こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本です。
地域未来戦略とは、2026年7月21日に閣議決定された、地方の経済を強くするための国の総合戦略です。各地に「産業クラスター」と呼ばれる産業の集積をつくり、地場産業も育てて、2030年度までに強い地域経済を築くことを目指しています1。
閣議決定から2か月半がたちました。この間に、国と自治体がつくった計画は3つの類型あわせて74件まで積み上がり、予算の要求も出そろい、担当大臣も替わりました。7月の時点では「方針」だったものが、具体的な地名と企業名と金額を伴って動き始めています。
とはいえ、原文は55ページあり、行政特有の言い回しも多いので、初めて読む人にはかなり手強い文書です。そこで政策に詳しくない方でも全体像をつかめるように中身を噛み砕いたうえで、10月4日時点で何が決まり、中小企業や自治体がいま何をしておけばよいかまで書いていきます。自社の経営にAIをどう取り入れるか関心のある方は、先にAIリテラシーの無料診断で現在地を確かめておくと、後半のAXの話が具体的になります。
この記事の要点(2026年10月4日時点)
- 地域未来戦略は、まち・ひと・しごと創生法に基づく国の総合戦略です。計画期間は2030年度まで。骨太の方針2026、日本成長戦略と同じ7月21日に閣議決定されました
- 中心は産業クラスターの3類型(A 戦略産業クラスター計画、B 地域産業クラスター計画、C 地場産業成長プラン)。9月30日までにA14件、B49件、C11件が公表・報告されています
- お金の出どころは『「強く豊かな日本」投資枠』の中の「地域未来特別枠」。内閣府は令和9年度に地域未来交付金等として2,000億円+事項要求を出しました
- AIの活用(AX)が横断施策の柱で、総務省は「地域AXの推進」に102.2億円を新規で要求しています
地域未来戦略とは何か。国がつくった「地方経済の設計図」
最初に、この文書の位置づけを整理しておきます。ここが分かると、あとの話で迷子になりません。
地域未来戦略は、「まち・ひと・しごと創生法」に基づく国の総合戦略です。平たく言えば、地方をどう元気にするかの国の設計図です。正確には、2025年12月23日に閣議決定された「地方創生に関する総合戦略」を、同じ法律の規定に基づいて変更したものという扱いになっています1。わずか7か月での作り替えですから、かなり早い改訂です。
推進役は、2025年11月11日の閣議決定で内閣に置かれた「地域未来戦略本部」です。本部長は内閣総理大臣、副本部長は内閣官房長官と地域未来戦略担当大臣が務めます。それまであった「新しい地方経済・生活環境創生本部」はこのとき廃止され、検討してきた事項は新しい本部に引き継がれました2。看板の掛け替えに見えるかもしれませんが、本部の設置目的に「産業クラスターを全国各地に形成」「地場産業の付加価値向上と販路開拓」と書き込まれている点に、経済を前面に出す姿勢が表れていると私は読んでいます。
この戦略は単独で存在しているわけではありません。同じ7月21日には、上位の方針である「骨太の方針2026」と、成長分野への投資をまとめた「日本成長戦略」も閣議決定されました3。この3つはセットで、骨太の方針が国全体のお金と経済の大方針、日本成長戦略が「どの産業を伸ばすか」、地域未来戦略が「それを地方でどう実行するか」を受け持ちます。骨太の方針そのものについては骨太の方針2026を初心者向けに解説した記事で扱っていますので、あわせて読むと立体的に見えてきます。
戦略が掲げるゴールはシンプルです。47都道府県のどこに住んでいても、安全に暮らせて、必要な医療や福祉、質の高い教育を受けられて、働く場所がある。そういう社会をつくる、と。そのために何より先にやるべきことが「強い地域経済の構築」だ、というのが出発点です。根拠として戦略は、東京圏・愛知・京阪神の8都府県を除いた39道県の県内総生産が、日本のGDP(国内総生産、国全体が生み出した付加価値の合計)の半分程度を占めることを挙げています。地方が縮めば日本全体が縮む。だから地方の経済成長を、日本を成長軌道に戻すエンジンと位置づけているわけです。実質賃金で年1%程度の上昇を定着させる、という目標も同じ文脈に置かれています。
