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高校の起業家教育はどう進める?国内事例と成功パターンを一次情報で解説

公開2026-07-19濱本 隆太

高校の起業家教育(アントレプレナーシップ教育)の国内事例を一次情報だけで整理しました。EDGE-PRIME Initiative、中小機構の無料プログラム、生徒が会社を経営する岐阜商業の株式会社GIFUSHOなどの実例から、実際に売る、外部の実務家と接する、失敗を許容するという3つの成功パターンと自校での始め方まで解説します。

高校の起業家教育はどう進める?国内事例と成功パターンを一次情報で解説
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こんにちは、株式会社TIMEWELLの濱本 隆太です。

高校の起業家教育(アントレプレナーシップ教育)とは、文部科学省が「課題解決に向かってチャレンジしたり、他者との協働により解決策を探究したりすることができる知識・能力・態度を身に付ける教育」と位置づける取り組みです[^1]。2023年度から国の中核事業EDGE-PRIME Initiativeが始まり、費用のかからない公的プログラムから、生徒が本物の株式会社を経営する学校まで、国内事例は着実に増えています。この記事では、政府資料と学校の公式発表という一次情報で確認できた国内事例だけを集め、そこに共通する成功パターンと、自校で始めるための現実的な進め方を整理します。

私はAI人材育成の現場で高校生や大学生の伴走を続けてきましたが、この1年、高校の先生方から「起業家教育をやれと言われたが、何から手を付ければいいのか」という相談を受ける機会が明らかに増えました。調べてみると、国の資料はかなり充実しています。ところが、それらを横断して整理したWeb上の記事がほとんど見当たりません。要点を先に3つ挙げます。

  • 国は2023年度からEDGE-PRIME Initiativeを中核に、小中高生への起業家教育を本格化させました。中小機構の無料プログラムなど、学校がすぐ使える公的支援も揃ってきています
  • 岐阜県立岐阜商業高校の株式会社GIFUSHOのように、生徒が実際に会社を経営する学校発の事例は、すでに10年近い実績を持ちます
  • 公式資料で確認できる事例には「実際に売る・作る」「外部の実務家と接する」「失敗を許容する」という3つの共通パターンがあります

高校の起業家教育とは何か。国の定義と、ここ数年の追い風

文部科学省の定義をもう一度見てください。「課題解決に向かってチャレンジしたり、他者との協働により解決策を探究したりすることができる知識・能力・態度を身に付ける教育」[^1]。読んでまず気づくのは、この文に「起業」という言葉が入っていないことです。会社のつくり方や資金調達のテクニックを教える教育ではありません。自分で課題を見つけ、他人と協働しながら動ける人を育てる教育。国の定義がそうなっている以上、商業高校や工業高校だけでなく、普通科の進学校でも取り組めるテーマだといえます。

追い風の起点は、2022年11月に政府が決定した「スタートアップ育成5か年計画」でした[^2]。これを受けて文科省は、2023年度から小学生から高校生・高専生までを対象とするアントレ教育の中核事業「EDGE-PRIME Initiative」を推進しています[^1]。2023年6月3日には東京・虎ノ門のCIC Tokyoでキックオフイベントが開かれ[^3]、2025年3月15日には全国フォーラムも開催されました[^4]。もともと文科省の起業家教育支援は、EDGE、EDGE-NEXTと大学向けに積み重ねられてきた系譜です[^2]。それがこの数年で、ようやく高校以下に本格的に降りてきました。

体制の変化も見逃せません。文科省は2023年1月に「起業家教育推進大使」10名を文部科学大臣名で任命し、その後「アントレプレナーシップ推進大使」へ名称を改めたうえで、派遣先を全国的なイベントだけでなく学校の授業や行事、自治体のイベントにまで広げました[^1]。学校から直接申請すれば、国の枠組みで起業家とのマッチングと派遣をしてもらえる。外部人材の当てがない学校にとって、これはかなり実用的な変化だと思います。

そして2026年、起業家教育は高校改革の本丸とつながり始めました。文科省のN-E.X.T.ハイスクール構想に基づく高等学校教育改革促進基金(令和7年度補正予算で2,955億円)の改革先導拠点75校の中には、「スタートアップ教育の拠点形成」を計画名に掲げる静岡県立浜松工業高校や、「東岡山工業デジタル&アントレプレナー・ハブ構築事業」を掲げる岡山県立東岡山工業高校が含まれています[^5]。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)でも、重点枠の類型のひとつ「革新共創」に「アントレプレナーシップ教育等」が明記されました[^6]。制度全体の背景はN-E.X.T.ハイスクール構想の解説記事改革先導拠点75校の分析記事で詳しく書いています。

