こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
2026年7月21日、政府が「規制改革実施計画」を閣議決定しました。経済や暮らしの妨げになっている規制や運用を見直す、毎年恒例の実行計画です。今回は全57事項が盛り込まれ、農業や漁業から会社法、働き方、外国人材まで、扱う範囲がとても広くなっています。
この計画の全体像は規制改革2026の全体像を初心者向けに解説した記事で整理していますので、まずは大枠をつかみたい方はそちらからどうぞ。この記事では、そのうち農林水産・地域、会社法やM&Aといったコーポレート、労働、外国人材の分野にしぼって、一つひとつの事項をやさしく噛み砕いていきます。
原文は行政特有の言い回しが多く、初めて読む人にはかなり手強い文書です。ここでは専門用語をそのつど日常の言葉に置き換えながら、それぞれの事項について「①もともと何が課題だったのか」「②今回どう見直されるのか」「③事業者にとってどんな意味があるのか」「④今後どうなりそうか」の4点で見ていきます。長くなりますが、自社に関わりそうな項目だけ拾い読みしても構いません。労務や外国人材の分野はAIの活用とも重なる話が多いので、自社の現在地が気になる方は先にAIリテラシーの無料診断で確かめておくと、後半の話が具体的になります。
なお、この記事の事実関係は、政府が公表した規制改革実施計画の実施事項説明資料に基づいています。数字や制度名、施行時期はその範囲で記載し、資料にない事柄は断定しないようにしています1。
農林水産・地域の見直し
はじめに、地方の一次産業や土地にまつわる見直しから取り上げます。人手不足や高齢化が進むなかで、現場の負担を減らし、眠っている資源を動かそうという意図が共通しています。
28. わなの見回りルールの見直し(鳥獣対策)
まず、鳥獣被害への対応です。イノシシやシカ、クマといった野生動物をわなで捕獲する現場のルールが対象になっています。
もともとの課題は、担い手の不足と安全のジレンマです。捕獲を担う人が減っているうえに、クマによる人身被害が増えていて、資料では死者数が過去最多を更新するなど増加傾向にあると示されています。それでも、わなを毎日見回るよう求める都道府県があり、見回りの最中にクマと遭遇して負傷する事例も起きています。捕獲を進めたいのに、見回りそのものが担い手の負担と危険になっているわけです。
今回の見直しでは、遠隔でわなを監視できるICT機器(インターネットなどを通じて離れた場所から様子を確認できる機器)を活用する場合について、合理的な見回りの在り方を明確にします。カメラやセンサーで遠くからわなの状況が分かるなら、毎日現地に足を運ぶ前提を見直せる、という発想です。実現に向けて、鳥獣の保護管理に関する基本的な指針などを改正し、周知していくとされています。くくりわな、箱わな、囲いわなといった一般的なわなが対象です。
事業者にとっての意味は、現場の負担とリスクの軽減です。捕獲を請け負う事業者や、農地や森林を鳥獣被害から守りたい農林業者にとって、見回りの手間が減れば、より広い範囲にわなをかけたり、少ない人数で管理したりしやすくなります。遠隔監視の機器やサービスを提供する側にとっては、新しい需要が生まれる可能性もあります。
今後の見通しとしては、資料では令和8年に措置等とされています。具体的にどの機器があれば「見回りを担保した」と認められるのか、その基準づくりが実務の鍵になりそうです。詳しい条件は規制改革実施計画本文と、今後改正される指針を確認してください。

出典:内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日 閣議決定)実施事項 説明資料
29. 未利用漁場の活用・漁場移転
次は漁業です。使われていない漁場を動かして、新しい担い手が入れるようにしようという見直しです。
背景にあるのは、漁業就業者の減少と海洋環境の変化です。海の状況が変われば、これまで魚が獲れていた漁場が使いにくくなることもあります。ところが、いまの仕組みでは漁場の活用状況を外から確認しづらく、どこが十分に使われていないのかが見えにくい。資料には現場の声として、漁協組合員になるための地区要件(決められた地区内に住所や事業場があることを求める条件)が柔軟に見直されず新規参入や事業拡大に苦しむ、都道府県に新しい漁業権を相談しても調整困難とされるだけで理由が示されない、海区漁業調整委員会の議事録が概要版しか公開されず透明性を欠く、といった指摘が並んでいます。