これまでの地方創生との違いを一言で言うなら、重心の置き場所です。戦略自身が「経済に重きを置いた取組」と書いているとおり、人口減少への対策を並べる守りの計画から、投資を呼び込んで稼ぐ力をつける攻めの計画へ、比重を移しました。ただし暮らしの話を捨てたわけではなく、「強い地域経済」「豊かな生活環境」「選ばれる地方」の3つを柱に、それぞれ数値目標を置いています。
戦略の心臓部、産業クラスターの3類型と17の戦略分野
この戦略を貫くいちばん重要なキーワードが、産業クラスターです。聞き慣れない言葉だと思うので、丁寧に説明します。
クラスター(cluster)は英語で「房」や「かたまり」という意味です。ぶどうの房を思い浮かべてください。産業クラスターとは、関連する企業や大学、研究機関がひとつの地域に集まり、互いに支え合いながら育っていく状態を指します。部品をつくる会社、組み立てる会社、研究する大学、人材を育てる学校がご近所に集まって、地域まるごとで競争力を持つ。そういう「かたまり」を各地につくろう、というのが戦略の中心にある発想です。
面白いのは、その産業クラスターを一律に扱わず、規模と主体によって3つの型に分けているところです。
| 類型 | 主に進める人 | 対象 | イメージ |
|---|---|---|---|
| A. 戦略産業クラスター計画 | 国(内閣官房と経済産業省) | 17の戦略分野に関連する大規模投資 | 半導体工場を核にした一大産業拠点 |
| B. 地域産業クラスター計画 | 都道府県知事(政令指定都市の市長も可) | 海外輸出や国内上位シェアを狙う産業 | 県が力を入れる特定産業の集積 |
| C. 地場産業成長プラン | 市町村または都道府県 | 農林水産業、観光、スポーツ、伝統工芸品、部品加工業など地域資源 | 地元の名産品や観光を育てる計画 |
Aの戦略産業クラスター計画は、いちばん大がかりです。AIや半導体といった分野の大規模投資を起点に、道路や工業用水などのインフラ整備、人材育成まで国が一歩前に出て計画的に進めます。各地の経済産業局が中心となって地方ブロックごとに有識者検討会を開いて素案をつくり、都道府県からの提案を受けて国が計画を決めます。最終目標であるKGI(重要目標達成指標、計画が最後にたどり着くべき成果)は2040年を見据え、官民設備投資額、付加価値増加額、人材育成数の3つで置く決まりです1。
Bの地域産業クラスター計画は、都道府県知事が旗を振るタイプです。海外に輸出して外貨を稼げる、あるいは国内で上位のシェアを取れる産業を県が選び、集中的に育てます。個々の企業を支援するだけでなく、施設を共同で使ったり、地域に足りない機能を補ったりして、地域全体の競争力を底上げします。都道府県が案をつくり、内閣官房と経済産業省の事前確認を経て知事が公表し、正式に提出する流れです。
Cの地場産業成長プランは、いちばん身近なものです。市町村や都道府県が、その土地に根ざした農林水産業、観光業、伝統工芸品、部品加工業などを育てます。ひとつひとつの規模はAやBより小さくても、こうした地場産業が地域を面で支えている、という考え方です。BとCには、計画の最終年度に目指すKGIとKPIに加えて、KPIが未達だったときの撤退基準まで設定することが求められています。うまくいかない計画を惰性で続けない仕組みが、最初から組み込まれているわけです。
政府自身も、この3類型を1枚の図でまとめています。

出典:内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026 政策ファイル」(2026年7月)
Aの起点になる17の戦略分野は、「日本成長戦略」で定められた、国が特に力を入れる分野です。AI・半導体、デジタル・サイバーセキュリティ、情報通信、量子、防衛産業、航空・宇宙、海洋、造船、マテリアル(重要鉱物や部素材)、合成生物学・バイオ、創薬・先端医療、資源・エネルギー安全保障・GX、フュージョンエネルギー、防災・国土強靱化、港湾ロジスティクス、フードテック、コンテンツの17です。最先端技術から防災、食、アニメなどのコンテンツまで幅広く、共通しているのは、世界と戦える分野か、国の安全に関わる分野だという点です。先端領域の大型投資は不確実性が高く、民間だけではリスクを取りきれないことがあるので、国が補助制度やインフラを用意して民間の投資を呼び込む。この「国が一歩前に出る」姿勢が戦略全体を貫いています。