つまり起業家教育は、意識の高い一部の学校の課外活動から、国の高校改革の柱のひとつへと位置づけが変わりつつあります。問題は、では現場で具体的にどう進めるのかという各論です。ここからは、一次情報で確認できた国内事例を見ていきます。

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国内事例。公的プログラムから、生徒が経営する株式会社まで

先に全体像を表にします。いずれも文科省の資料、実施機関の公式資料、学校の公式サイト、報道のいずれかで確認できた事例です。

事例 主体 生徒の体験 出典
KSACアントレプレナーズデイ 関西の大学プラットフォームKSAC 高校生が自分のアイデアを3分間で発表するピッチ 文科省 教育委員会月報[^1]
HOKKAIDO INNOVATION HUNTER 北海道のHSFC 小中高生8チーム27名の成果報告とワークショップ 文科省 教育委員会月報[^1]
起業家教育プログラム実施支援 中小機構 標準カリキュラムの授業と起業家講師との対話 中小機構 説明資料[^7]
株式会社GIFUSHO 岐阜県立岐阜商業高校 全校生徒が株主になり、実在の会社を経営 学校公式サイト[^8]・日本販売士協会[^9]
探究の一環の起業家講演 茨城県立下妻第一高校 約480人の生徒が演出も担う伊藤羊一氏の講演 教育新聞[^10]
EMC高校生オンラインゼミ 武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 大学の教員・学生と高校生のオンラインゼミ 武蔵野大学公式[^11]

国の枠組みを入口にする。EDGE-PRIMEと中小機構

EDGE-PRIME Initiativeの実像がよく分かるのが、各地で開かれた成果報告会です。2024年2月10日、関西圏の大学を中心としたプラットフォームである関西スタートアップアカデミア・コアリション(KSAC)が主催した「KSACアントレプレナーズデイ」には、のべ600名が参加しました[^1]。目玉は、さまざまなチャレンジをしてきた高校生が、自ら考えたアイデアやプロジェクトへの熱い想いを3分間で発表する「DOON!Pitch」。文科省の記録には、足を止めて発表を聞く参加者が多く、熱気に包まれたイベントになったとあります[^1]。約1か月後の2024年3月9日には、北海道の大学を中心としたネットワークHSFCの主催で「HOKKAIDO INNOVATION HUNTER」が開かれ、総合的な学習(探究)の時間などを通じてアントレ教育を受けた小中高生の代表8チーム27名が成果を報告しました[^1]。どちらも共通するのは、高校生が「発表する側」に立っている点です。座って話を聞く講演会とは、生徒の立ち位置がまるで違います。

授業として導入したい学校にとって、より直接的な選択肢が、経済産業省系の独立行政法人である中小企業基盤整備機構(中小機構)の「起業家教育プログラム実施支援」です。担当教員が起業家教育の標準カリキュラムを使って授業を実施することを、中小機構が支援する事業で、カリキュラムは5時間、10時間、20時間、30時間の4段階から選べます[^7]。起業家など外部講師の派遣が2回から4回、成果発表会や事例集への掲載まで含めて、利用費用はかかりません(通信費・交通費は自己負担)[^7]。実施の場面も、総合的な学習(探究)の時間、各科目、課外活動、AO入試対策等と幅広く認められています[^7]。

実績も公表されています。参加校は令和4年度の4校(青森山田高校、芝浦工業大学附属中学高等学校、福井県立坂井高校、北海道留辺蘂高校)から、令和5年度は10校、令和6年度は20校へと増えました[^7]。令和5年度の顔ぶれには福島県立福島商業高校、三重県立四日市商業高校、奈良県立商業高校といった商業高校に加え、宮城県農業高校や静岡北高校なども並びます[^7]。商業科だけの話ではなく、農業高校や普通科私学まで広がっているのが実態です。令和7年度も20校から30校の実施が予定されています[^7]。

学校と大学が主体になる。岐阜商業・下妻一高・武蔵野大学

公的プログラムを待たずに、学校が自前で仕組みを作ってしまった事例もあります。その代表格が、岐阜県立岐阜商業高校の株式会社GIFUSHOです。2016年2月、全校生徒が株主となり、商品開発と販売などを業務とする株式会社として設立されました[^9]。取締役には卒業生やPTA役員が就任し、3年生は課題研究の授業で商品開発と販売実習に取り組みます[^9]。模擬会社ではなく、登記された実在の会社です。学校の公式サイトを見ると、学生CEOと執行役員を生徒が務め、2023年10月には台湾で開かれた観光物産博への出展、2024年2月には提携クレジットカードの発行、2025年10月にはコンビニのプリントサービスを使った事業開始と、活動は年々広がっています[^8]。余談ですが、資料を読んでいて感心したのは、生徒に「社長ごっこ」をさせるのではなく、取締役会や委託契約といった大人の枠組みをきちんと整えたうえで、その中で生徒に本物の意思決定をさせている点です。仕組みで本気度を担保する設計は、これから始める学校にも参考になると思います。