見直しの方向性は、透明性の向上と好事例の横展開です。漁場の活用状況を調べたチェックシートの運用実態を調査して結果を公表する、地区要件を地域の実情に応じて柔軟に見直すよう都道府県に通知する、調整困難という結論に至った事案はその理由も併せて教示するよう通知する、海区漁業調整委員会の議事録は概要版ではなく詳細版と資料を公開するよう通知する、といった内容です。加えて、新規参入者の公募などの好事例を各地に広げていくとされています。
事業者にとっての意味は、参入の見通しが立てやすくなることです。これから漁業を始めたい人や、事業を広げたい漁業者にとって、どの漁場が空いているのか、なぜ相談が通らなかったのかが見えるようになれば、次の一手を打ちやすくなります。透明性が上がることは、既存の漁業者にとっても調整の納得感につながります。
今後の見通しは、資料では令和8年に措置等とされています。地区要件をどこまで柔らかくするかは地域ごとの判断が残るため、実際の運用は地域差が出る可能性があります。具体的な運用は漁協等向けの総合的な監督指針の改正を確認してください。

出典:内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日 閣議決定)実施事項 説明資料
30. 長期相続登記等未了土地の解消
三つめは、持ち主がはっきりしない土地の問題です。地域の活性化を土地の面から後押しする見直しです。
前提として、日本には所有者不明土地が増えています。これを解消するための国の事業には二つあります。ひとつは、相続が起きたのに長い間登記されないまま持ち主が分からなくなった土地について、法務局が相続人を探す「長期相続登記等未了土地解消事業」。もうひとつは、登記簿の表題部(土地の基本情報が載る欄)に所有者の氏名や住所が正しく記録されていない土地について、法務局がその所有者を探す「表題部所有者不明土地解消事業」です。課題は、自治体がどちらの事業に要望すべきか分かりにくく、表題部の事業に出すべき案件を相続の事業に出してしまう、そして相続の事業の対象外になったときの対応が不明だ、という点でした。
今回の見直しでは、二つの事業への要望を法務局が一括して照会できるようにします。相続の事業への要望のなかに表題部所有者不明土地が含まれていれば、表題部の事業への要望があったものとみなすことを周知したうえで、二つの要望の照会を一本化します。さらに、相続の事業の対象外になった土地には、他の解決方法を案内するとされています。
事業者にとっての意味は、地域で土地を使いたいときの入り口が整うことです。所有者不明の土地は、地域で新しい事業や施設を進めようとするときの壁になりがちです。自治体が窓口で迷わずに手続きを進められるようになれば、その先で土地が使えるようになるまでの時間が短くなることが期待されます。
今後の見通しは、資料では令和8年に措置とされています。対象となる法律は所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の関係です。なお、農地そのものの集約や利用の最適化についても、農地バンクにおける賃貸借契約の更新手続の簡素化などが別の事項として計画に盛り込まれています。地域で土地の活用を考えるなら、こうした周辺の見直しも規制改革実施計画本文で確認しておくと全体像がつかめます。

出典:内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日 閣議決定)実施事項 説明資料
コーポレート・会社法の見直し
ここからは、会社の作り方や動かし方に関わる見直しです。投資やM&Aを進めやすくして、日本企業の成長と国際競争力を後押しするという狙いが通底しています。
13. 独占禁止法の議決権保有制限の見直し
まず、銀行や保険会社がスタートアップに長くお金を出せるようにする見直しです。少し専門的なので、順を追って説明します。
独占禁止法には、銀行や保険会社が他社の議決権(株主総会で会社の方針を決める権利)をどれだけ持てるかの制限があります。ファンド(投資事業有限責任組合)に有限責任組合員として参加し、その組合の財産として他社の議決権を保有する場合には、10年間に限り、特段の手続きなしで銀行は5%、保険会社は10%を超えて持つことができます。ところが10年を超えて持ち続けるには、公正取引委員会の認可が必要になります。ここが問題で、出資する時点では認可を得られるか確証がありません。バイオや創薬のように事業化まで10年を超える長い時間がかかる分野では、そのせいでスタートアップへの投資が見送られてしまう場合があると整理されています。実際、資料では大学発ベンチャーが設立から株式の新規上場までに要した時間の過半が10年以上とされています。
