株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。
2026年7月31日、経済産業省が「大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)」の申請受付を開始しました1。
名前のとおり、かなり思い切った内容です。原則として全業種が対象で、機械設備だけでなく建物まで含めて即時償却または税額控除が受けられます。設備投資の税制優遇は昔からありますが、建物が入るものは多くありません。
一方で、この制度は申請すれば自動的に通るものではありません。 経済産業大臣の確認が要り、数値要件があり、しかも見落とすと適用できなくなる条件がいくつも隠れています。「うちも使えそうだ」と思った段階で押さえておくべきことを、一次情報にもとづいて整理します。
税制の話は用語が難しいので、前提から書きます。
この記事の要点
- 根拠法は令和8年法律第29号。2026年5月29日成立、6月5日公布
- 申請受付は2026年7月31日開始。令和11年3月31日までに確認を受け、確認日から5年以内に取得・事業供用すればよい
- 措置は設備ごとに即時償却または税額控除7%(建物・建物附属設備・構築物は4%)。控除上限は法人税額の20%
- 数値要件は2つ。投資下限額35億円以上(中小企業者等は5億円以上)と、投資利益率が年平均15%以上
- 建物のみの投資計画は対象外。 中古・貸付用・研究開発用の資産も対象外
- 令和7年12月26日以降に意思決定した投資計画が対象(それ以前でも一定要件で可)
- 確認を受けると、その計画期間中は中小企業経営強化税制など3つの税制が使えなくなる
- 申請は原則WEB申請。本社所在地を管轄する経済産業局へ。確認書発行まで1か月程度
前提の整理:3つの用語
即時償却とは
設備を買うと、通常はその金額を耐用年数にわたって少しずつ経費(減価償却費)にしていきます。1億円の機械を10年で償却するなら、毎年1,000万円ずつです。
即時償却は、これを初年度に全額経費にできる仕組みです。1億円をその年に全部落とせます。
ここで大事なのは、支払う税金の総額が減るわけではないという点です。初年度に大きく落とした分、翌年以降に落とせる額は減ります。トータルでは同じで、税金を払うタイミングが後ろにずれる(課税の繰延べ)というのが正確な理解です。
それでも意味があるのは、手元にお金が残るのが早くなるからです。投資直後は資金繰りが苦しいので、その時期に納税を減らせるのは実務的に効きます。
税額控除とは
こちらは計算した税額そのものから直接差し引く仕組みです。7%の税額控除で1億円の設備なら700万円、法人税額から引かれます。
こちらは繰延べではなく、純粋に税負担が減ります。 ただし今回の制度では、控除できるのは法人税額の20%までという上限があります。利益が少ない年に大きな投資をしても、引ききれない分が出ることがあります。
どちらを選ぶか
設備ごとにどちらかを選べます。 一般論としては次のように整理できます。
| 向いている状況 | |
|---|---|
| 即時償却 | 投資直後の資金繰りを優先したい。今期の利益が大きく、来期以降は読みにくい |
| 税額控除 | 安定して十分な利益が出ており、控除上限(法人税額の20%)に余裕がある |
ただしこれは大枠の話で、繰越欠損金の有無、他の税額控除との兼ね合い、将来の税率見通しで結論が変わります。ここは必ず顧問税理士と試算してください。私も「一般論としてはこう」以上のことは言えません。
投資利益率とは
今回の要件に出てくる「投資利益率」は、投資した金額に対して、どれだけの利益(営業利益+減価償却費など)を生むかという指標です。年平均15%以上が求められます。
経済産業省がエクセルの計算シートを配布しているので、感触をつかむにはまずそれを埋めてみるのが早いです2。
何がもらえるのか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 選べる措置 | 設備ごとに即時償却 または 税額控除 |
| 税額控除率 | 7%(建物、建物附属設備、構築物は 4%) |
| 控除上限 | 法人税額の20% |
| 繰越 | 国際経済事情激変事業適応の認定を受けた場合、最大3年間の税額控除の繰越しが可能 |
「設備ごとに」というのがポイントです。ひとつの投資計画の中で、機械は即時償却、建物は税額控除、といった組み合わせができます。
誰が対象か
原則として全業種です。 経済産業省のパンフレットは「企業規模や業種問わず幅広い事業者が対象」としており、除かれるのは「風俗営業等の用に供する場合など一部業種」とされています3。
製造業限定ではありません。物流、小売、飲食、宿泊、医療、農業でも、要件を満たせば対象になります。ここは誤解されやすいところです。
対象になる設備、ならない設備