講演型でも、設計次第で探究の一部になります。茨城県立下妻第一高校・附属中学校は、探究学習の授業の一環として、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部長の伊藤羊一氏を招き、高校1・2年生約480人が参加する講演会を開きました。特徴的なのは、当日の演出を生徒が担ったことです[^10]。教育新聞の記事によれば、伊藤氏はこの場で「やりきったことは失敗じゃない」「大切なのは、みんなで夢を語ること」と語りかけています[^10]。呼んで終わりの講演会ではなく、生徒が場をつくる側に回る。この一工夫だけで、行事は探究の教材に変わります。

大学が高校生に直接門戸を開く動きもあります。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(EMC)は、高校生対象のオンラインゼミを公式に開講しており、教員と学生が自らの経験や想いを共有しながら、高校生の「気づき」を通じた成長を促すと説明しています[^11]。同学部は2021年開設で、教員のほとんどが現役の実務家という実践型の学部です。実は私自身も同学部の教育支援に携わっており、大学のアントレ教育の熱量が高校側に開かれていく流れは、現場でも肌で感じています。高大連携の相手を探している高校にとって、大学の公式プログラムは足がかりにしやすい選択肢でしょう。

事例に共通する3つの成功パターン

事例を並べて終わりでは、カタログにしかなりません。ここからが本題です。一次情報を読み込んでいくと、うまくいっている取り組みには明確な共通点が3つ見えてきます。

一つ目は、試作品でもいいから実際に売る・作る体験をさせることです。伊藤羊一氏は、青森県の高校進路指導教員向けの講演で「商業高校や農業高校で、商品や作物を売るなど実際にやってみると生徒の説得力が全く違ってくる」と述べ、商品開発は試作品でいいから実際に売るのがよいと勧めています[^12]。GIFUSHOはまさにその実装例で、仕入れも販売も決済も本物です。ビジネスプランを紙の上で書かせるだけの授業と、100円でも実際にお金をもらう経験をさせる授業。生徒の顔つきが変わるのは後者だと、私も現場で何度も見てきました。売る場は文化祭の模擬店でも、地域の朝市でも構いません。「本当のお客さんが財布を開くかどうか」というフィードバックに勝る教材はないと考えています。

二つ目は、外部の実務家との接点を仕組みとして組み込むことです。中小機構のプログラムは起業家講師の派遣2回から4回を標準で含みますし[^7]、文科省のアントレプレナーシップ推進大使は学校の授業への派遣を前提とした制度になりました[^1]。下妻一高の講演も、EMCのオンラインゼミも、核にあるのは「実際に事を起こした大人と生徒が直接話す」ことです。教員がすべてを教える必要はありません。むしろ、事業の失敗談を語れる外部人材を連れてくることこそ、教員にしかできないコーディネートの仕事だと思います。

三つ目は、失敗を許容する設計です。伊藤氏はアントレプレナーシップを「高い志と倫理観に基づき、失敗を恐れずに踏み出し、新たな価値を創造して行くマインド」と定義し、「新しいことをできるようになるには失敗を許容するというのがアントレプレナーシップの大前提である」と繰り返し述べています[^12]。同じ講演では「もう一つ大事なことは夢を笑わないことだ。皆が自分の夢を語り、行動に踏み出す環境になっていないといけない」とも語られました[^12]。これを授業に落とすなら、評価の設計がすべてです。売上や受賞で成績をつければ、生徒は失敗しない小さな挑戦しかしなくなります。挑戦の回数と振り返りの深さを評価する。うまくいかなかった記録にこそ点を与える。地味な話ですが、ここを外すと他の工夫が全部無駄になります。

個人的には、3つの中で最初に手を付けるべきは「実際に売る」だと考えています。外部人材も失敗許容の文化も、生徒が本気になった後からでも間に合いますが、体験が絵空事のままでは何も始まらないからです。

自校で始めるには。時間・お金・AIの現実的な話

では、明日から何をするか。まず時間の確保は、総合的な探究の時間と噛み合わせるのが現実的です。高等学校学習指導要領は、総合的な探究の時間の目標に「実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし、自分で課題を立て」ること、そして「新たな価値を創造し、よりよい社会を実現しようとする態度を養う」ことを掲げています[^13]。地域の課題を見つけて解決策を形にし、売ってみる。起業家教育は探究のテーマとして特別扱いする必要がなく、指導要領の言葉とそのまま重なります。中小機構のプログラムも実施場面として探究の時間を明示しています[^7]。