今回の見直しでは、この議決権保有制限を見直し、バイオ・創薬などをはじめ事業化まで長期間を要する分野のスタートアップ等への資金供給を拡大するとされています。長く育てる必要がある事業に、銀行や保険会社という体力のあるお金の出し手が腰を据えて関われるようにする、という方向です。
事業者にとっての意味は、資金の裾野が広がる可能性です。とくに研究開発型のスタートアップにとって、長期の資金を出してくれる相手が増えることは大きな後押しになります。地方の大学発ベンチャーなど、時間のかかる技術に挑む会社ほど恩恵を受けやすいテーマだと言えます。
今後の見通しは、資料では令和8年度に結論、結論を得次第速やかに措置等とされています。対象となる法律は独占禁止法とその施行令などです。制限をどこまでどう緩めるかの具体像は、規制改革実施計画本文と今後の制度設計を確認してください。

出典:内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日 閣議決定)実施事項 説明資料
14. 会社法の見直し(株式対価M&A・実質株主確認)
次は会社法の見直しで、二つのテーマが含まれています。どちらも、企業がお金を成長のために使いやすくし、株主との対話を深めることを狙っています。
ひとつめは、株式対価M&Aの使い勝手の改善です。M&Aといえば現金で会社を買う姿を思い浮かべる方が多いと思いますが、対価を現金ではなく自社の株式で支払う方法があります。その一類型が「株式交付」で、買収する会社(X社)が買収される会社(Y社)の株主に自社株を渡し、Y社の経営権を得る仕組みです。課題は、この手続きに反対する株主が「自分の株を買い取ってほしい」と請求できる権利(株式買取請求権)があることです。買取に応じるための現金が出ていってしまうと、成長投資に使うはずのお金が流出してしまう。そこで資料では、成長投資に必要な資金の流出を防ぐため、反対株主による株式買取請求権を撤廃することが重要だと整理されています。
ふたつめは、実質株主確認制度の導入です。上場企業の株式は、株主名簿には信託銀行などの名義が載っていて、実際に議決権をどう使うか指図しているのは別の機関投資家、という形がよくあります。この場合、会社は「本当の株主」が誰なのかを把握できず、建設的な対話が難しくなります。そこで、株式会社が名簿上の株主等に対して、議決権の指図をしている実際の株主(実質株主)の情報の提供を請求できる制度を導入する方向です。資料では、実効性を担保する観点から、正しい情報を提供しない場合には議決権の停止を可能とすることが重要だとされています。
事業者にとっての意味は、二つあります。株式対価M&Aが使いやすくなれば、手元の現金を減らさずに会社を買えるようになり、成長のための再編に踏み出しやすくなります。実質株主確認制度が整えば、会社は自社の株主が誰かを正しく知ったうえで、対話や情報開示を進められます。中長期的な企業価値の向上と国際競争力の強化につなげる、というのが計画の狙いです。
今後の見通しは、資料では令和8年度に結論、結論を得次第速やかに措置とされています。対象は会社法です。買取請求権をどう扱うか、実質株主の情報提供をどこまで求めるかといった細部は法改正の議論を待つことになりますので、具体像は規制改革実施計画本文と今後の会社法の動きを確認してください。

出典:内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日 閣議決定)実施事項 説明資料
48. 法人登記の代表者住所非表示の拡大
三つめは、会社などの代表者の自宅住所を守る見直しです。プライバシーを気にして起業や法人運営をためらう人を後押しする内容です。
前提として、法人登記の情報は誰でも見ることができ、そこには代表者の住所が載ります。この住所を非表示にできる措置は、これまで株式会社の代表者だけが対象でした。資料によれば、この非表示措置の実施件数は2026年3月時点までの累計で19,112件にのぼります。ただし課題も残っていて、公益法人やNPO法人など他の種類の法人の代表者等は対象外です。しかも株式会社であっても、非表示の申出は登記申請のときに限られ、あとから任意のタイミングで使うことができません。加えて、措置を講じる前に登記された住所は対象外なので、住所を変えていなければ現在の住所が特定されたり、辞めた代表者の住所が公示され続けたりする可能性がありました。
