こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。AIというと、文章を書いたり画像を生成したりといった平和な用途を思い浮かべる方が多いと思います。けれど同じ技術が、いま戦場と国家安全保障の最前線に静かに入り込んでいます。標的を選ぶAI、自ら攻撃するかどうかを判断しかねない兵器、そして「このAIモデルは外国に渡してはいけない」と国家が線を引く動き。どれも遠い世界の話に見えて、実は私たちが日々使うAIサービスの足元につながっています。
2026年6月12日、米政府は大手AI企業に対し、最上位のAIモデルへの外国籍ユーザーのアクセスを停止せよという指令を出したと報じられました。止まったのは「兵器」ではなく「AIそのもの」です。
この記事では、軍事におけるAIの使われ方、自律型致死兵器をめぐる国際ルールづくり、そしてAIモデルが国家の管理対象になり始めた流れを、できるだけ専門用語をかみくだきながらたどっていきます。自社が輸出管理や経済安全保障の網にどれだけ触れているか気になった方は、先に輸出管理リスクの3分診断で足元を確かめてから読み進めても構いません。
「AIが兵器になる」とはどういうことか
まず誤解をほどいておきたいのですが、いま現実に進んでいるのは「ターミネーターのようなロボット兵士」ではありません。もっと地味で、もっと広く使われている形のAIです。それは、戦場から集まる膨大なデータを読み解き、どこに何があるか、誰が標的になりうるかを「選り分ける」ソフトウェアとしてのAIです。
象徴的なのが、米国防総省が2017年に始めたプロジェクト・メイブン(Project Maven)です1。無人機やセンサーが集めるISR、つまり情報・監視・偵察(Intelligence, Surveillance, Reconnaissance)の映像を、機械学習で自動的に分析する取り組みでした。人間が何時間もモニターをにらんで車両や人物を探す作業を、AIが下働きとして肩代わりするイメージです。報道によると、この系譜にある「Maven Smart System」は2022年以降のウクライナで、ロシア側の装備の位置情報を割り出すために使われたとされています。米国家地理空間情報局(NGA)の長官は2025年9月、メイブンが2026年半ばまでに「機械が生成した」情報を統合軍の指揮官へ大規模に届け始めると述べたと伝えられていますが、これは二次情報を経由した引用で、原典の発言は現時点で未確認です。
もう一つ、世界の注目を集めたのがガザでの標的選定です。イスラエル軍の情報将校6人の証言(ジャーナリストYuval Abrahamに対して行われ、+972 MagazineとLocal Callが公表。公表前にThe Guardianへ共有された)によると、イスラエル軍は「Lavender」と呼ばれるシステムで人間の標的候補を生成し、あわせて「個人ではなく建物や構造物を標的として推奨する」別のAI判断支援システムを用いたとされます2。後者は、イスラエル軍自身のウェブサイト上の短い声明が「Habsora(英語ではthe Gospel)」と呼んだシステムです。同じ取材からは、Lavenderが一時期、ハマスやパレスチナ・イスラム聖戦と結びつけられたパレスチナ人男性を最大37,000人リスト化していたとされること、ある将校が1件あたり「20秒」しかかけず、「承認印を押すこと以外に人間としての付加価値はなかった」と述べたことも伝えられています。ただしこれらは匿名の証言にもとづくものです。イスラエル軍は内容を否定し、「イスラエル国防軍は、テロ工作員を特定したり、その人物がテロリストかどうかを予測したりする人工知能システムを使用していない」「情報システムは、標的特定の過程におけるアナリストのための道具にすぎない」と述べています。事実として断定はできません。
自律型致死兵器の議論を理解するうえで、まず「人間がどこまで関与しているか」という物差しを押さえておくと見通しがよくなります。専門家はおおまかに次の三段階で整理します。
| 自律度の分類 | 人間の関与 | イメージ |
|---|---|---|
| human-in-the-loop(人間が輪の中) | 攻撃の実行を人間が承認する | 兵士がモニターで確認し、発射ボタンを押す |
| human-on-the-loop(人間が輪の上) | 機械が動き、人間は監視して必要なら止める | 迎撃システムが自動作動し、人間が中止できる |
| human-out-of-the-loop(人間が輪の外) | 起動後は人間が介在せず機械が完結する | LAWSがまさに問題にする領域 |
