挑戦者

イーロン・マスクの頭の中を覗く:人類の未来を書き換える壮大な計画【前編】

2026-02-16濱本 隆太

テスラ株を8年保有し、FSDを体験した投資家の視点から、イーロン・マスクの壮大な計画を解き明かす。テスラのAIロボティクス戦略、ロボタクシー構想、Optimus、そしてSpaceXの宇宙輸送革命まで、前編では地上と低軌道のインフラ構築を追う。

イーロン・マスクの頭の中を覗く:人類の未来を書き換える壮大な計画【前編】
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こんにちは、TIMEWELLの濱本です。いやはや、すごい時代になったものです。今日は、良くも悪くも現代の寵児、イーロン・マスク。彼の頭の中、一体どうなっているのか?そんな話を、僕なりの視点で語ってみたいと思います。

私自身、テスラのモデル3を所有し、もう8年ほどテスラの株式を保有する投資家でもあります。数年前、テキサス州のオースティンを訪れた際には、モデル3に搭載されたFSD(Full-Self Driving)の驚くべき性能を実際に体験しました。また、彼のもう一つの大きな事業であるX(旧Twitter)にも、その変革の可能性を信じて投資をしてきました。ジャック・ドーシーが率いていた頃のスクエア(現Block)にも投資してきましたが、必ずしもうまくいくことばかりではありません。そうした成功も失敗も含めた経験を通じて、私は一人の投資家、そして一人のユーザーとして、イーロン・マスクという人物が描く未来を間近で見てきたつもりです。

彼は単なるEVメーカーのCEOでも、ロケットを打ち上げる宇宙企業の社長でもありません。テスラ、SpaceX、Neuralink、xAI、そしてThe Boring Company。これらの点と点に見える事業は、すべて一つの壮大なビジョンへと繋がっています。それは、人類という種のOSそのものをアップデートし、文明を次のステージへと押し上げようとする、壮大な計画なのではないか。本記事では、前編・後編の2回にわたり、私が集めた情報と個人的な考察を交えながら、イーロン・マスクの頭の中を解き明かしていきたいと思います。彼の個々の事業が、最終的にどこへ向かおうとしているのか。その答えを探る旅、あなたも一緒に冒険に出てみませんか?

テスラ:自動車会社という名のAIロボティクス企業

多くの人々にとって、テスラは「電気自動車(EV)の会社」というイメージが強いでしょう。しかし、その本質は、単なる自動車メーカーの枠を遥かに超えています。テスラが真に目指しているのは、AIとロボティクスを駆使して、エネルギーの生産から消費、そして人間の労働に至るまで、社会のあらゆるシステムを根底から変革することです。

サステナブルな未来への入り口

テスラが創業当初から掲げてきたミッションは、「世界の持続可能なエネルギーへの移行を加速させる」ことでした。その実現のために、彼らはEVだけでなく、家庭用蓄電池「Powerwall」や、大規模エネルギー貯蔵システム「Megapack」、そして太陽光発電パネル「Solar Roof」といった製品群を展開してきました。これらはすべて、化石燃料への依存から脱却し、再生可能エネルギーを基盤とした社会を構築するための重要なピースです。

しかし、2025年12月、マスクはこのミッションを「Amazing Abundance(驚異的な豊かさ)」へと変更すると発表しました [1]。これは、単に「地球に優しく」というレベルから、「テクノロジーで人類をとんでもなく豊かにしちゃおうぜ!」という、野心のスケールが一段上がったことを意味します。この「驚異的な豊かさ」の鍵を握るのが、FSD(完全自動運転)と、人型ロボット「Optimus」なのです。

FSDとロボタクシー:交通革命と「資産」に変わるクルマ

私がオースティンで体験したFSDは、まさに未来の到来を予感させるものでした。人間のドライバーが運転しているかのような滑らかな加減速と自然なハンドルさばきは、AIが現実世界を深く理解し始めていることを示していました。

