国際輸出規制のよくある質問20選
株式会社TIMEWELLの濱本です。
「日本の法律さえ守っていれば大丈夫でしょ?」。輸出管理について話すと、こう考えている方がまだまだいます。しかし、グローバルにビジネスを展開する日本企業にとって、日本の外為法だけでは足りません。米国のEAR(輸出管理規則)やEUの規制も、日本企業に直接適用される場合があります。
この記事では、国際的な輸出規制にまつわる20の質問に答えます。「EARって何?」「ワッセナーって聞いたことはあるけど……」という方に向けて、基本からお話しします。
国際輸出規制の枠組み
Q1: なぜ国際的な輸出規制の枠組みがあるのですか?
核兵器、化学兵器、生物兵器、ミサイルといった大量破壊兵器や通常兵器の拡散を防ぐためです。考えてみてください。1つの国だけが規制しても、別の国から自由に輸出できては意味がない。そこで、主要国が協調して規制品目や規制方針を合わせる国際的な枠組みが作られました。
Q2: 主な国際枠組みにはどんなものがありますか?
4つの主要な枠組みがあります。ワッセナーアレンジメント(通常兵器・デュアルユース品)、NSG(原子力供給国グループ)、AG(オーストラリア・グループ:化学・生物兵器関連)、MTCR(ミサイル技術管理レジーム)。日本はすべてに参加しています。
Q3: ワッセナーアレンジメントとは何ですか?
通常兵器とデュアルユース品目の輸出管理を調整する国際的な枠組みです。42か国が参加しています(2026年現在)。規制品目リストや規制のベストプラクティスを共有し、各国がそれぞれの国内法で規制を実施します。日本の輸出貿易管理令のデュアルユース品目リストも、ワッセナーの合意に基づいて作られています。
Q4: 各国の規制は統一されているのですか?
されていません。ワッセナーなどの枠組みで品目リストは共有されますが、各国が独自に国内法を定めて規制を行う。そのため、同じ品目でも国によって規制の内容(許可条件、例外規定など)が異なることがある。これが実務を複雑にしている最大の原因で、複数国の規制を横断的に確認しなければならない理由です。EX-Checkは日本・米国・EUの規制を横断的にチェックできるので、この煩雑さを軽減できます。
米国EARに関する質問
Q5: EAR(Export Administration Regulations)とは何ですか?
米国商務省産業安全保障局(BIS)が管轄する輸出管理規則。米国から輸出される軍民両用品目(貨物、ソフトウェア、技術)を規制する。ここが一番ややこしいところなのですが、「米国から」だけでなく「米国原産品を含む製品」にも適用される。つまり日本企業も無関係ではないんです。
Q6: なぜ日本企業が米国のEARを気にする必要があるのですか?
EARには「域外適用」があるからです。日本企業が製造した製品であっても、米国製の部品やソフトウェアが一定割合以上含まれていれば、日本からの輸出にもEARが適用される場合がある。正直なところ、「うちは日本の法律だけ守ればいい」と思っている企業はまだ多い。でも米国製の半導体や制御ソフトを使っていれば、それはもうEARの射程圏内です。
Q7: 再輸出規制とは何ですか?
米国原産品を米国以外の国(例:日本)からさらに別の国へ輸出する(再輸出する)場合に、米国の許可が必要になることがある規制です。日本→中国、日本→ロシアといった輸出で、対象品目に米国原産品が含まれていれば、BISへの輸出許可申請が必要になるケースがあります。
Q8: デミニミスルールとは何ですか?
完成品に含まれる米国原産の部品・技術の割合が一定値(通常25%)未満であれば、EARの規制対象から外れるというルールです。ただし、テロ支援国(北朝鮮など)向けの輸出では0%ルール(米国原産品が少しでも含まれれば規制対象)が適用される場合もあります。
Q9: EARに違反するとどうなりますか?
20年以下の懲役、違反1件あたり100万ドル以下の罰金、30万ドル以下の課徴金が科される可能性がある。ただ、もっと深刻なのが「Denied Persons List」への掲載です。掲載されると米国が関連する一切の取引ができなくなり、米国製の部品やソフトウェアの調達が不可能になる。2018年にはZTE(中国の通信機器大手)がEAR違反で一時的に米国企業との取引を全面禁止され、事業存続の危機に陥りました。グローバルサプライチェーンへの影響は甚大です。
EU規制に関する質問
Q10: EUの輸出管理規制はどうなっていますか?
EUは「二重用途品規則」(Regulation 2021/821)を基本としています。これはワッセナーアレンジメントの品目リストをベースにしたもので、EU加盟国に統一的に適用されます。加えて、各加盟国が独自の規制を追加している場合もあります。
Q11: EU AI規制法は輸出管理と関係がありますか?