具体的な兵器で言えば、あらかじめ設定した区域を旋回しながら標的を探す徘徊型弾薬(loitering munition)が、この境界線上にあります。2020年のリビア内戦で使われたトルコ製のKargu-2について、国連の専門家パネルの報告書は、機械が人間の指示なしに標的を追尾しうる形で運用された可能性に触れました。ウクライナの戦場でも、安価なFPVドローンに画像認識を組み合わせ、通信を妨害されても最後の数百メートルを自律で突入させる試みが広がっています。どこまでが「人間が撃った」で、どこからが「機械が撃った」なのか。この線引きの曖昧さこそが、次のルールづくりの出発点になります。
私のスタンスを述べておくと、ここで本当に怖いのは「AIが勝手に撃つ」ことよりも、「AIが選んだものを人間が十分に吟味せず受け入れてしまう」ことだと考えています。選別係としてのAIが優秀になるほど、人間は判断を委ねたくなります。その緩みこそが、自律型致死兵器の議論の核心につながっていきます。
該非判定の属人化を、AIで解消する。
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LAWSをめぐる二つの国際ルールづくり
自律型致死兵器システムは、英語の頭文字を取ってLAWS(Lethal Autonomous Weapon Systems)と呼ばれます。人間が引き金を引く判断に有意に関与しないまま、機械が自ら標的を見つけて攻撃する兵器、というのがおおまかなイメージです。ただし「どこからが自律なのか」「どの程度の人間の関与があれば許されるのか」について、国際的に合意された一つの定義はまだありません。ここで大事なのは、国際社会が動いている方向は一本道ではなく、大きく二つの系統に分かれているという点です。一つは「危ないものを禁じる」軍縮の系統、もう一つは「使うなら責任を持って使う」というガバナンスの系統です。
「禁止」に向かう軍縮の系統
禁止・規制の主な舞台は、ジュネーブで開かれる特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の政府専門家会合(GGE)です3。この会合は2019年に「11の指導原則」をまとめ、国際人道法はLAWSにも当然に適用される、人間の責任は機械に転嫁できない、といった土台を確認しました。近年は「禁止すべきものは禁止し、それ以外は規制する」という二層アプローチが議論の軸になっています。GGEに与えられた任務は、規制の性格を予断しない形で「文書の諸要素(a set of elements of an instrument, without prejudging its nature)」をコンセンサスで作ることです。とりまとめ役はオランダのRobert in den Bosch議長で、各国の意見を反映した草案(rolling text)を積み上げ、最終報告は2026年に開かれるCCWの運用検討会議へ提出される予定です。2026年の会合は3月初旬と8月末から9月初旬に、合計10日間ほどジュネーブで予定されていると伝えられています。これは「条約が結ばれた」段階ではなく、あくまで交渉の土台づくりを続けている段階だという点に注意が必要です。
国連総会の側でも、より政治的なメッセージが積み上がっています。国連の会議記録によると、国連総会第一委員会が採択した自律型兵器に関する決議は、本会議で草案番号 A/C.1/80/L.41 として、記録投票の結果、賛成164、反対6、棄権7で採択されました4。反対に回ったのはベラルーシ、ブルンジ、北朝鮮、イスラエル、ロシア、米国の6か国です。国連事務総長は2023年の「平和のための新アジェンダ」で、人間の管理を欠くLAWSを禁じる法的拘束力のある文書を2026年までに締結するよう勧告し、事務総長と赤十字国際委員会(ICRC)は各国に2026年末までの合意を求めています。求めと合意は別物ですが、期限を切って各国に迫っている点は見逃せません。
構図としては、禁止に前向きな多数の国と、規制に慎重な一部の重武装国が向き合っています。市民団体や報道によると、2025年9月の会合ではブラジルが主導し、39の締約国が「交渉を始める用意がある」という共同声明を出した一方で、実際の交渉入りはロシアやイスラエル、インド、豪州、韓国、米国といった国々によって阻まれてきたと指摘されています56。背景には米中を筆頭とするAI軍拡の色合いもあり、主導権を握りたい国ほど自らの手を縛る合意には慎重です。関連して、核の指揮統制にAIをどこまで関与させるかという論点もあり、核使用の判断は人間が保持するという理解を米中の首脳が2024年に確認したと報じられています。ルールづくりは進んでいるようでいて、肝心の「拘束力」の手前で足踏みしている、というのが正直な現在地です。
「責任ある利用」を掲げるもう一つの系統