出典:内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026 政策ファイル」(2026年7月)
経済安全保障に関わる分野が複数含まれている点は、私たちの仕事とも重なります。半導体やマテリアル、資源・エネルギーといった分野は、輸出管理や取引先の確認といった実務と切り離せません。関心のある方は、デュアルユース品目とは何かをやさしく整理した記事もあわせてご覧ください。
3つの型に共通しているのは、計画の書き方です。現状と目指す姿である【目標】を整理し、投資の具体像と数字の見込みである【道筋】を示し、実現に必要な【政策手段】を書く。そのうえでKPI(重要業績評価指標、目標に近づいているかを測るものさし)と5W1H(誰が、何を、いつまでに、どこで検討するか)を決め、Aは半年に1回程度のペースで進み具合を確認します。進みが悪ければボトルネックを特定して手を打つ。このPDCAの型は、実は企業がAI導入の計画を立てるときにもそのまま使えます。
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7月の閣議決定から10月までに何が動いたか
この記事の初版を書いた7月25日の時点では、戦略は「これから計画をつくります」という段階でした。そこから2か月半で、状況はかなり進んでいます。内閣官房の公表資料をもとに、主な出来事を時系列で並べます4。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年11月11日 | 地域未来戦略本部を内閣に設置(閣議決定) |
| 2025年12月23日 | 「地方創生に関する総合戦略」を閣議決定(今回の戦略の変更元) |
| 2026年6月24日 | 関係副大臣等会議が「地域未来戦略の政策パッケージ」を決定 |
| 2026年6月30日 | 地域未来戦略本部で原案を提示 |
| 2026年7月21日 | 地域未来戦略を閣議決定(骨太の方針2026、日本成長戦略と同日) |
| 2026年7月31日 | 1回目の計画報告。A13件、B6件、C4件 |
| 2026年8月28日 | 2回目の計画報告(A1件、B25件、C3件)と「地域未来戦略予算パッケージ」の取りまとめ |
| 2026年8月 | 令和9年度概算要求。内閣府が地域未来交付金等に2,000億円+事項要求 |
| 2026年9月18日 | 内閣改造。藤井比早之氏が地域未来戦略担当大臣に就任 |
| 2026年9月30日 | 3回目の計画報告(B18件、C4件)。以後B・Cは月1回程度報告する方針 |
計画の数を足し上げると、9月30日時点でAが14件、Bが49件、Cが11件、合計74件になります(各回の資料から筆者が集計)56。Aの14件は、半導体(北海道、東北、広島県、九州)、洋上風力(北海道、東北、九州)、ロケット・射場(北海道、近畿)、民間航空機の整備(千葉県成田空港周辺)、空飛ぶクルマ(近畿)、バイオ・先端医療(近畿)、次世代船舶(瀬戸内、九州)です。たとえば北海道の半導体クラスターは、Rapidusと産業技術総合研究所の研究開発拠点を核に、2040年までの官民設備投資額7兆270億円、付加価値増加額31兆3,591億円、人材育成数1万2,805人をKGIとして掲げています。あくまで計画上の目標値ですが、桁の大きさは伝わると思います。
B計画とC計画は、もっと地域の色が出ています。北九州市の「社会実装型フィジカルAI」、新潟県と新潟市のアニメーション制作、徳島県の蓄電池、高知県の防災関連製品、鹿児島県の茶。Cでは新潟県燕市の金属洋食器、秋田県男鹿市の酒づくり、鳥取県智頭町の農林業などが並びます。B計画には、計画に参加する企業のリストまで公表されているものが多くあります5。フィジカルAIという言葉自体になじみがない方は、フィジカルAIの基本と日本の勝ち筋を整理した記事が入口になります。