対象は、生産等設備を構成する次のものです3。
- 機械装置
- 器具備品
- 工具
- 建物
- 構築物
- 建物附属設備
- ソフトウェア
対象外は次のとおりです。
- 中古資産
- 貸付用資産
- 研究開発用資産
- 建物のみの投資計画
最後の「建物のみの投資計画」は要注意です。 建物は対象設備に入っているのに、建物だけの計画は認められません。倉庫を建てるだけ、店舗を建てるだけ、という計画は通らないということです。機械装置などと組み合わせた計画にする必要があります。
2つの数値要件
ここが本丸です3。
1. 投資下限額
- 原則:35億円以上
- 中小企業者等:5億円以上
2. 投資利益率
- 年平均15%以上
35億円はかなり大きな数字です。中小企業者等の5億円でも、決して小さくありません。「設備を1台入れる」規模の話ではなく、「工場を1棟建てる」「拠点を新設する」規模の制度だと理解してください。
見落としやすい要件
数値以外にも条件があります。ここを知らずに進めると、後から適用できないと分かることになります。
意思決定の時期
令和7年12月26日以降に意思決定された投資計画が対象です3。
令和7年12月25日以前に一度意思決定があった場合でも、一定の要件を満たせば適用できるとされていますが、古い計画をそのまま持ち込めるわけではありません。 すでに動いている案件を当てはめようとしている場合は、ここを最初に確認してください。
適切な機関による意思決定
「取締役会など適切な機関の意思決定に基づくもの」であることが求められます3。議事録が要るということです。社長の判断だけで進めてきた案件は、形を整える必要があります。
成長投資を増加させるものであること
「本設備導入計画が、適用法人の成長投資を増加させるものであること」という要件もあります。既存設備の単なる置き換えでは説明が難しい可能性があるので、計画書の書き方が効いてきます。
申請の手順
ここからが実務です。全体の流れは次のようになります。
ステップ1:管轄の経済産業局へ事前相談する
申請先は、本社所在地を管轄する地方経済産業局です。全国に9局あります(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州、沖縄総合事務局)。
経済産業省は申請前に管轄の経済産業局へ事前相談することを推奨しています2。数値要件の当てはめや計画の書き方は個別性が高いので、これは素直に従うのが得策です。
制度全般の質問については専用窓口があります。
大胆な投資促進税制サポートセンター 電話:0570-093-930(平日9:00-17:30)
ステップ2:投資利益率を計算する
経済産業省が配布している投資利益率エクセル計算シートを使います2。年平均15%に届くかどうかは、ここで最初に分かります。届かないなら、この制度は使えません。 先に確認してしまうほうが早いです。
ステップ3:公認会計士または税理士の事前確認書を用意する
申請書類のひとつに「事前確認書(公認会計士・税理士)」があります2。第三者の専門家によるチェックが前提の制度だということです。
顧問税理士がいる場合は早い段階で相談してください。ここは自社だけでは完結しません。
ステップ4:WEB申請する
原則としてWEB申請です。経済産業省のページにある「申請受付フォーム」から、Gビズフォーム経由で申請します2。
主な様式は次のとおりです。
| 様式 | 内容 |
|---|---|
| 様式第一 | 特定生産性向上設備等の確認申請書 |
| 様式第二 | 特定生産性向上設備等の確認書(交付されるもの) |
| 様式第四 | 変更確認申請書 |
| 様式第八 | 投資計画への適合証明申請書 |
| 様式第九 | 投資計画への適合証明書 |
ステップ5:確認書の交付を待つ
申請から確認書発行までは1か月程度かかるとされています2。決算や取締役会のスケジュールから逆算して、余裕を持って動いてください。
ステップ6:5年以内に取得し、事業に使う
確認を受けたら、その日から5年以内に設備を取得して事業の用に供します。ここは長めに取られていて、取得や事業供用まで時間がかかる大型投資でも使えるように設計されています3。
ステップ7:税務申告で適用する
実際に税制を使うのは申告のときです。様式第八・第九の適合証明の手続があります。ここも税理士と進めてください。
期限の整理
| 期限 | 内容 |
|---|---|
| 令和11年3月31日 | この日までに産業競争力強化法に基づく確認を受ける |
| 確認日から5年 | この期間内に設備を取得し、事業の用に供する |
落とし穴
適用できると思っていたのに使えなかった、という事態を避けるための確認事項です。
落とし穴1:他の設備投資税制と併用できない
確認を受けた法人は、その投資計画の期間中、次の3つの制度が使えません34。