禁止の議論とは別に、「AIを軍事に使うこと自体は否定しないが、責任ある形で使う」というガバナンスの流れがあります。中心にあるのが、米国が主導する「責任あるAIの軍事利用に関する政治宣言(Political Declaration on Responsible Military Use of AI and Autonomy)」です7。2023年2月、ハーグで開かれたREAIMサミットで当時のBonnie Jenkins国務次官が発表し、2024年1月時点で51か国が支持しました。翌年のソウルREAIM(2024年)では、より具体的な「Blueprint for Action」がまとめられています。ここで語られるのは「禁止」ではなく、開発から運用までの各段階でどう人間の責任を確保するか、という実装寄りの原則です。
米国内には、この考え方を制度として先取りした規範もあります。国防総省の指令3000.09(DoD Directive 3000.09、2023年1月25日改訂)は、自律・半自律兵器の設計と運用に「適切な水準の人間の判断(appropriate levels of human judgment)」を求めています8。禁止条約を待たずに、自国の運用ルールで歯止めをかけておくというアプローチです。禁止を目指すジュネーブの系統と、責任ある利用を掲げるこの系統は、しばしば緊張関係にあります。前者から見れば後者は「使うことの正当化」に映り、後者から見れば前者は「現実の抑止を無視した理想論」に映る。この二つのせめぎ合いが、LAWSをめぐる国際政治の実像です。
日本はLAWSにどう向き合っているか
では日本はどういう立場なのか。外務省の説明によると、日本は「人間の関与が及ばない完全自律型の致死性兵器の開発は行わない」とし、国際法や国内法で使用が認められない装備品の研究開発も行わないと表明しています9。鍵になるのは「有意な人間の関与(significant human involvement)」という言葉です。日本は、兵器の使用にはこの有意な人間の関与が欠かせないとしたうえで、規制すべき対象はその関与を欠く完全自律型に絞るべきだという立場を取っています。
裏を返すと、人間がきちんと関与している自律システムまで一律に縛るべきではない、という考え方です。外務省の説明では、人間の判断が確保された自律技術は、ヒューマンエラーを減らしたり、少ない人員で防衛を担ったりするうえで安全保障上の意義があるとされています。少子化で自衛隊員の確保が難しくなる日本にとって、省力化は切実なテーマでもあります。日本は国連やCCWの場へ自国の考えをまとめた作業文書を提出しており、直近の提出は2024年5月とされています。なお外務省の該当ページは執筆時点でも自動取得ができず、上記は同省の作業文書や複数の一次資料を突き合わせた内容です。細部は最新の公表資料で確認する前提で読んでいただければと思います。
私自身は、この「有意な人間の関与」という線引きは現実的だと感じています。完全自律型だけを禁じ、人間が責任を持つ範囲は認めるという考え方は、技術を全否定せずに歯止めをかける落としどころになりうるからです。ただ難しいのは、「有意」とはどの程度なのかという中身です。ガザの報道で問題になったように、人間がいちおう確認していても、その確認が短時間の追認に過ぎなければ、関与は名ばかりになります。日本が掲げる原則を本当に意味あるものにするには、関与の「質」をどう定義し、どう検証するのかという、もう一段深い議論が要ると考えています。
AIモデルそのものが国家管理の対象になった
ここからが、この一、二年でいちばん新しく、そして見落とされがちな論点です。これまで安全保障の関心は、ミサイルや戦闘機、半導体や製造装置といった「モノ」と、その設計情報という「技術」に向いてきました。ところが2025年から2026年にかけて、米国はAIモデルそのものを安全保障の資産として直接管理し始めました。しかも、そのやり方が制度として固まらないまま、実務だけが先に走っている。この「制度の空白」が、いまいちばん厄介なところです。
拡散規則の撤回とECCN 4E091
最初の伏線は輸出管理でした。法律事務所などの解説によると、米商務省産業安全保障局(BIS)は2025年1月、史上初めてAIモデルのウェイト(学習で得た膨大なパラメータのかたまりで、モデルの中身そのものに当たります)を輸出管理の対象に加える暫定最終規則を公表しました10。新しい分類番号ECCN 4E091が設けられ、対象は10の26乗回を超える演算で学習された非公開(クローズド)のウェイトに絞られました。BISは、この基準に当たるのは世界でも5モデル未満だと推計しています。これが、いわゆる「AI拡散規則(Framework for AI Diffusion)」です。公示されたのは2025年1月13日、連邦官報への掲載は1月15日で、主要な遵守期日を迎える前の2025年5月13日に撤回されました。
ところが施行を待たずに方針は反転します。トランプ政権下のBISは2025年5月13日にこの規則を正式に撤回しました11。担当のKessler次官は「商業的現実から乖離している」と説明し、同じ日に中国製の先端半導体のリスク、米国製チップが中国のAI学習に使われることへの管理、横流し防止のベストプラクティスという三本のガイダンスを出して「より簡素な枠組み」を予告しました。ただし2026年半ばになっても、その簡素な代替規則は正式には整備されていません。AIモデルを管理対象にするのか、しないのか。制度の骨格が定まらないまま、政府は個別の命令で動くようになりました。
