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Anthropic「Claude Code Security」がセキュリティ業界を揺るがす ― 株価暴落の真相と、ルールベースセキュリティの終焉

2026-02-24濱本 隆太

AnthropicのClaude Code Security発表でサイバーセキュリティ株が一斉暴落。500以上の未知の脆弱性を発見したAIの実力と、ルールベースセキュリティの終焉を解説。

Anthropic「Claude Code Security」がセキュリティ業界を揺るがす ― 株価暴落の真相と、ルールベースセキュリティの終焉
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こんにちは、TIMEWELLの濱本です。今日はテック関連のサービスご紹介です。

2026年2月20日、サイバーセキュリティ業界に激震が走りました。AI研究の最前線を走るAnthropic社が「Claude Code Security」を発表した瞬間、市場はパニックに陥り、主要なサイバーセキュリティ企業の株価が軒並み暴落。わずか1日で150億ドル、約2.2兆円もの時価総額が吹き飛んだのです。メディアはこの現象を「Anthropic Effect」と名付け、業界の誰もが固唾を飲んで事の成り行きを見守りました。

一体、何が起きたのか。Claude Code Securityは、既存のセキュリティサービスを過去のものにするほどの破壊的な力を持つ「黒船」なのでしょうか。そして、これまでルールベースで地道な対応を積み重ねてきたセキュリティ業界は、AIネイティブな企業に飲み込まれてしまうのでしょうか。

黒船の正体、Claude Code Securityとは何か

市場を震撼させた黒船、Claude Code Security。一言でいえば「AIが人間のセキュリティ専門家のように思考し、ソフトウェアの脆弱性を自律的に発見・修正提案するツール」です。

パターンマッチングの限界を超えた「推論するAI」

これまで主流だったSAST(静的アプリケーションセキュリティテスト)は、いわば「指名手配犯リスト」との照合に似ていました。既知の脆弱性パターンをリスト化し、コード全体から一致する箇所を探すパターンマッチングという手法です。既知の脅威には有効ですが、リストにない未知の脆弱性や、複数の機能が複雑に絡み合って初めて生まれるような高度な欠陥を見つけるのは、原理的に困難でした。

Claude Code Securityのアプローチは根本から異なります。特定のパターンを探すのではなく、コード全体を一つのシステムとして捉え、その構造、ロジック、データの流れをコンテキストで理解する。そして、人間のセキュリティ研究者が経験と直感から「このあたりが怪しい」と仮説を立てて検証するプロセスを模倣します。これが「推論ベース」のアプローチです。

Anthropicの発表では、その人間的な思考プロセスをこう説明しています。

Rather than scanning for known patterns, Claude Code Security reads and reasons about your code the way a human security researcher would: understanding how components interact, tracing how data moves through your application, and catching complex vulnerabilities that rule-based tools miss.

既知のパターンをスキャンするのではなく、人間のセキュリティ研究者のようにコードを読み、推論する。コンポーネント間の相互作用を理解し、データの流れを追跡し、ルールベースのツールが見逃す複雑な脆弱性を捕らえる。この「推論する力」が、Claude Code Securityと既存ツールを分かつ核心です。

「500以上の未知の脆弱性」という衝撃

この推論能力が単なる理論ではないことは、Anthropicが発表した実績が証明しています。広く使われているオープンソースのコードに最新モデルのClaude Opus 4.6を適用したところ、実に500以上もの、これまで誰にも発見されていなかった高重大度の脆弱性が見つかった。

それらの脆弱性は、何十年もの間、世界中の専門家によるレビューや「ファジング」と呼ばれる自動テストをすり抜けてきた歴戦の猛者たちです。それをAIがわずかな時間で発見してしまった。

VentureBeat誌が報じた具体的な事例は、その能力の異質さを物語っています。

プロジェクト 脆弱性の概要 AIの推論プロセス
GhostScript(PDF処理ライブラリ) スタック境界チェックの欠落 過去の修正パッチをAIが学習。「あるファイルでこの修正が必要だったのなら、同じ関数を呼んでいる別のファイルでも同じ脆弱性が存在するはずだ」と推論し、全く別のファイルに潜んでいたバグを発見。PoCコードまで自動生成した。
OpenSC(スマートカード処理) バッファオーバーフロー 従来の自動テストでは到達が困難だった、複雑な前提条件が必要なコード領域にAIが着目。複数の文字列結合処理が連続する箇所にバッファオーバーフローの危険性があると推論し、脆弱性を証明した。
CGIF(GIF処理ライブラリ) 圧縮アルゴリズムの欠陥 「圧縮後のデータは常に元データより小さくなる」という、ほぼ常に正しいが故に見過ごされてきたアルゴリズムの前提に疑問を呈した。辞書が一杯になりリセットが頻発する特殊なケースでは、逆にデータサイズが増大しバッファを溢れさせる可能性があるという、アルゴリズムレベルのエッジケースを発見した。