2025年から2026年にかけて、テスラのFSD技術は「FSD Supervised v14」系統へと進化を遂げ、その能力を飛躍的に向上させています。特に、エンドツーエンドのニューラルネットワークへの移行により、従来はプログラムコードで対応していた複雑な交通状況の判断を、AIが自ら学習して実行できるようになりました。これにより、緊急車両への対応や予期せぬ障害物の回避といった、人間のドライバーでも難しい状況への対応精度が劇的に改善されています [2]。

そして、このFSD技術の進化の先に見据えられているのが、「ロボタクシー」構想です。マスクは、2025年夏にテキサス州オースティンでサービスを開始し、2026年には北米全域へと展開する計画を明らかにしています [3]。この構想には、2人乗りの専用車両「Cybercab」の導入だけでなく、既存のテスラオーナーが自分の車をロボタクシーネットワークに提供し、車が働いていない時間に収益を上げる「シェアリングエコノミー」の側面も含まれています。

マスクは、「FSDが完成すれば、テスラ車はオーナーのために収益を生み出す『資産』になる」と繰り返し語っています。これって、すごくないですか?車が「金食い虫」から「稼いでくれる相棒」に変わる。まさに、自動車史における革命です。自家用車が、購入した瞬間から価値が下がる「負債」ではなく、所有しているだけでお金を生み出す「資産」へと変わる。そうなれば、人々の移動コストは劇的に下がり、都市の交通システム、さらには都市の構造そのものが大きく変貌を遂げることになるでしょう。

項目 計画・目標 時期
FSDバージョン FSD Supervised v14.2.2.5 2026年初頭
ロボタクシーサービス開始 テキサス州オースティン 2025年夏
カリフォルニア州 2025年末
北米全域 2026年予定
専用車両「Cybercab」 量産開始 2026年予定

Optimus:労働の概念を覆すヒューマノイド

テスラの野心は、移動の自動化だけにとどまりません。彼らが次に狙うのは、「労働の自動化」です。その主役となるのが、人型ロボット「Optimus」です。

2021年に初めて構想が発表された当初は、多くの人がその実現性を疑問視していました。しかし、それからわずか数年で、Optimusは驚異的なスピードで進化を遂げています。最新のプロトタイプは、器用に卵を掴んだり、Tシャツを畳んだり、さらにはヨガのポーズまでこなすことができます。これは、テスラがFSDで培った高度なAI技術、特に現実世界の物体を認識し、操作するためのニューラルネットワークを、人型のボディに応用しているからに他なりません。

マスクの計画は壮大です。2025年には、まず自社の組立ラインで5,000体のOptimusを稼働させ、単純作業や反復作業を自動化する計画です [4]。さらに、2026年の第2四半期には、カリフォルニア州フリーモント工場にある「モデルS」と「モデルX」の生産ラインをOptimusの製造ラインに転換し、大量生産体制を構築すると発表しました [5]。

マスクは、長期的にはOptimusを1体あたり2万ドルから3万ドル、「車より安く」提供し、最終的には年間100万台、さらには1億台という桁外れの規模で生産することを目指しています [4] [6]。

もし、一家に一台、いや、一人一台Optimusの時代が来たら?社会は、文字通りひっくり返るでしょう。危険な作業や退屈な反復作業から人間は解放され、労働力不足は解消されます。マスクが言うように、生産活動がほぼ全自動化され、エネルギーさえあればプロダクトが無限に生み出される「驚異的な豊かさ」の時代が到来するかもしれません。Optimusは、単なる工場労働者の代替ではなく、家事、介護、建設、災害救助など、社会のあらゆる場面で活躍する可能性を秘めているのです。

項目 詳細
2025年目標 自社工場で5,000体稼働
生産ライン転換 フリーモント工場のモデルS/Xラインを転用(2026年Q2)
目標価格 1体あたり2万〜3万ドル
長期生産目標 年間100万台、最終的に1億台
主な能力 物体操作、歩行、タスク学習、人間との協調作業