Fable 5・Mythos停止とGPT-5.6の限定提供
制度が空白のまま、2026年は個別命令の年になりました。報道によると、米国防総省(2025年に「戦争省(Department of War)」へ改称。以下、戦争省)は2025年7月にAnthropic、Google、OpenAI、xAIへそれぞれ最大2億ドルの契約を出し、フロンティアAIの軍事活用を加速させました。その一方でAnthropicは2026年2月26日、ダリオ・アモデイCEO名義の声明で、戦争省との議論において二つのレッドラインを明言しました12。国内の大規模監視と、完全自律型兵器の二つには自社技術を使わせないというものです。声明は「今日のフロンティアAIは、完全自律兵器を担えるほど信頼できない(frontier AI systems are simply not reliable enough to power fully autonomous weapons)」とも述べています。これに対し米政権は2026年2月末、連邦機関にAnthropic技術の利用停止を指示したと報じられ、ほぼ同時にOpenAIが戦争省との展開契約を発表しました。OpenAIは国内大規模監視と人間の承認なき致死的自律の二点は禁じつつ、「合法的な利用」という枠組みで折り合ったとされます13。同じレッドラインでも、立て方が対照的でした。
| 企業 | レッドラインの立て方 | 内容 |
|---|---|---|
| Anthropic | 契約上の不可侵として明文化 | 完全自律型兵器と国内の大規模監視には使わせない(2026年2月26日声明) |
| OpenAI | 「合法的な利用」の枠組みで合意 | 国内大規模監視と人間の承認なき致死的自律を禁じつつ戦争省契約を締結 |
そして決定打が2026年6月でした。報道によると、米商務省は6月12日の金曜日、Anthropicに対し最上位モデルのFable 5とMythosを米国外の者、および国内にいる外国籍者向けに提供停止するよう命じる輸出管理指令を出しました14。Anthropicは外国籍をリアルタイムに選別する手段がないとして、通知からおよそ90分のうちに全顧客向けに両モデルを無効化し、モデルは一週間以上にわたって利用できなくなったと伝えられています15。引き金は二つあったとされます。一つは、限定パートナー枠で韓国の通信事業者にアクセスを与えたところ、その企業に中国との関係が疑われた件で、当該企業は関与を否定しています。もう一つは、Amazonのアンディ・ジャシーCEOが、自社の研究者がFable 5の安全装置を回り込む方法を見つけたと政権に通報した件で、Anthropicはこれを「すでにパッチ済みの限定的な問題であって、安全対策の全面的な突破ではない」と反論しています。さらに同月末には、OpenAIが新モデルGPT-5.6(Sol、Terra、Lunaというラインナップ)を発表しながらも、米政府の要請で提供を「信頼できる少数のパートナー」に絞ったと報じられました16。OpenAIは「この種の政府アクセス手続きが長期的な既定になるとは考えない」とコメントしています。この一連の流れを、より輸出管理の角度から掘り下げた記事として、AIモデルが輸出管理の対象になる時代も合わせて読んでいただくと、点が線でつながると思います。
ここまでの動きを時系列で並べておきます。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年1月 | BISがAIモデルウェイトを初めて輸出管理対象化(ECCN 4E091)。AI拡散規則を公表 |
| 2025年5月13日 | トランプ政権BISがAI拡散規則を撤回。同日にガイダンス3本を発出 |
| 2025年7月 | 戦争省がAnthropic・Google・OpenAI・xAIへ各最大2億ドルの契約 |
| 2025年11月 | 国連総会がLAWS決議を賛成164・反対6・棄権7で採択 |
| 2026年2月26日 | Anthropicがダリオ・アモデイ名義で二つのレッドラインを声明 |
| 2026年2月末 | 米政権が連邦機関へAnthropic利用停止を指示。OpenAIが戦争省契約を発表 |
| 2026年6月12日 | 米商務省がFable 5・Mythosの外国籍アクセス停止を命令 |
| 2026年6月26日ごろ | OpenAIがGPT-5.6を信頼できる少数のパートナーに限定 |
「使う側」「作る側」の日本企業に何が問われるか
ここまで読むと、「アメリカの軍事や政治の話で、日本のビジネスには関係ない」と感じるかもしれません。けれど私は、むしろ日本企業こそ自分ごととして受け止めるべきだと考えています。理由は二つあります。