今回の見直しでは、非表示措置の対象を全ての種類の法人等に拡大すること、申出を登記申請と同時でなくても行えるようにすること、非表示措置の前に登記された代表者等の住所も対象にすることを検討するとされています。
事業者にとっての意味は、安心して法人を立ち上げ、運営できる環境が広がることです。NPO法人や公益法人で活動する人、あるいは自宅を拠点に事業を始める個人にとって、住所が広く公開されることへの不安は現実的な壁でした。その壁が下がれば、新しい挑戦に踏み出しやすくなります。
今後の見通しは、資料では令和8年度に速やかに措置等とされています。対象は商業登記規則などです。どの法人がいつから使えるようになるか、既存の登記済み住所をどう扱うかといった運用の詳細は、規制改革実施計画本文と今後の規則改正を確認してください。

出典:内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日 閣議決定)実施事項 説明資料
ここまでは、会社の資金やガバナンス、そして代表者の環境に関わる見直しでした。こうした制度の追い風を実際に使いこなせるかどうかは、自社の情報や業務をどれだけ整理できているかにかかってきます。私たちがWARPというAIコンサルティングで経営者の伴走を続けているのも、制度の変化を目の前の一手に翻訳するところに手応えを感じているからです。次は、もっと日々の実務に近い労働の分野に移ります。
労働・働き方の見直し
働き方に関わる見直しは、どの会社にも関係します。人手不足のなかで、柔軟に働ける仕組みと、労働者を守る仕組みの両方を整えようという意図が読み取れます。
9. 労働時間法制(変形労働・裁量労働)
この事項は二つのテーマから構成されています。どちらも、働く時間の決め方をいまの実態に合わせて見直すものです。
ひとつめは、1年単位の変形労働時間制の見直しです。この制度は、季節によって忙しさに波がある業界で使われていて、建設業や運輸業で活用が進んでいます。1年間を平均して1週40時間の範囲に収まるなら、忙しい特定の日や週には法定時間を超えた労働(1日10時間、1週52時間まで)ができる仕組みです。ただし、勤務シフトは対象期間の30日前までに確定する必要があり、原則としてあとから変えられません。ここが実務と合っていませんでした。建設や運輸では、悪天候や工期の遅れといった突発的な事情が起きます。シフトを事前に固めきると、そうした事態に対応しにくいわけです。資料でも導入割合は横ばいで、運用改善が課題だと指摘されています。そこで今回、使用者による勤務シフトの確定・変更ルールを柔軟にし、突発的な事象に対応しやすくする方向で見直します。
ふたつめは、裁量労働制の適用対象業務の見直しです。裁量労働制は、仕事の進め方や時間配分を働く人自身に委ねる制度です。資料によれば、この制度の適用割合は現状で1%程度と極めて低いものの、適用されている人の満足度は高く(満足とやや満足を合わせておよそ8割超)、一定の適用希望も存在します。新しく適用したいニーズがある業務の例として、問題解決型の提案業務やシェアードサービス業務(グループ内の間接業務を集約・標準化する仕事)が挙げられています。今回は、健康の確保や長時間労働の防止、適切な処遇の確保といった濫用を防ぐ措置を前提にしたうえで、対象業務の在り方を見直すとされています。
事業者にとっての意味は、働く時間を実態に合わせて設計しやすくなることです。天候や工期に左右される現場を持つ会社は、シフトを柔らかく組み直せれば無理のない運用に近づきます。企画や提案を中心にした働き方の会社は、裁量労働制の対象が広がれば、成果で評価する働き方を選びやすくなります。どちらも、濫用を防ぐ仕組みとセットである点は押さえておきたいところです。
今後の見通しは、二つとも資料では令和8年に検討開始、結論を得次第速やかに措置とされています。対象は労働基準法とその施行規則などです。シフトをどこまで柔軟にできるか、裁量労働制の対象をどの業務まで広げるかは、これからの議論次第です。具体的な要件は規制改革実施計画本文と今後の検討を確認してください。