規模は小さくて構いません。中小機構の標準カリキュラムに5時間コースが用意されているのは示唆的です[^7]。年間5時間なら、既存の探究の枠内で1学期に収まります。そこで手応えを見てから、次年度に20時間、30時間へ広げればいい。予算面では、前述のN-E.X.T.基金採択校のように数億円規模の投資を受ける学校も出てきましたが[^5]、まず始めるだけなら中小機構の枠組みは費用がかからず、推進大使の派遣も学校からの申請で使えます[^1]。お金がないから始められない、という言い訳は、正直なところもう成立しなくなってきました。

もうひとつ、2026年の今だからこそ書いておきたいのがAIの存在です。生成AIの登場で、高校生が「作る」のコストは劇的に下がりました。プログラミング未経験の生徒でも、AIに伴走させながら動くプロトタイプを形にできる時代です。具体的な手順は高校生のAI開発ガイドに書きましたが、アイデアを紙のポスターで終わらせず、動くもので検証できるようになったことは、起業家教育の設計を根本から変えると思っています。探究の授業に生成AIをどう持ち込むかは、高校の探究学習×生成AIの実践記事も参考にしてください。

私たちTIMEWELLも、学校・教育機関向けのWARP for Schoolsで、生成AIを使った探究や、生徒が自分の手でプロダクトを作って世に出すまでの伴走を行っています。これまでに500名以上の育成に携わり、東京都との協定事業(WARP ENTRE)にも取り組んできました。起業家教育を「講演会を年1回開くこと」で終わらせず、生徒が売る・作るところまで踏み込みたい学校関係者の方は、情報交換からで構いませんので覗いてみてください。

まとめ

  • 高校の起業家教育は、文科省の定義上「起業の方法」ではなく、課題解決に挑み協働して探究する態度を育てる教育です。普通科でも取り組めます
  • 国はEDGE-PRIME Initiative、推進大使の学校派遣、中小機構の無料プログラムと、学校がすぐ使える枠組みを揃えました。N-E.X.T.基金の採択校にはアントレ教育を掲げる専門高校も含まれています
  • 岐阜商業の株式会社GIFUSHOは、全校生徒が株主となる実在の会社を10年近く経営し続ける、学校主体の到達点といえる事例です
  • 成功事例の共通パターンは、実際に売る・作る体験、外部の実務家との接点、失敗を許容する評価設計の3つです
  • 始めるなら探究の時間との組み合わせで年5時間から。生成AIの活用で「作る」のハードルも下がっています

起業家教育というと、身構える先生が多いのを知っています。でも一次資料を並べてみると、国の定義も先行校の実践も、要するに「生徒に本物の挑戦をさせよう」という一点に集約されます。試作品を100円で売ってみる。その最初の一歩なら、来学期の探究の計画にも入れられるのではないでしょうか。


参考文献

[^1]: 文部科学省「教育委員会月報2024年5月号 特集2 高校生等へのアントレプレナーシップ教育~広がるEDGE-PRIME Initiativeの取組 そして更なる拡大へ~」 [^2]: 文部科学省「文部科学省におけるスタートアップ支援施策」 [^3]: 文部科学省「EDGE-PRIME Initiativeキックオフイベント」(2023年6月3日) [^4]: 文部科学省「小中高生等へのアントレプレナーシップ教育の拡大に向けた『EDGE-PRIME Initiative』全国フォーラム」(令和7年3月15日開催) [^5]: 文部科学省「令和7年度 産業イノベーション人材育成等に資する高等学校等教育改革促進事業 採択結果一覧」(令和8年6月30日公表) [^6]: 文部科学省・科学技術振興機構「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)支援事業」(令和8年度 別紙2) [^7]: 中小企業基盤整備機構「令和7年度 起業家教育プログラム実施支援 説明資料」 [^8]: 岐阜県立岐阜商業高等学校 公式サイト「株式会社GIFUSHO」 [^9]: 日本販売士協会「導入事例 岐阜県立岐阜商業高等学校」 [^10]: 教育新聞「『これこそアントレプレナーシップ』伊藤羊一氏講演、生徒が演出」 [^11]: 武蔵野大学「EMC高校生オンラインゼミ」 [^12]: 青森県高等学校教育研究会進路指導部会 第48回研究大会 全体講演「アントレプレナーシップ教育とキャリア教育」講演録(令和6年度研究紀要) [^13]: 文部科学省「高等学校学習指導要領比較対照表【総合的な探究の時間】」

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