一つは、使う側のリスクです。日本企業の多くは、米国由来のAIやクラウドを業務に組み込んでいます。もしそのモデルが安全保障上の理由である日突然止まったら、その上で動いている業務もろとも止まります。2026年6月の外国籍アクセス停止は、Anthropicが外国籍を選り分けられないという理由で全顧客に波及しました。つまり「日本企業だから対象外」とは限らないのです。どのAIに、どの国の技術に依存しているのか、止まったときの代替はあるのか。この棚卸しが、これからの事業継続計画の一部になります。アクセスそのものが管理対象になるという論点は、使っているAIが、ある日突然止まる時代の備え方で実務目線に整理しています。
もう一つは、作る側・渡す側のリスクです。AIモデルやその関連技術が輸出管理の対象に分類されるようになると、誰に何を提供してよいのかを一件ずつ判定する必要が出てきます。輸出管理の世界では、ある技術や製品が規制リストに当たるかどうかを確かめる作業を該非判定と呼びます。さらに、外国籍の従業員や海外拠点に技術を使わせる行為が、国境を越えなくても輸出とみなされる「みなし輸出」という考え方もあります。AIモデルやAPIへのアクセスがこの射程に入ってくると、社内の誰がどのAIを触れるか、取引先にどこまで使わせるか、といった管理が一気に複雑になります。拡散規則が撤回され、代わりの枠組みが定まらないまま個別命令が飛んでくる。この不確実さこそが、企業にとっての本当のコストです。
ここで私たちTIMEWELLが開発した輸出管理AIエージェントTRAFEED(旧ZEROCK ExCHECK)が役に立つ場面があります。TRAFEEDは、製品や技術が規制に当たるかどうかの該非判定や、取引相手の審査、規制の更新監視を支援するために作ったサービスです。AIの軍事利用や国家管理が進むほど、AIモデルや関連技術についても「これは渡してよいのか」「相手は問題ないか」を継続的に確かめる仕組みが要ります。担当者の記憶や勘に頼った判定を、最新の規制に沿った運用へ置き換える。地味ですが、これが「使う側」「作る側」双方のリスクをならす現実的な一歩になります。最終的な該非判定は貴社の輸出管理責任者が行う前提で、その手前の調査と一次スクリーニングを速く正確にする、という位置づけです。
これから問われる線引きと、企業ができる備え
最後に、これからの論点を整理しておきます。LAWSの規制(CCWや国連の議論)と、企業のAIモデルへの国家管理は、制度としては別系統です。前者は兵器の使われ方を縛る軍縮の文脈、後者は安全保障資産としてのAIを誰に渡すかという管理の文脈です。けれど両者は「有意な人間の関与をどこまで求めるか」「合法的な利用とは何か」「完全自律兵器や大規模監視という越えてはならない一線をどこに引くか」という問いで、はっきりと接続しています。Anthropicと米政府のやり取りは、その接続点が企業のレッドラインという形で噴き出した出来事でした。
技術の側から見れば、これは過去にもあった構図の繰り返しでもあります。あるテック系メディアは、Fable 5やMythosの停止を、フロンティアAIを輸出管理で本当に封じ込められるのかを試す初めての実地テストだと評し、かつて暗号技術やスパイウェアを輸出管理で抑え込もうとして十分には機能しなかった歴史と重ねています15。デジタルな技術は複製でき、国境を越えやすい。AIモデルのウェイトも例外ではありません。ワッセナー・アレンジメントのような、通常兵器とデュアルユース技術の輸出を各国で透明化する自主的な枠組みの中で、AIのウェイトや学習データを「技術」や「ソフトウェア」として扱えるのかが、これから本格的に問われていきます17。
企業として何ができるか。派手な答えはありません。第一に、自社が依存するAIとその供給元を把握し、止まったときの影響と代替を見積もっておくこと。第二に、自社が提供する技術やAIアクセスの中に、規制の射程に入りうるものがないかを点検すること。第三に、規制やエンティティリストは動くものだと割り切り、判定を一度きりで終わらせず継続して見直すこと。この三つは、軍事AIという大きなテーマの結論ではなく、明日から手をつけられる足元の備えです。
自社のケースだと何がリスクになり、どこから手をつければよいのか。具体的に整理したい方は個別相談からお声がけください。機能概要はTRAFEEDサービスカタログ(PDF)で確認できます。AIと安全保障の交差点で、輸出管理や経済安全保障の対応を一緒に棚卸しするところから始められます。AIが兵器にも、管理対象にもなりうる時代だからこそ、「自分たちは誰に何を渡しているのか」を言葉にできる準備を、早めに進めておきたいところです。
参考
Footnotes