Dojoと半導体戦略:AIの心臓を自ら作る

FSDやOptimusといった野心的なAIプロジェクトを支えるのが、テスラが自社開発するスーパーコンピュータ「Dojo」と、その頭脳となるAIチップです。

AIの学習には、膨大な計算能力を必要とします。現在、その市場はNVIDIAのGPUがほぼ独占していますが、テスラはAI開発のボトルネックを他社に握られることを嫌い、AIの学習に最適化された独自のチップとコンピュータを開発する道を選びました。

一時期、Dojoプロジェクトは次世代版の開発が中止されるなど、その先行きが不透明になったこともありました [7]。しかし、2026年1月、マスクは次世代AIチップ「AI5」の設計が順調に進んでいることを理由に、「Dojo3」プロジェクトの再開を宣言しました [8]。

マスクの言葉は、テスラが目指す半導体戦略の核心を突いています。それは、単にNVIDIAに匹敵する性能を追い求めるだけでなく、圧倒的な電力効率とコスト効率を実現することです。テスラは自社のEVやロボットという巨大な需要を背景に、世界で最も大量に生産されるAIチップを作ることで、スケールメリットを最大限に活かそうとしています。

その戦略を加速させるため、テスラは韓国での半導体開発体制を強化しています。サムスン電子の主要拠点がある華城市に新たな組織を設立し、チップ設計の専門家を積極的に採用しているのです [9]。これは、サムスン電子との連携を深め、最先端の製造プロセスを活用して、高性能かつ低コストなチップを安定的に確保する狙いがあると考えられます。テスラは、AIの頭脳である半導体から、そのAIが動かすロボットや自動車、そしてそれらが活動するためのエネルギーインフラまで、すべてを垂直統合で支配しようとしているのです。

チップ世代 性能目標 消費電力 備考
AI5(次世代) 単体でNVIDIA Hopper級、2基でBlackwell級 約250W 設計進行中
Dojo3 宇宙ベースAIコンピューティング対応 - プロジェクト再開
参考:NVIDIA H100 - 約700W 現行主流GPU

SpaceX:宇宙を身近にする輸送革命

テスラが地上で産業革命を進める一方、SpaceXは宇宙で輸送革命を推し進めています。この2つの会社は、一見すると全く異なる事業を行っているように見えますが、マスクの壮大な計画の中では、相互に補完し合う不可欠な存在です。

再利用可能ロケットの衝撃

SpaceXが成し遂げた最大の功績は、ロケットの再利用を実用化したことです。かつては使い捨てが当たり前だったロケットの第1段ブースターを、地上や海上のドローン船に垂直着陸させ、整備して再び打ち上げる。この革新的な技術によって、宇宙への輸送コストは劇的に下がりました。

主力ロケットである「ファルコン9」は、今や数日に1回という驚異的なペースで打ち上げをこなし、商業衛星打ち上げ市場を席巻しています。そして、その先に見据えるのが、次世代の巨大宇宙船「スターシップ」です。全長120メートルを超えるこの巨大なロケットは、100人以上の人間と100トン以上の貨物を一度に地球低軌道、さらには月や火星へと運ぶことができます。スターシップもまた、完全再利用型を目指して開発が進められており、2025年5月には9回目の飛行試験に成功するなど、その実現は着実に近づいています [10]。

スターシップが完成すれば、宇宙輸送のコストはさらに1桁、あるいは2桁下がると言われています。そうなれば、宇宙はもはや一部の国家や大企業だけのものではなくなり、誰もがアクセス可能な新たな経済圏となるでしょう。

Starlink:世界を繋ぐ衛星インターネット

SpaceXのもう一つの柱が、衛星インターネットサービス「Starlink」です。数千から数万機の小型衛星を地球低軌道に展開し、地球上のどこにいても高速なインターネット接続を提供するこのサービスは、すでに世界中で多くのユーザーを獲得し、SpaceXの収益の大部分を稼ぎ出す事業へと成長しています [11]。