体制も変わりました。7月と8月の会議で議長を務めたのは黄川田仁志大臣でしたが、9月18日の内閣改造で藤井比早之氏が総務大臣に就き、地方創生担当の内閣府特命担当大臣と地域未来戦略担当を兼ねることになりました7。9月30日の会議には、内閣総理大臣補佐官(地域未来戦略担当)として佐々木紀氏、内閣府副大臣(地域未来戦略担当)として総務副大臣と兼任の鈴木英敬氏が出席しています6。自治体の財政を所管する総務省のトップが担当大臣を兼ねる形になったので、交付金や地方財政措置と一体で動かしやすくなった、と私は見ています。改造内閣の顔ぶれは第2次高市改造内閣を経済安全保障の観点で読んだ記事でも整理しました。
初版との違いを、要点だけ表にしておきます。
| 項目 | 初版(2026年7月25日) | 現在(2026年10月4日) |
|---|---|---|
| 計画 | 3類型の枠組みが示された段階 | A14件、B49件、C11件の計74件が公表・報告 |
| 予算 | 補助金に「地域未来枠」を設けることを検討 | 「地域未来特別枠」の設置と、採択時の加点措置の方針が決定。概算要求も提出 |
| 担当大臣 | 黄川田仁志氏 | 藤井比早之氏(総務大臣と兼務) |
お金の仕組み。投資枠、地域未来交付金、「地域未来分」の加点
戦略を掛け声で終わらせないための、お金の裏付けを見ていきます。7月の時点では「検討する」という書き方が多かった部分ですが、8月28日の「地域未来戦略予算パッケージ」でかなり具体的になりました8。
土台にあるのは、骨太の方針2026で新しくつくられた『「強く豊かな日本」投資枠』です。通常の予算とは分けて、複数年度にわたって計画的に投資するための枠組みで、その中に地域未来戦略のための「地域未来特別枠」を、既存の予算とは別枠かつ追加の予算として設けることになりました。あわせて、複数年度の事業費と予算規模を明記した「地域未来戦略実現フレーム」(仮称)を年末までにまとめる方針です。企業が工場を建てる判断をするには、来年以降も支援が続く見通しが要る。戦略が「予見可能性」という言葉を何度も使うのは、このためです。
類型ごとの中身はこうです。Aの戦略産業クラスターについては、計画に必要な公共インフラを整える「戦略産業クラスターインフラ整備費」(仮称)と、企業などが持つ拠点の整備を支える「戦略産業クラスター拠点整備等補助金」(仮称)を新設します。対象は道路、工業用水、下水道にとどまらず、上水道や港湾まで広げ、半導体の共用作業施設や造船・舶用の技能者を育てる共用施設も例に挙がっています。BとCについては、地域未来交付金を拡充し、自治体が企業の設備投資、研究開発、人材育成を支援できる「産業振興型」(仮称)と、関連インフラを整える「産業関連インフラ型」(仮称)を新設します。伴走支援や海外展開など、地域共通の課題に国が直接対応する「地域未来推進費」(仮称)もつくられます。
中小企業にとって見逃せないのが、「地域未来分」という扱いです。大規模投資をする中核企業のサプライチェーンを構成する企業の関連投資や、大学・高専と連携した人材育成の補助金で、地域未来戦略に資するものは採択のときに加点するなど、採択されやすくする措置を講じるとしています。戦略本文も、経済産業省の中堅・中小企業向け補助金について、地域経済への貢献度が高く、自治体が計画に位置づけて伴走支援する企業の審査に、その点を反映すると書いています1。自社が地元の計画に入っているかどうかが、補助金の通りやすさに響く設計です。
そして8月末の令和9年度概算要求で、内閣府は地域未来交付金等(3類型の計画推進等のための経費)として2,000億円+事項要求を出しました。令和8年度当初予算の1,600億円からの増額要求で、地域未来推進費も新規の事項要求として入っています9。事項要求とは金額を示さずに項目だけを要求する方式で、額は予算編成の過程で詰められます。いずれも要求の段階なので、最終的な金額は年末の政府予算案と、その後の国会審議で決まります。
戦略は経済の話だけでは終わりません。交通空白の解消、上下水道の広域連携、医療・介護の維持、子育て世帯に選ばれる地域づくりといった暮らしの施策も並び、たとえば住民の移動の足に困りごとが残る「交通空白」地区を2026年の2,740地区から2030年に0にする、という目標が置かれています1。働く場所があっても住みやすくなければ人は定着しない、という当たり前の話を、数字で追いかける形にしたわけです。