- 地域未来投資促進税制(地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度)
- 中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度)
- カーボンニュートラルに向けた投資促進税制
これは中小企業にとって重い判断です。 中小企業経営強化税制を使い慣れている会社が、こちらへ乗り換えるべきかどうかは、計画期間全体で比較しないと答えが出ません。 単年度の有利不利で決めないでください。
落とし穴2:大企業には適用除外の条件がある
いわゆる租税特別措置の不適用措置です。大企業については、前年度の所得を上回る事業年度において、次のいずれにも該当しない場合、本制度(繰越税額控除を除く)が適用されません4。
- 継続雇用者給与等支給額の増加割合が1%以上(資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上、または従業員2,000人超の場合は2%以上)
- 国内設備投資額が当期償却費総額の30%超(同じ条件に該当する場合は40%超)
要するに「儲かっているのに賃上げも投資もしていない会社には使わせない」という設計です。賃上げの実績とセットで見る必要があります。
落とし穴3:建物だけの計画は通らない
前述のとおりです。建物は対象設備なのに、建物のみの計画は対象外。 ここは条件を読み飛ばしやすいところです。
落とし穴4:確認前に設備を取得してしまう
制度の構造上、先に確認を受けてから取得する流れです。急いで発注してしまうと順序が崩れます。事前相談の段階でスケジュールを確認してください。
「国際経済事情激変事業適応」という、もうひとつの申請
冒頭で触れたとおり、7月31日には2種類の申請の受付が始まっています1。
- 特定生産性向上設備等投資計画の確認申請 → 全国の経済産業局(9局)
- 国際経済事情激変事業適応計画の認定申請 → 事業を所管している省庁
2つ目は、予見し難い国際経済事情の急激な変化に対応して行う計画についての認定制度です。これの認定を受けると、最大3年間、税額控除の繰越しができます3。
投資した年の利益が読みにくい業種、あるいは通商環境の変化に直接さらされている業種では、こちらも併せて検討する価値があります。申請先が経済産業局ではなく事業所管省庁である点に注意してください。
この法律は税制だけではない
大胆な投資促進税制は、令和8年法律第29号(経済社会情勢の変化を踏まえた企業の事業活動の持続的な発展を図るための産業競争力強化法等の一部を改正する法律)の一部です。この法律は3本の改正を束ねています5。
1. 産業競争力強化法の改正
- 大胆な投資促進税制の前提となる「特定生産性向上設備等」の定義
- 事業適応計画の新類型として「国際経済事情激変事業適応」と「事業費上昇事業適応」を追加。認定を受けた設備投資には、日本政策金融公庫のツーステップローンや中小企業基盤整備機構の債務保証などの金融支援
- 「生活維持物品役務需要減等事業適応」の新設。生活の維持に必要な物品・役務の需要減少や供給不足に対応して事業の効率化を図る計画で、金融支援や組織変更手続の特例措置。あわせて支援機関の認定制度と、都道府県・市町村による協議会の枠組み
3つ目が、いわゆるエッセンシャルサービス(小売、運送、交通など)への支援にあたる部分です。
2. 地域未来投資促進法の改正
- 工場立地法に基づく緑地面積率等の規制の特例。ただし生活環境との調和や地元の理解を前提とすることが明記されています
- データセンターに対する工業用水の供給の義務付け
- 産業用地の整備に関する計画承認制度の新設。都道府県または市町村が計画を承認し、承認計画に基づく事業について、官民連携で整備を進める際の土地譲渡に係る地権者の所得税および住民税の軽減等の措置
「産業用地が足りない」という声は地方で実際によく聞きます。用地を出す側(地権者)の税負担を軽くして、土地を動きやすくするという発想です。
3. 貿易保険法の改正
日本貿易保険(NEXI)に「特定引受業務」を創設し、供給網の強靱化のために必要な政府間の取決めに係る業務を扱えるようにするものです。
成立までの経緯
参考までに、立法の経過も書いておきます6。
| 日付 | 経過 |
|---|---|
| 令和8年3月6日 | 内閣が衆議院へ提出(閣法第221回国会第15号) |
| 令和8年4月14日 | 衆議院 経済産業委員会に付託 |
| 令和8年5月13日 | 同委員会で可決 |
| 令和8年5月14日 | 衆議院本会議で可決 |
| 令和8年5月20日 | 参議院 経済産業委員会に付託 |
| 令和8年5月28日 | 同委員会で可決 |
| 令和8年5月29日 | 参議院本会議で可決・成立 |
| 令和8年6月5日 | 公布(令和8年法律第29号) |
自社は使えるか、の見極め方