これらの事例が示すのは、AIが人間の作業を高速化する「ツール」ではなく、人間には不可能だった方法で新たな知見を発見する「パートナー」へと進化しつつある現実でしょう。ファイル間の論理的な繋がりを読み解き、過去の修正履歴から未来のリスクを予測し、アルゴリズムの数学的な前提条件の穴まで見抜く。セキュリティの世界におけるパラダイムシフトの幕開けと言っても過言ではありません。

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市場が震撼した「Anthropic Effect」の深層

この技術的なブレークスルーが発表されるや否や、金融市場は即座に、そしてある意味で過剰に反応します。2026年2月20日の取引開始直後から、サイバーセキュリティ関連企業の株価は堰を切ったように急落しました。

1日で150億ドルが消えた日

Forrester Researchがまとめたデータは、その日の惨状を克明に記録しています。

企業名 ティッカー 下落率(2/20終値)
JFrog FROG -24.61%
GitLab GTLB -8.72%
Okta OKTA -8.34%
CrowdStrike CRWD -7.32%
Cloudflare NET -7.07%
Zscaler ZS -4.34%
Palo Alto Networks PANW -1.10%

ソフトウェアのサプライチェーンセキュリティを専門とするJFrogが、一日でその価値の4分の1近くを失ったのは象徴的です。投資家たちが「AIエージェントがソフトウェア開発のプロセスそのものを変え、既存の管理ツールを不要にするのではないか」という恐怖を最も強く感じた証拠と言えるでしょう。

しかし、奇妙な点があります。CrowdStrikeはエンドポイントの保護、OktaはID認証を専門としており、Anthropicが発表したコードスキャンツールとは直接競合しません。にもかかわらず、これらの企業の株価までが大きく下落した。市場が個別の事業内容を精査するよりも先に、「サイバーセキュリティというカテゴリ全体がAIによって破壊されるかもしれない」という漠然とした恐怖に支配された結果です。Forresterのアナリストはこれを「センチメント伝染」と呼び、市場の過剰反応だと指摘しています。

過剰反応か、的確な未来予測か

では、この市場の反応は単なるパニックによる行き過ぎだったのでしょうか。私は、必ずしもそうとは思いません。短期的な事業への影響は限定的だとしても、長期的な業界構造の変化を的確に予見した側面があると考えています。

投資家たちの脳裏をよぎったのは、おそらくこういうシナリオだったはずです。

これまで専門企業が高額で提供してきた脆弱性スキャン機能が、LLMの標準機能として安価に提供される未来。開発者がコードを書くGitHubのようなプラットフォーム自体がAIレビュー機能を内包し、独立した外部ツールが居場所を失う未来。ルールセットの更新や専門家による分析を収益の柱としてきた企業が、自律的に学習・推論するAIの前で価格競争力を失う未来です。

金融情報サービス大手のMorningstarは興味深い分析をしています。彼らはこの発表が必ずしも既存のサイバーセキュリティ企業にとって「悪いニュースではない」としつつ、理由をこう述べている。

We see automated code scanning as evidence that we will move swiftly to a world where cyber vendors, leveraging powerful models such as Claude alongside proprietary real-time telemetry data, will capture a lion's share of net new security spending catalyzed by AI adoption.

つまり、短期的にはAIの脅威に市場は怯えたものの、長期的にはClaudeのような強力なモデルを使いこなし、自社の独自データと組み合わせることができる企業が次の時代の勝者になる、という冷静な分析です。市場のパニックは、この勝者と敗者を分ける地殻変動の予兆を、敏感に察知した結果だったのかもしれません。

AIネイティブはルールベースを食うか ― セキュリティの地殻変動

今回の「Anthropic Effect」は、単なる一企業の株価の乱高下という話に留まりません。セキュリティ業界全体が「ルールベース」から「AIネイティブ」へと移行する、大きな構造変化の始まりを告げる号砲です。

「見つける」から「治す」へ、そして「作らない」へ

従来のセキュリティは、いかに多くの脆弱性を「見つけるか」に主眼が置かれていました。AIの登場で、そのパラダイムは大きく変わろうとしています。

Claude Code Securityは、脆弱性を見つけるだけでなく、修正案のパッチコードまで提案します。発見と修正の間にあった、専門家による分析や修正コード作成という時間的・人的コストのギャップを、AIが埋め始めている。

さらに「修正から予防へ」という流れも加速します。GitHub CopilotのようなAIコーディング支援ツールは、開発者がコードを書いているその瞬間に、安全な書き方を提案し、脆弱性を作り込むパターンを未然に防ぐ。脆弱性を後から探すのではなく、そもそも「作らせない」というアプローチです。

