挑戦者

イーロン・マスクの真の功績?SpaceXが生んだ100のスタートアップ「SpaceXマフィア」の衝撃

2026-02-15濱本 隆太

SpaceXの卒業生が創業した140社超のスタートアップ「SpaceXマフィア」の実態を解説。Relativity Space、Varda、Radiant Nuclearなど注目10社の事業内容と、超人を生み出すSpaceXの企業文化に迫る。

イーロン・マスクの真の功績?SpaceXが生んだ100のスタートアップ「SpaceXマフィア」の衝撃
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こんにちは、TIMEWELLの濱本です。今日はテック関連のサービスご紹介…と少し趣向を変えて、未来を創る新しいテクノロジーと、それを生み出す「人」に焦点を当てた物語をお届けします。

イーロン・マスク。その名を聞いて多くの人が思い浮かべるのは、電気自動車の未来を切り拓いたテスラや、宇宙への扉を民間企業に開いたSpaceX、あるいは最近世界を賑わせているAI企業のxAIかもしれません。しかし、彼の社会に対する最大の貢献は、これらの革新的な企業そのものではなく、実は「二世代分の起業家を育て上げたこと」にあるのではないか、という見方があることをご存知でしょうか。

かつて、オンライン決済の巨人PayPalを共に創り上げた仲間たちは、後にYouTube、LinkedIn、Yelpといった世界を変える企業を次々と立ち上げ、「PayPalマフィア」としてシリコンバレーの伝説となりました。そして今、歴史は繰り返されようとしています。イーロン・マスクが率いるSpaceXから巣立った卒業生たちが、新たな「マフィア」――SpaceXマフィア――を形成し、静かに、しかし確実に世界を次のステージへと押し上げようとしているのです。

彼らが立ち上げたスタートアップは、すでに140社を超え、その資金調達総額は1兆円を突破しています [1]。これは単なるスピンアウトの連続ではありません。宇宙、AI、エネルギー、製造業といった、国の根幹をなす巨大産業のルールを根底から書き換える、壮大な挑戦の始まりです。この記事では、謎に満ちた「SpaceXマフィア」の実態と、彼らが描く未来の姿を、具体的な企業とその驚くべき事業内容を通して、できる限り専門用語を避け、ワクワクする気持ちを共有できるよう解き明かしていきます。

なぜSpaceXから超人たちが生まれるのか?

147社以上の企業、112億ドル(約1.7兆円)を超える資金調達、そして7,700人以上の新たな雇用 [1]。これは、SpaceXの卒業生たちが創り出した経済圏の最新の姿です。なぜ一つの企業から、これほど多くの、そしてこれほど強力な起業家たちが生まれるのでしょう。その答えは、SpaceXが単なる「ロケット工場」ではなく、常識を破壊し、不可能を可能にする「超人育成工場」でもあるという事実に隠されています。

多くの卒業生が口を揃えて語るのは、SpaceXの特異な企業文化です。それは主に4つの要素から成り立っています。

1. Extreme Ownership(徹底的な当事者意識) SpaceXでは、エンジニアは単なる歯車ではありません。自分が担当する部品やシステムに対して、設計から製造、テスト、そして打ち上げの成功まで、文字通り「全責任」を負います。「それは私の仕事ではない」という言葉は存在せず、問題解決のためなら自分の専門領域を超えて動くことが当たり前とされています。この経験が、創業者として会社全体のあらゆる課題に立ち向かうための強靭な精神力を育むのです [2]。

2. First-Principles Thinking(第一原理思考) 「ロケットは高価なのが当たり前」という業界の常識を、イーロン・マスクは「物理学の法則に反していない限り、実現できるはずだ」という考え方で打ち破りました。これが第一原理思考です。SpaceXの従業員は、既存のやり方や常識を疑い、物事の本質まで遡って「本当にそれは不可能なのか?」と問い続けることを叩き込まれます。この思考法が、誰も考えつかなかった革新的なアイデアの源泉となるのです。

3. Hardware is Hard(ハードウェアは難しい)への挑戦 ソフトウェアのスタートアップとは異なり、物理的な「モノ」を作るハードウェア開発は、莫大な初期投資と長い開発期間、そして複雑なサプライチェーンを伴います。SpaceXは、その最も困難な領域である航空宇宙分野で、驚異的なスピードと低コストを実現しました。ここで培われた、複雑なハードウェアを迅速に形にするためのノウハウは、他の製造業やエネルギー産業においても絶大な競争力となります [3]。