隠れた主役は「AX」。予算の数字が付き始めた
ここからが、私がこの戦略でいちばん注目している部分です。文書のあちこちに、AX(AIトランスフォーメーション)という言葉が出てきます。
AXは、AIを前提に仕事のやり方そのものを組み直すことを指します。AIツールを入れて終わりではなく、業務の流れや組織のあり方まで変える、というニュアンスです。DX(デジタルトランスフォーメーション)のAI版だと考えると分かりやすいと思います。
なぜ地方の戦略にAXが出てくるのか。理由は人手不足です。戦略は、計画をつくって実行する自治体も、産業クラスターや地場産業を担う企業も人材不足が深刻で、それが計画の妨げになりかねないと書いています。そのうえで、AIの積極的な活用は人手不足を乗り越える飛躍のチャンスになる一方、AIは最先端技術で、スキルやノウハウに触れること自体が難しい、とも認めています。だから地方を「AXの始まりの場所」にする。具体的には、自治体AX、消防AX、地域AXの推進、企業の経営改革支援、大学や高専でのデータサイエンス・AI教育、そして中小企業がAXを進めるためのリスキリング(学び直し)プログラムの開発が施策例として挙がっています1。
7月の時点ではここまででしたが、概算要求で金額が見えてきました。総務省は「中堅・中核企業から地域企業に至るまで、AI導入を一気呵成に進める地域AXの推進」として、新規で102.2億円を要求しています10。内訳は、地域の資源と資金を活かした新規事業の立ち上げを支える「ローカル10,000プロジェクト」に新設する「地域AX特別枠」(仮称)が43.2億円、AIなどを使った地域課題解決の実証を支える「地域社会AX/DX推進パッケージ事業」の「地域AX先導タイプ」(仮称)が59.0億円です。前者は民間企業などへの補助なので、地方の会社が直接使える可能性のある枠です。自治体の業務をAIで効率化する「自治体AX/DX」にも7.2億円が新規で計上されました。国全体のAXに向けては、内閣府が領域特化型の「バーティカルAI」の導入・開発利用の促進に約1,009億円を新規で要求しています9。
担当大臣の発言にも、この流れは表れています。藤井大臣は9月18日の就任会見で、総務省の所管分野について「今後のAX、AIの活用等も含めて、情報通信は、やはり世界の最先端を目指して行かないといけません」と述べ、過疎対策についても地域AXを進めながら財政面と人材面の課題に取り組む考えを示しました7。行政のAI活用の現場で何が起きているかは、公務員がAI駆動で働く意味を書いた記事で具体例を挙げています。
正直に言うと、ここは絵に描いた餅にしやすいテーマでもあります。号令をかけても、現場に伝わる形にならなければ何も動きません。国の後押しを、目の前の会社の生産性にどう翻訳するか。そこに答えを出せる組織が、この政策の恩恵を実際に受け取ることになるはずです。私たちがWARPというAIコンサルティングを続けているのも、この翻訳の部分に手応えを感じているからです。AIをどこにどう入れれば、この会社の、この業務が実際に楽になるのか。経営者と一緒にそこを設計していく仕事です。もっとも、AIを入れれば人手不足がすべて解決するわけではありません。効くところと効かないところを見極める判断こそが、最初の分かれ道になります。
中小企業と自治体は、いま何をしておけばよいか
ここまで政策の中身を追ってきました。最後に、これを自分の会社や自分の町の話としてどう受け止めればよいかを書きます。
まず、国がこの戦略の成否を何で測ろうとしているかを押さえておくと、話が具体的になります。「強い地域経済」の柱でいちばん上に置かれた指標は、東京圏以外で働く人1人あたりの付加価値労働生産性の伸び率を、2030年に東京圏以上にすることです。東京圏以外で新しくできる事業所の割合を、2025年の54%から2030年に59%へ引き上げる目標もあります。人材の面では、リスキリングに取り組む地方の経営者などを2029年まで毎年約5,000人という数字も置かれています1。国が見ているのは「地方の会社1社あたりの稼ぐ力」であり、補助金の件数ではありません。