Starlinkの価値は、単に山間部や離島などの不感地帯にインターネットを届けるだけではありません。テスラのFSDにとって、Starlinkは極めて重要な役割を果たします。世界中のテスラ車から収集される膨大な走行データをリアルタイムでサーバーに送り、学習済みの最新AIモデルを車両に配信する。このデータのやり取りを、地上の通信網だけに頼るのではなく、Starlinkのグローバルなネットワークが補完することで、FSDの進化はさらに加速します。同様に、世界中に展開されるOptimusロボット群を遠隔で制御し、アップデートするためにも、Starlinkは不可欠なインフラとなるでしょう。

SpaceX事業 概要 マスクの計画全体における役割
ファルコン9 再利用型ロケット、商業打ち上げ市場を席巻 宇宙輸送コストの劇的削減
スターシップ 全長120m超の完全再利用型巨大宇宙船 月・火星への大量輸送手段
Starlink 低軌道衛星インターネット網 FSD・Optimusのグローバル通信基盤

前編のまとめ:地上と低軌道に築かれる未来へのインフラ

ここまで見てきたように、イーロン・マスクはテスラを通じて地上におけるエネルギーと労働の革命を、そしてSpaceXを通じて宇宙への輸送と通信の革命を、同時に、かつ圧倒的なスピードで進めています。

テスラは、もはや単なる自動車会社ではありません。AI、ロボティクス、半導体、エネルギーを垂直統合し、人類の生産活動そのものを再定義しようとする巨大なテクノロジー企業です。一方のSpaceXは、宇宙へのアクセスを民主化し、地球規模の通信網を構築することで、来るべき宇宙経済圏の基盤を築いています。

これらは、それぞれが独立した巨大な事業であると同時に、すべてが連携し、一つの大きな目標に向かうための布石です。では、マスクは、この地上と低軌道に築き上げた壮大なインフラの上で、一体何を成し遂げようとしているのでしょうか。

後編では、彼の視線がさらにその先、宇宙空間でのAI開発、そして人類の多惑星種化という、さらに壮大なビジョンへと向かっていることを解き明かしていきます。彼の真の狙いは、地球という揺りかごから人類を解き放ち、文明そのものを次の次元へと進化させることにあるのかもしれません。

参照

[1] イーロン・マスク、テスラのミッションを「驚異的な豊かさ」へ変更。Xで新ビジョンを語る - EVcafe (https://evcafe.jp/article20251223/) [2] 2025.45.10 (FSD 14.2.2.5) Official Tesla Release Notes - Software Updates (https://www.notateslaapp.com/software-updates/version/2025.45.10/release-notes) [3] テスラ、自動運転タクシーを「2026年から全米」に拡大 初っ端から無人 | 自動運転ラボ (https://jidounten-lab.com/u_52364) [4] Tesla's Robot, Optimus: Everything We Know | Built In (https://builtin.com/robotics/tesla-robot) [5] テスラ株上昇、マスクがAI転換を表明 モデルSとXを終了しロボット「Optimus」生産へ | Forbes JAPAN (https://forbesjapan.com/articles/detail/90735) [6] AIヒューマノイドで米中が火花 テスラのマスク氏は1億台生産も視野に - 日経ビジネス (https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00711/111700021/) [7] テスラ、AI学習用半導体の開発チームを解散 車載向けを転用へ - 日本経済新聞 (https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC263CN0W5A820C2000000/) [8] Elon Musk restarts Dojo3 'space' supercomputer project as AI5 chip design gets in 'good shape' - Tom's Hardware (https://www.tomshardware.com/tech-industry/supercomputers/elon-musk-restarts-dojo3-space-supercomputer-project-as-ai5-chip-design-gets-in-good-shape-will-be-first-tesla-built-supercomputer-to-feature-all-in-house-hardware-with-no-help-from-nvidia) [9] Tesla's South Korea move points to deepening semiconductor alliance with Samsung - DIGITIMES (https://www.digitimes.com/news/a20251017PD221/tesla-samsung-automotive-chip-fab-south-korea.html) [10] SpaceX - Updates (https://www.spacex.com/updates) [11] スペースX、月面での「自力発展都市」建設を優先=マスク氏 | ロイター (https://jp.reuters.com/markets/global-markets/G2JR3HFSDBLGDCNTFU77KSVBRQ-2026-02-09/)

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