて提供されている場合(日本国民が利用できる場合を含むがこれに限られない。)には、この文書の適用を受けるものとする。

国内勢だけが負担を負う設計にはなっていません。実効性は届出の運用次第だと思いますが、建て付けとしては域外適用です。

3つの原則の中身

原則1:コーポレートサイトで概要を開示する

自社のコーポレートサイト等で、次の事項の概要を、権利者・利用者を含むすべての人が閲覧できる状態にする。開示できない部分は理由を示してエクスプレインする、という構造です。

使用モデル関係

  • 名称(識別子、バージョン)
  • 公開日を含む来歴(過去のバージョンや修正履歴)
  • アーキテクチャ・設計仕様(第三者とのライセンス契約の状況、必要なハードウェア・ソフトウェア)
  • 利用規定(想定用途、制限・禁止用途の明確化)
  • トレーニングプロセスの内容

学習データ関係

  • 学習・検証に用いたデータに関する事項。RAG(検索拡張生成)で用いるものを含むデータの種類、ウェブクロールや第三者から取得した非公開データセット、公開データセット、その他の手段で収集したデータ、合成データの利用有無および目的
  • クローラ(目的、データ収集期間、名称・識別子、第三者クローラの利用の有無とその名称・識別子)

アカウンタビリティ関係

  • 意思決定等の追跡・遡及が可能な状態の内容(トレーサビリティ、責任者の明示、責任の分配、文書化)

RAGが名指しで入っているのは実務的に効きます。「うちはモデルを学習させていないからデータの話は関係ない」という整理が通らないためです。

そして知的財産権保護のための措置として、次の対応状況を開示するとされています。

  • 知財保護のための原則を策定し、責任体制を明確化し、年1回以上見直して要旨を外部公表する
  • 他者の知的財産権を侵害しない
  • ペイウォール等のアクセス制限やrobots.txt等の機械可読な指示に従うクローラを採用し、ユーザーエージェントごとにその措置を公開し、変更時には通知する
  • 学習したログを一定期間保持する
  • いわゆる海賊版サイト等へのクロール回避に取り組む
  • 侵害する生成物の生成を防止する技術的措置を可能な限り講じる
  • 電子透かし、C2PA等の出所・来歴を証明する技術的措置を可能な限り講じる
  • 生成物が他者の知財を侵害すると考えられる場合、利用者に対して利用すべきでない旨を周知する
  • 権利者救済のための窓口を整備し、申出要件を可能な限り明確化し、対応記録を保存する

事務局は開示の具体例も参考資料として示しています3。たとえばクローラの欄には「○○bot:〇年〇月〇日より継続的に収集」といった書き方の例が並びます。何をどこまで書けばいいかで迷う部分は、この具体例を見ると当たりがつきます。

原則2:法的手続を進めている権利者からの照会に答える

原則2は、権利者側の救済に直結する部分です。対象は、映画・音楽・演劇・文芸・写真・漫画・アニメーション・コンピュータゲーム等について、自らの権利の実現のために訴訟提起・調停申立て・ADRその他の法的手続を現に行い、または準備をしている者と、その代理人弁護士等です。

開示を求められるのは次の2点です。

  • 学習・検証に用いたデータに、照会するURL等の情報(事業者において容易にアクセス・確認可能なものに限る)が含まれているか否か
  • 提供者が回答できない場合、搭載されている生成AIモデルを開発した者の名称

求める側にも3つの要件が課されます。該当者であることを示す理由、回答の利用目的の明示と目的外に使わない誓約、対照する情報の提示と開示を求める理由の特定。

注意すべき注記があります。自作品がクロール対象に含まれているかを一般的に照会することは想定されていないと脚注で明示されています。想定されているのは、自作品と同一・類似の生成物を見つけた人が、その作品掲載ページのURLを示して、当該ドメインがクロール対象や第三者提供データの取得源に含まれるかを尋ねる場面です。

濫用対策として手数料や回数制限を設けることは考えられるとしつつ、開示の求めを萎縮させ、困難にし、または諦めさせるような設計はしないよう釘が刺されています。

原則3:生成した利用者からの照会に答える

原則3は、原則2と似ていますが主体が違います。そのサービスで生成した本人が、生成物とプロンプトを示して、同一・類似のコンテンツが掲載されたURL等が学習データに含まれるかを尋ねる、という枠組みです。

原則2との違いで目を引くのは、誓約の内容です。原則3では、目的外利用に加えて訴訟提起・調停申立て・ADRの申立てに用いる目的で利用しないことを誓約させます。つまり原則3は、権利者が争うためのルートではなく、利用者が自分の生成物を安心して使えるかを確かめるためのルートとして設計されています。

「エクスプレイン」のハードルは、思ったより高い

拘束力がないと聞くと、説明さえすれば何とでもなるように読めます。原文はそこを潰しにいっています。

体制がないという説明だけでは足りない。

本原則を実施する体制構築ができていないことを述べるだけでは「エクスプレイン」として不十分とし、事業者としての事業規模等を勘案しつつ、当該体制構築が完了する時期を適切に説明するものとする。