次に、この手の政策が本当に効くのかという疑問です。日本では2001年から経済産業省が「産業クラスター計画」を進め、19のクラスターを支援した前例があります。経済産業研究所が2015年に公表した評価では、この政策が企業の取引ネットワークを広げ、特に東京圏との取引を増やし、企業の雇用と売上を有意に押し上げたと分析されています11。一方で、経済学者からは、多額の支援をばらまくだけでは意味がなく、効く条件を見極めて効果を検証すべきだという指摘も出ています12。私も同じ考えです。KPIと撤退基準を最初から計画に書かせる今回の設計は、その反省を踏まえたものだと受け取っていますが、実際に撤退基準が使われるかどうかは、これから数年の運用を見ないと分かりません。
そのうえで、中小企業の経営者がいまのうちにやっておけることを3つ挙げます。
- 地元の計画を確かめる。 内閣官房の「地域未来戦略に関する3類型の計画」のページに、公表済みの計画と、その多くに参加企業のリストが載っています5。自社の業種や取引先が関係する計画があるか、まず一度見ておくことをおすすめします
- 県や市の窓口と早めに話す。 補助金の「地域未来分」の加点や、計画に位置づけられた企業への審査上の配慮は、計画に入っていてこそ効きます。BとCの計画は今後も毎月のように報告されるので、これから計画をつくる自治体の担当課に、自社の投資計画を早めに伝えておく価値があります
- AIで変えられる業務を棚卸しする。 地域AXの予算は「AI導入を一気呵成に進める」ための枠です。どの業務にAIを入れれば何時間が浮くのかを言える会社ほど、計画にも補助金の申請書にも具体的な数字を書けます
自治体の方にとっては、計画の質そのものが問われます。「目標、道筋、政策手段」を書かせる型は、逆に言えば数字の根拠を示せない計画は通りにくいということです。地域の企業と一緒に、どの投資がどれだけの付加価値を生むのかを詰める作業が欠かせません。
政策の追い風を実際に受け取れるかどうかは、AIやデジタルを自社の武器にできるかどうかで大きく変わると私は考えています。補助金や交付金は、動く準備ができている会社にこそ効きます。何から手をつければいいか分からないまま待っていると、制度があっても素通りしてしまう。自社でAIをどこからどう取り入れればいいか、生産性のボトルネックがどこにあるのか、その出発点の整理に迷っておられるなら、WARPの担当までご相談ください。元大手企業でDXやデータ戦略を担ってきた専門家が、月次で伴走しながら、AIを経営に落とし込むお手伝いをしています。
まとめ
要点を整理します。
- 地域未来戦略は、2026年7月21日に閣議決定された地方経済の立て直しの設計図です。骨太の方針2026、日本成長戦略と一体で、計画期間は2030年度まで
- 中心は産業クラスターの3類型。A(国主導、17分野)、B(都道府県主導)、C(市町村の地場産業)に分かれ、9月30日までに計74件の計画が公表・報告されました
- お金は『「強く豊かな日本」投資枠』の中の「地域未来特別枠」から出ます。内閣府は地域未来交付金等に2,000億円+事項要求を出し、補助金には「地域未来分」の加点措置が予定されています
- 隠れた主役はAX。総務省の地域AXに102.2億円の新規要求が出て、地方の会社が使える枠も見え始めました
- 9月18日の内閣改造で、担当大臣は総務大臣を兼ねる藤井比早之氏に替わりました
次の山場は年末です。「地域未来戦略実現フレーム」と政府予算案で、複数年度の予算規模がどこまで示されるか。そこで数字が出てから動き始めるより、いまのうちに地元の計画を一度読み、自社のどこにAIが効くのかを確かめておくほうが、間違いなく間に合います。年末に予算の数字がそろった段階で、この記事も更新する予定です。
参考文献・一次情報
Footnotes
-
「地域未来戦略」令和8年7月21日 閣議決定(内閣官房 地域未来戦略本部事務局)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikimirai/pdf/20260721_honbun.pdf ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