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米国防副長官メモ「Establishment of an Algorithmic Warfare Cross-Functional Team (Project Maven)」(2017年4月26日、国防副長官署名)— 無人機(UAS)および中高度フルモーションビデオのISR処理(PED)を機械学習で補強・自動化すると明記 — https://www.govexec.com/media/gbc/docs/pdfs_edit/establishment_of_the_awcft_project_maven.pdf ↩
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「'The machine did it coldly': Israel used AI to identify 37,000 Hamas targets」(Harry Davies/Bethan McKernan、The Guardian、2024年4月3日)— イスラエル軍の情報将校6人の証言(ジャーナリストYuval Abrahamに対して行われ、+972 Magazine・Local Callが公表)にもとづく報道。同紙によれば、証言は公表に先立ちThe Guardianへ独占的に共有された。イスラエル軍の反論("The IDF does not use an artificial intelligence system that identifies terrorist operatives or tries to predict whether a person is a terrorist"、"Information systems are merely tools for analysts in the target identification process")も同記事に収録 — https://www.theguardian.com/world/2024/apr/03/israel-gaza-ai-database-hamas-airstrikes / 「'The Gospel': how Israel uses AI to select bombing targets in Gaza」(Harry Davies/Bethan McKernan/Dan Sabbagh、The Guardian、2023年12月1日)— イスラエル軍ウェブサイト上の短い声明が「Habsora(英語ではthe Gospel)」というAIベースのシステムの使用に言及したことを記録 — https://www.theguardian.com/world/2023/dec/01/the-gospel-how-israel-uses-ai-to-select-bombing-targets ↩
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Lethal Autonomous Weapon Systems — UNODA(国連軍縮部)— 随時更新 — https://disarmament.unoda.org/en/our-work/emerging-challenges/lethal-autonomous-weapon-systems ↩
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GA Adopts More Than 60 Resolutions, First Committee(記録投票164-6-7、草案A/C.1/80/L.41)— UN Meetings Coverage — 2025-11 — https://press.un.org/en/2025/ga12736.doc.htm ↩
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September 2025 GGE Joint statement — Stop Killer Robots — 2025-09 — https://www.stopkillerrobots.org/news/september-2025-gge-joint-statement/ ↩
-
Geopolitics and the Regulation of Autonomous Weapons Systems — Arms Control Association — 2025-01 — https://www.armscontrol.org/act/2025-01/features/geopolitics-and-regulation-autonomous-weapons-systems ↩
-