利用規約で制限している場合は、その理由まで説明する。

契約又は利用規約においてこの文書の示す原則の適用を撤廃又は制限する規定(オーバーライド条項)が存在しているということを示すだけでは「エクスプレイン」としては不十分であり、なぜ当該規定を設けて撤廃又は制限をしているのかということを説明することを要する。

受入れを表明していても、利用規約で開示対象を絞るなど実質的に実施していないと評価できる場合は、別途エクスプレインを要するとも書かれています。表明と実態を突き合わせる設計です。

一方で、事務局は届出内容の審査をしないとも明記されています。

内閣府知的財産戦略推進事務局は当該届出の内容について審査を行うものではなく、第三者からの照会等についても回答しない。

審査しない代わりに、受入れ表明した事業者の一覧とコーポレートサイトへのリンクを公表する。評価は市場に委ねるという設計です。開示の巧拙がそのまま比較される形になるので、出し方は考えたほうがいいと思います。

なお、パブリックコメント時点からの修正として、オープンソースソフトウェアに関する例外の記載が削除されています。OSSだからという理由での適用除外は、現時点の案には残っていません。

対象外でも、やっておく価値があること

自社が生成AI事業者に該当しないと整理できた場合でも、この案から読み取れる実務は残ります。

1. クローラ制御は、権利者側の実務でもある

コードは事業者に対してrobots.txt等の遵守を求めています。これを裏返すと、自社サイトのrobots.txtが、コンテンツの扱いを機械可読で意思表示する手段になっているということです。自社のオウンドメディアやマニュアル、資料をどう扱ってほしいのか。書いていなければ、意思表示をしていないことになります。

2. RAGで何を読ませているかを説明できるか

社内でRAGを組んでいる会社は多いと思います。対象かどうかとは別に、何を読ませているかを説明できる状態にしておくのは、情報漏えいの観点でも監査の観点でも必要です。原則1が求めているのは、突き詰めればこれです。

3. 窓口と記録

権利者からの申出を受ける窓口を作り、対応記録を残す。ここはAI固有の話ではなく、既存の問い合わせ体制に接続できる部分です。原文も「既存の体制を活用することも含め」と書いています。

参考として、知的財産推進計画2026には、日本企業の生成AI利用率が55.2%で、米国・ドイツ・中国の企業が90%超であるのに対して低位にとどまるというデータが引かれています2。利用が進んでいない段階で透明性のルールが先に来ることに違和感を持つ人もいると思います。ただ、後から整えるほうが高くつくのは、どの分野でも同じだと感じています。

AI推進法そのものの枠組みについては、AI推進法とAI事業者ガイドラインで整理しています。あわせて読んでいただくと、今回の案がどこに接続しているかが見えると思います。

まとめ

  • 2026年8月18日、AI時代の知的財産権検討会(第13回)でプリンシプル・コード案の修正版が示された。法的拘束力はなく、コンプライ・オア・エクスプレイン
  • 対象は「生成AI開発者」と「生成AI提供者」。一社のデータのみで作った特化型を当該社にだけ提供する場合や、企業グループ内での提供は原則として対象外
  • 意思決定に資する統計的データ・推論結果にとどまる生成物が中心のサービスも、権利侵害のおそれが著しく低いものとして対象外とされている
  • 業界特化型を複数社に提供する場合は対象になり得る。ただし求められるのは汎用モデルに付加した部分に限定される
  • 原則1の開示にはRAGで用いるデータとクローラの名称・収集期間が含まれる。「学習させていないから関係ない」は通らない
  • 「体制がない」だけではエクスプレインとして不十分。利用規約で制限しているならその理由まで説明する必要がある
  • 事務局は内容を審査しない。受入れ表明した事業者の一覧を公表し、評価は市場に委ねる建て付け

読み終えて思ったのは、この案がいちばん時間を割いているのは規制の強さではなく、線引きの明確さだということです。対象を広げすぎれば実装しているだけの会社まで巻き込まれ、狭めすぎれば意味がなくなる。具体例を並べて境界を示す書き方は、実務側としてはありがたい。まずは自社がどちら側にいるかを一度確認してみてください。

社内のAI活用について、データの取り扱いとガバナンスの設計から相談したい方は、お問い合わせからご連絡ください。

Footnotes

  1. AI時代の知的財産権検討会(第13回)資料1「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)(パブリックコメント時点からの修正)」(2026年8月18日)。本文中の引用および対象の定義、原則1〜3の内容、エクスプレインに関する記述は同資料による。https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/titeki2/ai_kentoukai/gijisidai/dai13/index.html

  2. 知的財産戦略本部「知的財産推進計画2026〜成長戦略を支える知財戦略の推進〜」(2026年6月12日決定)。同検討会第13回の参考資料2として抜粋が配布されている。生成AI利用率の国際比較(総務省調査、日本55.2%)およびコード策定の位置づけは同資料による。https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/titeki2/ai_kentoukai/gijisidai/dai13/index.html 2

  3. 同検討会第13回 参考資料1「プリンシプル・コード(仮称)(案)概要開示対象事項 具体例」(2026年8月18日)。開示の記載例は同資料による。https://www.cas.go.jp/jp/seisakukaigi/titeki2/ai_kentoukai/gijisidai/dai13/index.html

本記事は一部にAIを用いて作成し、公開前に人間が一次情報の確認と編集を行っています。

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