直接的な関係は限定的ですが、高度なAI技術がデュアルユースに該当する可能性はあります。EUでは2025年からAIのリスク分類に基づく規制が段階的に施行されています。AI技術を輸出する場合は、デュアルユース規制とAI規制法の両方を確認する必要があります。
Q12: Brexitの影響は?
英国はEUを離脱したため、EU二重用途品規則の直接適用を受けません。英国は独自の輸出管理法(Export Control Act 2002)で規制しています。EU向けと英国向けで別々の確認が必要になる場合があります。
制裁リストに関する質問
Q13: SDNリストとは何ですか?
SDN(Specially Designated Nationals and Blocked Persons)リストは、米国財務省OFAC(外国資産管理局)が管理する制裁対象者リスト。SDNリストに掲載された個人・企業との取引は米国法により禁止されている。しかも、SDNリスト掲載者が50%以上保有する企業との取引も禁止対象になる。この「50%ルール」を見落とすケースが実務では多いです。
Q14: SDNリスト以外にもチェックすべきリストはありますか?
あります。米国だけでもBISのEntity List、Denied Persons List、Unverified Listがある。EUの制裁リスト、国連の制裁リスト、日本の外国ユーザーリストも確認が必要。チェックすべきリストの数は年々増えていて、手作業で全部照合するのは正直、現実的ではありません。
Q15: 複数のリストをどう効率的にチェックすればいいですか?
手作業では限界がある。取引件数が月に数十件を超える企業では、自動照合ツールの導入が現実的です。EX-Checkでは複数国の制裁リストを一括で照合でき、名前の表記揺れ(英語・中国語・アラビア語などのバリエーション)にもAIが対応する。特にアラビア語や中国語の人名は表記パターンが何通りもあるので、AI照合の恩恵が大きい領域です。
各国規制の違い
Q16: 同じ製品でも国によって規制が違うのですか?
はい。ワッセナーの品目リストをベースにしていても、各国独自の解釈や追加規制がある。たとえば暗号技術は米国では特に厳しく規制されていますが、他の国では緩いケースもある。2023年以降の半導体の輸出規制を見ても、米国・日本・オランダで適用範囲が微妙に異なる。この「微妙な差」が実務の落とし穴になります。
Q17: 中国向けの輸出規制は特別に厳しいですか?
厳しくなっています。2022年10月、米国は先端半導体や半導体製造装置の中国向け輸出を大幅に制限。日本とオランダも2023年から同様の規制を導入しました。NVIDIAのAI向けGPU(A100、H100など)が中国向けに出荷できなくなったのは記憶に新しいところです。中国向け取引は特に慎重な確認が必要で、規制は今も流動的な状況が続いています。
Q18: 制裁回避(サンクション・イベーション)のリスクとは?
制裁対象国・企業が、第三国を経由して規制品を入手しようとするリスク。日本企業が直接取引する相手が制裁対象でなくても、最終仕向地が制裁対象国であれば違反になる。ロシア・ウクライナ情勢以降、中央アジア諸国やトルコ経由の迂回取引が急増しており、各国当局の監視も強化されています。「ペーパーカンパニー経由」の迂回にも注意してください。
日本企業の実務対応
Q19: 日本企業が特に注意すべき国際規制は?
米国EAR(米国製部品・ソフトウェアを使う場合は必須)、中国向けの先端技術規制(半導体、AI関連)、ロシア・ベラルーシ向けの制裁措置、日本独自の規制強化(2025年の補完的輸出規制見直し)。この4つは最低限押さえておくべきです。
Q20: 国際規制への対応を効率化するにはどうすればいいですか?
3つのアプローチです。複数国の規制を一元管理できるツールの導入、制裁リストの自動照合、法改正情報の定期的なモニタリング。個人的には、まず制裁リストの自動照合から始めるのが効果を実感しやすいと思っています。EX-Checkは日本の外為法に加え、米国EARやEU規制にも対応した照合機能を備えていて、複数国の規制を横断的にチェックできます。
まとめ
国際輸出規制のポイントを整理します。
- 日本企業でも、米国EARやEU規制が適用される場合がある
- EARの域外適用は要注意。米国製部品を含む製品は日本からの輸出でも規制対象
- ワッセナーで品目リストは共有されるが、各国の規制内容は異なる
- 制裁リストは複数国分を確認。件数が多い場合は自動照合が必須
- 中国向けの先端技術規制は年々厳しくなっている
国際輸出規制は「日本の法律だけ守っていればいい」時代ではなくなりました。まず自社の製品に米国原産品がどの程度含まれているかを確認すること。それだけでEAR対応が必要かどうかの判断がつきます。関連コラム「外為法のよくある質問20選」もあわせて参考にしてください。
参考文献
- Business & Law「米国輸出管理規則(EAR)の基礎知識」2023年
- CISTEC「米国再輸出規制入門」2025年
- ジェトロ「安全保障貿易管理 早わかりガイド」2024年
- 企業法務ナビ「日米欧中における輸出管理・外国制裁制度」2024年