出典:内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日 閣議決定)実施事項 説明資料
42. シフト制の年次有給休暇
次は、シフト制で働く人の有給休暇です。パートやアルバイトを多く抱える会社にとって、身近な労務のテーマです。
課題は、有給休暇の計算がしにくいことにあります。シフト制では、あらかじめ具体的な労働日や労働時間が決まっていません。そのため、有給休暇を何日与えればよいのか、休んだ日の賃金をいくらにすればよいのかを判断するときに参照すべき所定の労働時間・日数が分かりにくいのです。さらに、労使のどちらもシフト制の労働者に有給休暇が付与されること自体を知らなかったり、業務運営上の支障を理由に取得させない・取得できないといった事例も起きていると資料は指摘しています。パートタイム労働者等は2002年の1,053万人から2025年には1,512万人へと増えていて、非正規雇用のうちシフト制はおよそ半数を占めます。関わる人の数からいっても、放っておけないテーマです。
今回の見直しでは、シフト制の有給休暇に関する法令等の解釈を明確にし、必要な周知を徹底します。新しい制度を作るというより、いまのルールがシフト制にどう当てはまるのかをはっきりさせて、正しく運用されるようにする、という方向です。
事業者にとっての意味は、労務トラブルを避けやすくなることです。有給休暇の与え方や賃金の計算が明確になれば、会社は迷わずに対応でき、働く人も安心して休みを取れます。人手不足のなかでは、こうした働きやすさが人材の定着にもつながります。
今後の見通しは、資料では令和7年度に検討開始、結論を得次第速やかに措置等とされています。対象は労働基準法とその施行規則です。具体的な解釈の中身は、今後示される通知などで明らかになりますので、規制改革実施計画本文とあわせて確認してください。

出典:内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日 閣議決定)実施事項 説明資料
43. 労働条件明示のオンライン化
三つめは、労働条件を伝える方法をデジタルに合わせる見直しです。採用のたびに書類を用意している会社にとって、実務が軽くなる話です。
いまのルールでは、労働条件の明示は書面の交付が原則です。労働者が希望した場合に限り、ファクシミリや電子メール等での送信ができますが、これも電子メールの記録を出力して書面を作れるものに限られ、労働者の同意等が必須です。一方で、資料によれば電子契約の利用率は2021年以降大きく上がっていて、2025年には利用していると答えた割合が8割近くに達しています。大多数の労働者は電子メール等に対応できるという声や、書面交付を請求できる権利を認めれば足りるのではないかという指摘も紹介されています。
今回の見直しでは、テレワークなど多様な働き方やデジタル社会に合わせて、労働者に過度な負担を課さない形で、より円滑に電子メール等の送信で労働条件を明示できるようにするとされています。
事業者にとっての意味は、採用実務の効率化です。入社のたびに紙の書類を用意して手渡すのは、件数が増えるほど手間になります。電子メール等で明示しやすくなれば、遠隔地の採用やテレワークが前提の働き方にもなじみます。書類の管理や保管の負担も減らせます。
今後の見通しは、資料では令和8年度に検討・結論、結論を得次第速やかに措置とされています。対象は労働基準法施行規則や職業安定法施行規則などです。労働者の同意をどう扱うかなど、円滑化の具体的な条件は今後の検討で固まりますので、規制改革実施計画本文を確認してください。

出典:内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日 閣議決定)実施事項 説明資料
外国人材の受け入れに関わる見直し
最後は、外国人材の分野です。人手不足を背景に受け入れが広がるなかで、制度を実態に合わせ、秩序ある共生社会をつくることを狙った見直しが並びます。
44. 技能実習(育成就労)試験見直し
まず、外国人材の受け入れ制度そのものが大きく変わることを押さえておきます。技能実習制度は令和8年度までで、令和9年度からは育成就労制度に移行します。制度の趣旨も、技能の修得を通じた国際貢献から、人手不足分野における人材育成と人材確保へと変わります。この移行に向けた、試験内容の見直しがこの事項です。