-
「地域未来戦略本部の設置について」令和7年11月11日 閣議決定 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikimirai/pdf/20251111_1.pdf ↩
-
内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026について」令和8年7月21日 閣議決定 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/decision0721.html ↩
-
内閣官房「地域未来戦略本部」(本部会合・関係副大臣等会議の開催状況、閣議決定文書)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikimirai/index.html ↩
-
内閣官房「地域未来戦略に関する3類型の計画」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikimirai2/sangyo-keikaku/index.html / 地域未来戦略に関する関係副大臣等会議(第5回、令和8年7月31日)資料1「戦略産業クラスター計画等の全体像」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikimirai/kankei_fukudaijin/dai5/shiryo1.pdf ↩ ↩2 ↩3
-
地域未来戦略に関する関係副大臣等会議(第7回、令和8年9月30日)資料1「地域未来戦略における『3類型』の計画のこれまでの取組状況と今後の進め方」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikimirai/kankei_fukudaijin/dai7/shiryo1.pdf 、資料2「地域産業クラスター計画・地場産業成長プランの概要」、出席者一覧 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikimirai/kankei_fukudaijin/dai7/gijishidai.html ↩ ↩2
-
総務省「藤井総務大臣就任会見の概要(令和8年9月18日)」https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001574.html ↩ ↩2
-
地域未来戦略に関する関係副大臣等会議(第6回、令和8年8月28日)資料3・資料4「地域未来戦略予算パッケージ」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikimirai/kankei_fukudaijin/dai6/shiryo4.pdf ↩
-
内閣府「令和9年度 予算概算要求の概要」(令和8年8月)https://www.cao.go.jp/yosan/soshiki/r09/gaiyou_r09.pdf ↩ ↩2
-
総務省「令和9年度総務省所管予算 概算要求の概要」(令和8年8月)https://www.soumu.go.jp/main_content/001089630.pdf /「総務省重点施策2027」https://www.soumu.go.jp/main_content/001089257.pdf ↩
-
大久保敏弘・岡崎哲二「産業政策と産業集積:『産業クラスター計画』の評価」経済産業研究所ディスカッション・ペーパー(2015年12月)https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/15120013.html ↩
-
佐藤泰裕「国の『地域未来戦略』は実現できるのか?産業振興に必要な〝条件〟、多額の支援をばらまくだけでは意味はない」Wedge ONLINE(2026年8月17日)https://wedge.ismedia.jp/articles/-/40950 ↩