最後に、判断の順序を整理します。上から順に見ていって、途中で外れたらそこで終わりです。
- 投資額は届くか。 35億円以上(中小企業者等は5億円以上)。届かなければここで終わり
- 投資利益率は年平均15%以上か。 エクセルシートで試算する
- 建物だけの計画になっていないか。 なっていれば設備を組み合わせられるか検討する
- 意思決定は令和7年12月26日以降か。 それ以前なら例外の要件を確認する
- 他の設備投資税制を使う予定はないか。 使うなら、計画期間全体で比較する
- (大企業の場合)賃上げまたは国内投資の要件を満たすか
- 取締役会等の意思決定の記録は残せるか
ここまで通ったら、管轄の経済産業局へ事前相談してください。
最後に
制度の趣旨としては、**「国内に、大きく、高付加価値な投資をする会社を後押しする」**という一点で一貫しています。建物まで対象に入れたこと、取得までの期間を5年と長く取ったことは、大型投資を想定した設計だと読めます。
一方で、中小企業にとっては5億円という下限が現実的かどうかが分かれ目になります。既存の中小企業経営強化税制と併用できないので、そちらのほうが自社に合っているケースも当然あります。新しい制度だから有利、とは限りません。
私たちは税理士事務所ではないので、個別の税務判断はできません。ただ、**「そもそも自社の投資計画をどう組み立てるか」「どの制度の土俵に乗せるか」**という前段の整理は、経営の話です。設備投資の計画づくりや、意思決定に必要な情報の整理でお手伝いできることがあれば、ご相談ください。
まとめ
- 大胆な投資促進税制の申請受付が2026年7月31日に始まった。根拠は令和8年法律第29号
- 設備ごとに即時償却または税額控除7%(建物等は4%)を選べる。控除上限は法人税額の20%
- 数値要件は投資下限額35億円以上(中小企業者等5億円以上)と投資利益率年平均15%以上
- 建物も対象だが、建物のみの投資計画は対象外
- 令和7年12月26日以降の意思決定が対象。取締役会等の議事録が要る
- 確認を受けると中小企業経営強化税制など3制度が計画期間中は使えない
- 大企業には賃上げまたは国内投資の要件による適用除外がある
- 申請は本社所在地管轄の経済産業局へ原則WEB申請。確認書発行まで1か月程度
- 公認会計士・税理士の事前確認書が必要
- 令和11年3月31日までに確認を受け、確認日から5年以内に取得・事業供用する
「大胆な」という名前がついていますが、中身はかなり細かい制度です。使えるかどうかは投資額と投資利益率でほぼ決まるので、まずエクセルシートを埋めてみる。それが最短の判断だと思います。
Footnotes
-
経済産業省「大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)の申請受付開始について」(2026年7月31日). https://www.meti.go.jp/press/2026/07/20260731004.html ↩ ↩2
-
経済産業省「大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)」(最終更新 2026年8月7日). https://www.meti.go.jp/policy/economy/kyosoryoku_kyoka/henkashien/daitanzeisei/daitan.html ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
-
経済産業省「大胆な投資促進税制パンフレット」. https://www.meti.go.jp/policy/economy/kyosoryoku_kyoka/henkashien/daitanzeisei/pdf/pamphlet_daitanzeisei.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9
-
財務省「令和8年度税制改正の大綱」. https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_03.htm ↩ ↩2
-
経済産業省「『経済社会情勢の変化を踏まえた企業の事業活動の持続的な発展を図るための産業競争力強化法等の一部を改正する法律案』が閣議決定されました」(2026年3月6日). https://www.meti.go.jp/press/2025/03/20260306003/20260306003.html ↩
-
衆議院「閣法 第221回国会 15 経済社会情勢の変化を踏まえた企業の事業活動の持続的な発展を図るための産業競争力強化法等の一部を改正する法律案 議案審議経過情報」. https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DE163A.htm ↩