課題は、試験で問われる技能が現場の実務とずれていることです。資料では自動車整備の例が挙げられていて、シリンダの分解・組立て作業は約9年前に試験内容として設定されたものの、自動車の性能が上がって部品が簡単には傷まなくなり、いまではその作業が実務でほとんど行われていない、と説明されています。実務でやらない作業を試験で問い続けても、本当の技能は測れません。
今回の見直しでは、試験問題に求められる技能と実務内容との間に乖離がないかを網羅的に精査し、必要な見直しを行います。加えて、日本での生活習慣や基礎知識をより実効性のある形で身につける機会を確保し、全ての育成就労の外国人を対象に、その修得状況を客観的に確認できる仕組みも構築するとされています。
事業者にとっての意味は、受け入れた人材の技能と試験がかみ合うことです。実務に沿った試験になれば、現場で本当に役立つ力を測れます。生活面の知識を確認する仕組みが整えば、来日した人材が地域に溶け込みやすくなり、受け入れる会社にとっても定着につながります。外国人材を雇う、あるいはこれから雇おうとする会社は、令和9年度の育成就労制度への移行そのものを見据えて準備しておくとよいと思います。
今後の見通しは、資料では令和8年度に検討開始、結論を得次第速やかに措置とされています。対象は特定技能制度及び育成就労制度に係る試験の方針(法務省・厚生労働省決定)などです。どの職種の試験がどう変わるかは今後の精査次第ですので、規制改革実施計画本文と各制度の動きを確認してください。

出典:内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日 閣議決定)実施事項 説明資料
45. 外国人の日本語能力試験
次は、外国人材の日本語能力を確認する試験の見直しです。受け入れが広がるほど、日本語を測る機会をどう確保するかが実務の課題になります。
前提として、在留資格ごとに求められる日本語の水準が決まっています。資料によれば、特定技能2号は中級相当、特定技能1号は初級相当、育成就労は入門相当とされています。これらを確認する試験には、年2回開催されるJLPT(日本語能力試験)と、年12回開催されるJFT-Basicがあります。ところが、JLPTは初級から上級まで幅広い試験がある一方で開催が年2回にとどまり、JFT-Basicは開催回数は多いものの初級相当の試験しかありません。その結果、中級相当以上の能力を確認する機会が限られているという課題があります。
今回の見直しでは、中級程度の日本語試験の受験ニーズなどを調査したうえで、例えばJFT-Basicに中級相当の試験を導入するなど、必要な受験機会を十分に確保するとされています。
事業者にとっての意味は、必要な水準の人材を見極めやすくなることです。中級相当の力を測る機会が増えれば、たとえば特定技能2号のように高い日本語力が求められる人材を、時期を待たずに確認・確保しやすくなります。受け入れ計画を立てるうえで、試験のタイミングに縛られる度合いが下がることは実務上の利点です。
今後の見通しは、資料では令和8年度に検討開始、結論を得次第速やかに措置とされています。対象は特定技能制度及び育成就労制度に係る試験の方針などです。どの試験に中級相当がいつ加わるかは調査と検討を経て決まりますので、規制改革実施計画本文を確認してください。

出典:内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日 閣議決定)実施事項 説明資料
46. 在留管理の適正化
最後は、在留資格「技術・人文知識・国際業務」に関わる在留管理の見直しです。専門的な仕事で外国人材を受け入れている会社に関わる話です。
この在留資格は、自然科学・人文科学の知識を要する業務や、外国の文化に基盤を持つ発想を要する業務に就く人のためのものです。資料によれば、この資格による在留外国人の人数と割合は年々拡大していて、2025年末の時点で在留外国人全体のおよそ1割を超えています。課題は二つあります。ひとつは、従事できる業務範囲を示したガイドラインで、挙げられている業種が限定的で説明も実用的でないこと。そのため、意図せず資格に合わない業務に就かせてしまうリスクがあり、それを恐れて採用をためらう声もあります。もうひとつは、在留資格の申請に違法な仲介者が介在しても、現状では排除が難しいこと。仲介者が虚偽の書類を作り、それを使って在留資格を取得してしまう問題が指摘されています。
今回の見直しでは、指針の改訂によって、この在留資格で従事できる業務範囲を明確にします。あわせて、在留資格申請における仲介の適正性を確保するとされています。