4. Speed and Urgency(スピードと危機感) 「Move fast and break things(速く動き、物事を破壊せよ)」という言葉はシリコンバレーのモットーですが、SpaceXはそれを遥かに凌駕するスピードで実行します。数週間でエンジンを設計し、数ヶ月でプロトタイプをテストする。この猛烈な開発サイクルは、常に危機感を持ち、完璧を待つのではなく、まず作って試すという文化から生まれています。この経験が、スタートアップの初期段階における迅速な市場投入と改善サイクルを可能にするのです。

このような過酷とも言える環境で鍛え上げられた人材が、卒業後に新たな挑戦の場を求めるのは、ある意味で必然なのかもしれません。彼らは、SpaceXで学んだ哲学と方法論を手に、今度は自らがリーダーとなって、新たな産業革命の旗手となっているのです。

未来を創る「SpaceXマフィア」注目の10社

それでは、具体的にどのような企業が誕生しているのでしょうか。140社以上の中から、特に私たちの未来に大きなインパクトを与えうる、注目の10社を厳選してご紹介します。

1. Relativity Space:ロケットを「印刷」する3Dプリンター革命

会社名 Relativity Space
創業者 Tim Ellis, Jordan Noone (元SpaceXエンジニア)
事業内容 世界最大の金属3Dプリンターによるロケット製造
調達額 約19億ドル (約2,900億円) [4]

まず紹介したいのが、Relativity Space。彼らはロケット製造の常識を文字通り根底から覆そうとしています。従来のロケットが何十万もの部品から構成されるのに対し、彼らは巨大な3Dプリンター「Stargate」を使って、部品点数を100分の1以下に削減したロケット「Terran」を開発。これにより、製造期間を劇的に短縮し、コストを大幅に削減することを目指しています。まさに、ロケット工場そのものをソフトウェア化するような試みであり、宇宙へのアクセスをさらに民主化する可能性を秘めています。

2. Varda Space Industries:宇宙工場で新薬や新素材を創る

会社名 Varda Space Industries
創業者 Will Bruey (元SpaceX宇宙船オペレーター)
事業内容 微小重力環境を利用した宇宙での物質製造
調達額 約3億2,900万ドル (約500億円) [2]

地上では重力の影響で難しい、高品質な結晶構造を持つ新薬や、次世代の光ファイバーケーブルといった素材を、無重力の宇宙空間で製造し、地球に持ち帰る――。まるでSF映画のような話ですが、これを本気で実現しようとしているのがVardaです。すでに宇宙空間での医薬品結晶化実験に成功し、カプセルを地球に帰還させることにも成功しています [5]。この技術が確立されれば、製薬や半導体、通信といった分野に計り知れないインパクトを与えるでしょう。

3. Radiant Nuclear:一家に一台?持ち運べる原子炉

会社名 Radiant Nuclear
創業者 Doug Bernauer (元SpaceXエンジニア)
事業内容 ポータブルな超小型モジュール式原子炉の開発
調達額 約5億2,500万ドル (約800億円) [4]

原子力エネルギーと聞くと、大規模な発電所と安全性への懸念が頭に浮かぶかもしれません。Radiantは、そのイメージを根底から覆します。彼らが開発するポータブル原子炉「Kaleidos」は、なんと輸送コンテナに収まるほど小型で、工場で量産可能。この問題解決のアプローチには脱帽です。災害地域の電力供給や、データセンター、さらには将来の月面基地まで、クリーンで安定した電力をどこへでも届けられる未来を目指しています。元SpaceXのエンジニアたちが、火星移住計画で培ったノウハウを地球のエネルギー問題に応用しているのです [6]。

4. Ursa Major:ロケットエンジンの「標準部品」化を目指す

会社名 Ursa Major
創業者 Joe Laurienti (元SpaceX推進エンジニア)
事業内容 汎用ロケットエンジンの開発・製造
調達額 約4億3,400万ドル (約660億円) [4]