Forresterはこの変化を「個別のアプリケーションセキュリティツール購入をやめ、セキュリティと修正の規律を機能として含むエージェント型ソフトウェア開発プラットフォームバンドルに投資する圧力が高まる」と表現しています。セキュリティはもはや開発プロセスの後工程や外部ツールではなく、開発プラットフォームに完全に統合された標準機能になっていく。

既存ベンダーの活路は「リアルタイムデータ」という堀

では、SAST/SCAツールなどを提供してきた専門ベンダーはこのまま飲み込まれてしまうのか。

前述のMorningstarの分析にもあったように、既存ベンダーが持つ最大の強みは、世界中の顧客から収集した膨大なリアルタイムのテレメトリデータです。LLMは公開情報を学習するのは得意ですが、「今この瞬間、世界でどんなサイバー攻撃が起きているか」という生々しい脅威インテリジェンスは持っていません。これこそ、長年グローバルなセンサー網を張り巡らせてきた大手セキュリティベンダーだけが持つ堀です。

今後のセキュリティ業界の競争軸は、「いかに優れたAIモデルを、いかに独自のリアルタイムデータで強化し、顧客の環境に特化した高精度な防御を提供できるか」という点に移っていくでしょう。Claudeのような汎用的な大規模知能と、CrowdStrikeのような特化型のリアルタイム知能。この二つが融合した先に、次世代のセキュリティの姿が見えてきます。

攻撃者もAIを使う「双対性」のジレンマ

この物語にはもう一つ、忘れてはならない側面があります。AIの能力向上は、防御側だけでなく攻撃側にも同様の恩恵をもたらすという「双対性」の問題です。

Anthropic自身もこのリスクを率直に認めています。Claudeが脆弱性を発見できるということは、悪意ある者が同じ技術を使えば、効率的に攻撃対象の弱点を見つけ出せるということ。実際、別の研究では、AIモデルに簡単な指示を与えるだけでLinuxカーネルの未知の脆弱性を発見できた事例も報告されています。

セキュリティ業界が、これまで経験したことのないスピードと規模の「軍拡競争」に突入することを意味します。攻撃者がAIで脆弱性スキャンを自動化するなら、防御側もAIで防御を自動化しなければ追いつけない。AIの活用は選択肢ではなく、生き残るための必須条件です。

ルールベースで対応してきたセキュリティ関連サービスは変革しないとAIネイティブな企業に食われるのか。答えはイエス。食われる可能性は高い。ただし、単純なツールの置き換えではなく、AIという新たな武器を前提とした全く新しい戦い方への適応が求められています。

この変化に、どう対応するか

Claude Code Securityの登場と市場の混乱は、私たちに何を問いかけているのか。

これは「新しい便利なツールが出た」という話ではありません。ソフトウェア開発とセキュリティの境界線が溶け合い、人間の専門家の役割が再定義され、攻撃と防御のスピードが極限まで高まる、新しい時代の到来を告げる出来事です。

企業のセキュリティを預かるCISOは今、厳しい選択を迫られています。既存のルールベースツールに依存し続けることは、AIを駆使する攻撃者に対して無防備になることを意味する。かといってAIツールを無秩序に導入すれば、新たなリスクを生む。セキュリティ予算の配分も、AIを活用したプラットフォームへの再配分が必要になる。

正直なところ、何をどこから手をつけるべきか判断が難しい局面だと思います。

TIMEWELLのWARPコンサルティングでは、こうしたAIによるセキュリティ変革への対応を支援しています。御社のセキュリティ体制を分析し、AIネイティブなツールへの移行ロードマップを設計する。既存のルールベースツールとAIの組み合わせ方を検討する。元大手企業でDX戦略を推進してきた専門家が、御社に合った最適解を一緒に考えます。

エンタープライズ向けAIプラットフォームZEROCKは、自社のナレッジをAIが安全に活用できる基盤として、セキュリティ体制の刷新にも寄与します。AWSの国内サーバー上で動作し、機密情報の外部流出リスクを排除した環境でAIを活用できます。

「セキュリティツールの見直しをどう進めればいいか」「AIの導入でどこまでコスト削減できるか」。そんな疑問をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください


参考文献

  • Anthropic. (2026, February 20). Making frontier cybersecurity capabilities available to defenders.
  • VentureBeat. (2026, February 23). Anthropic's Claude Code Security is available now after finding 500+ vulnerabilities.
  • Forrester. (2026, February 23). Claude Code Security Causes A SaaS-pocalypse In Cybersecurity.
  • Morningstar. (2026, February 23). Anthropic's Claude Code Security Release Is Not Bad News for Cyber Companies.

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