事業者にとっての意味は、安心して受け入れられる環境が整うことです。どの業務ならこの資格で就けるのかがはっきりすれば、会社は不安なく人材を採用し、適切な業務に就かせることができます。違法な仲介が排除されれば、正規のルートで受け入れる会社が不利にならず、健全な採用が守られます。
今後の見通しは、資料では令和8年度に検討開始、結論を得次第速やかに措置とされています。対象は「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等に関するものです。業務範囲をどこまで明確化するか、仲介の適正性をどう確保するかは今後の検討で具体化しますので、規制改革実施計画本文を確認してください。

出典:内閣府「規制改革実施計画」(令和8年7月21日 閣議決定)実施事項 説明資料
この計画を、自社の話として読む
ここまで、農林水産・地域、コーポレート、労働、外国人材の12の見直しを見てきました。分野はばらばらに見えますが、根っこには共通の狙いがあります。人手不足が深刻ななかで、現場の負担を減らし、眠っている資源(漁場や土地、そして人材)を動かし、企業が成長に踏み出しやすくすること。この三つが、通奏低音のように流れています。
そして、どの見直しにも共通して言えるのは、制度が変わっても、それを使いこなせるかどうかは会社側の準備次第だということです。代表者住所の非表示も、変形労働時間制の柔軟化も、労働条件のオンライン明示も、制度が整ったからといって自動的に効果が出るわけではありません。自社のどこにその変化が効くのかを見極め、業務に落とし込む手間が必ず要ります。
私の見方はこうです。こうした制度の追い風を実際に受け取れる会社と、素通りしてしまう会社の差は、自社の情報や業務をどれだけ整理できているかにあります。労務のルールも、外国人材の受け入れも、AIやデジタルで下ごしらえができていれば、変化に素早く合わせられます。逆に、何から手をつければいいか分からないまま待っていると、せっかくの見直しも生かしきれません。
自社でどこからデジタルやAIを取り入れればいいか、労務や採用のどこにボトルネックがあるのか。その出発点の整理に迷っておられるなら、WARPの担当までご相談ください。元大手企業でDXやデータ戦略を担ってきた専門家が、月次で伴走しながら、制度の大きな流れを目の前の一歩に翻訳するお手伝いをしています。
まとめ
長くなったので、要点を整理します。
- 規制改革実施計画は、令和8年7月21日に閣議決定された全57事項の実行計画です。この記事では農林水産・地域、コーポレート、労働、外国人材の12事項を取り上げました
- 農林水産・地域では、わなの遠隔監視による見回りルールの見直し、未利用漁場の活用と透明性向上、所有者不明土地の解消事業の一括照会が示されています
- コーポレートでは、銀行・保険会社の議決権保有制限の見直し、株式対価M&A(株式交付)と実質株主確認制度の会社法改正、代表者住所の非表示措置の対象拡大が並びます
- 労働では、変形労働時間制と裁量労働制の見直し、シフト制の有給休暇の解釈明確化、労働条件のオンライン明示が盛り込まれています
- 外国人材では、育成就労制度への移行に向けた試験内容の見直し、中級相当の日本語試験の機会確保、在留管理の適正化が示されています
- 多くの事項は令和8年度の検討・結論・措置とされていますが、具体的な要件はこれからの議論次第です。詳細は規制改革実施計画本文を確認してください
同じ計画のなかでも、エネルギーや製造業に関わる分野は規制改革2026のエネルギー・製造業分野を解説した記事で扱っています。全体像は規制改革2026の全体像を解説した記事からどうぞ。
政策文書は、読むだけだと他人事に見えます。ですが、そこに書かれた「働き方の柔軟化」や「外国人材の受け入れ」は、まさに一つひとつの会社が明日から考えていいテーマです。まずは自社に関わる分野を一つ選んで、いまの運用を見直すところから始めてみてください。
参考文献・一次情報
Footnotes
-
「規制改革実施計画」令和8年7月21日 閣議決定(内閣府 規制改革推進会議)。本記事の事実関係は、同計画の実施事項についての政府説明資料に基づく。各事項の詳細・引用等については規制改革実施計画本文を参照。https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/ ↩