これまでロケット開発に挑む企業にとって、心臓部であるエンジンの自社開発は、最も困難でコストのかかる巨大な壁でした。Ursa Majorは、高性能なロケットエンジンを「標準部品」として開発・販売することで、新規参入企業がより迅速かつ低コストでロケットを開発できる環境を整えようとしています。これは、PCの世界でIntelがCPUを提供したように、宇宙産業の水平分業を促進し、イノベーションを加速させる重要な役割を担っています [7]。

5. Hermeus:マッハ5で飛ぶ極超音速旅客機

会社名 Hermeus
創業者 AJ Piplica, Skyler Shuford (元SpaceX、Blue Origin出身者ら)
事業内容 マッハ5(時速約6,100km)で飛行する極超音速航空機の開発
調達額 約2億3,900万ドル (約360億円) [4]

「東京からニューヨークまで、わずか2時間」。にわかには信じがたいですが、Hermeusはそんな夢の未来を実現するため、極超音速旅客機の開発に本気で挑んでいます。彼らは、既存のジェットエンジンとラムジェットエンジンを組み合わせた独自のハイブリッドエンジン「Chimera」を開発し、すでにプロトタイプのテストにも成功しています。まずは無人機から実用化し、将来的には民間航空の常識を塗り替えることを目指しています [8]。

6. Machina Labs:AIとロボットが製造業の未来を変える

会社名 Machina Labs
創業者 Edward Mehr (元SpaceX、Google出身)
事業内容 AIを活用したロボットによる金属成形プラットフォーム
調達額 約1億6,900万ドル (約260億円) [4]

大規模な金型やプレス機を必要とせず、2台のロボットアームがAIの指示に従って金属板を自在に成形していく――。Machina Labsが開発する「Robotic Blacksmithing(ロボット鍛冶)」は、製造業のあり方を根本から変える可能性を秘めています。試作品の製作や少量多品種生産が、かつてないスピードと低コストで可能になり、航空宇宙から自動車、建設まで、あらゆる産業のイノベーションを加速させます [9]。

7. Parallel Systems:貨物鉄道の自動化・電動化

会社名 Parallel Systems
創業者 Matt Soule (元SpaceXエンジニア)
事業内容 自動運転・電動化された貨物鉄道車両の開発
調達額 約1億ドル (約150億円) [4]

長大な編成を組まなければ非効率だった従来の鉄道輸送。Parallel Systemsは、個々の車両が自動運転で走行するプラットフォームを開発し、より柔軟で効率的な鉄道貨物輸送を実現しようとしています。トラック輸送が主流となっている物流網に、環境負荷の低い鉄道という選択肢を復活させ、サプライチェーン全体の脱炭素化と効率化に貢献します [10]。

8. Base Power:家庭用バッテリーで電力網を再構築

会社名 Base Power Company
創業者 Zach Dell (元SpaceX、Anduril出身者ら)
事業内容 家庭用蓄電池システムとエネルギーサービス
調達額 約13億ドル (約2,000億円) [4]

TeslaのPowerwallを彷彿とさせますが、Base Powerはさらに一歩進んでいます。各家庭に大容量の蓄電池を設置するだけでなく、それらを仮想的に束ねて一つの巨大な発電所(VPP: Virtual Power Plant)として機能させ、電力網全体の安定化に貢献します。電力不足が深刻化する中で、家庭レベルでのエネルギー自給自足と、より強靭な社会インフラの構築を両立させる野心的な挑戦です [11]。

9. AstroForge:小惑星から資源を採掘する宇宙鉱夫

会社名 AstroForge
創業者 Matt Gialich, Jose Acain (元SpaceX、Virgin Galactic出身)
事業内容 小惑星での資源採掘(アステロイド・マイニング)
調達額 非公開 (2025年に打ち上げ実施)

地球上で枯渇が懸念されるプラチナなどのレアメタルを、資源が豊富に存在する小惑星から採掘する。AstroForgeは、この壮大なビジョンに挑む数少ない企業の一つです。すでに探査機を打ち上げ、小惑星の探査ミッションを実行に移しています [12]。成功すれば、人類の資源問題に対する考え方を一変させるだけでなく、宇宙経済圏の確立に向けた大きな一歩となります。