Political Declaration on Responsible Military Use of Artificial Intelligence and Autonomy — U.S. Department of State — 2023-02 — https://www.state.gov/political-declaration-on-responsible-military-use-of-artificial-intelligence-and-autonomy-2/ ↩
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DoD Directive 3000.09, Autonomy in Weapon Systems(2023-01-25改訂)— U.S. Department of Defense — https://www.esd.whs.mil/portals/54/documents/dd/issuances/dodd/300009p.pdf ↩
-
自律型致死兵器システム(LAWS)について — 外務省 — 最終更新日未確認 — https://www.mofa.go.jp/mofaj/dns/ca/page24_001191.html ↩
-
New U.S. Export Controls on Advanced Computing Items and AI Model Weights(ECCN 4E091)— Sidley Austin — 2025-01 — https://www.sidley.com/en/insights/newsupdates/2025/01/new-us-export-controls-on-advanced-computing-items-and-artificial-intelligence-model-weights ↩
-
The US AI Diffusion Rule(撤回=2025-05-13の経緯)— United States Studies Centre — 2025 — https://www.ussc.edu.au/the-us-ai-diffusion-rule ↩
-
Statement from Dario Amodei on our discussions with the Department of War — Anthropic — 2026-02-26 — https://www.anthropic.com/news/statement-department-of-war ↩
-
OpenAI announces Pentagon deal after Trump bans Anthropic — NPR — 2026-02-27 — https://www.npr.org/2026/02/27/nx-s1-5729118/trump-anthropic-pentagon-openai-ai-weapons-ban ↩
-
Anthropic Says US Orders Halt to Foreign Access for Fable 5, Mythos 5 — Bloomberg — 2026-06-13 — https://www.bloomberg.com/news/articles/2026-06-13/anthropic-says-us-limits-foreign-access-to-fable-5-mythos-5 ↩
-
From PGP to Mythos, history shows why cyber export control doesn't work(停止の詳細)— TechCrunch — 2026-06-19 — https://techcrunch.com/2026/06/19/encryption-spyware-and-now-mythos-history-shows-why-cyber-export-control-doesnt-work/ ↩ ↩2
-
OpenAI limits GPT-5.6 rollout after government request — TechCrunch — 2026-06-26 — https://techcrunch.com/2026/06/26/openai-limits-gpt-5-6-rollout-after-government-request-says-restrictions-shouldnt-be-the-norm/ ↩
-
Understanding U.S. Allies' Current Legal Authority to Implement AI and Semiconductor Export Controls — CSIS — 2025 — https://www.csis.org/analysis/understanding-us-allies-current-legal-authority-implement-ai-and-semiconductor-export ↩