10. Quilter:AIが電子回路を自動設計する

会社名 Quilter
創業者 Sergiy Nesterenko (元SpaceXエンジニア)
事業内容 AIによるプリント基板(PCB)の自動レイアウト設計
調達額 約3,840万ドル (約58億円) [4]

現代のあらゆる電子機器に不可欠なプリント基板。その設計は、今なお高度な専門知識を持つエンジニアの手作業に大きく依存しています。Quilterは、この複雑な設計プロセスをAIによって完全に自動化するツールを開発。エンジニアが回路図を入力するだけで、AIが物理法則に基づいて最適なレイアウトを数分で生成します。これにより、ハードウェア開発のボトルネックが解消され、開発サイクルが劇的に加速することが期待されています [13]。

結論:本当のイノベーションは「人」から生まれる

ここで紹介した企業は、SpaceXマフィアが生み出したイノベーションのほんの一部に過ぎません。彼らの挑戦は、宇宙開発という一つの領域に留まらず、エネルギー、製造、AI、ヘルスケアといった、私たちの生活の根幹を支えるあらゆる産業に及んでいます。

イーロン・マスクが成し遂げたことの真の価値は、再利用可能なロケットや魅力的な電気自動車といった「プロダクト」そのものだけではないのかもしれません。個人的には、彼の最大の功績は、困難な課題に真正面から立ち向かい、常識を疑い、驚異的なスピードで未来を形にする「文化」を創り上げ、その熱狂的なDNAを数多くの才能ある若者たちに植え付けたことにある、と考えています。

PayPalマフィアが2000年代のWeb 2.0革命を牽引したように、SpaceXマフィアは、これから始まる「リアルワールド(物理世界)」の産業革命を主導していくことになるでしょう。彼らが起こすイノベーションの波は、まだ始まったばかりです。次に世界を変えるのは、この記事で紹介した企業の、さらにその先から生まれる、まだ見ぬ「第三世代」の起業家たちなのかもしれません。未来のイノベーションの種は、もうすでに彼らの手によって蒔かれているのですから。


参考文献

[1] Alumni Founders. (2026). SpaceX Alumni Founder Stats. https://www.alumnifounders.com/stats

[2] Weiss, G., & Hornstein, J. (2025, December 25). The SpaceX Mafia is here. Business Insider. https://www.businessinsider.com/meet-the-spacex-mafia-former-elon-musk-employees-raising-billions-2025-12

[3] Burke, J., & Madrid, M. (2022, November 18). The SpaceX Effect - Companies founded by SpaceX Alumni. Jeff's Newsletter. https://jeffburke.substack.com/p/the-spacex-effect-companies-founded

[4] Alumni Founders. (2026). SpaceX Alumni Founders Market Map. https://www.alumnifounders.com/industry-map

[5] TechCrunch. (2025, November 30). Varda says it has proven space manufacturing works, now it wants to make it 'boring'. https://techcrunch.com/2025/11/30/varda-says-it-has-proven-space-manufacturing-works-now-it-wants-to-make-it-boring/

[6] Radiant Nuclear. (2025, October 13). Radiant to Build First Portable Nuclear Generator Factory in Tennessee. https://www.radiantnuclear.com/blog/tennessee-factory/

[7] Ursa Major. (n.d.). About Us. https://ursamajor.com/about/

[8] Hermeus. (n.d.). AJ Piplica Bio. https://www.hermeus.com/aj-piplica

[9] Machina Labs. (n.d.). About. https://www.machinalabs.ai/about

[10] CNBC. (2022, January 19). Ex-SpaceX engineers design self-propelled, electric train cars to move freight. https://www.cnbc.com/2022/01/19/parallel-systems-ex-spacex-engineers-design-electric-train-cars.html

[11] Not Boring by Packy McCormick. (2024, May 7). Base Power Company. https://www.notboring.co/p/base-power-company

[12] CNN. (2025, February 25). This company is set to launch a scouting mission for asteroid mining. https://www.cnn.com/2025/02/25/science/astroforge-asteroid-mining-spacex-launch

[13] Forbes. (2025, October 7). This Former SpaceX Engineer Is Using AI To Design Circuit Boards. https://www.forbes.com/sites/the-prompt/2025/10/07/this-former-spacex-engineer-is-using-ai-to-design-circuit-boards/

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